『弟』を支えた仲間達   作:ロア

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 部屋は突き止めた。38号室。そこのネームプレートにはミッド独特の捻れのあるアルファベットで『Kazuki Takamati』『Jun Saito』と書かれている。あの『一騎』とかいう珍妙な文字は『カズキ』と読むらしい。エース・オブ・エースの弟にしては、なんともパッとしない名前である。

 しかして、このまま突入するわけにはいくまい。私は彼と話したことは無いし、かといって取り入るには時間が無さすぎる。

 なにせ、彼は訓練中必要最低限の会話しかせず、終わった後も一人でその場を去り、食堂ですらさっさと飯をかきこんで席を立つ。

 かといって面倒臭がり屋かと言えばそうでもないらしく、よく自主練スペースで活動しているのを見る。

 さらに言えば、ルームメイトであるらしい『ジュン』という男と談笑している姿も見掛けることがある。

 

「ふむ」

 

 私は自室の机に肘をつき、唸った。彼に対する興味はあるが、接する機会が無い。どうしたものか。

 と、考えていると窓の外で自主練をしている彼を見つけた。貸し出し用の剣型アームドデバイスを握り、仕切りに振り回している。

 どうやら自分でスフィアを生成してオートで漂わせ、それを的確に斬り付けているようだ。

 

「………」

「どした、クォーツ。さっきから変だぞ。恋煩いか?」

 

 私は応えず、マリクの首根っこを掴んで部屋を飛び出した。

 

 

~~~~~

 

 

 そして私は杖型ストレージデバイスを構え、高町氏に向けて直射弾を五発撃つ。

 

「なにやってんだお前!?」

 

 隣でマリクが驚愕して声を裏返らせた。

 

「――ッ!?」

 

 私の直射弾が迫っているのを見て、彼は目を見開いたが、瞬時に目付きが鋭く引き締まり、体捌きで三発を避け、残りの二発を剣で斬り飛ばした。

 剣を手の中で回して握り直し、こちらに剣先を向ける。

 隣ではマリクが珍しく慌てている。

 

「なんだ、お前ら」

 

 ポニーテールをたなびかせ、彼が言った。その声は12、3歳の年相応に幼く、しかしよく通る声だった。

 私は向けたままの杖を軽くゆすった。何も言わず、もう一度弾をばら蒔く。

 彼はすうっと息を吸い、右半身を引き、上体を反らし、サイドステップ、着地と同時に伏せ、身体を起こしながら首を傾けて全てを避けた。

 私は左手でマリクの肩を叩き、小声で言う。

 

「お前もやれ」

「いやいやいや。理由を説明――しなくてもいいや」

 

 ようやくマリクは落ち着いたらしい。腰の杖に手を掛け、『弟』に向けた。

 私達の杖が向けられ、彼は剣を構えた。

 仕掛けたのはこちらから。私とマリクが一気に魔力弾を連射する。同時に彼が駆け出した。

 姿勢を前傾させ、地を駆ける。身体強化魔法を使っているらしく、その勢いは並ではない。

 私とマリクは彼を挟むように左右に展開し、射撃を続ける。彼は走りながら左右に目を走らせ、踵で地面をグリップすると、マリクの方へ急激な方向転換を行った。

 走る勢いを落とさずに方向転換したその技量に私は驚いたが、魔力弾を撃つ手は止めない。私の方に向いた背に向けて撃つ。

 

「――っ」

 

 舌打ちが聞こえてくる。ちらりと後ろを見たが、無視するように視線を前に戻し、跳んだ。身体を反転させながらマリクの頭上を飛び越し、落下の勢いのままその背に剣を振り下ろした。

 それを食らったマリクが小さく呻き、倒れた。振り下ろしたままの姿勢でいた彼は立ち上がり、剣を払う。

 

「もう一度聞く。なんだ、お前らは」

 

 先程と同じ問いかけ。心なしか、先程よりも気迫が籠っている。

 

「あんたは自主練をしているみたいだった。だから、あんたをの手伝いをしたかったのさ」

「はぁ……?」

 

 私は正直に言った。しかし、彼にとってはその返答は不服だったらしい。眉をひそめ、不満を溜め息のように吐いた。

 

「いきなり撃ってきて、か?」

「うん」

「なにが『うん』だよ……」

 

 後に聞いた話だが、彼はこの時、ある種の人間不信に陥っていたらしい。そこまで大げさなものでも無いかもしれないが――彼はミッドに来る前、通っていた学校で嫌がらせを受けていたらしい。だから、こうして特殊な方法で絡んできた私達に対し、良い第一印象を持つことが出来なかったようだ。

 考えてみれば当然である。前の学校云々以前に、いきなり撃たれたら誰だって警戒する。私だって警戒する。いやぁ、我ながら阿呆だった。

 しかし、この突発的かつ好戦的な挨拶(アタック)は、良い方向へと転がっていく。

 

「じゃあなんだ。お前達はぼくの自主練を手助けするために、いきなりぶっぱなしてきた訳か」

「はい」

「はいじゃないが」

 

 意識を回復したマリクが私の言葉に突っ込んだ。

 

「オレにすら理由を話さず、いきなり撃ったんだぜ。どう思うよ、あんた」

「イカれてるな」

「だろう?」

 

 マリクが私を指差し、けらけらと笑う。不愉快だったので距離を詰め、肩に杖を叩き付けた。おべふ、という奇天烈な悲鳴をあげ、マリクは地面に伏した。

 

「ともかくだ。僕はあんたに協力したい。OK?」

NO(断る)

 

 あっさりと返されたが、私は構わず続ける。

 

「初っぱなから過激な挨拶をしたのは謝るよ。ちょっとした悪戯心だったんだ。あと、飛行訓練や射撃訓練で活躍してるあんたを見て、学びたいっていう気持ちもあるのは本当だ。怒らせてしまったのは、本当に申し訳無いと思ってる」

「む……」

 

 私が頭を下げると、彼は困ったように唸った。剣を肩に担ぎ、首もとを掻く。そして、ぽつぽつと呟くように口を開く。

 

「別に、不意討ちしてきたことは怒ってない。ああいうのに反応できるように、昔から鍛えてはいるから」

 

 そして、言葉を探しているかのように視線を動かし、俯きながら続ける。

 

「ただ、ぼくはそんな大した人間じゃ無い。お前はぼくに対して、その、過大評価してるんじゃないかな」

「だとしてもだ。訓練校の仲間。一緒に訓練したっていいだろ?」

 

 私が顔をあげて言った言葉に、彼はキョトンとした表情になった。

 そして、意味を理解したかのように目を瞬かせると、頷いた。

 

「じゃあ、その、よろしく頼む」

「よしきた! 僕はクォーツ。そこの転がってるのはマリクだ。よろしく――『姉御』」

 

 私の『姉御』という呼び方に、彼はポカンと口を開く。

 

「姉御、だと?」

「アダ名としてはピッタリだろう。強く、凛々しく。イメージにも合っているし」

「いや、だからって『姉御』なんて呼び方は……」

「いいじゃん。頼りになる『姉』っぽいというか……なんか、そう呼びたくなる何かがあるのさ。いいだろう」

「姉……っぽい……?」

 

 それならいいか、と小さく呟いたのが聞こえた。

 

「わかったよ。好きに呼んでくれ」

「おっしゃ。これからよろしくな、姉御!」

「ああ。こちらこそ。クォーツ」

 

 私と彼の出会いはこうして為った。姉御もこの時は、友人が出来たことが――この時既に私達を友人として認識してくれていたのだ――素直に嬉しかったらしい。

 この時は、だが。

 

 まあ、私が彼に近付いたのは下心があってのこと。この後姉御がその『嬉しかった』という認識を改めたのは言うまでもない。




「この時の姉御はしおらしくて可愛かったなぁ。軽く天然で、押しに弱い感じで」
「そうそう、頼んだらヤらせてくr」
「あ"?」
「いやなんでもない」



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