『弟』を支えた仲間達   作:ロア

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 盗撮というものをご存知だろう。本人の了承を得ずに撮影をするという行為だ。一般的にはとても悪い印象を受け、煙たがられるものだと思われる。

 しかし、それは密輸の取引現場を撮影すれば手柄となり、民間人の女性の着替えを撮影すれば犯罪となる。

 要は使う目的なのだ。目的によって、罪にも手柄にもなりうる。法律ではなくモラルの問題となり、人々の印象によってそれが犯罪か否かというのが決まる。盗撮に限らず、あらゆる行為は多くの人にどう受け取られるか、それが重要なのである。

 つまり、彼が行ったのは犯罪となった。

 

「ギブギブ。姉御すまん。オレが悪かった」

 

 廊下のど真ん中で締め上げられている私のコンビパートナー。

 なぜマリクが姉御に胸ぐらを掴まれ、壁に押し付けられているかというと、姉御が髪を解いて櫛で梳かしているシーンを録画してデータを商売していたのだ。私も見てみたがあれはすごかった。下手な女より美人。

 正直言うと、姉御は中性的な顔であって、女顔というわけではない。が、長髪のポニーテールという髪型は、やはり女性的な印象が強いのだ。

 まあ、髪型に限らず、少年と少女は案外区別が付きづらいものなのだ。著者も昔、男か女かわからない同級生を見たことがある。そいつは女だったが。

 

「まあまあ、落ち着け姉御。マリクも悪気が――悪気しかなかったとはいえ、反省してんだ」

 

 ライアがよいせ、と姉御を羽交い締めにする。

 

「離せライア。今度こそこいつを叩きのめす」

「そいつの映像(ディスク)はオレも世話になってるから、そんなことされると困るんだが」

 

 締め上げられるのが二人になった瞬間であった。

 しかしそんなことを廊下でやっていたら当然視線を集める。私を含め、通りすがりの者は必ず姉御たちを見ていく。

 

「あれって、噂のエース・オブ・エースの弟?」

「仲良さそう……友達多いんだね」

「そういえば、あの映像見た? 凄いよあの人の髪。めっちゃキレイ」

「ほんと? 何使ってるのか教えてもらおっかなぁ」

 

 そう話しながら歩いていく女子二人。顔は中々可愛く、ショートパンツから伸びる脚は程よい肉付きでそそられる。眼福。うへへ。

 ニヤニヤと眺めているのをすれ違ったナグリーに見られた。気味悪い奴、と呟いて彼は歩き去っていく。失礼な男だ。

 視線を姉御達の方へ戻すと、姉御は二人を気絶させていた。目を離した隙になにをやったんだこの人は。

 

「素手に魔力刃展開して首刈ってたぜ」

「もちろん非殺傷でな」

 

 一緒に観戦していた二人が教えてくれる。

 この二人は陸士訓練生だ。名前はリブレンドとウィルス。マリクが連れてきたのだが、話してみると中々気が合い、以来つるむようになった。姉御もだいぶ慣れてきたのか、私を含めた皆への扱いがぞんざいになってきた。

 まあ、気を遣われて他人行儀になられるよりはよほどいい。

 

「魔力刃を、ねぇ……なあ姉御」

「ん、なんだクォーツ」

 

 長髪を翻して姉御が振り向く。なんとも絵になる仕草である。

 

「前の模擬戦見てから気になってたんだけどさ、姉御ってどんな魔法使えんの?」

「氷結や炎熱、電気みたいな変換系統以外の戦闘用魔法は全部だ」

 

 あっけらかんと言う姉御に私は唖然とした。私だけでなく、隣にいたリブレンドとウィルス、目を覚ましたマリクとヴィンズ、挙げ句に廊下を歩いていたその他の訓練生達も驚いた顔で姉御を見ていた。

 そんな視線を四方八方からぶつけられた姉御は目に見えるほど狼狽え、手を振りながら言葉を続ける。

 

「けど、ただ『使える』ってだけだ。実戦にはまったく意味無いよ」

「意味が無い、とは?」

 

 そこで割り込んできたのはティルクだった。姉御は模擬戦の折にティルクに助けられたことを覚えているらしく、あんたか、と合点がいったように呟いた。

 

「ぼくの技術は全部中途半端なのさ。剣は振れるけどたぶん実戦じゃ通用しない。魔力弾や砲撃は撃てるけどおそらく相手の防御は抜けない」

「以前教官との模擬戦で、魔力剣を持って斬り込んでいたが、あの魔法は?」

 

 えーと、と姉御は首許を掻き、

 

「あれはファランクスシフトの応用だよ。あの魔法を使っていたフェイトさんは、スフィアを槍にして投げてたんだ。けど、ぼくはああいう『細く鋭く』する固め方は苦手でね。まだ使い慣れてる剣の形にして斬り込む方が使いやすいんだよ」

 

 その説明を聞いて、私は感心した。

 魔力の構築とは、術式によるものが大きい。術式とは言ってしまえば計算式であり、どの魔力を如何に利用し、変換して構築するか、というものを数式化しているものだ。

 

 しかし、これは言うほど簡単なものではなく――同時に、難しくもないのだ。

 

 読者諸兄の中にも、おそらく魔導師の方が居られるだろう。著者も元は管理局の空戦魔導師である。魔導師なら、この『簡単でも難しくもない』という言葉の意味がわかるはずだ。

 魔導師には適性というものがある。射撃なり防御なり、そういった得意不得意のことだ。それによってその魔導師のポジションや戦い方が決まると言っても過言ではない。

 そして、適性がある分類の魔法は、驚くほどスムーズに構築できる。もちろん限界はあるが。射撃に適性があれば、魔力弾を撃つくらいならデバイス無しでこなせるものだ。

 わかりやすく言うならば、足し算が得意な魔導師もいれば、割り算が得意な魔導師もいる。関数が得意な魔導師も居れば、算数自体が苦手な魔導師もいる。そういうことである。

 

「慣れてるというのは、けして得意ではないのか」

「うん、まあ。剣に魔力を纏わせて斬るのは教えてもらったんだけどね。魔力剣自体を構築するのは自己流だし、あまり得意じゃないかも」

「なら、教えられることがある」

 

 ティルクはそう言って、姉御に手招きをして自由訓練スペースへ向かった。

 姉御は不思議そうに首をかしげてついていき、私達も興味本意で姉御達の後を追った。

 

 

~~~~~

 

 

「剣の扱いには俺も自信がある。つまり、魔力剣の構築もだ」

 

 ティルクが連れてきたのは、訓練校にある訓練用デバイス保管室。その中のベルカ系統の棚である。

 ダガーから剣、槍、斧、槌まで幅広く置いてあるこの相変わらず物々しい光景に、私は壮観だと思いつつ視線を向ける。

 そこでティルクが姉御に剣型アームドデバイス(正式には《sword.armedー350》という型番の量産型である。頑丈さと扱いやすさを両立する、というデザインのもと開発された両刃剣型《sword.armedー300》の改良型だ)を手渡す。

 姉御はそれを珍しげに眺めている。剣を使ってたのに、なんなのだあの反応は。

 

「量産型がそんなに珍しいか?」

「いや、両刃剣が珍しい、というか。実家でも木刀だったし、シグナムさんのも片刃だし。初めてみた」

 

 ティルクはそれに驚いたようだ。まあ、彼は見るからに近接型の騎士だし、両刃剣に慣れ親しんでいる身だろう。それを知らないことに驚いた、ということか。

 ティルクが感じたのは、所謂(いわゆる)カルチャーショックというものである。

 姉御は受け取った両刃剣を振り回している。

 

「片刃じゃないから、重心がちょっとなぁ。反りも無いから斬り付け方にちょっとコツがいるし……なんだこれ」

「まあ、ともかく。剣を見てみろ」

 

 姉御はティルクの言葉を聞いて、鈍く光る刀身を見つめる。

 

「剣というのは、鋭い刃で敵を斬るものだ。それ自体は知っているだろうが、ただ魔力を『剣』の形にすると、無駄が増えてくる。実体剣は刃、柄、鍔といったパーツを組み合わせて作られている。それは魔力剣において重要視はされないが、しかし、無視して良いものではない」

「魔力剣に柄と鍔はいらない、っていう考えか」

「そうだ。魔力で象るのは、『剣』ではなく『刃』という考え。確かにそれは間違ってはいないが、しかし、それでは『剣』を最大限活かすことはできん」

 

 ティルクは持っている自前のアームドデバイスに魔力を纏わせる。姉御も同じようにやっている。

 そして、それぞれの違いに気付いた。

 姉御の刀身には炎のように魔力が揺らめいているのに対し、ティルクの刀身には――まるで魔力で造られた水晶のような――固定された魔力で覆われている。

 姉御も気付いているようで、その二つを見比べた後、合点がいったように口を開いた。

 

「刃それ自体を強化するのがぼくのやり方。ティルクのやり方は、刃を魔力刃で覆い、層に分ける事で衝撃を分散させ、切れ味を増幅させるやり方か」

「そうだ。刃に魔力を流すか、刃を魔力で覆うかの違いだ。個人によってやり方が違っても、基本的に『魔力刃』はこのどちらかに分けられる。そして――」

「――そのやり方によって、構成される『魔力剣』の形は変わる?」

 

 そういうことだ、とティルクは頷いた。俺はどちらのやり方もできる、と続ける。

 私はよく理解できず、首を傾げるばかりである。私の様子に気付いたらしく、姉御はわかりやすくモニターに映像を出して説明してくれる。

 映っているのはテスタロッサ執務官殿である。手にはデバイスである長柄の斧を持っている。

 

「フェイトさんのが一番わかりやすい例だな。ハーケンとザンバーを見たらわかると思うけど、展開される魔力刃は違うんだ」

「鎌と大剣の形、ってことかい?」

「それもあるけど、鎌状の魔力刃とは違って、大剣の魔力刃は半実体化しているんだ。まあ、鎌も実体化していない訳じゃないけど、大剣の方が形も保たれていて、頑丈さもある」

 

 これを聞いて、なんとなく理解した。魔力を『鎌状に展開する』か、大剣の『刀身を構築する』かの違い、ということか。

 ティルクが姉御に向き直り、口を開く。

 

「お前が『役に立たない』と言っていたのは、これを使い分けていなかったからだろう。あの時の魔力剣は、『剣の形をした魔力の塊』だった」

「なるほど。魔力だけでもしっかりと『剣』を構築すれば、実戦で活かせる、と?」

「そういうことだ。『剣』を理解し、様々なパーツを構築して構成する。そうすれば――」

 

 ティルクは、両刃剣を左手に持つと、空いた右手を軽く前に掲げる。

 その右手に魔力の光が集まり、剣を象るように形を変え、光を四散させるように魔力剣が実体化した。

 ティルクの魔力光である金色の剣。それは実体剣と言って差し支えない程の密度と頑丈さを持っていることが見てとれた。

 

「このように魔力剣を構築すれば、実戦でも充分に通用するはずだ」

「すごいな……」

 

 姉御は興味津々、といった体で頷いている。姉御のこんな表情は珍しい。普段は座学も訓練も真顔に近い無表情でやっている。

 模擬戦の際には闘気を体現したような威圧感たっぷりの顔で撃ちまくったりしてくるのだが――だからこそ、純粋な興味、といった姉御の表情は面白かった。

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