『弟』を支えた仲間達   作:ロア

7 / 8
「アニメ面白かったなぁ」
「分割2クールってあんまり無いよな」
「まあ区切りのいい分かれ方してたしいいでしょ」
「やっぱりアニメの醍醐味はしっかり動くキャラクターとそれに伴う声優の名演技だよなぁ」
「戦闘シーンも格好良かったしな。アニメで追加された演出もあったし」
「うむうむ。全力のぶつかりあいは本当に心が躍る」
「なあ、姉御。姉御も頑張ったら『無限の剣製』再現できるんじゃねぇの?」
「お前らなんの話してるんだ」


06

 ふと考えたことがある。

 そうライアが真剣な顔で言い出したので、私は下らないことだろうと一蹴した。

 少し思ったんだけどさ。

 ナグリーが顎に手を添えて呟いた言葉を、私は浅慮だと罵りつとめて意識から閉め出した。

 オレの考えを聞いてくれ。

 ヴィンズが落ち着いた口調で切り出し、私は聞くまでもなく阿呆だと一笑に付した。

 

 その上で、私は絶対の自信を笑みとして浮かべ、厳かに発言した。

 

「透けブラは白いスポブラだからこそ貴ぶものであろう」

「下らん」

「浅はか」

「聞くにたえん」

 

 

~~~~~

 

 

 まあそんな感じで、訓練中に女子訓練生Lを眺めつつワイセツな発言をしていれば罰せられるのは当然である。

 ゆえに、私以下三名の阿呆は罰則として訓練場の後始末を任せられ、新設エリート校に恥じないだだっ広いグラウンドをひいこら整備しているのである。

 

「お前らってつくづく阿呆だよな」

 

 そう、涼しい木陰のベンチに脚を組んで座りながら姉御が罵倒する。奇妙に様になっているその姿をニヤニヤと眺めてやる。姉御の目付きが鋭くなったのでやめる。

 

「姉御も手伝ってよ」

「なんでぼくが手伝わなきゃなんないんだ」

 

 肩をすくめるように動かし、呆れたような目でこちらを見る。

 うむ。

 しかし、面倒なことだ。雑用は地味ながらも体力を使う。しかし、これらが案外重要だったりもするのではと考えることもある。

 

 これを執筆している現在、私は齢20を迎えている。が、局員だった時代を思い返すと、言うなればごくごく普通の魔導師だった私が厳しい訓練を乗り越えられたのは、度重なる罰則によって――不本意ではあるが――体力と忍耐が鍛えられていたことも理由の一つであると考えている。

 

 そんな考えを持っている今日(こんにち)であるが、当時11歳だった私は、やはり面倒ごとなど苦手である。しかし課せられた罰則は果たさねばならぬし、幾らなんでもそれらをほったらかしにして阿呆なことを仕出かすわけにはいかない。下手をすれば訓練校を辞めさせられる。

 つまりのところ、私達は比較的真面目に整備をこなすことしかできない。まことに不本意であるが、権力には逆らえない。まあ悪いのは自分なのだが。

 

 そういえば、と思い至る。確かに私は透けブラについて発言し、回りの三人も釣られる形で罰を受けているが、他の男どもはあの情景に憧憬を抱くことはなかったとでもいうのだろうか。そんな筈はあるまい。女子訓練生はどれも整った顔立ちをしており、どの娘も実に目の保養となる。そんな少女の透けて見えるあれやこれやを目にし、健康な男が何も感じぬ筈が無い。そう、それが明らか訓練着とは違う『白』――ちなみに私はこれを推している――や、コントラストの目立つ『水色』、眼に優しい『黄緑』、優しい気持ちになれる『ピンク』といったものが透けていれば誰だって目が行く。間違いない、奴等は私達をエサに教官の注意を引き、女子訓練生のだんだん鍛えられて引き締まっていく途上の肢体を舐め回したいという破廉恥な妄想をしているに決まっているのだ。許すわけにはいかない。彼らにも等しく罰が与えられるべきではないのか。あまりな不条理に私は憤りを感じずにはいられない。

 

 腹いせに姉御にどんなセクハラをしてやろうかと考えていると、なにやら見覚えのない男がこちらへ走ってきているのに気付いた。

 

「高町!」

「ん? ああ……よう、斎藤」

 

 男は姉御に斎藤と呼ばれた。身長が高く、短い黒髪に黒い目の男だ。顔立ちは中々整っていて、高い背と相まって頼りがいのある男という印象を受ける。

 黒々としたその男に少しだけ驚いた。ミッドチルダでは黒髪など見たことがない。暗い色は存在するが、それも紫や青など、それらの色が混じって暗味はあっても完全な黒ではない。

 

 真っ黒な髪と真っ黒な瞳は、何にも染まるでなく、どこか純粋で、同時にどこか――暗いものを内包しているように感じた。

 まあ暗いものとは冗談だが、斎藤と呼ばれた彼にはなにか秘密を抱え込んでいそうだった。

 そんなことを考えながらテキパキと整備を完了に近づけている間も、彼らの話は続く。

 

「どうした? わざわざこんなところまで。『陸』の訓練所は反対側だろう」

「あのなぁ……自主練するから訓練終わったら付き合ってくれ、って言ったのお前だろ」

「あ、そうだった」

 

 姉御は天然属性を持ち合わせているようだ。単にボケてるだけかも知らんが。そんなことをわざと口に出したら後頭部になんか飛んできた。

 

「痛ァい」

「忘れ物だぞ」

 

 飛んできたのは塵取り(チリトリ)である。正式名称なのか愛称なのかいまいちよくわからん不可思議な形状かつ機能的な用具である。握りからゴミ取り部まで全てが金属で出来ているタイプと、本体がプラスチックで出来ていてゴムで先を覆ったようなタイプの二種類を今まで見たことがある。個人的には後者の方が使いやすく好みなのだが、なにやらこれはボタンを押すと集めたゴミを回収してくれる掃除機もかくやという性能になっている。というかよく見たら掃除機である。間抜けか私は。

 

「しかしこのような器具を溢れんばかりの砂で覆われているグラウンドに使ってしまってよいのか。私は考える。故に答えを見出だす。それは必然だ。そう、今この瞬間私は決断する」

「うぉらっ」

「痛いっ」

「グチグチ言わずに働けこのやろう」

 

 後頭部をトンボの柄で殴られ私は仕返しでナグリーに砂を掛ける。彼は割りと本気で殺すつもりの眼でこちらを睨んできたので平謝りする。

 つまらんことをやめて素直に働くことにする。

 

 

~~~~~

 

 

「で、なんだこいつら? 阿呆か?」

「よくわかったな。阿呆だよ」

 

 整備が終わったのち、姉御が斎藤氏に我らを紹介する。なんとも適当なものであるが、しかし的確であるので黙って頷いておく。

 

「えっと、斎藤潤だ。陸士訓練生の12歳。高町(こいつ)と同室だ」

「なんと」

「姉御と」

「同室と」

「仰ると」

 

 私達の考えたことは単純に一つであった。

 すなわち『羨ましい』。なんとも言えないもどかしさに胸が苦しくなる。そう、これはまるで好きなアニメキャラのNTR本を見てしまったときのような――まあイチャラブ本見てもおんなじ気持ちになるのだが――気持ち。つまるところ嫉妬に似た暗い感情である。ハンカチをどこからともなく取り出して噛み締めてみる。

 

「まあ、そのうち陸と空の連中で合同訓練するときあるだろうし、そんときはよろしくな」

 

 そう言って手を差し出してくる。私はハンカチを口からぶら下げたままそれに応じた。

 すると、不思議なことに心が安らいだ。嫉妬に駆られた心があっというまに平静を取り戻していく。

 

「……どうかしたか?」

 

 斎藤氏は私の顔を見て不思議そうに呟く。

 その瞳を見て、私は悟った。この斎藤氏は、私達のような雑念(ぼんのう)が無い。私にはわかる。マリクと握手をした時の感応現象。ナグリーやヴィンズ、ライアを見たときの違和感。そういったものが何一つ感じられない。

 唯一感じたもの。それは……この少年には『欲が無い』。そう感じた。

 

「……これからよろしく。僕はクォーツ・ディレンドだ」

 

 口に咥えたハンカチをポケットに戻しながら、自己紹介を返す。

 この少年は信頼できる。直感だが、そう思った。

 

「あんたは信用できそうだ。姉御と同じ部屋なんだろ――そうだな、あんたのこと、兄貴って呼ばせてくれ」

 

 それが、私と彼の出会いであった。

 

 後に『焔闘士(えんとうし)』と呼ばれ、『弟』の相棒として名を馳せる、斎藤潤との出会いであった。

 

 

~~~~~

 

 

 次の日、兄貴とマリクの紹介で変態が知り合いにもう三人増えた。

 

「オレはリブレンド・ツェリアロウ」

「オレはウィルス・ストリート」

「レイド・ビルギンズ。狙撃が得意だ」

 

 私は諸手を広げて歓迎した。

 そして、姉御の悩みの種がまた増えたのであった。

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