放置してた小ネタ(ネギま)   作:Par

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(登場しないが)性悪神様にネギまの世界に落っことされたオリ主の話。


ネギま系
昔考えたネギまのオリ主物


 憂鬱だった。私がこれほど憂鬱なのは、きっとあいつのせいだと確信していた。

 ダラダラとくだらない授業を受ける私の心中は、きわめて悪天候で、憂鬱と言う、わずかながらも文学的なセンチメンタリズムを感じる表現に似合わず、心の中が日本海並みの海であれば、船が出れば十中八九乗員諸共海の藻屑と消えると自信を持って言える。嵐だ。それは正に全てを飲み込む大嵐。そして、その嵐は、この数年間停滞し続けている。

 豪くちびっこの教員が、いや、訂正しよう。正しくちびっこ、こいつは教壇に立つにはふさわしくない風貌で、教卓からは辛うじて顔だけが見え、黒板も上まで手が届かず、土台が無ければ黒板はその下半分をやっと使われる。その分、声を張って教えているが、こいつの見た目相応に経験が不足、声を張り上げた所で、生徒達の関心はその内容でなく、こいつ自身のみに集まる。

 さて、こうなるともう授業にはなるまい。私はサボタージュを決め込んだ。私が徐に立つと、もう一人、私の従者が同じように立上がり傍による。

 ドアを出ていく途中、ちびっこが私を引き留めつつ、生徒に玩具にされ悲鳴にも似た声が聞こえたが、一切の関心を払う事無く、私は教室を後にした。

 念のため述べておくと、ちびっこは「あいつ」ではない。私の憂鬱の原因は、あのようなちびっこではないのだ。

 

「あいつはどうしてる」

 

 そのように従者に問いかける。彼女は機械的に、きわめて端的に、感情と言う物を感じさせず口を開いた。

 

「家におります」

 

 ああ、そうだろう、あいつがこの時間家を出る事は無い。あるとすれば、酒の安売りと、服を脱いだ美女が通りに現れる時ぐらいだ。

 私はもう一度言った。

 

「何をしているのだ」

 

 従者はやはり極めて端的に答えた。

 

「お酒を飲んでおります」

 

 ああ、まただ。奴はきっと私の秘蔵のコレクションに手を出したに違いない。憂鬱を通り越し、荒れ狂う海がされに荒れる。あの男の体中、千切れる部位全てを抉り出し、潰しきっても足らない怒りを覚えるが、それは既に意味は無い事を知っている。

 

「一人でか?」

「いいえ、姉さんとご一緒のようです」

 

 ああ、これもわかっていた。きっと動けない、哀れなこの従者の姉を誘い、私への罵倒を肴に飲んでいるのだろう。そしてその姉も、罵倒を肴にしているに違いない。

 それを思うと、私はやはり憂鬱だった。

 サボタージュをしたからと言っても、私は家に帰らない。正確には帰れない。どんなに憂鬱でつまらない授業でも、その時間が続く限り、私はここにいる事を強いられる。

 学校の屋上で、従者と共に流れる雲を見る。千切れては消え、あるいは大きな雲となり、また消える。身近な儚さを感じていると、いつの間にか私の視界は暗闇に染まる。そして、次に気が付いたのは、待ちに待った下校の鐘が鳴った時だった。

 

「帰るぞ」

 

 そう短く告げると、従者はかしこまりましたと答え、私の後をついてくる。教室に寄る事もなく、私は帰路についた。

 私は再度思った。憂鬱だ。

 家に帰るのにも憂鬱に成らねばならないのは、やはりあいつがいるからだ。以前までは私の唯一のプライベート、憩いの空間。誰しも我が家と言うのはそう言う物だろう。そこに奴が住みだして、果たして何年であろうか。実際、そんな長いことは無い、5,6年がいい所、しかしあまりにも奴の存在が鬱陶しく忌々しいため、体感時間は6年を超え、果ての果てまでオーバーフローしている。

 さあ家が見えてきた。そして聞こえてくる。あいつと従者の姉の馬鹿騒ぎの声。見た目はログハス、そんな家に似合わぬ下品な笑い声と歌声。私は怒りを募らせた。

 

「踊ル阿呆ニ見ル阿呆!」

「同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!」

 

 遠慮の無い大声、酔っ払い達の宴。

 

「物真似しまーす!」

「ヤレヤレ!」

「事件は現場で起きてるんじゃないんじゃない?」

「ドッチダヨ!」

 

 私は怒りを解き放ち、ドアを開けて叫んだ。

 

「やかましいぞこの馬鹿どもが!」

 

 私の憂鬱は続く。

 

 

 男の名は百々三六、百二つでドド、三つの六でミロク。ドドミロク。二文字違えばドレミの音に見える名前。忌々しい我が家の居候、疫病神。上半身裸、ズボンもほとんどずり落ち、トランクスが半分以上見えている。

 私の怒声に気が付いた奴は、ワインボトルとウォッカの瓶を両手に持ちながら出迎える。

 

「ヘイ、エヴァおかえり、待ってた飲もう!」

「ええい、寄るな酒臭い!」

 

 半裸のまま抱きついて来る不埒な男、三六。奴には恐らく女性に対するマナーと言う物が無いに等しい。いや、無い。絶対に。あったとすれば、酔ったとしてもこうもならない、そもそも酒を昼間っから飲まない。

 人としてのマナーが無いのだ。

 

「そんな怒らないでえ!ウォッカのむぅ?」

「ウォッカとワインをちゃんぽんするな!それに、ああ!そのワイン、それは私が楽しみにしてた秘蔵の奴!」

「美味しいんだあ!」

「そうだろうな、くそう!」

 

 高級ワインも、こんな飲まれ方をしては浮かばれないだろう。そして、こいつにこのワインの在処を教えた犯人は、すでにわかっている。

 

「チャチャゼロ!三六にあれほど酒の場所を教えるなと言っただろう!」

「ソーダッケカ~?」

「この、ウすらトンカチがあ~~~ッ」

 

 ソファーの上、散らばる酒瓶を枕に寝る大き目の人形。微動だにしないその人形は、言葉を仮名変換し、おどけた調子で返した。

 従者の姉、動けぬ哀れな殺戮人形。それがチャチャゼロ、目の前の酔いどれの共犯。

 

「先月は貴様らの酒代で100万は飛んだ!いい加減自重しろ!」

「いい~じゃない、金あるんだし、それにワイン以外は俺の金で買った」

「じゃなければ今頃お前を八つ裂きにしている!」

「マスター」

 

 怒り狂う私を止めるのは、いつの間にか着替え終えた私の従者。チャチャゼロの妹、仕える人形、絡繰茶々丸。私の家族。

 

「なんだ」

「一先ずお着替えになられては?」

 

 特に問題もなさそうに、事もなげにこいつは言う。だが、このまま制服姿と言うのは、確かに家主として示しがつかない。

 

「そいつをよく見張っておけ」

 

 茶々丸にそう言って、私は着替えに向かう。

 

「いっちゃうのかよー!」

「着替えるだけだ!」

 

 私が吠えると、三六はまた下品に笑った。実に不愉快だった。

 部屋を移っても奴らの声が途切れることは無い。茶々丸に任せはしたが、どうせ御しきれまい。そうわかってはいたが、私もあいつらの面倒を見るのはごめんだ。茶々丸には申し訳ないが、少し苦労してもらう。

 あの部屋に戻るのも億劫だが、放っておくとまた何をするかわからない。私は着替え終わってから、しばらくベットに腰掛け放心していたが、重い腰を上げた。

 三六とチャチャゼロがいる所に戻ると、床に転がる酒瓶が、心なしか増えていた。と言うか増えていた。

 

「ウォッカがうまーい!」

「スピリタススピリタス!」

「火吹いちゃう!」

「ゴジラー!」

 

 またどこからか酒を持ってきたようだ。チャチャゼロを頭に乗せ、ついにはズボンも脱げパンツのみとなった三六がいた。茶々丸はいない、たぶん私に気づき、食事を作りに行ったのだろう。

 

「あ、エヴァきた!おかえりンボー!」

「騒ぐな喧しいッ」

「怒らないでおくれよん!」

「ウザいなあもう!」

 

 纏わりついてくる三六の体は、完全にアルコールが回り切り、熟れに熟れたトマトのように赤く、太陽に焼かれた鉄のように熱い。殆ど裸だから余計に性質が悪い。恥を恥とも思わぬ不埒な男。

普通なら急性アルコール中毒なりでぶっ倒れ、茶々丸が119に連絡するのだろうが、あいにくこいつは普通じゃなかった。

 文字通り水のように酒を飲み、飲んで飲んで飲み倒す。

 

「エヴァちゃん、一緒のもうよー、ほらウォッカウォッカ」

「いらーん!」

「御主人見タ目幼女ダカラ犯罪臭パネエ!」

「だまれ!」

 

 こんな愚か者に毒された私の最初の従者。チャチャゼロ、お前は昔からよく喋ったが、こいつが来てからと言うもの、余計に喋るようになったな。

 

「ケーッ!なんでぇ歳食ったくせに酒が飲めねえってのかい!」

「私は静かに飲みたいんだ!」

「騒ぎたいのー!えーらやっちゃえーらやっちゃ」

「ヨイヨイヨイヨイ!」

「だあああ!」

 

 こんな事が毎日続く。脈絡の無い会話、大声、笑い声。正しく酔っ払い、正真正銘のろくでなし。チャチャゼロを抱えて踊り狂うその様は、滑稽であった。

 私がいくら言った所で、こいつらは馬鹿騒ぎを止めない。今も目の前でウォッカの瓶を一気飲みして、チャチャゼロが、やんややんやと歓声をあげる。この二人を止めるには、私は茶々丸が来るのを待つしかない。

 

「マスター食事の用意が出来ました」

 

 そして茶々丸の声がすると、ピタリと馬鹿騒ぎが収まる。待っていた、茶々丸、お前の仕事の速さは世界一だ。

 

「ごはん?」

「はい」

「わいわい、わーい!俺茶々丸のごはん好きい!」

「ありがとうございます」

 

 三度の飯より酒が好き。しかし酒の次に飯が好き。三六は半分残った酒瓶を持ちながら、チャチャゼロを肩に乗せ、匂いに誘われ千鳥足で匂いの元へと向かった。

 私は散らばった酒瓶とつまみの残骸を見てため息をついた。すまんな、茶々丸。苦労を掛ける。

 

「それは言わぬお約束ですおとっつあん」

「誰がおとっつあんだ!」

 

 最近こいつも毒されたかもしれない。そう思う私は、冷や汗が止まらなかった。

 

 

 百々三六。目の前で飯をむさぼるこの男が私の家に現れたのは、今から二年ほど前、茶々丸が生まれる少し前である。

 今はもう味わう事が殆ど無い、落ち着いた生活を送っていた私の元に、ふらりとこの男は姿を現す。

 荷物と言えるものは無く、何かに引き裂かれたような服、オシャレで付けた物では無い自然のダメージジーンズ。浮浪者と間違われても文句は言えない風貌、私は既に嫌な予感がしていた。

 見慣れた顔ではない、外から来た人間とわかった。またぞろ、面倒な人間と思った。そして、確かにこいつは果てしなく面倒な人間だった。だが外から来たと言う私の予想は外れた。

 

「あんたエヴァンジェリンだろ!お願いがある。俺の記憶を見てくれ!」

 

 奴は出会い頭にそう言った。思わず面を食らう。記憶を見る。この言葉を聞いた人間は、こいつの事を頭のおかしい人間と思うだろう。私も、普通なら然るべき所に任せて無視するのだが、私の名を知ってるなら別だ。

さて、まずこいつの狙いは何かと考える。見た所、まるで脅威を感じない。私はこいつは「一般人」だと確信した。一方で、記憶を見ることを知っている以上、こちらに足を踏み入れかけているのか、もしくはもう入り込んだのか。

 記憶を覗く意味を聞く。見ず知らずの男の記憶など、好き好んで見る物でもない、適当にあしらおうと思った。

 

「ナギとその息子について知りたくないか?」

 

だがその言葉で私の興味は男に引き付けられた。ナギ、忌々しい名。それがこいつの口から出たのであれば、話は別である。

 人気のない場所、そこに連れてゆき、男を問い詰めた。なぜナギを知っているのか、そしてその息子とは何か?

 

「賢い人が必要だ。俺は馬鹿だが記憶がある。あんたにそれをやる」

 

 なるほど、つまり此奴は取引をしたいらしい。嘘は、ないようだ。では、何が決め手になるか、それは記憶の質、価値だ。

奴はナギとその息子とやらの事を仄めかした。まあ合格と言っていい。では見返りは何か。

 

「あんたが俺を保護してくれ。それ以外何もいらない、求めもしない」

 

 そういって奴は膝をついた。「俺を、助けてくれ……」奴は搾り出すようにそういった。誓ってその言葉に同情したわけではない、ただ情報が欲しいだけ、それだけだった。こいつを保護する気などもありはしなかった。だがその考えは変わる。私は跪いた奴の頭に手を伸ばし、そしてあの記憶を見ることになる。

 24年ちょっとの記憶、取るに足らない人間の記憶は、今後この世界を左右しかねない記憶だった。いいだろう、私は百々三六を招き入れた。

 この記憶、保護で済むなら安いものだ。

 

 

「好い!良いでなく好い!やっぱ茶々丸ちゃんの飯はうまひい~!」

「ありがとうございます」

 

 この、底抜けに愚かで笑みを絶やさぬ男。こいつは誰も知らない人間、いる筈のない人間。酒を飲み、気分を高めて今を生きる。

 求めないだと?ホラ吹きめ、お前はあれから欲望と言う欲望を募らせ続け、ついに酒に手を出したではないか。私の従者にまで手を出し、よくもこうもいられる。

 チャチャゼロ、お前はこいつをどう思っている。体の良い飲み友達か?それでだけならば良いがな。もはやこいつに理性は無い。やりたい事とやるべき事、その両方を欲望のままに行い、金を稼ぎ使い切る。かつては愚鈍でも理性ある人間だった男は、一度の死を原因に、徐々にタガが外れ、狂った。

 哀れとは言うまい、悲しむ感情など、こいつには残っていない。

 

「楽しいなあ、毎日が!」

「食事ぐらい黙って食え!」

 

 喜怒哀楽、怒りと哀しみを失った男。こことは別の地球の青年。百々三六、存在が奇跡の男。私達、この世界を作品として知る男。

 愚かで哀れな、孤独の異世界人。

 

 

 部屋に三六とチャチャゼロが籠る。声は抑えるように言ってある。

一人と一体、人と人形のコンビは、三六がここに来て一か月ほど経って結成した。初めこそ大人しい三六、彼には戸籍が無い。なければ外にも出れず、日々を私の家で過ごしていた。仕事は与えてやると私は言ったが、手続きが滞っていた。

そんな中、話し相手は動けずとも意思のある人形、チャチャゼロだった。

此奴の口はひどく悪い。私が作った人形で、見た目はかわいらしく作ったつもりだが、三六以上に口が悪い時もある。三六とチャチャゼロは、普段一緒になり、色々と話すうちに意気投合した。

暫くの後、三六についに酒が入る。チャチャゼロがすすめたらしい。今まで酒は強くなかったと言う三六だが、彼はこの世界で初めて異変に気が付く。

酔いにくいのだ。意識も記憶も残り、そしてアルコールに強い。殆どアルコールの酒を飲んでも、気分が良くなる程度で済む。気分をよくした奴は、動けないチャチャゼロに酒を注いで飲ませてあげた。礼のつもりだったらしい。チャチャゼロも喜んで飲んだ。

更に暫くの後、三六は人形偏愛者となり、チャチャゼロは私より先に大人になった。何をどういう風におこなったかは知らないし、知る気もない。

酔い難いとは言え、その場で高揚した気分もあったのだろう、奴は私に頭を下げ、いっそ殺せと言ったが、酒を飲ませたのはチャチャゼロであり、さらに誘ったのもチャチャゼロだ。結局チャチャゼロが満更でもないように言ったので、ちょうどその日に連絡がきた仕事を三六に与え、恩を返せと言って終わらせた。

それ以来、今の通りの日々が続く。

酒を飲み、仕事が無い日は馬鹿騒ぎ、仕事があっても馬鹿騒ぎ。そして騒ぎに騒いで、二人は部屋に籠る。

特に文句もない、騒がれるより静かだ。二人の問題だ。私の関与するべき所ではない。

 

三六は死ぬのだろうか?もはやその体が人間の物とはかけ離れだした奴は、人として死ねるのだろうか。ある意味私と同じかも知れない、しかし私と違うのは、彼には復習する相手がいない事だ。原因不明の力で「漫画」の世界に落とされた奴は、はたしてその恨みを誰にぶつければよい。人間を辞めつつある奴は、もう壊れている。壊れながらも、他人を求めている。

死ぬ事がわからない男、奴との付き合いは長くなりそうだ。

 

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