主人公なんもしてないね、けどめっちゃ強いのです。一応、俺Tueeeee!!系だから。
こういうの、また増えてほしい。本当のネギまSSを読ませますよって勢いで、ネギまSS、増え……増え……っ!
その半年を、紀とエヴァは倍、また更に何倍にも感じていた。クリスマスを待つ子供の様に、楽しみの玩具の発売を待つ子供の様に、二人は待った。あと一週間、五日、三日、そして一日。カレンダーが赤ペンで書かれたチェックマークで埋まり、遠目から見ると赤い紙がぶら下がっている様に視え出した頃、遂にその日は来たのだった。
学校に縛られた二人と、物語が進みだす。その日が。
「もう、どうして私が出迎えなんてしなきゃいけないのよ」
神楽坂明日菜は不機嫌である。腕を組み、リズミカルに足で地面を「タンタン」と叩き、眉間にしわを寄せた姿、その不機嫌さは一目瞭然。
そんな明日菜を、近衛木乃香は笑顔で制していた。
「まあまあ、明日菜そうは言うけど先生達の頼みやし、そこまで嫌やないやろ?」
「うッ、ま、まぁね」
図星を付かれた。明日菜は照れ臭そうにそっぽを向き、木乃香は可笑しそうに笑っている。
今二人は、一人の待ち人を待っていた。今朝、担任である紀と副担任の高畑・T・タカミチに頼まれた仕事だ。
曰く、新しい教師を迎えに行け、との事。更に聞けば、自分達のクラスに関わる人物らしい。他ならぬ担任の頼み、二人に断る理由は無かった。
されど、待てど暮らせど待ち人は来ず、多少は待つ事は出来ても、自分達は学生の身、授業もある。そんなワケで、明日菜は割とイラついていた。
まだ登校してくる生徒は居る。が、彼等は遅刻必死であろう。その様な生徒を運ぶ電車の時間は今過ぎた。
「これで来なきゃ一旦戻るわよ」
「せやなー、流石にホームルームをスッポカスのは駄目やなぁ」
やれ遅刻だと叫ぶ生徒の中、特に特徴も聞かされていない相手を探すのは中々一苦労である。
先方さんは特徴があるから見ればわかるし、向こうも話を聞いていると言われたために、先程からこうしているが、もしかして入れ違ったのではなかろうか?
明日菜がそう思い始めた時であった。
「あ、あのスミマセン!」
「ん?」
「もしかして、麻帆良の出迎えの方達って、お二人の事でしょうか!」
いつの間にか目の前に杖、では無く、自分の腰辺りから声。明日菜は顔を下に向けると、小学生ぐらいであろうか、身の丈に合わぬ大きな杖を持った少年が、少し緊張気味に訪ねてきた。
「わ、かわええ子」と木乃香は思わず声に出すと、ちょっと照れ臭そうにした。
「何よあんた? ここは中等部のエリアよ、初等部は向こうよ」
「あ、いえ、僕ここで案内の方が居ると聞いてやって来た者です。中等部の女性のお二人で、ツインテールの人と黒髪の方と聞いてましたから、その……」
「はぁ? 私達が待ってるのは新しい教師の人で、先生も見ればわかる、特徴のある、人って……」
そこまで言って、明日菜は改めて目の前の少年を視る。
一番に目立つ大きな杖、まるで魔法使いの杖だ。如何見ても日本人とは違う顔立ちに髪と眼の色、やたら大荷物。
良く見れば、なるほど確かに一目でわかるほど特徴はある。
(って!? いやいや、違うでしょ私! 教師、迎えに来たのは教師! その時点で条件外れてますからー!)
「あ、あの?」
「ほら如何見てもガキンチョ! 子供はまわれ右、小学校へ行って来なさい!」
「ええー!? そんなぁー!」
「明日菜、ちょっと可哀想やで? そら新しい先生とは違うやろうけど、ここで待ち合わせしとったのは本当みたいやし、一緒に待ってあげよ?」
「だがNO! 私は子供が嫌いなの」
「ええー」
木乃香としては、このまま少年をほっておく事は出来なかったが、明日菜は嫌なようで、頑として拒む。
少年も困った様子であるが、ふとある事に気付き、明日菜に指を指した。失礼なやつである。
「な、なによぉ?」
「貴方、失恋の相が出てますね」
何処かで「ピシッ」と何かの割れる音が聞こえた気がした。明日菜の動き、更には表情も固まり止まる。
少年は不思議そうだが、木乃香は汗を流して後ずさる。
「…………ッ、よ」
「よ?」
「よけいな御世話じゃこんクソガッキャアアァァァアアアアァァ──────ッ!!!」
「う、うわあああぁぁ──!?」
怒り爆発、明日菜は素早い動作で少年を捕まえ、右腕を少年の顔に、そしてその腕を左腕で固めガッチリと固定、締めあげる。
「ああ! 明日菜が大人げなく、自分より年下の子供にチキン・ウィング・フェース・ロックを!」
「ぎにゃー!?」
「死ねぇええ!」
「明日菜あかん! 変な音、人から聞こえちゃ駄目な音がこの子から聞こえてる!」
メリメリと尚も締め上げる手を緩めない明日菜。少年は身長差もあってぶら下がる形となり、より負担が大きく、木乃香は必至に彼女を止めようとする。だが無意味だ。
まるでブリーカー(技は違うが)でどこぞの某原人を「全滅だー」しそうな明日菜に、全滅されそうな少年。「死ねぇっ!!」とか聞こえそうだ。
少年に救いの手は伸びるのか? 出無ければ少年は壊れてオンチなオルゴールの如く、奇怪な音を口から奏でる事に成ってしまうッ!
「止めんか神楽坂」
「グエッ!」
明日菜の手が緩む、良かった、少年は壊れたオルゴールに成らずに済んだ。救いの手は現れたのだ。
蝦蟇ガエルに似た、到底女の子が出さないな声を発した明日菜。解放された少年は、咳き込みながらも木乃香に支えられ、自分を救った人は誰かと振り向く。
そこにはッ!
「ごめんね、待たせちゃって」
「あ、タカミチ!」
「え、高畑先せッぐわわああー!!」
「俺もいるんだがなぁ、神楽坂ぁあん?」
二人の担任&副担任の人相の悪い紀と、無精髭のタカミチがそこに居た。
「タカミチー! こわかったよー!」
「ハハハ、何があったかわからないけど大変だったね」
まるで父に泣きつく子供の様に、少年はタカミチに駆け寄った。
そして紀はと言うと。
「おのれは自分よりも下のガキになに『フェイス・ロック』かけてんだ、あ゛ぁッ!」
「ぎにゃー!? 先生! 歳下、私歳下の子供!」
何と言う矛盾であろうか、歳下の子供どころか、少女に『アーム・ロック』をかけていた。
「貴様は別だアホンだらぁ!」
「ほぎゃー!?」
今度は技をかけられる側に成った明日菜。少年と同じ様に悲鳴を上げていた。
「タ、タカミチ、あれ」
「いいよ放っておいて、何時もの事だから」
「こ、これが何時ものって」
戦慄を感じざる負えない日常である。出会ったばかりの少年にプロレス技を駆け、その少女を題の大人が更に強力な技をかける。少なくとも、自分の居た所には無い日常だ。ここはレスラー養成所なのだろうか、しかし少年には刺激が強いだろう。
「高畑先生、この子迷子かもしれないやけど」
「ん? ああ、そうか……やっぱりちゃんと言っておくべきだったね」
「え?」
「ほら紀さん、黙ってたからこんな事になるんですよ」
「おんどりゃあぁぁ!!」
「ぬわー!?」
今度は『スピニング・トーホールド』を決められている明日菜。悲鳴がうるさかった。
「はぁ……いや、言い訳に成るんだけど、本当はちゃんと言ってこうと言ったんだ。けど紀先生が「こまけぇこたぁいいんだよ」って言わなかったからさ。まあ、良いか、ちゃんと……ちゃんと? うん、ちゃんと会えたし」
「技ぁ教えても良いが、むやみに使うなと教えたろうがぁー!」
「わー!? 先生、見えちゃう! って言うか見えてる、パンツ見えてる!?」
「っせー! 誰も手前の乳くせー下着なんざみねーつーの!」
「わーんッ! ひどいー!?」
「……うん、ちゃんと」
『ロメロ・スペシャル』、相手を両手両足で固定し、上にそり上げる技。スカートめくれる、つまりパンツは見えてる。
先程から中学生の、やはり女の子にかける技では無い。鬼畜である。
「……おほんッ! ともかく、紹介するよ。彼は、ネギ・スプリングフィールド君、この度この麻帆良に来た新しい先生だ!」
「は、はい! ネギ・スプリングフィールドです、宜しくお願いします!」
「……えッ!?」
「え、嘘!?」
「余所見してんじゃねーぞ、オラー!?」
「おわー!?」
慌しく、やはり慌しい、そんな出会いの一幕、物語の始まりであった。
「どうして!? このガキンチョが先生って如何言う事ですかー!?」
「どうもこうもそのままの意味だ、神楽坂」
所変わって時間も進み、場所は麻帆良は学園長室。部屋には七人、紀とタカミチにネギ、木乃香と明日菜、さらに近右衛門とその横にしずなが控える。
現在、近右衛門に向かって吠える女子は、関節の節々が痛い明日菜である。赴任して来た教師が子供と言う事に、熱く異議を申し立てていた。
「ま、ワシのコネでのう、彼を雇って欲しいと頼まれたんじゃよ、教師として」
「どんなコネですかそれは! 子供が教師って時点で無理でしょ常識的に考えて!?」
「そこは、ほれ……またコネの有効活用じゃて」
「悪い人だこの人!」
どこでどう有効活用したかは知らないが、碌な事ではないであろう。
それにしても以前食い下がる明日菜、近右衛門もタカミチ達も困り顔である。こうも彼女が粘るのには、それなりの理由はある。
「よしんば! こいつが教師だとして、納得いかないのは何故私のクラスの担当であるかと言う事です!」
ネギ・スプリングフィールド、彼は2‐A、つまり明日菜達のクラスを任せられる事に成っていた。しかし、2‐Aには既に担任と副担任の紀とタカミチが居るのだが……。
「どっちかが交代と言う事になるん?」
「そりゃあね、因みに僕が外れる事に成るよ」
木乃香が疑問を口にすると、近右衛門が答えタカミチが捕捉する。
つまりは「交代」、単純な話である。ネギは、2‐Aの副担任に成るのだ。
「そんなー! それじゃ高畑先生他のクラスに行っちゃうじゃないですか! やだ──ー!」
「良いだろ別に、会えないわけじゃねーんだし」
両手振り上げて駄々をこねる明日菜、紀は呆れた表情である。
明日菜は、副担任であるタカミチに常に熱っぽい視線を送る(直視はしない)。口には出さ無くても、見りゃわかる恋する乙女だ。
その相手のタカミチが別クラスなりに移される。これは何としても避けたい事態でもあった。
「いやーここまで慕われると言うのも嬉しいね。けど明日菜君、担任は紀さんのままだし、そこまでの不満は無いと思うのだけど」
「い、いえ! それとこれとは別問題です!」
そうは言うが流石にこれ以上構ってられぬと紀が動きを見せる。
「爺、このままこうしても埒が明かねえ、こいつ等は先に教室に移動させとけ」
「ふむ、それが良いじゃろうな」
「ちょ、まだ話しが」
「近衛、こいつ連れて戻ってな、他の奴らにはこの事はまだ言うなよ、お楽しみだ」
「はーい」
「あ、木乃香待って、引っ張らないで! って、つよっ!? 木乃香力つよっ!! あ、ああ!! グヌ、ヌ、ヌアァアーッ! 認めん、認めぬうぅ~~っ!! 私は認めないからねー……!」
暴れる明日菜を笑顔で引きずり、連行して行く木乃香を見送り、部屋には明日菜の虚しい遠吠えが響く。
「あの、僕」
事の当事者でありながら、話の流れに乗れずオドオドとするしか無かったネギは、去りゆく明日菜を見送り、本当にここに来て良かったのか不安に成っていた。
「気にしなくて良いよ、ネギ君。彼女も急な事で混乱してるだけだし」
「そ、それだけかな?」
「考えるな、馬鹿の考えはわからん」
馬鹿の一言で片づけるのも酷いが、取りあえずはそう言う事にした紀である。
「それで、改めてこの小僧が、ね? ふーん、ほー」
「え、え?」
紀は徐にネギの顔を見る。見られるネギは、突然人相の悪い男にじっと見られて恥ずかしいやら怖いやら。
「……成程似てやがる」
「え、今何て」
「気にするな」
「ぅわ」
グリグリネギの頭を撫で廻し、紀は一人納得の行った様子。
「今日から同僚に成る清水紀だ。まあ好きに呼べや、後輩」
「は、はい! 宜しくお願いします、トシ先輩!」
郷に入っては何とやら、ネギは「後輩」と呼ばれた自分は紀の事を「先輩」と呼んだ方が良いと思った。
その判断は概ね良かったらしく、紀は嬉しそうだ。後輩とは何でも可愛い物である。
「私は源しずな、貴方の指導教員を担当するわ。担当の授業は英語、貴方と同じよ、宜しくね」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします!」
しずなと握手を交わす。綺麗な手だとネギは思った。
「さっきの神楽坂を見ればわかるが、お前の担当するクラス、2‐Aは灰汁が強い、曲者揃いの厄介なクラスだ。神楽坂とは違うベクトルで面倒なのがあと数十人はいる」
「数十人もあんな方が……」
自分を殺し(?)かけた様な人間が後数十人。ネギはまるでアマゾネスの巣窟の様な所を想像したのか、身を震わせた。
「まあ慣れれば軽くこなせるだろう、俺もそうだった。タカミチもな」
「いやー2‐Aは強敵でしたね」
「進行形でな」
何処か他人事の様な言い方であるが、他人事ではない。
「ネギ君には暫くは教育実習生として授業に出てもらう。しばらくしたら、正式採用の試験も行うので、努々忘れぬように」
「さっきは交代なんて言ったけど、君が正式な教員に成るまでは、暫くは僕達三人、それに源先生とで頑張ろうか」
「ほ、ほんと!?」
冷静に考えれば当たり前ではある。子供と言う事は置いといたとしても、教育実習生に担任で無いにしろ副担任を任せ、今までの副担任を外す理由は無い。現状はネギを加えた三人で勤務、後にネギが副担任として能力は十分と判断されれば、タカミチが今度こそはずれ、ネギは副担任を任されるだろう。
(ま、それにしたってネギ一人に学園長入れたなら、実質四人のアドバイザー、サービス良すぎるぜ)
なんて思いつつ、紀はふと、手首の時計を見た。あと少しでHRの時間だった。
「爺、そろそろ」
「うむ、では君達は授業に向かいなさい。生徒達が待っておる」
「はい!」
近右衛門は、元気の良いネギの返事に満足気に頷く。ネギは紀達に案内され、部屋を出て行った。
「この罠を仕掛けた奴が今直ぐ頭を下げなきゃクラス全員全力で埋める」
「先生、あいつらです」
「スミマセンでした」
「誠に申し訳ございません」
「なにとぞお許しを」
頭にチョークの粉を被り、額に吸盤の矢を付け、びしょ濡れに成る紀。即犯人はクラス皆により暴かれ、紀に土下座する鳴滝姉妹に春日美空の三人。この光景に廊下から見守るネギは唖然とするしか無く、タカミチとしずなは苦笑いをするしか無かった。
どうしてこうなったのか、それは今から一分ほど前の事である。
ネギを案内し教室の前にまで来た紀とタカミチであるが、紀はネギと少し話しこんでいた。色々と教師として教える事もあり、ネギと話をして、彼の性格を把握しておきたかった。結果、話しに夢中に成っていた紀は、教室の扉が少し開いている事に気が付いていなかった。仕掛けられたトラップに気が付いたしずなとタカミチが声をかけた時には、時既に遅し、黒板消し落下から始まったコンボは美しくも残酷な物である。
「……貴様等にこの場の掃除を命じる。これだけで済ます俺の温情に感謝せい、ふんっ!」
ポンと額の吸盤をとり、身体を激しく揺さ振り、水分を殆ど飛ばす。まるで獣の様な脱水方法である。
「で、この様な罠を仕掛けたと言う事は、新しい教師の情報でも掴んだな、そこの朝倉の当たりが」
「へへっ」
「褒めてねぇ照れんな、きもちわりぃ」
「え、きもち……え?」
辛辣だ。
「何時も何時も下らない事しやがって、くそ、入ってこい!」
どなり声と共に外に待機するネギに声をかける。しかし、本人が中々入ってこない。変に思い、紀は様子を見に行く。
「どうしたんだろう?」
「さあ? 今の見てビビったとか?」
「まさか」
生徒の方もどうしたのだろうかと思うが、ここからでは様子は見えない。
「どした?」
「せ、先輩、なんか予想以上に怖いんですけど!? これが噂の学級崩壊でしょうか!?」
「俺のクラスに対して崩壊と申したか……」
「ネギ君、大丈夫だよ、一部が御茶目なだけだから」
「そうね、ほんの一部」
「これって御茶目で済む!?」
ビビっていた。灰汁が強いとは聞いたが、予想以上の歓迎(されたのは紀だが)である。精々黒板消し一つで済ませば良い物を、矢やらバケツに水やらと手が込んでいる。ピタゴラ的絶対教師殺す装置。自分なら思わず、「禁止されている方法」で防いでしまいそうだった。
ついでに言えば、まるっと筒抜け、生徒達は気不味いもんだ。
「良いから行け、時間が押してる」
「ちょ、ちょっとだけ心の準備を」
「不許可」
「うわぁ!」
背中を押され、ネギがよろけつつ教室に入る。入ってきたネギを見て、教室も静かに成った。対して、突然静かに成った教室に逆にビビるネギだが、ここは頑張らねばと腹をくくり、教壇に向かった。続けて紀とタカミチも入って来る。そして、複数の視線の中でネギは少しだけ深呼吸をした。
「挨拶を宜しく、スプリングフィールド先生」
「はい! この度、先生としてこのクラスに赴任した、ネギ・スプリングフィールドです! 皆さん、これから宜しくお願いします」
堂々と挨拶をし、最後に深々と御辞儀を一回だけした。
「はい、御苦労さん、じゃあ今日の出席を」
「ちょぉっと待った!」
「ん、朝倉」
本当ならここで一つ、生徒達から「かわいい!」何て声が響きそうであるが、そうなる前に紀があっさり出席確認を始めようとしたため、皆がタイミングを逃し、このままさせて成るかと朝倉和美が急ぎ挙手。一人、とある生徒がその行動に「うんうん」と頷いている。
「普通ここで新任の先生への質問とかがあるところでしょ!?」
「そこかよッ!?」
頷いていた生徒が驚き立ち上がり、声を上げた。
「え? 違う?」
「当たりまえだ! 着眼点が普通すぎて逆に斬新すぎるわ! もっと注目と言うか、言うべき所があるだろ!?」
「いや、ちょっと私の眼を持ってもわからないなぁ」
「この節穴!! パパラッチ! 子供じゃん!? どっから見ても、子供じゃん!? もっとも注目すべき点だよな、つーかそこ以外何を見ろと!?」
「杖とか?」
「つ、えッ!?」
「あ、外国の人だ!」
「この朝倉めっ!! 違う! そうだけど、違う!」
「え、まってあたし名前を罵倒につかわ、え?」
朝倉にツッコミを入れた生徒は、今にもかけた眼鏡が割れちゃうんじゃないかと思う様な勢いでツッコミを入れ続ける。
「いやぁ、絶好調だな長谷川、お前ならきっとやってくれると信じてた。素晴らしいツッコミだ、感動的だ」
「だが無意味だけどな! つーかあんたはあんたで呑気でいーなー!」
長谷川千雨、「平穏」を愛する故に損なポジションが多い生徒である。
「まあ長谷川の疑問も尤も、声に出さずとも、同じ様な疑問を感じた物が居るだろう。現に先程もそれに関してひと悶着あったが、まあ聞け。スプリングフィールド先生はこの度、教育実習生として来ている。今はまだ正確にはまだ「教師」じゃ無い」
「いや、教育実習生としてもおかしいんじゃ」
「それに関しては気にしたら負けだ。俺はあきらめた。「ここ」が何処か行ってみろ長谷川」
「……麻帆良です」
「な? もうそれで説明不要だろ」
こう言われては、千雨は何も言えなかった。そう、ここは天下の麻帆良学園。日本一変わり者が集まる“超特異”学園都市である。
今までもそうだ。周りの生徒は何にも疑問に思ってもいないようだが、紀に如何見てもロボットが生徒に居る事を聞くと、「麻帆良だからな」と言われ、刀帯刀してる生徒が居るんだけどと言えば「気にしたら負けだ、麻帆良だから」と言われる。「麻帆良だからしょうが無い」はある種の決まり文句と成っていた。
「わかりました……もういいです」
大人しく席に着く。もう千雨もこの事に(不本意ながらも)慣れた物だった。
元々、彼女はこんな時に声を大きくして不満を訴える人間では無い。もし彼女が入学当初のままであったなら、恐らく今の事も不満に思いつつも、心の中で静かに不満をぶちまけるだけだったろう。こうなってしまったのは、何を隠そう担任の所為である。
ロボットの事も、帯刀の生徒の事も、最初は全部紀に相談をした。担任であるなら当然である。それで帰って来た答えは先程の通り、「麻帆良だからしょうがない」だった。
呆れた物だと思うが、冷静に考えてみて、千雨はある事に気が付いた。紀は他の生徒の様に、疑問に思って無いわけでは無かった。他の生徒たちに同じことを聞いた場合、たいてい返る答えは「麻帆良だし普通」である。だが紀のように「麻帆良だからしょうがない」と言う事は、少なくとも彼はそれらの事が「変」であると言う事に気が付いているわけである。何がおかしいんだと、自分がおかしいかのように言われるより、よっぽどこの答えの方が(一応はであるが)納得がいくと言う物。普通に過ごそうとする彼女にとって、この学園での生活はストレスの溜まる物で、口に出せば幾分か楽に成ると言う事もあり、事あるごとに担任か稀に副担任のタカミチにも相談をした。そんな事を繰り返すうちに、二年生と成った今、人前でも反射的に疑問を口にする(要はツッコミをする)ようになったわけである。
今回の事も、紀も一応変であると言う事は理解している様子が見て取れる。ここは一つ、大人しくしておくのが吉であろう、経験上。
「不平不満もあろうが、基本指導教員として源先生もいる。それに、ほれ先生はアレだ。「見た目は子供、頭脳は大人」を素で行く様な天才タイプだ。だから教師としての能力はある」
「あ、知ってますそれ、日本の漫画の台詞ですよね!」
ネギが某名探偵を知っている発言をすると、教室から「おー」と声が上がる。
外国の人が日本のアニメとかを知っていると、何故か自分が誇らしく思えるが、何故だろうか。
「ともかく、どっかの馬鹿は“今直ぐ”教師交代で俺か高畑先生が居なくなるのではと思った様だが、少なくともスプリングフィールド先生がペーペーの教育実習生である間は、担任副担任は俺と高畑のツートップのままだ。良かったな、馬鹿」
「せめて私を見ずに言うとかして!?」
名前は出して無いが、じっと明日菜を見て言う物だから、その馬鹿が誰か一発でわかってしまう。
哀れ明日菜。別に言われなくても特定できる辺りがまた哀れ。
「ではでは、御次はこの朝倉が質問タイムをば!」
「先生、歳と出身と趣味と好きな女性のタイプは? ついでに彼女って欲しい?」
「あ、はい! 歳は9で数えで10になります。出身はイギリスのウェールズ、趣味はお茶や古道具を集める事で、女性のタイプは……お淑やかな方でしょうか? そう言った人であれば、お付き合いしたら楽しいでしょうけど、僕には早いですよぅ」
「だそうだ」
「全部聞かれた!?」
折角用意したメモ帳も無駄に終わる。いや、無駄ではないかもしれないが、しかし彼女にとっては敗北だ。
麻帆良のパパラッチ、報道部所属、スクープ大好きな朝倉和美の行動を予想していた紀は、ごちゃごちゃ色々聞かれる前に、彼女が聞きそうな事をネギに答えさせてしまった。
「ひどい、ひどいです紀先生! 私の仕事奪わないで!」
「じゃあ出席」
「無視かよ!」
面倒な奴の相手はしない、それが紀の信条であった。
「ネギ先生、極端だけど紀先生のやり方がこのクラスに合ってるから、よく見とくと良いよ」
「きょ、極端すぎないかなぁ?」
「曰く、妥協すれば負けのクラスらしいわ。あと強い波は、より強い波で飲み消す」
「あ、それ何かわかる気がします」
赴任初日、ネギは2‐Aの灰汁の強さを身を持って知る事と成った。
HRも終わった後にあるのは勿論授業、ネギの担当は英語で、日本語の出来るネイティブ教師の授業は、本来非常にありがたいのだが、どうも2‐Aの面々はそれ以上に、やはりネギに対する興味の方が強い様である。授業と言うにはお粗末な物で、生徒に翻弄される教師が見られた。しずながいなければ、授業は成り立たなかったであろう。
「しずナイス」
「その上手い事言ったって顔止めて下さい」
紀は少し落ち込んだ。
しずなと紀は職員室で談笑し、今日のネギの働きを聞いていた。タカミチは居ない、彼は普通の教員より色々と忙しく、授業が終われば大抵違う仕事に狩り出されるのだ。貧乏暇なしと言う訳ではないが、とにかく彼に暇は無かった。
「で? ウチ以外の授業はどうだったんだ」
「まあ普通でした。他のクラスは2‐A程騒がしく無かったので」
「あそう」
結局2‐Aだけが問題山積みと言う事だった。
「そういや、帰りのHR終わった後、何か騒がしかったな、また何かやる気かあいつ等」
「ネギ先生の歓迎会をやるって聞きましたけど? 新しい先生が来るとわかった時点で決めてたみたいです」
「ふーん? まあ顔ぐらい出すか、呼ばれて無いけどな」
「普通に行けばいいじゃないですか、自分のクラスなのに……あ、呼ばれて無い事ちょっと拗ねてます?」
「拗ねてねーよ」
「ほら視線を右に逸らした。先輩の癖ですよ、嘘付いた時の」
癖を指摘され、バツが悪そうになる紀だった。
「……仕事中の「先輩」は止めろ」
「ネギ先生には先輩って呼ばせてるじゃないですか」
「あいつは本当に新人だからな、お前はもう何と言うか、同僚だ」
紀の答えに、少ししずなは不満げだった。
「さて、あいつらだけで何かさせてると後が怖い。俺は様子を見て来るかね」
「私も後で行きますね」
「そうしな」
腰を上げ、紀はえっちらおっちら教室へと向かって行った。
「やっとるか、お前等ぁ?」
「あ、紀せんせー」
教室は普段の姿を変え、歓迎ムード一色に成っていた。何時の間に作ったのか垂れ幕がかかり、クラッカーも用意されている
「おうおう、派手にやりおるわ」
「せんせー、せんせー何処に居るか知らない?」
「……言わんとしてる事はわかるが、もっと言葉を整理せい椎名」
「あ、そうか」
失敗失敗とウィンクをする椎名桜子、笑顔で誤魔化す。
「えっと、ネギ先生って今何処に居ますか?」
「なんだ、おらんのか」
「うん、今明日菜が呼びに言ってるんだけど、中々来なくて」
明日菜が呼びに言ってる。そう聞いた時、紀は猛烈に嫌な予感がした。
「……明日菜だけか?」
「え? そうだけど」
「そうか、探してこよう」
「へ、あ、先生?」
紀は来たばかりの教室を出て、駆けだした。
HRを終えた後、ネギは校内を散策したいと言う事で職員室に行った後直ぐに出て行った。全体を把握しているわけ無いので、そう広範囲を歩いてはいないだろう。紀は大凡の目星をつけ、ネギの居そうな所を次々に回った。
二度三度当てが外れた時、前方に見なれた生徒が居た。前髪で顔を隠している。2‐Aの生徒、宮崎のどかだ。
「宮崎!」
「えひゃい!? え? あ、先生?」
大きな声で呼ばれて、のどかは相当驚いたらしい、手にもっていた本を落としそうになった。
「ああ悪い、しかし急ぎでな、スプリングフィールド先生を見なかったか?」
「ネ、ネギ先生ですか? それなら今向こうで」
「居たのか?」
「はい、階段から落ちそうになったのを助けてくれたんです……はぅ」
何があったか知らないが、ネギはのどかを助けたらしい。のどかはその事を話すと、最後顔を赤らめた。
「そうか、ありがとう。怪我が無くてよかったな」
そう言い残し、紀はのどかの行った方向に走る。
そして一分とかからず、目的の場所に到着、そしてそこには目的の人物のネギが居た。それと、もう一人。
「そ、それじゃ秘密にしてくれるんですか?」
「ま、いいわよ」
必死にネギに嘆願される明日菜が居た。
紀はその状況を見て、何があったのか大凡の検討を付けていた。今直ぐにでも二人に駆け寄ろうと思ったが、紀はふとその考えを止め、そっと物影に身を潜めた。
「あんたが秘密にしろって言うならしてあげるわよ、言ったって誰も信じないだろうし」
明日菜の言葉からして、ネギは「秘密」がバレたのだろう、正直迂闊過ぎると紀は思ったが、明日菜の口ぶりから恐らくは平気だろうと結論を出す。良くも悪くも、明日菜は約束を守る女だと、彼は知っていた。
紀は当たり障りの無いタイミングを計り、物影から姿を表し、二人に声をかけた。
「何をしてる、二人で」
「うわぁ!?」
「先輩!?」
二人は紀に気が付かなかったらしく、声をかけられると大声を出した。
「なんだ、大声出して……何かやましい事でも?」
「いえいえそんな!」
「ふぅん? まあ良い、所でスプリングフィールド先生、生徒達が待ってますよ」
「へ?」
「あ、そうだ、私あんた呼びに来たんだった」
ここで本来の目的を思い出した明日菜、ネギにクラスの皆で歓迎会をすると説明した。
「そうなんですか、そう言えば宮崎さんもそんな様な事を」
「わかったなら行くわよ、ほら」
「えっと……」
ネギはチラリと紀の顔を伺った。おおかた行って良いのか悩んでいるのだろう、紀は苦笑した。
「それぐらい自分で決めればよろしい、生徒達が待っているぞ!」
「は、はい!」
「わかったなら急ぐ! 俺も後で行く!」
「はい!」
「但し廊下は走るな!」
「は、いえええ!?」
自分はさっき走った癖に随分な言い草である。
ネギと明日菜は焦らず程々な早足で教室へと向かい、紀はそれを見送った。
(……後で要相談だな)
エヴァと色々と話す事が増えてしまった。厄介事の塊だと言う所は、本当に血だなと紀は思った。
(「魔法」ね、ほんと……めんどくせー)
かつて15年前、初めて関わり人生を狂わされた魔法。今回も、その魔法によって騒動が起きる予感がする。
めんどくさそうな顔で、紀は頭をかいたのだった。
「ネギ先生麻帆良へようこそ」と書かれた垂れ幕が降ろされ、クラッカーの音と共にネギの歓迎会は幕を開けた。
紀は若干遅れて現れ、その騒ぎに加わった。
「……あいつ等は好きだねぇ、こう言う馬鹿騒ぎ」
教室の後ろで腰かけ、飲み物として置かれていたウーロン茶を紀は啜る。教室後方は、騒ぎの苦手な面々の憩いの場と成っていた。
「そう言うあんた……先生も、普段参加してるじゃないですか」
こいつ何言ってんだ、そんな顔を向けたのは、若干不機嫌そうな千雨だった。
「さてね、俺は参加するより見てる方が好きだがね。そう言う長谷川こそ、こう言うの嫌いだろ、良く残ったな」
「先生が残れって言ったんでしょう」
「まあな」
本当は今直ぐにでも千雨は帰りたかったが、紀によって阻止された。
「最初ぐらい顔出しとけ、義理は立つだろ、後は適当に抜けても文句は言われん」
「そりゃ、そうだろうけど……」
「まあ後は好きにしときな」
紀は一気にウーロン茶をあおると、立ちあがった。
「何処行くんだ……ですか?」
「お前ほど出来て無い我儘な御姫様が家には居てね、叱りに帰るのさ」
「ああ、それはお疲れ様ですね」
「あんがと」
同じく歓迎会に顔を出していたしずなに声をかけると、紀は教室を後にして、早めに家へと帰宅した。
暫くしてから、ネギの住居の問題で騒ぎが起きるが、紀の知らぬ事である。
「よう」
「なんだ、もう帰ったのか、ってむぎゃッ!?」
ゴロゴロとソファーで寛ぐエヴァを見付けるや否や、うつぶせに成っている彼女の後頭部を手でクッションに押しこんだ。
「むわー?! やめろー!」
「いやぁ、御姫様は本当にぐーたらですなぁ、殆ど授業に出ようとせず、クラスの催し物にも参加せんとは」
「離せ、はなせー!」
「ふん、雑魚が吠えよるわ」
「ぬわあんだとぉう!?」
プンスカ怒るエヴァは全く怖く無かった。紀はそのままエヴァを片腕で抑え、彼女の隣に座った。
「それより、お前どう思った?」
「ぷはっ! ……全く、今度はなんだ?」
「だからさ、ネギだよ」
そう言われ、エヴァは「ああ……」と小さく納得。
「如何も無い、流石あいつの息子……と言えばそれも正しい評価だが、所詮ガキだ。魔力は多いが、何時でもやれるなあの程度」
「……お前が言うなら、そう何だろうな」
「ふん、不便な物だな、魔力を感じられんとは」
若干いじけた様子の紀、エヴァはサディスティックな笑みを浮かべた。
「ほっとけ、俺は限り無く一般人だ」
「戯けめ、貴様の様な一般人が居てたまるか。封印状態でも偶然とはいえ、私に勝った癖に良く言う」
「あれはお前が間抜けだっただけだ」
「ゆ、油断したと言えせめて!」
「イヤ、“アレ”ハ油断テカ滑稽ソノモノダロ」
従者の殺戮人形にまでからかわれてしまった。エヴァは顔を(どっちかと言えば羞恥で)真っ赤にした。余程思い出したくない事らしい。
「チャチャゼロは口を挟むな!」
「オーコワイコワイ」
「くわばら、くわばら」
「お前も! いらん所まで話を掘り下げるな!」
腕をぐるぐると振り回すパンチはまるで迫力が無い。
「エヴァの じたばた!」
「ポケ○ンか私は!?」
「ああ、つーかさ」
じたばたを余裕で受けながら、紀は本題を思い出した。
「ネギ多分魔法ばれたぞ」
「ああそうかい! ……って、ん゛ん゛!?」
聞き流しそうになるが、今の紀の発言を理解すると、エヴァは殴るのを止めて驚きの声を上げた。
「貴様、マジで言ってるのか!?」
「嘘言ってどうすんだよ……」
「だって……今日来たんだぞ」
「な、恐ろしいだろ」
違う意味でエヴァは戦慄した。魔法は秘匿する事が「魔法使い」の間では常識であり基本中の基本。彼等にとっては、人が息を吸う事と同じぐらい当たり前の事である。魔法使いの中でも年季の入った魔法使い、エヴァは勿論その事を言うまでも無く知っている。だからこそ、さっそく一般人にばれたというネギの失態が、同じ魔法使いとして情けないというより、よく分からない怖さを感じた。
「……ん、まあなんだ、そうやって言うんなら、特に問題は無かった、と言う事なん……だろ?」
「まあな、ばれたのは明日菜だと思う」
「あの馬鹿か、記憶は消したのか?」
「いや、そんな感じは無かった。けど心配無いんじゃねーかね、秘密にするって言ってたし」
「それは……どうなんだ?」
本来魔法がばれたら、ばれた相手の記憶を消す必要があるのだが、それをネギはしなかったと言う、それが本当であれば、ネギは常に魔法が明日菜以外の一般人にばれる危険があるのだが、ネギはそれがわかっているのか、エヴァにはそれが不安だった。
「困るぞ、あいつがオコジョになったら。学校での事は任せろと言ったではないか」
「言ったさ、だから問題には成って無いだろ?」
「結果的にはな、だが厄介なことには変わりない」
「なぁに、やり様はあるさ、そうだろぅ、悪の魔法使いさん?」
「……ふん、その通りだ」
エヴァは悪の名に恥じない、悪い笑みを浮かべ答えた。
「ところで、今日はどうする? 一緒寝るか?」
紀がそう言うと、とたんエヴァは顔を赤らめ目を逸らした。「んー」とか「あぁー」とか言いながら、チラリチラリと紀を見る。
「……う、うむ、まあ頼む。その、まだちょっと、ほら、その……な?」
「お前ナイーブ過ぎるよなぁ、前好きな男にガキがいたからって」
「うるさいな……私だって人肌恋しくなる事もある」
「へーへー」
「というか、お前はもっと喜べ……その、なんだ……一応は、私のような女子と寝れるんだぞ」
「嬉しいから一緒に寝てるんだろうが」
「お、おう」
一応言うと、二人は何も後ろめたい事はしていない。いや、教師と生徒と言う関係は後ろめたいと言うか、背徳的関係だが、そもそも二人その年の差100を超え、もっと言えば本来エヴァは学生じゃないはずだった。問題があるなら見た目だけだ。きっと。
また補足するなら、「寝る」だけだ。子供をあやすのと同じ。これもまた、後ろめたい事はない。
恥ずかしげも無い言い方は、紀がすっかりエヴァの相手に慣れたからだろうか。もともと女性への扱いが雑と言うだけかもしれない。だが同じ境遇になって、エヴァの想い人も死んだと知り、事情を知る間柄。同じ土地で何十年と暮らす。聞く者が聞けば「そりゃそうなる」と言ってもいい結果かもしれない。
対しエヴァは初心だ。紀に慣れてないわけじゃない。単純に男との男女の付き合いが良くわからないだけだ。ナギの時も、結局力で手に入れようとしたのだから、自然となる男女と言う関係に慣れていないだけなのだ。いまだに。
「まあ飯食おう、腹減った」
「う、うむ! そうだな」
紀につられ、一緒に食卓へ歩く。夜のベッドが少し恋しく思いながら、今この時もまた恋しく思えた。
二人は、やっと進みだしたのだ。