昼休み。
今日から戸塚の練習に付き合うことになった。
戸塚は先に行って準備してると言ったので残念ながら一緒に行くことが出来なかった。
くそっ、準備なら俺も一緒にするのに。
俺はそんなことを内心で愚痴りながら靴を履き替えテニスコートに向かった。
「比企谷くんっ!」
元気なソプラノの声が聞こえた。
俺に気が付いたようで手を振っている。
ここで俺は究極の二択に迫まれてる。
その二択とは、『戸塚に手を振る』か『何もアクションを起こさずに戸塚の元に向かう』だ。
何故戸塚に対してこの二択が出たのか。
それは、俺が手を振るのは気持ち悪い、と思われるのを回避するため。
だがそのために戸塚を無視するのは心が痛む。
だから究極の二択なのだ。
だが、俺が悩んでいると戸塚が俺の腕に飛び付いてきた。
左肩にはラケットケース。
そして、右手は何故か俺の左手を握っていた。
なんでだよ。
確かに嬉しいよ、でも何か違うような・・・。
まぁいっか。
戸塚だし。
「比企谷くん、実はね今日比企谷くんの他にも2人手伝ってくれる人がいるんだけどいいかな?」
「ん、ああいいぞ。寧ろ俺がいていいのか?」
「うん!もちろん!比企谷くんがいてくれたら僕嬉しいし。」
ほんとにこの子男?
今のセリフ言われたら俺の理性が爆発する。
もう爆発していいか?
していいよね?
よし、しよう!
俺の頭の中がフィーバーしている時だった。
「あら、サボりケ谷くん。あなたはここで何をしているのかしら。」
何とか部の部長、雪ノ下雪乃と何故いるか分からない由比ヶ浜結衣が現れた。
「俺は戸塚に頼まれたんだよ。あと、部活はサボってないから。あそこに行ったのは体験入部だ。だからもう行く気は無いし、行く時間もない。お前も見ただろ、俺はボーダー隊員だ。」
「そう。ならあなたはもうあそこに行く気は無いのね。」
「ああ。そうだ、最後に聞かせてくれあそこは何部なんだ?」
「もつものが持たざる者に慈悲の心を与える。人はそれをボランティアとよぶの。・・・それがこの部、奉仕部よ。」
「そうか、なら俺にはなおさら無理な部活だな。俺は何も持ってない。俺ができるのは、ただ戦うだけだ。」
「そうね。あなたじゃ実力行使になりそうね。それはそうと、あなたはテニスの経験あるのかしら。」
「いや、ない。」
「そう、ならテニスの技術面に関しては一任してもらえないかしら。」
「ああ、いいぞ。じゃ、俺は球拾いでもするわ。」
そう言い俺はベンチに向かい歩き出した時だった。
「あら、誰が球拾いをしろだなんて言ったかしら。まずは、筋トレよ。」
え〜、筋トレかよ。
別に筋トレが嫌いな訳では無い。
寧ろ毎日やっている。
だがそれは、自分に少し負荷がかかる程度の軽い筋トレだ。
こいつ、絶対かなり無茶な筋トレやらしそうで怖い・・・。
あ、でも俺はやらなくていいのか。
これは戸塚の特訓だ。
俺が筋トレをする必要は無い。
うん、戸塚が可愛そうだが俺は応援にまわろう。
そうしよう。
「あら、どこに行くつもりなのかしら。あなたも一緒に筋トレするのよ。因みにメニューは死ぬまで走り込み、腕立て、素振り、練習よ。」
どうやら俺の予感が的中してしまったようだ。
つかなんだよ、死ぬまでやるって。
お前、それで死んだら死因なんて書けばいいんだよ。
筋トレによる過労が死因なんてやだ。
死ぬ時は天寿まっとうして孫に囲まれて穏やかに死ぬんだい。
数分後。
「13〜。」
ドテッ、戸塚が倒れた。
どうやら戸塚はここまでのようだ。
息の上がっている姿も可愛いな〜。
因みに俺の隣で由比ヶ浜もやっていた。
10回もいかないで終わったが。
2人とも終わったみたいだし、俺も終るとしますかね。
「あら比企谷くん、あなたまだ元気じゃない。私が最初に言ったこと覚えてるかしら。死ぬまでやるのよ。ああ、ごめんなさい。もう死んでいたわね。」
「いやオレまだピンピンしてるし。あとなに死んだって決めつけてんだ。この目か?この目が物語ってるのか?」
「あら、自覚あったのね。自覚があるのなら人にその腐りきった目、見せないように努力しなさい。そうね例えばその目をくり抜くとか。」
oh、この女とんでもない事言ってきやがった。
俺の一番の長所はこの目だ。
サイド・エフェクトが視力に関係するものなのだから目を取ったらサイド・エフェクトが使えなくなる。
サイド・エフェクトがなくなったら個人総合1位ではいられなくなるかもしれない。
俺はそのまま雪ノ下に対抗するべく、腕立て伏せを実行した。
「100〜、だあ!もう無理だ。流石にしんどい。雪ノ下、もう終わっていいか?」
俺は雪ノ下の許可をえるべく雪ノ下の方を向いた。
つーがなんで腕立て伏せ終わるのに人の許可がいるんだ?
そんな素朴な疑問を抱きながら雪ノ下雪乃がいた方向を見た。
しかし、そこには雪ノ下はいない。
あれ〜あいつカメレオンでも使ってるのかな〜?
そう思っていた時だった。
「いたっ!」
戸塚の声が聞こえた。
「うわ、さいちゃん大丈夫?」
由比ヶ浜がラケットを持ったまま戸塚の元に近づいた。
犯人はテメーか由比ヶ浜。
恐らく由比ヶ浜が変な所にボールを飛ばし戸塚がそれに食らいつき転んだのだろう。
それにしても俺腕立て伏せに集中し過ぎじゃね?
ずっとラリーしてるのにも気づかなかったのかよ。
「戸塚くん、まだやるのかしら。」
「うん、みんな僕のために手伝ってくれてるからね。僕がリタイアするわけにもいかないもん。」
「そう、わかったわ。」
雪ノ下はそう言うとその場から立ち去って行った。
恐らく絆創膏でも取りに行ったのだろう。
あいつの性格上途中で投げ出すなんてありえないだろうしな。
「僕、呆れられちゃったかな・・・。」
「そ、そんなことないよ。ゆきのん絶対に頑張ってる人のこと見捨てたりしないもん。」
その通りだ。
だが、その雪ノ下の性格が今仇になるだろう。
だってリア充たちがこちらに目をつけ始めてるんだもん。
特にあの金髪縦ロールなんかこっちを穴の開きそうなぐらい見てるし。
あ、やっぱりこっち来た。
「あ〜テニスしてんじゃん。テニス。」
「ねー戸塚ー、あーしらもここで遊んでいい?」
「三浦さん、僕は別に遊んでるわけじゃなくて・・・練習を・・・」
「え?何?聞こえないんだけど」
戸塚の小さすぎる抗弁が聞き取れなかったのか三浦の言葉で戸塚は黙り込んでしまう。
仕方ない、ここは俺が一肌脱ごう。
怖い人たちとは今まで何度も話してきたんだ、それに比べてこのナンチャッテ女王なんて二ノ宮さんの、いてつくはどうの足元にも及ばない。
「なあ、ここは遊びで使ってるわけじゃないんだ。ちゃんと生徒会から許可をもらって使わせてもらってるんだ。仮にここを使えたとしてもテニス用品はテニス部の備品だ。勝手に使えるものじゃない。」
どうだ、これなら引き下がってくれるだろう。
「は?何言ってんの?」
どうやらこのナンチャッテ女王様は耳が遠いようでらっしやる。そこで俺は一度ベンチに戻りあるものを取ってきた。
『ガーピーもう一度いうぞ。ここは生徒会から許可をもらって使っているんだ。使いたければ許可をとってこい。仮に使えたとしてもテニス用品は自分でもってこい。』
俺はベンチに置いてあったメガホンを使いナンチャッテ女王様の目の前で喋った。
これならちゃんと聞こえるだろう。
「は?あんたマジなんなの?あんただってラケット使ってんじゃん。」
「これはテニス部顧問に借りてきた。『練習に付き合ってくれてありがとな』って言われてな。」
これはホントだ。
これで下がらなかったら実力行使にでるしかない。
「はぁ?何言ってんの?キモいんですけど。」
「あ?オメーこそ頭にウンコみたいなの二つぶら下げてるくせに。なにそれ可愛いと思ってんの?残念ながら男の戸塚の方が可愛いわ。」
「あ、あんたねー黙って聞いてれば」
「いや、黙ってないじゃん。めっちゃ喋ってんじゃん。」
「こ、この・・・」
「まあまあ、あんま喧嘩腰になんないでさ。」
リア充筆頭の葉山がとりなすように間に入る。
「ほら、みんなでやった方が楽しいからさ。」
「悪いがコッチは楽しさなんて求めてないんだが?」
「そ、それなら俺達も戸塚の練習に付き合うからさ。運動部じゃない君よりも俺の方が動けるしさ。」
「俺、ボーダーでお前ら運動部とは比にならないくらいはげしい運動しているんだけど。」
俺はすべての言葉を言い返した。
よし、今までメディア等に対して言い返してきたのがまさかこんな所で役に立つとは。
だが、あと一息というところで
「ねー、隼人ー。何ダラダラやってんのあーし、早くテニスしたいんだけど。」
ナンチャッテ女王様降臨。
ホント何様なんだよ。
あ、ナンチャッテ女王様か。
「んー。じゃあこうしよう。部外者同士で勝負。勝った方が今後昼休みになったらテニスコート使えるってことで。もちろん俺が勝ったら戸塚の練習にも付き合う。強いやつと戦った方が戸塚のためになるだろ?」
確かにこいつの言っている事は正しい。
だが、俺は一つ納得いかないことがある。
「なあ、メリットは?」
「それは戸塚の練習につきあ・・・」
「それは戸塚のメリットだ。いいか、俺が聞いたのは俺に対するメリットだ。お前らが負けても失うものはない。だが俺が負けたらオレはテニスコートの使用権を失う。仮に勝ったとしてもそれはただの防衛戦にしかならない。さぁ、俺に対するメリットを提示してくれ。」
俺は今かなり悪い顔をしているだろう。
相手が少しでもイラつけば筋肉の動き動きがはっきりとわかってくる。
そうすればテニスで勝負した時、素人の俺でもサイド・エフェクトを使えばほぼ100%勝つことが出来るだろう。
「そうだな、なら俺が昼食1週間買うっていうのはどうかな。」
「オッケー、男に二言は無いな?じゃ、盟約に誓って・・・アッシェンテ!」
周りの奴らはポカーンとしている。
え、みんな盟約に誓わない?
俺だけ?
恥ずかしい・・・。
それによく見ると外野も増えてきた。
まぁ、一対一ならば俺にも勝機はある。
「ねぇ、隼人ー。あーしもしたいんだけど。」
おいおいおいおい、この女何てこと言いだすんだ。
このリア充筆頭葉山が断るわけがない。
考えろ〜俺。
「ならこうしよう。男女混合のダブルス。もちろん俺が負けた場合昼食1週間は2人分にする。どうかな?」
「えー隼人ー、こいつと組んでくれる奴なんていないって。」
そう!今俺が悩んでいるのはそこなのだ。
どうしようかな〜。
仕方ない、背に腹は変えられないしな。
「ヒッキー、私が一緒に出るよ!」
「いや、いい。お前運動オンチだろ。」
「な、何勝手に決めつけてんだし!確かに運動苦手だけど!」
やっぱりそうか
「ヒッキー私が組まないと一人になっちゃうんだよ!?それでもいいの!?」
「よくない。だから俺は組む。」
俺はギャラリーに向かって由比ヶ浜が持っていたラケットを投げた。
「全く、騒がしいから来てみればまさかあんたが関わっているとはね、八幡。」
俺が一番信頼している従兄弟、操がラケット片手にテニスコートに登場した。
「俺とダブルス、組んでくれるか?」
「昼食1週間ただなんていい条件じゃない。流石に毎日アンパンじゃきついでしょ。あんたが。」
「ちっ、気付いてたのか。」
「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるのよ。」
俺と操が話していると
「ねぇ早くしてくんない?」
おっと、ナンチャッテ女王様がお怒りのようだ。
ルールはこうだ。
てきとう!
戸塚に任せるということだ。
俺と葉山がルールを確認しあってると2人のオンナがユニフォームに着替えてきた。
取り敢えず一言。
「操、パンツ見えてんぞ。」
「いいのよ、どうせここにいる男どもはそれを願ってるんだから。」
どうやら余計な心配だったようだ。
寧ろ見せる気満々だった。
「それより、あんたサイド・エフェクト使うつもり?」
「ああ、負けることが許されないからな。」
「なら、私がどこに動くべきか指示して。その通りに動くから。」
「オッケー、任せろ。人のこと動かすのは得意な方なんでね。」
試合はお通夜モードで進行した。
俺のサイド・エフェクトである程度コースを絞りそこに操を動かし、他のところを俺がカバーするといった感じた。
ラケットの向き、ボールの回転、手首の返し、腕の伸ばし具合等で次の動きはわかる。
擬似的ではあるが俺は、いや、俺達は未来が分かっていた。
そんな試合は当然一度もミスなく俺達の圧勝となった。
最初は盛りたがっていたギャラリーだが徐々に静かになり終いには俺達を応援する奴まで出てきた。
試合が終わり、俺と操と戸塚、由比ヶ浜は教室に戻った。
予想道理と言うべきか教室は盛り上がっていた。
一部を除いて。
操のプレーが凄かったためかただ今絶賛褒められ中だ。
一応言っとくが操が。
そしてリア充グループは、誰もしゃべろうとしていなかった。
当然か、勝てると思ったゲームで負けたんだ。
屈辱以外何者でもない。
俺はどこかスッキリした状態で午後の授業を受けた。
あ、雪ノ下のこと忘れてた・・・