インフィニット・ストラトス 二束三文恨みを買いに行く 作:三樹知久
これが初挑戦です。
サークルやってた頃、新入生が初原稿書く時必ず聞かせた言葉があります。
「作品には書く人間の個性が出る、性癖好み全開でこっちをドン引きさせる気で自己紹介代わりに何でも好きなもん書いてこい」
初心に帰って私もそうします。
その日、彼女は初めて赤の他人に夢を語った。不特定多数の赤の他人。プロジェクターから身の丈の三倍はあるようなスクリーンに映し出される机上の空論は、きっと人類にブレイクスルーを齎すだろう。
例えば飛行機は速くなったし大きくなった。計算機は小さくなったし複雑になった。既にあるものを進化させるのは技術者の仕事だ。彼女と語る夢を聞く大人達は研究者だった。
世界に新しいモノを持ってきて社会に投げ込む。それが彼女と彼等の役目だった筈だ。
開発者がいた、発見者がいた、探求者がいた、求道者がいた。
けれども、彼女は新しすぎた。投げ込もうとしたそれは、嘲笑われた。
「子供の相手なぞしていられるか」
と、誰かが立ち去った。
「天才児と聞いていたが空想と科学の区別もつかんのか」
と、また誰かが立ち去った。
誰も彼もが講演堂から立ち去った。
たった一人、怒り狂う寸前で拳を握り体を震わせる彼女に拍手を捧げた。
ニタニタと厭味ったらしい笑みを浮かべた、着流し姿に白髪の男だった。
眉毛も睫毛も白いあたり生まれつき体毛が白い体質なのだろう。遠目に見た印象とは違って、老人と呼ぶには若い顔をした男だった。立ち上がって背筋を伸ばした姿は異様に長く、高い。百九十センチを超えるだろうその背丈。
だが、
「背が痛ぇ」
等と呟いて、すぐに猫背になってしまった。椅子の背にかけてあった白衣は和装の上から袖を通し、前を閉めずにだらしなく足を引きずるように歩く。年齢相応なのは活力に満ちた表情の顔だけで、服装もガサガサに傷み伸びた白髪もその姿勢も何かにつけて老人然とした男だった。
例えるなら、剪定された公園の植木だ。葉も枝も落とされ、遠目には枯れ木のように思えるが刃物で幹に傷をつけると緑色の汁が滲みだす。
ゆらり…ゆら…り、と見ているだけで不安になるような歩調で講演堂の段を降り、発表者である彼女に歩み寄る。
「見ててうずうずするような嫉妬だったなぁ、あいつらぁ。だっつーのによぉ、何故おめぇはそんな機嫌損ねてやがんだぁ?」
煽るつもりはないのか、言葉を切り、回答を待つ。
「私に喧嘩売りに来たわけ? っつーかお前誰だよ」
「おめぇは誇るべきだろぉ? たった今おめぇは世界中のあらゆる学問の権威とやらを老害と呼ぶ権利を得たんだぜぇ?」
男は言葉を続ける、
「いいか? 研究者って連中は嫉妬深くなきゃぁいけねぇ。鳥に嫉妬して飛行機が生まれたように、馬に嫉妬して自動車が生まれたように。だが、腹んなかのそれから目を背ける奴ぁもう研究者失格。あいつらは一人残らず老害だ」
「だから、お前誰だって言ってるんだよ!」
「そんなこたぁどうでもいい。実は俺ぁ研究者じゃねぇんだ。根拠は一つ。執筆協力者として十や二十じゃねえ数の論文に俺の名ぁ乗ってるが俺自身の研究として出したことが一度もねぇからさ、だから俺の名なんざ覚えなくていい」
芝居がかった奇妙な身振り手振りで怪しく誘うように、告げる。
「自信を持てよぉ、そもそもこの発表会自体が過ちだぁ。分かるか? おめぇは認めちまったのさ、自分だけじゃこれを作れねぇと。何故? 資金かぁ? 材料かぁ? 人手かぁ? だからこんなくっだらねぇお遊戯会をしている。 自信を持て、案ずるな、俺ぁすべての夢の味方だ。お前の翼に手を貸そぉ」
ようやく男は真顔になった。
「思い出したよ、お前みたいなのを寓話で知ってる」
「知恵の実を食べに行こう、楽園なんざくそくらえってかぁ?」
その日、彼女は初めて赤の他人に夢を語った。その日初めて彼女は親友ではなく味方を得た。
この明らかにかっとんでる白髪は主人公じゃないです。