インフィニット・ストラトス 二束三文恨みを買いに行く 作:三樹知久
前話二つの投稿日とこの小説の発表開始日見ていただければ分かるように
意識して書くようにしないと全然筆進みません
視線、視線、視線……、視線で物に穴が開けれるなら彼は今頃アメコミのチーズのようになっているだろう。
何に対する配慮なのか出席番号も名前順も無視した彼の席はど真ん中二番目の席、いっそ一番前にすればいい。それなら視線は背中にしか来ないから黒板と教卓見てれば済んだろう。
なんでこんなに視線が集中するのかって答えは彼は自分でもわかってる。分からないのはその更に上の原因だ。視線の理由はこの教室に男子が俺しかいないから。わからないのはなんで女性にしか反応しないISを俺が動かしてしまったのかということ。
そう、ココは天下の国立女子校にして高等学校であり世界唯一のIS関係の専門学校。IS学園だ。絶対何かの間違いだ。こんなにも場違いな空気味わったことないだろう。
不用意に機密で一杯っぽい機械に触ったのは俺が悪いから仕方ないとして、カンニング事件の発覚やら消えていた電子掲示板やら誰ともすれ違わず見張りもいなかったことやらを思うと嵌められたんじゃないかって考えが消えない。こういう陰謀臭い目に遭うのは初めてではなかった。
客寄せパンダの気分を思う存分味わいながら彼は机に突っ伏す。ただ気にしていたのは皆それぞれ席につき、私語をする生徒もいないのに自分の前の席が空いていることだ。
入学式の整列から一糸乱れぬままにこの教室に来たから途中ではぐれた人はいないと思うんだが……
目の前の席に思いを馳せながら現実逃避していると教室の自動ドアがプスッと空気の音を鳴らして一人の女性を迎え入れた。
なんというかアンバランスな人だ。背もあまり高くなく、童顔で、スーツが似合っていない。ものの見事に着られている。だというのに、彼女の背丈と顔立ちに似合う服は軒並み彼女の体を収められそうになかった。スーツが内側からはちきれそうだった。
「はうっ!? 初日で情けないとこ見られました……私先生なのに……」
挙句胸元が邪魔で地面が見えていないらしく教壇に登れずコケた。眼鏡の向こうの瞳は涙が滲んでいる。大丈夫なんだろうか……
「おはようございます、それではSHRを始めますね」
キリッとした顔で言った。誰も返事をしない。滲んだ涙はあと少しでこぼれ落ちるだろう。
「おはようございます……SHR始めてもいいですか?」
これは放置してはだめだと唯一の男子が助け船を出した。
「おはようございます、もっと自信持って下さい。先生なんですから!!」
「う……ありがとうございます、私は一年一組の副担任の山田真弥です」
トドメになってしまったらしい。とうとうこぼれ落ちた。こぼれ落ちた涙を拭いもせずにSHRを進行してゆく。大丈夫なんだろうか……
「担任の先生はもうひとりの生徒を迎えに行っていますので先に自己紹介を始めましょうか」
なかったコトにして恙無く進行させてゆく。生徒がそれぞれ起立しながら名前を名乗り中学での所属部活や趣味など思い思いの自己紹介をしてゆくのだが誰もが視線はクラスメートのうちただ一点を向いていた。誰に向けた自己紹介かまるわかりだ。このまま滞りなく進行するかと思われたが
止まってしまう。
「織斑くん、織斑くん!!」
先程は唯一返事を返してくれたというのに後ろの方の席の誰かを見つめながら考え事にふける男子を前に再び涙が滲む。
「は、はい!」
「自己紹介、してくれますか? いま『あ』から始まって『お』なんだよね。だからね、ゴメンね? 自己紹介、してくれるかな? ダメかな?」
「大丈夫です! そんなに畏まらなくても自己紹介できます!」
「本当ですよね、大丈夫ですよね」
誰が見ても大丈夫じゃないのはこの先生だった。
起立して後ろを向き視線という圧力を強めてくる女子たちに対し、
「織斑一夏です!!!」
今までさんざんパニクった山田教諭よりも大きな声で名を名乗り、息継ぎをする。
なんだ、次に何を言う? 女子たちが細心の注意を払ってその次を聞き逃すまいとして、
「以上です!!!」
全員がずっこけた。この男子もかなり大丈夫じゃない。そこでぷすっと教卓側のドアが開き、
スパァン!!!「まともな自己紹介をしろ」「あぎっ」
間髪入れず自動ドアの空気音をかき消す勢いで出席簿の快音がした。
「いってぇ……げぇ!! 呂布!!」
スパァン!!!「誰が三国志の全自動裏切りマシーンか」「んがっ」
二撃目である。
「何すんだよ千冬姉!」
スパァン!!!「織斑先生と呼べ」「おぶっ」
三撃目。
「いや先生って千冬姉こんなとこで何し」
スパァン!!!「ココは学び舎だ織斑先生と呼べさもなくば死ね」「へぐっ」
四撃目にして彼のセリフを最後まで言わせることすらなくなった。
「もういい座っていろ」
織斑一夏の姉にして世界最強のブリュンヒルデ、職業を今まで弟に何の理由があったのか隠していたせいで余計なコントを挟むこの理不尽こそ織斑千冬である。
「織斑先生、彼も来たんですね」
「ああ、山田先生。挨拶を押し付けてしまったな」
「いえ、副担任ですからこれぐらいは」
会話を経ながらも教壇をハイヒールで威風堂々と床を踏みしめて登る。
「諸君、私が貴様らの担任になった織斑千冬だ。私の仕事は貴様等弱冠十五歳を十六歳までに使い物にすることだ。貴様等は私の言うことをよく聞き、理解し、そして実行しろ。出来ないものには出来るまで指導してやる。聞こえたか? ならば『はい』といえ。貴様等に許された返答は『はい』のみだ。理解も納得もいらん。ただ服従していればそれで使い物になる程度にはスパルタで行くからそのつもりでいろ」
キャァァアアアアアッッ!!!!
視線の精神攻撃、理不尽なる出席簿、トドメは音響兵器と来た。そろそろ織斑少年の脳の損傷へ配慮するべきだ。
「千冬様! 本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、千冬様に会うためにここまで来たんです。北九州から!」
黄色い悲鳴で満たされた教室を見回しながら眉間を抑える元凶女王
「……毎年毎年、どうして私の担当にはこうも馬鹿が多いんだ? 誰かが私のクラスにだけ馬鹿を集中させているのか? あれか、馬鹿にふさわしい扱いをしろということか?」
暴君ココに極まれり、少なくとも初日に生徒に向ける言動ではないのだが、IS学園はエリート校だ。選りすぐりの人材が集まる以上その人格も常軌を逸する。
「きゃぁぁぁあああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って! 見下して! その冷たい目で私を見つめて~!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけ上がらないように躾けて下さい!」
という性癖全開のセリフから
「えっと……織斑くんって、千冬様と知り合い……?」
「親戚、とかなのかな? ……もしかして姉弟だったりして?」
「それじゃあ世界で唯一男でISを扱えるっていうのもそれが関係して――?」
などと言った雑談私語に至るまで全く統制が取れていない。
これに対し、
「黙れ」
一言で黙らせる。一瞬で教室中の生徒を掌握してみせた。常軌を逸する生徒を鍛える教員がまともなわけがなかった。
「さて、未だ空席が一つあるがこれは今まで機密として扱われ発表されなかった者の席だ、諸君は報道よりも先に奴を目にすることになる。入ってこい」
そして満を持して一番このクラスの人員で大丈夫じゃないのが現れた。
なにせまず顔色が悪い。真っ青だ。口元をお抑えてフラフラしながら教壇へと登ってきた彼は。そう彼だ。男子制服を着、くすんだ灰色の髪の少年だった。
「ご紹介に与った未だ報道されていない二人目、アッシュ・カースドランカーだ。諸事情でココ八年近く地下室の蝋燭の灯で過ごしていたものだから眩しくて仕方ないし、人が多くて吐き気がす」
おぶぇえええええ!!!!
きゃぁぁああああああ!!!!
明らかに大丈夫じゃない言葉の自己紹介の途中で吐いてしまったのだが、床にバラ撒かれたのはトランプだった。
クラス中が混乱したその一瞬で足でバラ撒かれたトランプを跳ね上げ、右手の指をぱちんと鳴らすとトランプが一斉に燃え上がった。再び床に落ちることもなく灰すら残さず全てのトランプが空中で燃え尽きる。
「イッツジョーク、はっはっは。自己紹介の言葉は嘘ではないがココ数日の報道管制の軟禁で慣れたさ」
先程までの顔色すら演技だったのか全く快調と言った調子で笑顔で続ける。ただ、地下室だの蝋燭だのと言った不穏な言葉を撤回していない彼に誰もが不穏なものを見る目で見ていた。
そこに
パシッ
あまりにも異常な光景が追い打ちのように現れた。あのブリュンヒルデの出席簿が登場五分も満たないうちにその脅威と威力を知らしめたそれがあっさりと中指と薬指に挟まれていた。
「指示には従ったぞ? そこの一人目と違って名前以外にこちらの最も重要な事情を聞かせ特技も見せてやった、なにかまずかったかね?」
笑顔を全く崩さぬままに、
「ところでバケツをく、いや間に合わんな」
自己紹介に偽りはないということは吐き気もちゃんとあるということ。駆け込むように窓から顔を出し彼は虹をかけた。
掃除は本人がします