インフィニット・ストラトス 二束三文恨みを買いに行く   作:三樹知久

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ちょびっとうちのオリ主のチートが垣間見えますがこれは特典とかじゃないです

そもそもこいつ神様とかあってませんし


エピソード2 失望した

「ではこれにて休憩とする」

 

 そう言って一度教室を後にする千冬と真弥を尻目にこの教室いや、学園全体でたった二人の男子生徒は机に突っ伏していた。それぞれ別の理由で。

 一人は掃除用具箱から受け取ったバケツを抱えている。言わずと知れた初日ゲロのアッシュである。どうやら自己紹介のときに胃の中身は全部キレイになったようで胃液しか出てこない。彼が軟禁で慣れたのは明るさだけらしい。サングラスやアイマスクはここまで一度も要求していなかった。

 

 もう一人は単純に精神的に疲れていた一夏だ。それもそのはず休み時間に入った途端に教室どころか廊下まで芋を洗うかのようなギャラリーの群れ。それらの目的は明白だ。二人の男子の見物に来ているわけだ。

 しかし色々と衝撃的な自己紹介がまずかったのか誰も彼等に近寄って先陣を切ろうとしないことも逆に彼の疲れに拍車をかけていた。こちらから話しかけていいのだろうか、と言うか彼は放っておきたくない人物が一人いるが彼女はずっとそっぽを向いて機嫌が悪そうにしていた。

 トドメに唯一の頼りになりそうな同じ立場のはずのアッシュはバケツから顔を一度も上げていない。と言うか胃液の匂いが逆に吐き気を更に催させるのではないだろうか。局地的だがそろそろ(バケツの中に)換気が必要なはずだ。

 

「ちょっとよろしくて?」

「ちょっといいか?」

 

 とうとうしびれを切らしたのか先陣を切るものが現れる。それも同時に二人。どうやら一人は男子二人に、もう一人は一夏にだけ用事があるらしい。

 

「お、おう箒。助かったよ。この空気のまま次の授業は辛いものがあるからな。知り合いがいてよかった」

 

「知り合い程度なのか……いいからちょっと来い」

 

 そのままどうやら知り合いらしい二人は連れ立って教室を出ていってしまう。まあ僅かな時間でも気安い相手と会話してこの後の英気を養えるのだから、そっとしておこう。原作に任せるとも言う。

 

 問題は残されたもう一人の先陣と大丈夫じゃないクラスの大丈夫じゃない生徒筆頭アッシュ・カースドランカーである。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 隣のやり取りをなかったコトにするかのように繰り返す。

 

「構わんぞ、吐く物吐いたら楽になってきたからな」

 

 ようやくバケツから出した顔は朝見せた笑顔と変わらぬ表情だった。

 

「何故、あなたがここに居ますの? よりにもよってネセサリーの頭首であるあなたが」

 

「流石に日本人とは違うな、(わたし)の名に聞き覚えがあるか。いや、英国でも一般的ではあるまい、オルコット家の情報網には舌を巻くばかりだな」

 

「あなたも(わたくし)を知っていますのね」

 

「そろそろリストから消す予定だよ。正式に後を継がぬ令嬢のままではどう頑張っても没落は免れんし、先代は誇り高い人物だった。(わたし)に仕事を回すこともなかったさ」

 

 彼女の名はセシリア・オルコット。英国の代表候補生にして英国貴族オルコット家の生き残りである。本人は認めていないがその実態は新型機のテストのためのモルモットであり、それによる国家への貢献を持ってして両親を失った家をなんとか持ちこたえさせている気丈な人物だ。

 が、思いっきり周りを置き去りにした会話である。二人の家系についてどうやら因縁があるようなのだが関係性が全く見えなかった。

 

「ところで、ISについてわからないことがあるのなら跪いて乞うのであれば教えて差し上げてもよくってよ。(わたくし)はエリートですもの。(わたくし)と同じクラスになれた幸運に感し――」

 

「そこまででいいぞ。ここは学び舎だ。君も生徒として励むといい」

 

 そう言って机の横に置かれた鞄から本を一冊取り出した。それはこの学園の生徒なら誰もが一度は目にした悪名高くも重要な書物だ。そう、入学前必読の事前学習書である。

 

「朝の自己紹介に続いて一つ芸を見せよう」

 

 そう言って突然その重要な本の背表紙を引剥した。背の背表紙の内側にあるページをまとめている支持体まで剥がし、もはやそれは本であった紙の束と化す。そのまま頭上に投げ捨て紙をぶちまけた。

 

「オルコット嬢、一つ三桁の番号を」

 

 もう意図は明白だった。

 

「278」

 

 挑戦に応じ、厳かに答える。即座に彼の指が動いた。未だひらひらと宙を舞う紙の一枚を指で挟みそのまま一顧だにせずセシリアに渡す。

 

「そこにはISを運用するにあたって許可を得る必要のある団体と手続きについての項目がある。書物の暗記はカースドランカーの職務の一つ。何の事はないただの特技だ」

 

 などと言ってのけるが、紙の量が多いために朝と同じく指を鳴らし手品の種にするというわけにもいかず、箒とちりとりでかき集めた後よりにもよってバケツにぶち込んでしまった。重要書物であった紙の束をである。

 

「くっ、聞きしに勝る有様ですわね」

 

 そこで休み時間を終える鐘がなった。

 

 

「さて――では、始めるとしようか。山田先生、説明を」

 

「はい、先程のSHRと一限目は自己紹介とちょっとしたトラブルで使ってしまいましたがこの二限目はクラス代表と係決めをします。前の時間では事前説明より細かい所、設備に関する規定などを説明しましたので、ここでは係決めとクラス代表決めを行います」

 

 まあここまでは事前学習書にも書いてあったりする。早いうちからルールを叩き込まなければならないものをこの学園では扱うのだ。

 

「といっても諸君の通っていた学校と大差あるわけではない。せいぜい教員からの雑用の口実にされたり生徒会があったり図書委員があったりする。が、クラス代表だけは別だ。この学園の行事の多くにISが関わる以上、読んで字の如くクラスの代表はそういった行事も責任をもって関わることになるだろう。説明は以上だ。自薦他薦は問わん」

 

 当然始まるのは推薦の皮を被ったの責任のなすりつけだ。このクラスには女尊男卑の思想が薄い女子を集めている。のだが、結局のところ多数決とか推薦するのは自分だけではないというそんな無自覚な見下しがあった。

 

「私は織斑くんを推薦します」

「私も織斑くんに」

「そうそう男子が代表のほうがクラス目立つし」

「カースドランカーくんは? さっきの暗記すごかったし」

「カースドランカーくんに私も一票」

 

 若干名バケツ野郎を推薦する理由を見ていない人物もこの教室にいたりするのだが織斑は自分に押し付けられようとしている責任に驚いて立ち上げってしまってそれどころではなかったし、他は放任のようだった。アッシュ当人は紙の束と胃液の入ったバケツを抱えてそれどころではなさそうだ。楽になったんじゃなかったのか。

 

ばぁん!!

 

 とそこで両手を机に叩きつけながら立ち上がる女子がいた。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

 誇りと信念を持って拒絶の声を上げていた。こんなことあってはならないとそのまま続ける。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! (わたくし)に、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!? 実力から行けば(わたくし)がクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! (わたくし)はこのような島国までIS技術の修練に来たのであって、サーカスをする気は毛頭ございません!」

 

 教室の殆どの生徒がイラッとした。それもそのはずこのクラスは女尊男卑が薄い女子を集めるだけでなくその中でも日本人の生徒を出来る限り集めてあった。理由は簡単だ。織斑一夏への配慮と護衛がしやすいようにである。クラス内で過激派の襲撃が発生しては流石にどうしようもない。

 まあ一夏にしてみれば自分が被りそうになったクラス代表の重荷を実力のある生徒が買って出るなら「ラッキー、もっと言え」と思っていたのだが空気が変わってきている。プライドと傲慢の区別の付いてない発言にクラス中から悪意を向けられ始めているこの状況でクラス代表になろうというのだからいい度胸だ。誰も彼女を自分達の顔とは認めないだろう。

 

「大体文化的に我がイギリスより下のこの国で──」

 

この一言でついに一夏が動いてしまった。

 

「お前の国の文化ってなんだ! メシマズランキング世界ランカー返上してから言えよ!」

 

「なんですって!! あなた(わたくし)の祖国を馬鹿にしますの!?」

 

「先に国を言い出したのはそっちだろうが!!」

 

「決闘ですわ!!」

 

「上等だ!!!」

 

 とあれよあれよと話が進んでゆく。素人VS代表候補生がIS学園で誰もが納得する手段で雌雄を決するのだという。公開私刑と何が違うのだろうか。売り言葉に買い言葉とは言えひどい展開だ。

 

「ハンデはどうする?」

 

「早速お願いですの?」

 

 お互い顎を上げたまま見下すように睨み合っている武士の矜持とか貴族の誇りが欠片も見えない光景だ。

 

「俺がつけるんだよ女に本気出せるか」

 

「え、織斑くんそれはいいすぎだよ。今の時代男と女が戦争したらどうなると思ってるの」

 

 ちなみに答えは専用機持ち以外すべてが滅んだ世界である。女性だけでも子供は作れるから問題ないなどと女権団体は言い出すだろうがそれは設備や技術、そして研究者や医者が残った場合の話である。男女で戦闘をするなら人類の生存は度外視でいいだろう。そこまで情勢が至ってしまうならもう男女差は差別や区別という言葉では言い表せない段階だろう。そうなれば台頭するのは個人しか守れない空飛ぶ鎧のISと核兵器だ。そりゃあ世界が滅ぶに決まっている。

 

「そうですわ、素人は素人らしくしていなさいな。口を開くたび無知を露呈しますのね。所詮男などこんなものですわ」

 

「そこまでいうならハンデはいい」

 

「あらよろしいのですよ? 強がらなくても」

 

「男が一度口にしたこと覆せるか!!」

 

 そしてここでさんざんほったらかされたバケツに言及し始める。

 

「ところであなたも推薦を受けているのに何を知らん顔していますの? カースドランカー!!」

 

 瞬間、クラス中がSHRのワンシーンを思い出した。

 彼が座っている席から濃密な感情が膨れ上がった。先程までクラス中がセシリアに向けていたイラッとしたあの感情を煮詰めたような比較にならない何かがクラス中にバラ撒かれた。

 

「失望した」『黙れ』

 

 クラス中の誰もがそれを初めて目にした。

 

 彼は笑顔を浮かべていなかった。

 

「諸君、悪いことは言わない。今日中に退学届けを提出して故郷に帰るがいい。言い争った二人に言っているのではない。このクラス全員に言っている」

 




熱血系オリ主の場合

「あんな言い方許せねえ!! 一夏一緒にあいつに目にもの見せてやろうぜ!!」

軟弱じゃない男を見せちゃってヒロインレースに参戦する模様

やれやれ系の場合

「え、なんで巻き込まれてるんだよ迷惑なんだよお前らだけでやれよ」

なお千冬さんに逆らえず出場する模様

うちのバケツ野郎の場合

全くの第三勢力と化しクラス全体をセシリアに代わって再度煽りに行く

で、うちのオリ主のチートですが暗記や動体視力観察眼などです。作中設定として訓練すればできるレベルとしておきます。

 あるジャンプ漫画を知ってる人にはもうあの本バラバラシーンの段階でこいつがどういうキャラなのかバレちゃうかもしれませんが。
 あのお方とは成り立ちは似ているようで真逆ですこいつ。
 ネセサリーですから。安心して下さい。

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