ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――通り過ぎて』 作:鍵のすけ
夏真っ盛り。
空から降り注ぐ日光量は春のそれとは段違いで、室内にいても死にそうなくらい熱い。東京程の都会でもない静岡でさえ、熱中症で倒れている人のニュースが連日流れているくらいだ。
今日も今日とてお天道様は容赦なく僕達を照らしてくれていて、街を行き交う人達は額や首筋に汗を浮かべ、中には着ている服の背中側の色の濃さが変わっている人もいる。あぁ、暑い暑いと呪詛のように人々は唱えて歩く。
そんな暑さで余裕のある人もない人も僕等を一度、もしくは二度見して通り過ぎていく。
僕は夏だからといって誰もが引いてしまうような奇抜なファッションをしているわけじゃない。僕の通っている学校の白いカッターシャツと黒のスラックスで、寧ろ背景に埋もれてしまいそうなくらい平凡な装いをしている。
そして僕の前には一人の少女が立っている。
僕の前に立っている彼女を一言で言い表すならきっと美少女がぴったりなはずだ。世界で指折りの、とまではいかないだろうけど、明るいセミロングと左耳辺りで結った三つ編み。真っ白な肌。ぱっちりと開かれた大きな瞳に、スタイルが隠れがちなセーラー服の上からでも分かる発育の良い肢体。こんな魅力的な少女を美少女と呼ばないでどんな人を美少女と言えばいいのか僕は知らないな。
そんな平凡な僕と美少女の彼女のどちらが衆目を集める原因となっているのか。それは多分火を見るよりも明らかだった。
『ママー、なんであのお兄ちゃんはすわって頭を地面にくっつけてるのー?』
『しっ、見ちゃいけません!!』
まぁ、うん。どんな平凡な容姿の人でも公共の場で土下座してれば人目を集めるよね。
夏真っ盛りの沼津駅前。僕は恥も外聞もプライドも捨てて女子高生に土下座をした。真夏のアスファルトって思った以上に暑いんだね。
「ラッキースケベを……っ、ラッキースケベを僕に体験させてください……っ!!!!」
アスファルトに擦り付けている額が焼けるようだ。一緒にアスファルトに触れている掌も痛みを超えて感覚が消えかけている。
それでもこの頭を上げないのは、簡単に下げてはいけない頭があるように、簡単に上げてはいけない頭がある事を知ってるから。そんなに大きな背中じゃないけれど、僕の背中にある僕と
僕が土下座をし始めてどれくらい経った頃だろうか、今までピクリとも動く気配もなかった彼女がようやくゴソゴソと動き始めた。ようやく僕の想いが届いたのかな? そう思って下げていた頭を上げて彼女を見る。
しかしそこには僕が期待していた笑みを浮かべた少女はいなくて、ただただ不審そうな瞳で此方をチラ見しつつ携帯を操作する少女しかいなかった。
それにしてもこの子の手の動き、見覚えがあるなぁ……。通話ボタンの位置が初期位置のままなら、今の動きは確か『1』『1』『0』『通話開始』だったはず――
「……あ、もしもし警察ですか? 実は今不審者が――」
「いるように見えたんですけど、すいません生き別れの他人の見間違いでした。では失礼しますね」
「え!? あ、ちょっと!!」
彼女が要件の全てを話し終える前に携帯を奪い、大人な対応をして通話を終了させる。取り敢えずこれで国家権力との正面衝突は免れたかな。あの手の人間をまくのは少々骨が折れるから苦手なんだよね……。
ふぅと軽く息をついて額に滲んでいた汗をぬぐう。
「いきなり通報だなんて酷いじゃないか」
「一般市民としては何らおかしくない対応だと思いますけど!?」
ぐうの音も出ないとはこの事か。
まぁ、普通はいきなり土下座されて「ラッキースケベを体験させてください」なんて言われれば不審者扱いするよね。冷静に考えれば通報待ったなしのセリフだったよ。
「いやー、ごめんごめん。ちょっと物の頼み方がおかしかったね」
「頼みの内容の方がおかしいと思うんですけど……。後、携帯返してくれませんか?」
「あ、そうだった。ごめんねいきなり取って」
彼女の携帯を差し出すと、軽くひったくるように僕の手からそれは奪われていった。うーん、これはかなり警戒されてるんじゃないかな。
そして彼女は僕の手から携帯をとった自然な流れで、再び画面を操作し始めた。あの動きは見覚えがあるなぁ……。ほら、あれだよ、『1』『1』『0』『通話開始』。
「もしもし警察――」
「ですが、こちらは善良な一般市民です。以上現場からでしたー」
「…………なんで邪魔するんですか?」
「まずはお話だけでもと思いましてですね」
だから通報されるのはちょっと都合が悪い。僕等の思想と彼等はあまりにも対極の位置にいるのだから……。
再び拝借した携帯を差し出す。彼女はジトッとした眼で僕を暫く睨んできたけど、これ以上通報しようと企んでも意味がない事を悟ったのか、大きなため息を吐いて渋々といった感じで頷いてくれた。
「分かりました。話を聞かせてください」
「ありがとうございます。取り敢えず立ち話もなんですから、何処か喫茶店でも入りましょう」
「……新手のナンパ?」
「違いますよ!?」
そう思われるのはまったくを持って心外と言わざるをえない。僕は軽薄なあの連中よりも遥かに崇高なラッキースケベを体験したいという信念を持っているのだから、一緒にされるのは不本意だ。
そう思いつつ、駅近くの明るい雰囲気の喫茶店に入ってコーヒーとオレンジジュースを注文する。ただ、ここは僕の奢りだからと言ったとたん彼女はミカンパフェとオレンジパイを注文しやがりました。ちょっと遠慮なさすぎじゃないですか? 僕の財布には野口さんが二人しか住んでいないというのに……。
ただ、それだけで僕等の夢を叶える機会が訪れるというのなら喜んで野口さんを生贄にしよう。
そんな覚悟と同時にどう話を切りだしたものかと考える。すると、意外にも向こうから切り出してくれた。
「私は浦の星女学院二年生の高海千歌。貴方は?」
「僕? 僕は一応こういう者だけど、好きなように呼んでくれて構わないよ」
「あ、同い年なんだ…………って、この学生証が偽物じゃなかったら結構遠くの学校なんじゃ」
「そうだよ。ここから五駅くらい先の所に住んでるんだ」
「何が君をそこまで駆り立てるの……?」
「ははっ。いやまぁ、お恥ずかしながら性欲と煩悩ですね」
「うわぁ……」
あ、僕この眼見たことあるよ。確かあれは中学生の頃、男女混合のプールの授業ではしゃぐ男子を見る女子が同じ眼をしてた。あの時僕の親友はその眼をなんて表現してたっけ? 確か……捕まった性犯罪者を見る眼だっけ。
このままでは僕が性犯罪者予備軍扱いされてしまうだろう。ここは一つ高海さんの認識を改めないと!
「高海さん、一つ弁解してもよろしいでしょうか?」
「……なに?」
「確かに僕は今性欲と煩悩を原動力に動いています」
「できれば聞き間違いであって欲しかったなぁとは思います」
「だけど僕は混じりっ気のない純粋な気持ちでラッキースケベを望んでるんだ!!」
「それ何に対する弁解なの!?」
「いや、不純な気持からではない事を伝えねばと思って……」
「性欲自体が不純だと思うんだけど!?」
これが見解の相違って奴かな。100%性欲で固められた気持ちは純粋って呼べると思うんだけどなぁ。ま、高海さんは女の子なんだし、こういう事に抵抗があるのはしょうがないか。
「ま、まぁ君の動機は分かったからもう聞かないけど、そろそろ聞いてもいいかな?」
「スリーサイズは上から78、58、82だよ」
「絶対嘘でしょ!! というか私が聞きたいのはそういう事じゃなくて、どうして、その、ラッキースケベを体験したいのかって事!!」
「あぁ、そっちか」
「何でさっきの流れでスリーサイズの話だと思ったのか逆に知りたいよ……」
ノリでそう思っただけだとは言うまい。
だけど理由かぁ。答え方によっては高海さんが協力してくれるわけだし、いったいどう言ったものか……。
「正直に話すべきか、それとも少し話を脚色するべきか……。少し脚色して同情を誘う?」
「おーい、考えが全部口から出てるよー」
「なんと」
くっ、これじゃあ同情を煽ってラキスケを体験しようin沼津が出来ないじゃないか……!! 自分で言うのもなんだけど、正直に話すと呆れられてgood-byeってなるのが目に見えてるからなぁ。
うーんと少し悩んで、僕は結局正直に話す事にした。よく考えたら簡単に作り話が出来るほど頭がよくなかったし。
「僕ね、幼稚園の頃からラッキースケベを体験することが夢だったんだ……」
「性への目覚め早すぎじゃない!?」
「それから12年。高校でようやく同じ夢を持つ同志たちと出会ったんだ」
「だいぶ危ない考えの人たちが集まっちゃったんだ……」
「で、昨日位に待ってるだけじゃ
「何か君、すっごく残念だね……」
何故だろう。僕はその言葉を否定することができないや。
だけどまぁ、一応包み隠さず理由を話したわけで、後は僕を残念といった高海さんがどう動くか何だけど……。
じっとお冷と固唾を飲みながら高海さんを見る。どうでもいいけど、コーヒー来るの遅くない?
「うーん……。やっぱり私は――」
「お願いします何でもしますからせめて協力だけでもしてください!!!!」
「土下座に迷いがない!?」
「お願い、します、うぅ。後生ですがらぁ……」
「う、うわぁ……」
どうも瞬間土下座に啜り泣きを付けたのはやり過ぎだったみたいだ。高海さんが物理的に引いてしまったよ。具体的には僕との間に人一人分のスペース空けられた。
だけど僕はそんな事お構いなしに土下座with啜り泣きを続けた。背中に高海さんだけではない、店内にいる人の奇怪なものを見る視線を一身に受けつつも彼女にお願いし続ける。
これくらいで夢が叶うっていうのなら、僕のプライドや尊厳位安いものだ……っ!!
「お願いします!!」
「えっと、そう言われても……」
「僕は12年待ち続けた!! 12年想い続けたんだ!! 大きな胸の子のを偶然揉んでしまったり、曲がり角でぶつかって物理法則を無視した転び方でスカートの中に顔を突っ込んでしまったりを何度も願い続けて来た!!」
「で、できれば具体的な例は出さないで欲しいかなぁ……」
「少年法が適応外になる前に、僕は夢を叶えたい!!」
「そこまで心配するなら諦めようよ!?」
おかしいな。こんな風に熱血主人公風に言えばきゅんときて協力してくれるって親友が言ってたのに……。もしかして騙された? いやいや、そんなはずないよね。きっと高海さんもきゅんと来てるはず――
「…………」
どうしようもなく冷めた眼で僕を見ておられた。うん、これは騙されたな。それかただしイケメンに限るって注意書きが付く奴だ、これ。
その事に気付いて僕はがっくりと肩を落とす。今回も駄目なのか……。こうなったら次は県外で挑戦しようかな。
沼津での活動を諦めようかとしたした時、僕の耳に聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「……どうしても、私に協力して欲しいの?」
「え? うん、まぁ、協力してもらえたらなぁとは思うけど……」
「君は本気でその夢を叶えたいと思ってるの?」
「勿論」
「そっか……」
それだけ聞くと高海さんは腕組みをしてうーんと考え出す。何を考えているのかと上体を起こして正座で待っていると、よしといってニカッと笑った。
「私、君の夢を叶えるのに協力するよ!」
「…………へ?」
思わず上擦った声が出てしまった。
だけどそれだけ彼女の放った言葉が予想外で、僕の頭のスペックではすぐに処理できる事ではなかった。
茫然と彼女を見ていると、彼女も僕の反応が予想外だったのかきょとんとした表情で此方を見る。
「え? ホントに? ホントに協力してくれるの?」
「一応、そう言ってるんだけど……」
「正気?」
「それ君が言っちゃうんだ……」
僕はいつだって正気だよ。
「もう。協力して欲しくないの?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど、今までの経験上断れると思ってたから……」
「まぁあの理由じゃ断れるのもしょうがないよ……」
「じゃあなんで高海さんは協力してくれるの?
「ちーがーうー!!」
腕を上下に振って全力で否定する高海さん。そこまで全力否定されると少しだけ寂しい気がしなくもないけれど、若干不自然に上下するセーラー服が素晴らしいので良しとしよう。
いつまでもちらちらと見える白いインナーを眺めていたいとは思うけど、今は話を進める事を優先しよう。もの凄く、惜しい、けど……!!
「じゃあ、なんで協力して、くれるのっ?」
「私は何でそんなに悔しそうな顔して聞きたいんだけど……」
とても悲しい事があったからだよ。
高海さんはオホンと少し演技がかった咳払いをすると、
「本気の夢なら私は応援したいんだよ! 私が、私達がそうしてきてもらったように!」
そう言って彼女は僕に笑いかけてくれた。今までの人とは違う顔を見せてくれた。なんて単純なんだろうか。僕はその笑顔に少しだけドキッとしてしまった。
僕は彼女を知らない。彼女の過去に何があって、誰に何をしてもらったのかは全く分からない。頼み込んでる僕が言うのもなんだけど、こんなお願いは本気の夢だとしても女子として蹴り飛ばした方がいいんじゃないかな?
「あ、でも私にエッチな事を要求するのはダメだからねっ」
「……それは残念」
でも、きっとこれが僕に与えられた最後のチャンスなんだ。倫理と共にラッキースケベは飲み込めない。だったら、少しだけ倫理と常識の壁を壊すのは当然の事だよね。
僕は差し出された彼女の手を握った。
「いやっほぉおおおおおおおおおお!! 現役女子高生の手だぁあああああああああああああ!!!」
「ちょ、て、手を握ったくらいで変な雄叫び上げないでぇえええええええええええ!!!」
この後注文した物を持って来た店員さんにこっぴどく怒られました。
時は流れて日曜日。見上げる空には雲の様な影は見られない晴天。気温はお察しの30度越え。お天道様は今日も今日とて大仕事をしてくれてるけど、正直引っ込んでいて欲しいんだけどね。
まぁ、それでも今日は――
「いいラッキースケベ日和だね」
「それ天気関係あるの!?」
「まぁ、少しだけ」
何故ならラッキースケベと言っても内容は多岐にわたるからね。例えばこの時期は薄着になりがちで、胸を揉む又は顔を突っ込むとなると冬のそれとは感触は違う(親友談)し、夕立が降ればスケブラに遭遇できる(マイベストフレンド談)かもしれない。それに風が少し強い日だったら所謂“神風”という物で短いスカートの中を拝める(竹馬の友談)可能性があって、それら全てを体験し尚且つその全員に好意を寄せられている親友に羨望と殺意が湧く!!
「あのモテ男め、同性愛者じゃなかったら血祭りに上げていた所なのに……っ!!」
「えっと、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと殺意が湧いただけだから」
「それは大丈夫な内に入らないよね!? というかさっきの会話で何で殺意が湧くの!?」
それはね、高海さん。男は時として
「高海さん、僕は不細工じゃないよね?」
「え、えと……。う、うん。凄く、一般的な、その、不細工じゃない、よ」
そう言ってくれる高海さんの目は水泳のメドレー並に多様な動きを見せながら泳いでいた。人と目を合わせるのが得意じゃないのかな? きっとそうだろう。そうじゃないと僕は泣いてしまう。
「そ、それよりも今日は何をするのか話し合おう! うん、そうしよう!!」
「……ソダネ」
高海さんの優しさがただただ胸に染みた。主に傷口に塩的な意味で。
だけどいつまでも気にしてるわけにはいかないよね。だって今の僕らの前には無限の可能性が広がっているのだから!! テンション上がってきたぁ!!
「それではT2、これより作戦概要を説明する」
「え、T2って私?」
「それ以外の何があるというのだね?」
「うわぁ……」
そ、そんな残念な人を見る眼で見なくていいじゃないか! 誰だってテンション高くなって少しだけおかしなキャラになる時あるよね? ね?
取り敢えず咳払い一つで誤魔化しておくとしよう。
「おふぉん」
「え、なに今の」
咳払い一つ、満足にできない……なんて……っ!!
「きょ、今日の目的と方法を説明するよ!!」
「今のってもしかして咳払いだったの? ねぇねぇ」
「説明するよ!!」
高海さんの純粋な瞳が心に刺さって痛いです。煽ってもらえた方がまだ心へのダメージが少ない気がするよ……。
深呼吸を三回して気持ちを切り替えよう。
「今日は、偶然(を装って)ぶつかった拍子に押し倒す、もしくは押し倒されちゃう系のラッキースケベをやってみようと思います」
「いきなり難易度高そうなものきたなぁ……」
「いや、そんな事は無い。要はぶつかって、その際発生する反動をこらえて相手側に倒れこむか、ぶつかった瞬間に相手の倒れる方向を予測、先回りして此方が倒れればいいんだからそこまで難しいものじゃないよ」
「さらっと言ってるけど、それかなり難しい事だからね!?」
「大丈夫。今日の日の為に伊達に身体を鍛えてないから」
半袖を少し捲って力こぶを作って見せる。ここで高海さんから感嘆の声が聞こえると思ったけれど、自慢げにそれを見せる僕の耳に聞こえてきたのは呆れかえった高海さんの声だった。
「その努力をもっと別の所に向けてたらもっとモテモテだったと思うのに……」
「言われた!! 僕が18年間生きてきて一番後悔してる事を言われたぁー!!」
「膝から崩れ落ちるほど後悔してるの!?」
そうだよ! もっと別の事をやってれば見知らぬ女子高生に頭を下げてこんなことしたりしなかったのに!! 今頃彼女ができてデートや【自主規制】したりできたはず!! もしくは【検閲削除】とか【ピー】しながら【ズキューン】だって……!!
「生まれ変わるならもうちょっと賢い人に生まれたい……っ!」
「そこの願望は小さいんだ……」
「と、兎に角今日はこれをやるの!! やるったらやるの!!」
「……何か君を見てると一年前の私を見てるみたいで心が痛いよ」
高海さんも一年前はこんな感じだったのか。目の前の高海さんからは結構大人びた感じがするからあまり想像できないなぁ。
「それをやるのはいいんだけど、私は何をすればいいの? 正直それって一人でできるような……」
「いやいや高海さん、これは協力してくれる人がいる方が成功率は上がる(かもしれない)んだよ」
「何で?」
「高海さんにはターゲットを引き留めておく役目を与えます」
「あー……。何となく理解できたからもう説明はいいよ」
「理解が早くて助かるよ」
要はこういう事。高海さんがターゲットに話しかけて暫くその足を止めさせる。その背後、もしくは正面から僕が走ってぶつかる。そして発生するラッキースケベ!! 完璧な作戦過ぎて自分が恐ろしい……。
「失敗しそうな予感しかしないんだけどなぁ……」
「高海さん、何か言った?」
「ううん、何も言ってないよ?」
何も言ってなかったっていう事は無いんだろうけど、小声だったから聞こえなかったなぁ。まぁ前向きなというか明るい高海さんの事だ、僕の作戦に成功の光を見出したのだろう。
それじゃあさっそくターゲットを選別するとしよう。僕の好みを言えば下半身、特に太ももあたりの肉付きがいい女子が良いんだけど、押し倒しで下半身に接触できる可能性は結構低い。だから今回は胸部装甲に期待できそうな女子、もしくは女子でいこう。
「さて、最初の獲物はーっと……」
「君さ、ちょっと言い方変えないと本当に危ない人みたいだよ?」
そんな事いちいち気にしてたらきっと僕はラッキースケベなんてできないと思うんだ。というか獲物という表現が一番ぴったりくるからしょうがないよね。
高海さんの忠告を右から左しつつ、駅周辺の女性を観察する。あのショートカットの子は結構素晴らしい胸部をしてるけど、友達と一緒かぁ……。あっちのOLさんは魅力的だけどいざそういう事になった後凄い怖そう。その近くを歩いてる子はハイレベル胸部をしてるし、ぽやーっとしてそうだから怖そうではないけど、何かぶつかった時に怪我しそうで除外かなぁ。……くぅっ!!
「安全そうな女性が見当たらない……!?」
「普通はそうなんだけどね。というか、逆にそういう人がいっぱいいたら怖いよ」
「此方としては天国なんだけど」
「一般人としては怖いの!!」
そんなものなのかなぁ? まぁ結局はそんな天国が目の前にはないから絶望するしかないんだけど。いったいどこに桃源郷はあるのかな……。
恐らく巡り合う事の無い桃源郷を思い浮かべながらターゲットのサーチを再開する。例え天国じゃなくても一人二人はそんな感じの人がいるはずっ!!
そう思いながら視線を巡らせる。そして僕の視線は一点で動きを止めた。
「高海さん、最初はあの子にしよう」
「あの子ってどの子?」
「ほら、あそこ。駅のホーム近くを歩いてる黒髪ロングの眼鏡の子だよ」
「黒髪ロングの子……?」
高海さんは僕の指さした方向を凝視しながら頭に疑問符を浮かべていた。あれ? もしかして見えてないのかな?
「ほらあそこだよあそこ。今立ち止まってスマホ確認してる子」
「確かに髪長くてメガネかけてるけど……どっちかっていうとあの子は茶髪だと思うよ?」
「え? ……あ、あぁ確かに。僕は目が悪いからよく見えなかったよ」
まぁ確かにわかりにくいよね、と高海さんはコロコロと笑う。僕もそれに合わせて軽く笑って、ターゲットの女子を見直す。
長く綺麗に日光を反射してる髪と、清楚系の顔立ち。そしてきっちり着こなして膝丈くらいのスカートと相まってまるでどこかの令嬢のように見える。スレンダーな体型だけれども、何とか頭を打たせないように細心の注意を払えば……いける!!
「高海さん、なごやかなトークで場を繋ぐのお願いできる?」
「一応やるにはやるけど……怪我だけはさせないでね?」
「勿論そのつもりだよ」
よろしくねと一声かけて僕は彼女から少し離れた位置に移動して、軽く足の筋を伸ばすストレッチをする。
さぁ、夢への第一歩と行きますか!!
「なんて……なんて僕は無力なんだ……っ!!」
「あ、あはははは……」
夏の日の昼下がりの駅前、其処には夢破れた少年ともはやどんな反応をすればいいのかわからず苦笑している少女の姿があった。というか、僕と高海さんなんだけどね。
何でこうなっているのかは単純明快。普通に彼女とぶつかる前に全速力で悲鳴を上げながら逃げられたから。しかもそれから何回かトライしてみるけど、全部似たような反応をして逃げて行ったし……。うーん、心が痛い。
「……高海さん」
「何?」
「どうして、逃げられたのかな……?」
「普通に顔が怖かったからじゃないかな」
「ガッデムッ!!」
僕の顔が怖かった? 馬鹿な。親友曰く人畜無害とまではいかないけどパッと見無害そうだよなってとされた僕の顔が怖い? そんな事あるはずない!!
「これが証拠写真だよ」
高海さんが携帯の画面を僕に向かって見せる。その画面にはまさに変質者と言っても過言ではない形相の、しかもとても綺麗なフォームで走る男性が映っていた。
はて、何処かで見たことあるような顔なんだけど……気のせいかな?
「高海さん、人の趣味に口出すのは気が引けるんだけど……この人が好きなら諦めたほうがいいよ。この顔は完全に変質者のそれだし」
「私の好きな人の写真じゃないよ!! というか、これはさっきまでの君の顔だから!!」
「嘘だ! 僕はこんな変質者じみた顔をしてないよ!!」
「因みに動画もあるけど……」
そういって高海さんはすっと画面を細い指で撫で、一つの動画を再生し始めた。
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! ラキスケぇえええええええええ!!! いっっっぱぁああああああああああああああああああああああっっつ!!!!!』
これまたどこかで聞いた事があるような声で叫びながら、さっきの写真の男が走ってきている姿が映し出されていた。
ふむ、こんな事を叫びながら走りよるなんて随分レベルの高い変態のようだ。
「言い逃れはできないレベルで君だと思うけど」
「……はい。確かにこの度し難い変態は僕です」
本当は写真を見せられた時点で分かってたんだ。光の加減で少し分かりにくかったけど、毎朝鏡で見てる顔の特徴位はすぐに分かるから……。それでも認めたくはなかった。だって、これが僕だって言うのなら、これから何をしようと失敗率滅茶苦茶高い事になるし……。
僕は……僕はね!!
「ただ……ただラッキースケベを体験したかっただけなんだ! 誰かを傷つけるつもりなんてないのに! なのに、こんな事ってないよ……っ」
「そう思うならもう少し自分の気持ちを抑える練習をした方がいいと思うよ?」
「仰る通りでございます」
どうやら自分の欲望に少しだけ忠実なのが今回の失敗の原因のようだし、何とか改善しないと夢の入り口でずっと足踏みする羽目になりそうだ。勿論僕はそんなのは嫌だ。
だけど、それを今日気付く事が出来たのはある意味運が良かったのかもしれない。僕だって超が付くほどの馬鹿じゃないから、初回で上手くいかないだろうという事は分かっていた。だからその初回で、今後の活動において大きな枷となる欠点を見つけられたのは不幸中の幸いだ。
後はこれをどう克服するかだけど…………あそこしかないよね。
「高海さん、今日の活動はこれで終わりにしていいかな?」
「え? うん、大丈夫だよ」
「それじゃあ僕は今から寺に行って修行してくるから、また来週の日曜日同じ場所に集合でいいかな?」
「うん、いいよ――って、お寺!?」
「じゃあまた来週ね! アディオス!!」
「まって何でお寺に修行って話になったの――!!??」
高海さんが何か言っているけど、今は一分一秒が惜しいから悪いけど無視させてもらおう。寺で修行と言っても、一朝一夕で己の欲望を抑制する力をつけられるわけじゃないからね。ここは“すといっく”って奴にならないと!
さて、それじゃあ全力疾走で向かうとしよう。己を鍛えるために!!
「美少女がいると噂のお寺にレッツゴー!!!」
本末転倒。その言葉が何故か頭をよぎったけれど今は気にしない事にしよう。
そしてそれから一週間。お寺での厳しい修行を終えた日曜日に僕等はまた沼津駅前に集合していた。
「さて、早速だけど活動開始しよっか」
「その前に一つ聞いていいかな?」
「何を? あ、ちゃんと欲望を表に出さない修行は積んできたよ」
「じゃあ今にも私の胸を掴もうとして変な動きして近づいてくる両手は何!?」
そう言われてふと自分の手を見てみると、確かに彼女の胸を揉みしだかんばかりに高速で関節を伸ばしたり曲げたりしていた。僕の手と彼女の胸までの間は残り握り拳一つ分。ちょっと誰かに後ろから押されたら完全に触ってしまう距離。
……さて、何から言えば良いのかな。
「一つだけ言い訳させてください」
「どうぞ」
「僕は太ももの方が好みです」
「それは何に対する言い訳なの!? というかまずこの手を引っ込めようよ!!」
高海さんが僕の性癖を勘違いしてると思ったので、まずそこを正そうと思って。決して僕が修行先のお寺に住んでる子が美少女で巨乳だったから胸派に鞍替えしたわけじゃないよ? 心は揺らいだけど鞍替えはしてないよ?
でも僕の手が勝手に高海さんの胸に伸びていったのは、やっぱり今日の高海さんの格好が原因だと思う。
先週まではノースリーブのシャツに膝上5センチくらいの高海さんの程よい肉付きで魅力的な太ももをちょうど覆い隠してしまっていた大人しめな服装だったのに対して、今日は体のラインが分かるようなTシャツに、彼女の柔らかそうな太ももの半分くらいの丈のホットパンツという健全な男子高校生にはちょっと刺激の強い格好をしていた。
こんな恰好を見てしまうと、つい彼女の割と発育の良い胸に手が言ってしまうのはしょうがない事だと思う。あと顔にかけられている今日の格好に不釣り合いなサングラスをしていて非常に気になる。
「今日は随分と薄着というか、僕の性癖を刺激するような服なんだね」
「うぇ!? え、えと、これは私が選んだ奴じゃなくて――って、最後の情報は聞きたくなかったよっ!!」
顔を赤くしてわたわたと言い訳をする高海さん。曰く、本当はもっと大人しい感じの服装で来るつもりだったけど、家を出る時にお姉さんに僕(男)と会う事がばれてデートだと勘違いした姉に無理矢理着せ替えられたとの事だ。で、流石に恥ずかしいからサングラスで軽く変装をしてきたという事らしい。デートではないし実の妹に何してるんだろうってツッコみを入れたいけど、取り敢えずお姉さんに一言。
「グッジョブです、見知らぬお姉さん……っ」
取り敢えず今日はもうこのまま帰っても後悔しないくらい満足してます。もし会う機会があればぜひ心からのお礼を言いたい。
と、ここで高海さんが口をへの字にして此方を見ている事に気付いた。サングラスのせいで表情が読み取り辛いけど、多分睨んでるだろうね。
「…………」
「えっと……ごめんなさい」
「もう。本当にエッチなんだから……」
今の“エッチ”の言い方に少しだけグッと来たことは黙っておこう。
「さてと、それじゃあ今日何するか説明するね」
「あまり過激なのはダメだよっ」
「大丈夫大丈夫。今回は偶然を装って胸を揉むだけだから」
「凄い過激だよ!?」
確かに前回に比べると少しだけ過激な気がしなくもないけど、ラッキースケベの定番だからまだセーフのラインじゃないかな? 親友も週2くらいはそんな感じの事が起きるって言ってたし大丈夫なんだろうけど段々と羨望が憎しみに変わりつつあるよ。
「作戦は成功者である親友の体験をもとにして考えたけど、やっぱり一番安全かつ怪我無くできそうなのは友人と会った時に軽く手を上げた際に触れる。もしくは転んで手を差し伸べてもらった時に目測誤って揉んでしまうという二択が良いと思うんだ」
「その二択だと一つ目の方が自然な感じだと思うけど……。うーん、でもなぁー……」
「どうかしたの?」
「これって結構通りが狭い所でやらないと逆に不自然に見えるかなぁって」
「そう言われるとそんな気がする」
沼津駅前は結構人が集まる所ではあるけれど、通りが広くて開放的だから、殆ど人と人が至近距離ですれ違うという事は無いっけ。今までシチュエーションとかを重視して考えてたからそこまで考えが至ってなかったよ。
「となると今日は商店街方面に行った方が良さそうなのかな?」
「そうだね。多分そこなら通りが狭いからあまり不自然に見えないかも」
そうと決まればさっそく商店街に移動して夢を実現するための活動。略してユメカツ! をするとしよう。
夢への第2歩目。張り切って踏み出していこうか!!
「…………」
『ママー。何であのお兄ちゃんは地面に寝転がってるのー?』
『あれはね、夢破れた男の姿なの。今はそっとしといてあげましょう』
僕は無力だ。自分で言った事すら満足にできないなんて、弱者と呼ばないで何と呼べばいいんだろう。ゴミ?
「僕にもっと力があれば……森羅万象、円環の理、因果律全てを覆せる力さえあれば……っ!!」
「…………」
「――――二か月も失敗し続ける事はなかったのに!!!」
2歩どころか10歩くらいしてるのに、僕はただの1度もラキスケを体験するどころか高海さん以外の女性に触れていなかった。
気候もがらりと変わったというわけじゃないけど、焼き殺すような日差しはそのなりを徐々に潜めていって、気持ちの良い初秋の風が吹いている。
「もう、善子ちゃんみたいな事言ってないで取り敢えず立とうよ。一応神社の中なんだから」
「此処に住まう神を殺せば僕にもラッキースケベを体験するチャンスが……」
「来ないと思うけどなぁ……」
形の良い眉をハの時にして笑う高海さん。やってみなくちゃ分からないよといつもなら反論していたんだろうけど、今の僕にはそんな心の余裕は微塵もなかった。
あれから二か月。僕等は何度も挑戦した。
だけど結果は燦燦たるもので、倒れても手を差し伸べてくれる人は居ないし、曲がり角でぶつかり待ちをしていたら国家権力に追われる。転んでも女性の足の間に顔はツッコまずに、植木に顔を突っ込む始末。傍から見れば僕は奇妙に映ってたんだろうね……。
僕がしくしくと地面を涙で濡らしていると、遠慮がちに高海さんが言った。
「……私思ったんだけどさ。狙ってやってる時点で“ラッキー”スケベじゃないよね」
「…………ひぐっ」
「え!? 何で泣いてるの!? 私何か酷い事言った!?」
高海さんは悪くないんだ。ただ酷く残酷な現実を目の前にしたら涙があふれて来ただけだから……。
そうさ、今の僕は純粋にラッキースケベを追い求める純情な少年じゃない。ただ女性の肉体をいかに事故的に穏便に堪能できるかを追い求めるクズになったんだ。こんなんじゃ運に見放されてもしょうがない、か……。
「いっそ僕を豚箱に放り込んでくれ……」
「そこまで絶望する必要ないんじゃないかなぁ」
高海さんは僕の隣にストンと腰を下ろして頭を撫でてくれた。僕の今までを労うような励ましてくれるようなその優しい手つきが無性に心地いい。
「君のやろうとしたことは褒められることじゃないと思う。だけど、私は君は凄いなって思うよ」
「……何で? 普通は軽蔑するところじゃない?」
「だってどんなに転んでも失敗しても夢を追い続けられるって凄い事だもん。どんな夢だったとしても、私はそんな君を軽蔑したりなんかはしないよっ」
「高海さん……」
その割には結構冷たい視線を向けてた気がするのは気のせいでしょうか?
けどまぁそう言ってもらえるのはやっぱり嬉しいかな。こうして夢をひたすら追う姿勢をストレートに褒められるとちょっと照れくさいけど。
「ねぇ高海さん。どうして高海さんは僕に協力してくれるの?」
ふと思った疑問、じゃない。高海さんが協力してくれると言ってくれて今までずっと聞いてみたかった事。高海さんは自分が夢を応援してもらったからって言ってたけど、正直それだけでここまでやるのかなって思ったりはしてる。
しかし高海さんは僕のそんな疑問に、何か可笑しな所でもあるかのように、さも当然のように
笑って答えるのだった。
「私が助けれられたことがあるからだよ」
「助けた? 僕はそんな記憶ないけど……」
「えっと、確かに私も直接助けてもらったわけじゃないんだけどね。ほら、スクールアイドルって知らない?」
「スクールアイドル? あの妙に性欲を掻き立てる人達?」
「君は一体どんな目で私達を見てたの!?」
CDやポスターなどでスカートと脚の境界線を食い入るように見てました。
だけど僕だってスクールアイドルを知らないというわけじゃない。学校の宣伝を主な目的とした学内で結成されるアイドルグループで、数年前に一世を風靡したμ’s以降その数が激増しているという事は知っている。最近では個々の近所の浦の星女学院のスクールアイドルが目覚ましい活躍をしたとかなんとか……。
………………あれ? 浦の星女学院?
「そういえば高海さんと最初に出会った時は浦の星女学院の制服を着てた気が……。それに今私達って……」
「あー、何となく分かってたけどやっぱり知られてなかったんだ……」
「という事は高海さんってもしかして――」
「うん。私は浦の星女学院の元スクールアイドル。Aqoursの高海千歌だよ!」
高らかに僕にそう告げて、白い光の中、彼女は天真爛漫な子供みたいに笑った。多分、そうだ。声の明るさから僕はそう感じた。
そして、ようやく彼女の言っていた“助けられた”という言葉の意味が理解できた。
「私達がまだ始めたばかりの時も、少しずつ人気になってきた時も、私達はこの町の人達皆に夢を支えてもらったの。だから、今度は私が誰かの夢を支えてあげたいの!!」
「それがエッチな夢でも?」
「そ、それには限度があるけど……。でも、君は本気だったから。君が本気だったから、かな」
「…………高海さんから僕の親友の面影を感じる」
「それってどういう事!?」
思わずときめいてしまいそうだったって事。そうか、親友もこんな手口で数多の女子を落してきたのか……。
「とにかく、私はこれからも協力するから、次の作戦でも考えようよ!」
「高海さん……。そうだね、活動開始からたった二ヶ月。諦めるにはまだ早いよね!!」
「そうだよ! まだ諦めるには早いんだから!!」
高海さんと士気を高めて笑いあう。彼女だって色んな挫折とかを繰り返して夢を掴みとったはずなんだ。僕が……男がこれくらいで諦めるわけにはいかないよね!!
「そういえば君はパンチラとかは興味無いの?」
「え?」
だけど、そんな無防備になっていた所に思わぬ所からボディーブローを食らってしまった。
表情、動き、瞬き。その全てが今の僕は停止しているみたいな錯覚がする。もしかしたら錯覚じゃないのかもしれないけど、そんな気がした。
「ど、どうしたの? 何か変な事言っちゃった?」
そんな僕を不審に思った高海さんが心配そうな声を出す。ただそれだけしか分からない。
真っ黒に染まった高海さんの顔からは、何の表情も読み取る事が出来なかった。
「い、いや。そいうことは無いんだけど。寧ろ僕はパンチラ大好きというか……」
「じゃあ次はそれ狙いで行けばいいんじゃないかな? これなら運が絡むから本当に“ラッキー”になるし」
「それは、そう、なんだけど……」
そうなんだけど。本当は僕だって胸を揉んだり脚の間に顔を突っ込ませるような高度なラッキースケベより、パンチラみたいなソフトでちょっとした物の方がいいんだ。
でもそれは、僕には絶対に見る事の出来ない物なんだ。
中々二の句が継げない僕に高海さんは心配そうな声で大丈夫? と繰り返し聞いてくる。
…………これは言わないって訳にはいかない、よね。
「高海さん、僕はそれを見ることができないんだ」
「え、どうして? 運がないからとか?」
「ううん、違うんだ。そうじゃなくて、僕は――」
少しだけ言葉にするを躊躇ってしまうけど、これは言わなきゃいけないんだ。此処まで付き合ってくれた高海さんに負い目を感じたくないし、隠し事なんてしたくないから。
拳をキュッと握って、僕は高海さんに理由を告げた。
「――僕は、色が分からないんだ」
白と黒の世界で、高海さんがどんな顔をしたのかは見ることが叶わなかった。
昔の世界は色で溢れていた。青、赤、黄、緑……、全てが刺激的で、幼い僕はそれが当たり前だと思っていた。
その頃から全ての色が分かっていたというわけじゃなくて、ある一定の色が同一の色に見えていたから色覚異常だという事は何となく分かってた。だから着替えの際に似たような服を着ていた友達のを着てしまうっていうのもよくあったし、女子の下着を見て皆同じ色してるなぁとも思っていた。
だけどそれは僕の生活に何ら支障を与えなかったから気にしたこともなかったし、たった数色分からないだけで損した気分にはならなかった。
そんな僕の世界から色が消えていったのは小学校に上がったくらいだったかな。だんだんと見える色が少なくなってきて、白と黒が僕の視界を占めるようになってきたんだ。
進行は思ったよりも早くて、小学二年生になる頃には僕の世界は白と黒、そして灰色で占められてた。医者の話だと“1色型色覚”って奴なんだって。
だから影とかできるとその部分は黒くって判断が付きにくいんだ。逆光とかもしかりだけど……。アイドルとかのステージって色のついた光とかバックライトでチカチカしてるでしょ? 僕はそんな中でアイドルの顔を見るっていうのは困難だから、あんまりアイドルのライブとか見ないんだ。
で、パンチラとかは逆にスカートとか物の陰になって、パンチラの代名詞たるものが一瞬じゃ判別できないの。
「――だから、僕はパンチラを見る事ができないんだ」
「…………」
近くの柵にもたれかかりながら話を聞いてくれていた高海さんは、話が終わった後も黙ったままだった。
まぁ普通はなんて言えば良いのか分からないよね。いきなり色が分からないんですって言われても反応に困るのが当たり前だね。しかも語りの締めくくりがパンチラは見れないんですだから、よけいどんな反応すればいいかわかんないよね。
「ま、僕の目の事は放っておいて、次はどんな事をするかを考えようよ。ね?」
そう話を持ちかけてみるけれど、高海さんは微動だにせず顔を地面に向けていた。
うーん……自分で話しておいてなんだけど、こうなるなんて予想外だなぁ。僕的にはそこまで真剣に考えずに、“そういう事”なんだって感じで受け止めてくれるのが一番楽なんだけど……。
どうしたものかと暫く僕も考え込んでいると、急によしと何かを決意したように高海さんが呟いた。いったい何を思いついたんだろ……。
「君!」
「は、はい!?」
「来週の活動は中止!! その代り浦の星女学院に集合!!」
「はい――って、えぇ!!??」
何を言ってるんだろうこの子は。
「う、浦の星女学院って女子高だから僕はは入れないんだけど……」
「大丈夫。私がちゃんと許可取ってくるから! だから君は来週の日曜日は浦の星女学院に来る事!!」
「どうしていきなり……」
「それは秘密だけど……というかできるかどうかも分かんないんだけど、やっぱりやってみないと分からないから!!」
そう言って高海さんは、急ぎで準備があるから今日は帰ると言い残して、境内に僕を置いて帰ってしまった。
…………一体彼女は何を企んでるんだろう? 暗殺計画……じゃないよね。僕達じゃないんだしリア充を憎んでる事も、そもそも話の流れ的にもないだろうし。
だとすれば、考えられるのは僕の色覚異常の事なんだろうけど……何をしようとしてるのか皆目見当もつかないや。
暫くうーんと頭を回転させてみたけど、それらしい答えは出てこなかった。
「ま、いっか」
取り敢えずは高海さんの言うとおり浦の星女学院に行くとしよう。そこで何が待ってるのかは分からないけど、僕にとってマイナスになる事は無いだろうしね。女子高に入れるだけで最高潮にテンションが上がるし。
こうして僕は高海さんが何をするのか少しの期待と不安。そして女子高に入れるという興奮を胸に帰路についた。
桃源郷。男子禁制の花園。この言葉だけで僕のテンションはメーターを振り切った。
「ここが女子高……。…………何か僕の学校と見た目はそんなに変わらないなぁ」
振り切ったメーターでも外観だけは変化する事はありませんでした。ギャルゲとかだと女子高って言ったら何かセレブな感じのが多かったから、若干感覚が麻痺してるのかな。
僕よりちょっと大きな正門の先には直方体を組み合わせたような校舎と木々。この時期だと紅葉やイチョウが色付き始めるごろなんだろうけど、年中黒にしか見えないからちょっと残念だな。
でも遠くから聞こえてくる男声が混じっていない女声達がそんなちっぽけな事を吹き飛ばしてくれる。あぁ、早くこの境界線を越えたい!
「高海さんまだかなぁ……。早く僕をこの理想郷へと導いてくれないかなぁ」
「そんな事言ってるとせっかくの入校許可が取り消されちゃうよ?」
「あ、高海さん。やっほー」
「まったくもう……」
ふぅと息を吐いて若干呆れた表情になる。なんか時々高海さんの僕への接し方が仕方のない弟を持つ姉みたいになってる気がするけど、僕等一応同い年だよね?
そんな疑問が脳内を過るけど、まぁ気にしない。何故なら僕は姉萌えもいけるからだ。
「はいこれ、入校許可証。目的地まで私が一緒にいるけど、念のためにずっと首から下げててね」
「もし首から下げてなかったら?」
「先生から怒られて追い出されるからね」
「成程」
「何でさっそくポケットにしまって入ってくるの!?」
「だって魅力的な女性教師から怒られるって……」
「そんなに具体的な事は言ってないし、それじゃあただの変態さんだよ!!」
だって脳内は煩悩一色だし。
でもまぁ、せっかくの高海さんの招待を無下にする訳にはいかないし、危険な男を学内に連れ込んだと知られた時に高海さんの評判が下がるのは流石に申し訳ない。今日は大人しくしたがって、後日計画でも立てるとしよう。
「あ、因みに鞠莉ちゃ――理事長が君の個人情報を握ってるから後日侵入とかはやめといた方がいいよ」
何故だろう、早速僕の目論見が看破されてしまった。顔に出てたかな? それとも日ごろの行いのせい? うーん、両方心当たりがあるから判断つかないな。というか個人情報をどうやって入手したの、理事長さんは。
高海さんの忠告に少しの悪寒を感じつつも、入校許可証を首から下げて先導する高海さんの後を歩く。ふわりと鼻腔を掠めた花の様な良い香りは高海さんのか、この学校特有の香りなのか……。
「ねぇ、高海さん」
「何?」
「ちょっと女子高探索をしてきていいかな?」
「君がおバカさんなのか、怖いもの知らずなのか分からなくなってきたよ……」
あれ? 何故か高海さんに呆れられてしまったぞ? いったいどうして……。僕はただ知的好奇心を元に知る権利を行使しようとしただけなのに……。そして、何で高海さんに“おバカ”と言われた時に反論したくなったんだろう?
色々と腑に落ちない事を頭で考えつつも、モノクロの校舎の中に入って靴をスリッパに履き替え、灰色のリノリウムの上を歩く。歩いてるん、だけど……
「ねぇ高海さん」
「探索はダメだよ?」
「それは非常に残念だけど、そうじゃなくてね」
「じゃあ何?」
「高海さんは僕をどこに連れて行くつもりなの?」
がらんとした校舎の中。僕達は結構ゆっくりなペースで校舎内をうろうろとしていた。
高海さんが何も説明をしてくれないから校内案内って訳じゃなさそうだし、しきりに携帯を確認しているのが気になる。まるで何かの合図を待っているかのようだし……何なんだろ。
僕のそんな疑問に高海さんは、含みのある笑みを浮かべて「秘密だよっ」としか答えてはくれなかった。
だけど高海さんも意地悪だなぁ。そんな言い方されると余計に気になるじゃないか。携帯を確認してるってことは誰の連絡を待ってる、もしくは時間を確認してるって考えられるよね。それでいて僕に秘密なのはサプライズ性を求めて?
ここから導き出される結論は……!!
「はっ! もしや運動部の着替えの時刻を見計らって突入する準備をしてくれてるんじゃ……!!」
女子の着替え中に遭遇するのはラッキースケベの代名詞と言っても過言じゃない。そしてそこから始まるめくるめく物語!! 素晴らしい!!
「そうじゃないから安心してね?」
希望も慈悲もなかった。
その後も僕等は、というか高海さんはうろうろと僕を連れて校舎を徘徊し続けた。いつまで続くんだろうなぁと僕が思い始めた時、ふいに高海さんの携帯が振動し始めた。そして高海さんはすぐさま携帯を確認して、にっと笑って僕の方を向いた。
「君、階段の場所は覚えてる?」
「階段? まぁ何となくは分かるけど……」
「じゃあ、この後屋上に来てね! 私先に行ってるから!」
「え、ちょ、待って――!!」
そう言って高海さんは何で? という僕の疑問には答えずつかつかと歩いて行ってしまう。
「……まぁ、取り敢えず屋上に行こう」
ぽつりと呟いて階段へと足を運ぶ。
誰もいない校舎は静寂で、少しだけ寂しそうだった。それは僕の視界に映る景色がモノクロで、古びた写真のようだからかな?
灰色のリノリウムの床も、薄い灰色の壁も、本当はもっと別の色なんだ。窓ガラスから差し込む光も世界を白く染め上げる物じゃなくて本来の色に染めるためのものなんだ。こんなモノクロの世界じゃない、あの刺激的な色の世界を作るためのもの……。
「……何か静かな校舎ってちょっとだけ変な気分にさせるなぁ」
勿論変な意味ではなく、感傷的にさせるっていうか少しだけクサいセリフを吐かせるというか……。良く分からないけどそんな気分にさせるよねってこと。
でもこんな事を思うってことは、まだ少し未練があるんだろうなぁ。あの色で溢れてる世界に……。あの日見てた色の殆どは忘れてしまったのにね。
そんな事を考えてる内に階段を上りきって、屋上へ続く扉の前にいた。
躊躇いなくその扉を開けると、一瞬僕の視界は真っ白に染まって、徐々にいつものモノクロが戻ってくる。
「……眩しっ」
日差しが弱くなったと言っても、遮蔽物の無い屋上へ降り注ぐ日差しは相変わらず眩しい。
そんな日差しから視界を守るために腕で影を作って残りの階段を上る。さて、高海さんは何をしようというんだろうね。
そんな僕が最初に見たのは、それは奇妙な箱だった。
僕の2、3倍の高さはあるのかな。横と奥行きは4倍くらいの直方体。そしてその直方体は正面だけ開けており、ステージとなっていた。特に装飾品も何もなく、質素と言えば質素なんだけど、今まで見たことないという意味では奇抜なステージだ。
………………うん、何だこれ。
不審に思いつつも、ステージに近づいていく。そして僕がステージの正面に来たところで、此処2ヶ月で聞き慣れた明るい声が聞こえてきた。
『ようこそ! 浦の星女学院スクールアイドル、Aqoursのライブへ!!』
その声と共にパッと四方にあるライトが点いて、ステージの陰から煌びやかな衣装を身に纏った高海さんと、飛び切りの美少女8人が飛び出してきた。
ただ、それ以外の情報が中々頭に入ってこない。というのも、僕自身凄く混乱してるからだ。
だって言われた通りに屋上に来たらおかしなステージがあって、高海さん達Aqours? がライブやるって言うし、あの金髪の子の胸も大きいし、あの背の小さい子はお寺で見た子だし、高海さんの隣にいる子の運動で鍛えられたであろう太ももが最高だし……。あぁ、もう!!
「
「聞きたい事より欲望が主張しちゃってるよ!?」
それは致し方ない事だと思います。だってこんな美少女が9人もそろってるんだから、健全な男子高校生は気が動転してしまうよ、普通。
そう告げると、高海さんはがっくりと肩を落としてサプライズ失敗だよぉとぼやいた。だけどね、高海さん。僕の気を動転させるという意味合いではサプライズは成功してるから安心しなよ。ただ驚くべきポイントが違っただけだから結果オーライじゃないか。
他の人達が苦笑もしくは呆れ、恐怖に軽蔑している中、僕は練習してできるようになった咳払いを一つして話を再開させる。
「それで、これは本当に何なの? さっきライブとか言ってたけど、僕はライブは――」
「うん。分かってる。だけど、私は私達のライブを君に見て欲しいの」
「どうして?」
僕のこの問いかけに、高海さんは一週間前にあの境内で答えた暗い明るい声音で、そしてとても輝いた笑顔でこう答えた。
「見てればきっとわかるよ!!」
それだけ言うと、彼女達はそれぞれの位置についてポーズをとる。
いったい何を始めるのかと首を傾げていると、センターに立っている高海さんが高らかに言った。
「それじゃあ聞いてください! 青空Jumping Heart!!」
曲が流れ始めて彼女たちが歌いだす。その瞬間、いつもの白い光で世界が包まれると思ってとっさにギュッと目を瞑ってしまう。
「…………あれ?」
だけど予想してた光は全然やってこない。恐る恐る目を開いてステージに目を向ける。
高海さん達がとても楽しそうに、笑顔で、全力で踊っていた。
そう、楽しそうに笑っている彼女たちが、輝くステージの上ではっきりと見れたんだ。
「何で? こんなに照明が使われてるし、スポットライトも使ってるのに……」
いつもだったらこんなに一杯の光が飛び交うステージだと舞台の上の人の顔が白く染まるか、そもそも視界がちらちらして見難い筈なのに、このステージではそんな事がまったくない。
流石に完全に見やすいって訳じゃないけど、高海さん達の顔が見れる位には見やすかった。
舞台の上では高海さん達が踊って歌う。
青春を、努力を、涙を、笑顔を、謳う。
身体や表情でその全てを全力で表現している。
前に親友がアイドルは総合芸術だって言ってたけど、その意味が何となく分かる気がする。
歌が、ダンスが、表情が、歌詞が、個性が全部一つにまとまって“魅力”になっている。
「これが……アイドル…………っ!!!」
胸のドキドキが収まらない。彼女達の歌をもっと聞いていたい。いつの間にか僕の頭の中はそんな事でいっぱいで、気が付くと身体がリズムを刻んでいた。
だが物事には終わりが来るように、彼女達の歌にも終わりが来てしまった。
終わった後に僕の中に残っていたのは興奮と満足感。そして感動だった。
「お疲れ様」
高海さん達のライブが終わった後、僕と制服に着替え終わった高海さんはステージの上に腰掛けて話し込んでいた。
他のメンバーの子たちは、僕と一言二言交わすとさっさと屋上から退避していった。ツインテールの事お嬢様みたいな子は僕と話す前に出て行ったけど……。僕何かしたかな?
でもまぁ、そんな事より高海さんに伝えなきゃいけない事があるよね。
「今日は僕の為にライブしてくれてありがとう。最高のステージだったよ」
「……えへへ。ありがとっ」
ありったけの感謝の気持ちと、感動を込めて高海さんにお礼を言う。それがどこまで伝わったのかは分からないけど、少し照れくさそうに笑ってくれた。
「それにしても驚いたよ。ライブなんて絶対にまともに見られないと思ってたのに、こうして見る事が出来たんだから……」
「ふっふーん。それが私が君に伝えたい事だったんだよっ」
「え? これが?」
これが高海さんの伝えたかった事……? どうしよう、さっぱり分からない……。
うーんと頭を捻って考えてみる。僕が今までまともに見れなかったライブを見れた事が伝えたかった事……。奇跡は起きるって事? でもそんなの伝えて何になるって話だし……。
「ふふっ。分からない?」
「まったく分からない」
「しょうがないなぁ。今回は特別に教えてあげる!!」
そう言って高海さんはすくっと立ち上がる。そして両腕を広げて、僕に伝えたかったメッセージを叫んだ。
「普通にやっても難しい事はね、努力と工夫でどうにかできるんだよ!!」
「努力と……工夫?」
「そう! 努力と工夫!」
高海さんが大きく頷く。
「私ね、君が光の加減や場所で見づらくなるって聞いてから思ったんだ。それって、逆にそれを何とかすれば普通に見られるんじゃないかなって」
「確かにそうなんだけど……。もしかしてこのステージにはそういう仕掛けがあるの?」
「うん! これには天井と後ろ、後は横にライトが設置してあるんだけど、どれもライトの前にしょうじみたいなスクリーンを置いてるの。これがあったら光が柔らかく全体的に広がるから、雑誌の撮影の時みたいになるかなって」
エへへと笑う高海さん。
こうしてちょっと考えて思いつきましたって感じに話してるけど、きっとこの方法を思いつくまでに色んな方法を考えてくれたんだと思う。そう考えると、高海さんへのありがとうが胸からあふれてくる。
「だから、きっと努力と工夫で君もパンチラは見れるはずなんだよ!」
「高海さん……」
感動が台無しです。
だけど、確かにその通りだ。スカートの中が陰で見えないかもしれない? 1色型色覚で世界がモノクロにしか見えない? そんなのちょうどいいハンデじゃないか!
寧ろどうにかできるくらいのハンデでスカートの中が拝めるというのなら安いものだ。
「高海さん、今日は本当に色々ありがとうね」
「ううん、夢を叶える為だもん。これくらいの力ならいくらでも貸すよ」
本当に高海さんには感謝しかない。あの時、高海さんに声を掛けてよかったと本当に思うよ。
その思いを伝えるべく、僕は一度ステージを降りて高海さんに深く頭を下げる。そして顔を上げた時に、サァッと少し強い秋風が吹いた。
そう、僕が高海さんより少し低い位置にいて、高海さんが明るくて四方からの光で影が出来にくい設計で作られたステージの上にいる時に、だ。
「「……………………ぁ」」
ふわりと風になびいて舞い上がるスカート。
ステージ衣装だったらスカートが重くてあまり持ち上がらなかっただろうけど、今の高海さんは制服に着替えている。で、そのスカートの丈は結構短く、軽い。
まぁ、つまりどいう事かというと、僕の前にはユメが映っているという事ですよ。
舞い上がったスカートの中は白黒だったけど、それでもそれは長年僕が追い求めてきたユメだった。
「――――~~~~~っっっ!!!???」
あまりにも突然すぎて呆然としていた高海さんの意識が回復して、急いでスカートを押さえにかかるけど、時すでに遅し。僕の目と脳内にはしっかりとユメが刻み込まれていた。
「…………ぅぅ~!!」
恐らく顔を赤くしながら唸りながら僕を睨みつける高海さん。やっぱりこのラッキースケベは、その表情も込みでそそると思うんですよ。
……まぁ、不慮の事故とはいえ恩人に申し訳なさがないわけじゃない。一応一言くらい言っておくとしよう。
「……高海さん」
「…………何?」
「ありがとう」
「――――っ!!!」
秋空に響く乾いた音。それは僕が夢を叶えた音だった。
どうも、今回もこの鍵のすけさん主催の企画に参加させていただきましたカゲショウです。
今回の自分の作品はいかがでしたか? 実は自分、ラッキースケベとかをあまり書かないので読者の皆様はラッキースケベが少ないじゃないかとお怒りの事でしょう。ですが、自分としては“ラッキースケベ”という題材を全力で書かせていただきました。面白いと思ってもらえたなら自分としてはそれだけで満足です。
さて、多く語るのもなんですから、最後に鍵のすけさん、そして読んでくださった読者の皆様にお礼を言って次のまたたねさんにバトンを渡すとしましょう。
鍵のすけさん、今回は三回にわたりこのような面白い企画を催してくださってありがとうございました。そして読者の皆様もまだ未熟者の自分の作品を読んでいただきありがとうございました。では、まだ続くこの企画を最後まで楽しんで読みましょう(笑)