ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――通り過ぎて』   作:鍵のすけ

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初めましての方はお初お目にかかります。
香月あやかと申します。
この度は拙作のページに足をお運びくださって、感謝の言葉もありません。
さて
この話は、他の作者様とは少し趣向が異なった作品になっていると思います。
個人的なキーワードは、「ラッキー」「スケベ」そして「フェチ」。
私がいかに捻くれているかというのが、作品から読み取れると思います。
そして、やや閲覧注意です。
どうぞお楽しみください。


金と男と恨みと女(体験版) 【あやか】

世の中には、極稀に特異な体質を持って生まれてくる人間がいる――らしい。

 

曰く、体勢を崩すと、転んだ先で異性と何故か密着したり。

曰く、監視の目や天文学的確立を潜り抜けて、異性の着替えを目撃したり。

曰く、絶対に音で気付くはずなのに、異性が入っている風呂に無意識に突撃したり。

 

突発的に起きた「事故」であるはずの出来事を、強制的に「美味しい」イベントに書き換える力。

 

世間では、その力を畏怖と尊敬を以ってこう言い伝えている。

 

――「ラッキースケベ」と。

 

口調が伝聞調になってしまっているが、それは俺が実際にそんなやつにお目にかかったことがないからだ。

 

でも、

考えてみて欲しい。

 

もしも、もしもそんな奴が存在するとしたら――

顔も下の下で、まともに異性と話したこともなく、卑屈で根暗である俺がしようものなら、一発でムショ行き案件であるはずの事故が、こともあろうに頬を張られるくらいのお咎めだけで許されるなんてことがあるとするならば――

 

男として、そんなことは許しておけるはずがない。

 

この現代社会において、女性にあんなことをした場合、無罪放免あるいは国家権力が介入せずに事が終わるなんてことは絶対にありえない。

 

手前のその生まれ持った性質で、美味しい思いをするなんてことがあっていいはずがない。

 

 

だから俺は、「ラッキースケベ」という敵に対して断固たる態度で対峙する。

 

だから俺は、自ら「ラッキースケベ」の定義を書き換えてやる。

 

……自身の名誉のために言っておくが、決して僻みや妬みの類の感情によるものではないと言うことも知っておいてもらいたい。

 

 

 

今から諸君に聞かせる話は、とある出来事によって、人生に大きな転機が訪れようとしている俺と、俺を取り巻く少女たちの日常のごく一幕である。

 

「ラッキースケベ」に、特別な体質なんてものは必要ないのだ。

要は、「ラッキー」で「スケベ」であればいい。

社会的体裁や、個人の好き嫌いや、利用規約違反など知ったことではない。

 

……重ねて言うが、決して言い訳や屁理屈、良い逃れるための言葉ではないということも理解して頂けたら幸いだ。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

3ヶ月前、両親が亡くなった。

正確には、行方が全くわからなくなった、と言った方が正しいが。

 

当時、大学の助教授とゼミ生の関係だった父と母は、そのまま恋愛の果てに結婚し、世界各国の美術・骨董品の研究者として地球を隅々まで飛び回っていた。業界ではそれなりに有名なコンビだったらしいが、彼らの好奇心を満たす逸品を探す旅費は機関から支給される研究費だけでは当然賄えず、給与の大概も惜しむことなく研究に注いでいたので、家が特段裕福だった記憶はない。

 

そんな両親が、ある日突然消息が掴めなくなった。

関係者や親戚がほうぼう手を尽くして探したらしいのだが、ついぞ生存は確認できなかった。

 

もともと家に全くいなかった両親なので、いなくなったと言われても特に実感は湧かなかった。

ぶっちゃけると、俺自身も深く考えていないというか、あまり信じていない。地雷原に乗り込んで案の定片足吹き飛ばされても、義足付けて笑いながら帰ってくるような父と母のことだ。そのうち何事も無かったかのようにひょっこり帰ってくるかもしれない。

 

問題は、形式だけの葬儀が終わった後のことだった。

 

両親の遺品を整理する課程で現れた、物置にみちみちと詰め込まれた世界の美術品や骨董品の数々。旅の先々で、仲良くなった現地の人たちに贈ってもらったものらしい。邪魔になるから捨てろと言っても頑として聞き入れなかった両親に対し、俺はそういったことに毛ほどの興味も無かったので、良い機会だとまとめて査定に持っていった。

 

もともと全部捨てようと思っていたものだ。いくばくかの小遣いにでもなればと、そんな軽い――本当に軽い気持ちだった。

 

 

 

 

翌月、俺の通帳の残高にはゼロが10個並んでいた。

 

 

 

 

 

一体何の冗談だろうか。

 

汚い袋に詰め込まれてた汚い石ころは、特大の宝石の原石だった。

 

小学生でも描けそうな落書きは、巨匠の幻の遺作だった。

 

子供の頃遊んだ記憶があるガラクタは、古代文明の重要な出土品だった。

 

強烈な悪臭のする厳重に封をされた塊は、超希少な香水の原料だった。

 

 

その後も、とんでもなく貴重なものが出るわ出るわ。

 

しかも、そんな仕事だから何が起きるかわからないので……と、平時からしたためてあった両親の遺書には、家の中の物は全て俺に譲ると書いてあった。

 

そうして俺は、突然大金持ちになった。

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

「くっ…………こんなことをして、タダで済むと思ってますの!?」

 

「ほう、タダじゃ済まないのか?そしたら俺はどうなるんだ?」

 

「お父様とお母様に報告して、警察に連絡します!

この私が受けた屈辱、牢屋の中で10倍にして返して差し上げますわ!」

 

「そうか……そしたら契約は不履行ということで、俺も出るとこ出るしかなくなるわけだが……

お前の両親への援助は打ち切り、お前もそれを納得した上で来たのに掌を返すなんて……

自分で決めた約束も守れないで、人の事をどうこう言えるのか?

これにサインしたのはお前自身の意思のはずだ。俺は決して強制したつもりはない」

 

「……そっ、それは……

でもだからと言ってこんな……」

 

椅子の背と一緒に後ろ手に縛られた両手に力を込めながら、目の前の女は俺を上目遣いに睨みつける。瞳には非難の色がありありと浮かび、俺への敵意が一瞬で見て取れる。

 

「こんなことをして、一体私に何をするつもりですの!?

事と次第によっては舌を噛みます!」

 

「まぁ落ち着けって。別に痛めつけようなんて考えてる訳じゃない」

 

「そんなこと言って、この間なんて私にあんなこと……」

 

こちらに向けた綺麗な顔がさっと朱に染まり、切れ長の翡翠色の瞳がうっすら潤む。

 

生まれ育ちの良さや、この女が生来持っていたであろうプライドの高さが、この状況を決して受け入れようとしない。

まぁ、そうでなくては困る。そんなに簡単に大人しくなってしまっては、復讐のしがいが無いというものだ。

 

「…………ん?いつの話だ?

生憎お前と違って記憶力がなくてな。気に障ったなら謝るから、どんなことをしたのか教えてくれないか?」

 

「わ、私にあんな格好をさせて、あああああんなこと……」

 

「指示語ばかりでさっぱりわからん。ちゃんと説明してくれ」

 

「くっ……この、っ変態!!」

 

真っ赤な顔で俺に精一杯の非難を浴びせる。

うむ、実に嗜虐心をそそる良い表情だ。

 

言ってしまえば、この女の本位か不本意か、なんて気持ちは関係ないのだ。

 

何故ならこの女――――黒澤ダイヤは文字通り「俺のモノ」なのだから。

 

 

 

 

「僕が融資しましょう。好きな額を好きな時に、無利息無金利でお貸しします。

その代わり、上の娘さん――ダイヤさんを僕にください」

 

非人道的な俺の言葉を、ダイヤの両親は真っ青な顔で聞いていた。

 

時間は、少し前に遡る。

俺は菓子折りを片手に、黒澤家の屋敷に乗り込み、開口一番そう言った。

 

この内浦の中でも古い歴史を持ち、元網元でもある名家――黒澤家。

ここら一体で様々な事業を展開しているということもあって、地元でもかなり裕福な家である。

 

――はずだった。

 

少し調べてみたところ、実は少し前に大きな取引で大損をしてしまったらしく、体勢を立て直すこともままならないほど窮していることがわかった。

 

だから俺は、「とある条件」と引き換えに全面的な協力を申し出た。

 

2人いる娘の内の姉の方、ダイヤの身柄の引渡し。

 

何のひねりも無く言ってしまえばこういうことだ。

 

「娘を売ってくれないか」と。

 

 

 

「っ、ふざけるな!そんなことが……そんなことが出来ると思っているのか!?」

 

我に返ったダイヤの父が、机を叩いて怒鳴りつける。

 

「決めるのはあくまでもそちらです。決して強制はしません。

ただ、負債はかなりの額ですよね?1日2日働いて返せるような金額ではないはずです。

それを分割で、お貸ししようと言っているのです。それも無利息無金利無期限で。」

 

「額や金利の問題ではない!この世のどこに、娘を担保に金を借りる両親が居ると思っている!?

娘はやらんぞ!帰れ!」

 

「別に獲って食おうだなんて言うつもりはないんです。

言うなれば保証人です。事業が息を吹き返し、軌道に乗り直すまで、お嬢さんをこちらで預からせて頂きたいのです。勿論、僕も一人身なものですから、身の回りの簡単な手伝いなどはお願いするつもりですが……」

 

「何度言われようと同じだ!帰れ!」

 

流石は名門の家長と言うべきか、建て直しのために奔走しているはずなのに疲れも見せず、殺気にも似た圧力を俺にぶつけてくる。

 

そりゃあ娘は大切だろう。あそこまで美しく優秀に育ったならなおさらだ。

 

だから俺は、悪魔のささやきのごとき言葉を紡ぐ。

 

「……いいんですか?あなたは従業員数千人を抱える、いわば大家族の家長でもある。今ここで僕の話を断るということは、それだけの家族を見捨てることと一緒だと思いませんか?

多くの人を路頭に迷わせて、それでもあなたは娘さん達の前でいい父親でいられるのですか?」

 

案の定、仕事の話をすると彼は言葉に詰まる。うろたえた所へ、俺は更に追撃する。

 

「あなたからダイヤさんの全てを奪おうだなんて考えている訳ではありません。親権はそのままにしておきますし、好きな時に家にも帰って来られるようにもするつもりです。

少しの間だけ、お嬢さんを僕に預けて頂くだけで、全ての従業員も今まで通り養っていくことができるんですよ?」

 

 

 

「…………ダイヤに聞いてみる」

 

 

 

様々な気持ちがグチャグチャになって、泣きそうな表情を表情をする父と母。

しばらく黙った後、今にも消え入りそうな声でそう呟いた。

 

そしてその1週間後、黒澤ダイヤは保証人になることを承諾し、俺の家へとやってくることとなった。

 

そして――

 

 

 

 

「……それで、今日は何をさせるつもりですの?」

 

椅子に座り、手を縛られたままのダイヤが鼻を鳴らす。完全に軽蔑されている表情だ。

まぁ、普通に考えればわかる。彼女を家に迎えてから、俺はダイヤに恥辱の限りを尽くしてきたからだ。

 

わざと羞恥心を煽るようなことも、全てわざとやっていることである。

 

これも俺が大富豪になったからこそ出来るようになった、彼女への「復讐」のためである。

 

 

 

 

 

実は1年ほど前、俺は彼女に一度告白している。

 

凛とした佇まい。

 

流麗な黒髪に、聡明さを感じる翡翠色の瞳

 

眉目秀麗、文武両道

世の中に数多ある、優れたものに対して使われる四字熟語は、全て彼女のためにあるのではないかと錯覚してしまうほど。

容姿、文武、家柄。

 

あらゆる面で、彼女は完璧だった。

 

そんな彼女に対し、平々の凡々だった俺が憧れを抱くのにそう時間はかからなかった。

 

決して手の届くことの無い高嶺の花

 

でも俺は、この気持ちを心のうちにとどめておくことがどうしてもできなかった。

 

 

『黒澤ダイヤさん!好きです!

俺、貴女に憧れているんです!

これ、読んでください!』

 

 

ある日の放課後、俺は彼女が通っている「浦の星女学院」の校門前でダイヤを待ち、出てきた所に合わせて、書いてきた手紙を渡して告白した。

 

ワンチャンあるだなんてことも、微塵も考えていなかった。俺と彼女では立場が違いすぎる。

ただ知っておいて欲しかった。

 

それで後日、「ごめんなさい、お気持ちは嬉しいのだけど……」と笑顔で断られるまでを頭の中でトレースした上で臨んだ告白だった。

 

 

 

 

『私忙しいの。話しかけないでくださる?』

 

 

 

返ってきたのは、極寒の言葉の礫だった。

 

『……え?』

 

思わず顔を上げると、氷点下の視線をぶつけてくる彼女の綺麗な顔があった。

 

『こんなものまで……困りますわ。

もう二度と、こんなことしないでくださる?』

 

中身も改めないで、手紙を突き返される。

そして彼女は、こちらに一瞥もくれることなく背中を向けて歩き出した。

 

塩対応なんてレベルじゃない。

ハバネロも裸足で逃げ出すくらいの激辛具合だった。

 

俺は渡せなかった手紙をつまんだまま、校門の前からしばらく動くことができなかった。

 

それからのことは、あんまり覚えていない。

 

ただ、胸の内に残ったのは、敬愛の気持ちを踏みにじられたという屈辱と、彼女へ対するどうしようもない怒りだった。

 

勿論、俺にだって悪い部分はある。彼女のことをろくに知りもしないくせに、頭の中で勝手に自分の都合の良い偶像を作り上げ、勝手にそのギャップに打ちのめされているのだから。

 

それにしても――

 

『あれは、あまりにもあんまりだろ――っ!?』

 

あの視線――汚らわしいものを見るかのようなあの冷ややかな視線。取り付く島もない非常な言葉。あの態度を思い出す度、腹の底がかっと熱くなる。

 

可愛さ余って憎さ百倍とはよく言ったものだなと思う。こうして180度反転したエネルギーは、行き場を失って制御することが出来ない。

 

『…………復讐してやる』

 

いつか、

いつか復讐してやる。

 

あの綺麗な顔を屈辱に歪ませてやる。

あの日俺にしたことを、手をついて謝らせてやる。

俺が受けた恥辱を、利子を付けて返してやる。

 

 

そして今、それがようやく果たせつつある。

両親の残してくれた、莫大な遺産によって――――

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、とりあえず良い時間だし、飯でも食いながら話そう。」

 

相変わらず衰えない敵意の眼差しをかわし、俺はいそいそと台所に立って夕食の準備を始める。

 

自慢するわけではないが、小さな頃から両親がほぼいない家庭で育ったため、料理洗濯をはじめとした家事はほとんどひとりでこなすことができる。

それこそ、ダイヤよりできる。

手伝いの名目でこの家にやられたのに、家主が自分よりも堪能であることも、彼女にとっては面白くない理由のひとつでもある。

 

 

「……よし、出来たぞ」

 

そうして出来た料理を、机の上に並べていく。

今日はシンプルにハヤシライスとスープにした。

 

ちなみに余談だが、俺はハヤシライスはほとんど煮込まない派だ。

さっと作って、香りを楽しむのが好きだったりする。

 

席について両手を合わせ、いそいそと食べ始める。

うむ、さっと作ったものだが、なかなか上手にできたと思う。

火がギリギリ完全に通っていないタマネギの食感も良い感じだ。

 

 

 

「…………もしもし?」

 

「…………?なんだ?食べないのか?」

 

せっかくダイヤの分もちゃんと準備しているのに、彼女は全く手をつけようとしない。

 

「食べないのか?じゃありませんわ!お忘れかもしれないけど、あなた私の両手を縛ったままでしてよ!?」

 

「……あぁ、そう言えば……」

 

勿論忘れていない。

 

 

 

「それじゃあ、そのまま食べろ」

 

「……なんですって?」

 

 

大きく目を見開いてこちらを見つめるダイヤ。それを俺は意地悪な笑みを貼り付けて見つめ返した。

 

「それは、そのまま、食べるんだ。

 

見ててやるから」

 

彼女の顔からさあっと血の気が引いて、その後すぐに真っ赤になった。

 

「んな……んななな、なんて――」

 

「別に難しいことじゃないだろ?どっちも平たい皿に盛ってるから食べやすいぞ」

 

「そういう問題ではありませんわ!

私に……この私に、手を使わずに食事をしろと、そう言ってますの!?」

 

「だからさっきからそう言ってるだろう」

 

「そんな……」

 

白磁のような透き通る綺麗な頬が、羞恥で真っ赤に染まる。

 

「お腹すいてないの?」

 

「空腹で倒れそうですわ!

朝昼を抜かれたのはこのためだったのですわね!?」

 

絶妙なタイミングで鳴った腹の虫も加わり、涙目で怒鳴りつける。

 

「……食べたくないの?折角作ったのに……」

 

「べっ、別に食べたくないというわけでは……

兎に角、これを解きなさい!」

 

じたばたする彼女を見かねて、俺は皿のハヤシライスをスプーンで小さく掬うと、ダイヤの口元にもっていった。

 

「ん」

 

「こっ……こここここれは」

 

限界まで赤くなってたはずなのに、これ以上があったらしい。

 

さっき切ったトマトよりも遥かに赤い。

 

「ほら、冷めるから」

 

「た、食べられませんわ!

だってそれ、あああああなたの……」

 

真っ赤になってイヤイヤと首を降るダイヤ。

ううむ、埒があかない。

 

「だいたい、どうしてこんなことをするんですの!?

私に恨みでも――んむっ!?」

 

わざわざ朝食も昼食も抜いておいたのに、このままでは意味が無い。

仕方ないので、その小さな口にスプーンを無理矢理捻じ込んだ。

 

「――――っ!」

 

突然の俺の暴挙に、目を白黒させるダイヤ。ゆっくり口からスプーンを抜くと、恨みがましい視線をおくりつつも、大人しく咀嚼している。お気に召したらしく、一瞬だけ顔がほころぶのも何ともまぁ可愛らしい。

 

「…………美味いか?」

 

「……まぁまぁですわね。

作ったのがあなたでなければもっと美味しく頂けたのに」

 

ダイヤはすぐには質問に答えず、しばらくもぐもぐして嚥下した後、ようやく憎まれ口のような感想を返してきた。ちゃんと食べてから返事をよこすあたり、育ちの良さがこういったところからも伺える。

 

「……まだ食べるか?」

 

再び小さく掬い、彼女の口元に持っていくと、頬を染めながら小さく口を開けた。当初の目的とは少し違った趣向になってしまったが、これはこれで恥ずかしそうなダイヤが堪能できて非常に楽しい。しばらく、このままにしておくことにした。

 

 

「……餌付けみたいだな?」

 

「もくもく…………んっ。

最悪ですわ。恥ずかしいやら情けないやらでどうにかなってしまいそう。

 

あなたのような外道に慰み者にされてると思うだけで反吐が出ますわ」

 

「……そうかい」

 

行儀良く口の中の物を全部飲み込んでから、反射的に悪態をつく。睨みつける表情もまた綺麗なダイヤを、俺はニヤニヤしながら眺めていた。

 

ちなみに慰み者にされているなどと困ったことを言っている彼女だが、慰み者にされているのはどちらかと言えば俺の方だったりする。

 

 

 

 

そしてここだけの話、本人はバレてないつもりでいるらしいのだが、実はダイヤ、夜な夜な俺への呪詛を呟きながら自分を慰めているのだ。

 

ご丁寧に下着も自分で洗ったりしているが、俺の目がそんな小細工で誤魔化されるはずもない。

 

というより、部屋の隠しカメラにバッチリ映っているので誤魔化しようもないのだが。

自分のあられもない姿が映像に残っていると知ったときどんな反応をするのか、今から楽しみで仕方ない。

 

つまり何が言いたいかというと、俺への恨み言を吐きながらも結局ダイヤも楽しんでいるのだ。

その日自分がされたことを思い出し、火照った身体を夜中に弄っている。

羞恥が快感に自動変換される、生粋のドMなのである。

 

俺を憎んでいるのは本当だろう。ただ、彼女自身にまだその自覚が無い。

それがわかっているものだから、日中俺に対して気丈に振舞う彼女が可笑しくて仕方が無い。

 

 

「あなたのような屑なんて、今に天罰が下りますわ。

今ならまだ許して差し上げますから、早くこの縄を解いて私を――んむっ!?」

 

唇の端についていたソースを人差し指でおもむろに拭うと、そのやかましい口を塞ぐように突っ込んでやった。

 

「~~~~~っ!」

 

突然の異物感に、両の目を限界まで見開くダイヤ。何やら抗議の声をあげているらしい彼女を無視して、口腔内をなぞる。

 

第二関節まで沈めて、指の腹を使って口内の上の方――正確には「硬口蓋」というらしい場所――を引っかくように擦ると、ダイヤはうわずった吐息を漏らした。そのまま抵抗されないのをいいことに、俺は狭い口内を蹂躙する。

 

それにしても流石というべきだろうか。育ちが良いせいか、完璧な歯並びだ。関心しながら、そのエナメル質の滑らかな表面を内側から堪能する。

 

 

そして諸君、お気付きだろうか。

 

普通であれば、ここまで俺の好きにされる必要はないのだ。歯のひとつでも立ててやるだけで、痛みに耐性の無い俺はすぐに指を引っ込める。

 

 

ところがこの女は、

 

 

「――ぁ……んっ……

んむっ……っぷぁ――」

 

ご丁寧に舌まで絡めてくる。

 

小さな顎を親指と中指で挟むと、さしたる抵抗もなく口が開く。蛞蝓が這ったように濡れた指が、ダイヤの長い舌に捕まっていた。煮詰めたように熱いドロドロの唾液が、重力に従ってぱたりと垂れる。

 

人間は興奮すると口内の水分が失われて、唾液の粘度が上がるらしい。こうして口から抜いた指が未だに舌と銀の糸で繋がっているのは、どう解釈したものだろう。

 

少し背中を押してやるだけで、いとも簡単にスイッチが入る。

これをマゾと言わずして何と言うべきか。

 

「はぁ……はぁ……」

 

顔から手を離しても、彼女は変わらずこちらに軽蔑するような、それでいてどこか期待しているような視線を向けながら息を整えている。

 

濡れた瞳、上気した頬、乱れた吐息、震える身体、擦り合う脚。

 

たかが夕食、たかが戯れ、たかが一時の気の迷い。

 

少し遊んだだけなのに、全身から匂い立つような色気を醸すダイヤ。

それでいてなお、彼女は美しかった。

 

 

「……もしもし?私、喉が渇きましたわ。

よかったらお水を頂けなくって?」

 

こちらが見惚れていると、不意に声をかけられた。

鼻にかかった、掠れた声。それがどうしようもなく官能的で、俺の感情を揺さぶってくる。

 

これでは、どっちが楽しんでいるのかわからなくなってきた。

 

俺は冷蔵庫からミルクを取り出し、容器に注いで彼女の前に置いてやった。

 

「……これですの?」

 

「生憎これしか持ち合わせが無くてな。今日はそれで我慢してくれ」

 

「よくもまぁ、そんなことをいけしゃあしゃあと……

 

――この入れ物、猫用のではなくって?」

 

信じられないといった目で、俺と、ミルクが並々と注がれた容器とを見比べるダイヤ。

 

しかし、その口の端は歪に吊り上がっている。机の下から聞こえる衣擦れは、太ももを擦り合わせている所為だろう。

 

全くもって救えない。俺も、この女も。

 

「……いいですわ。どのみち、貴方には逆らえないんですもの。

頂きましょう。髪を耳にかけてくださる?」

 

顎を少し持ち上げ、挑発的とも取れる笑みをこちらに向ける。俺はおそるおそる彼女の髪に触れ、こめかみから流れている髪を掬って耳にかけた。

 

「んっ……」

 

肌と肌がわずかに触れ、彼女が悩ましい声を漏らす。スイッチの入った彼女は、その動作ひとつひとつが狙っているのではないかと思うほどあざとい。女子と接する機会が今までほとんどなかったということもあり、こちらも平静を装うので精一杯だ。彼女の豹変には、立場的優位もほとんど意味がない。

 

「こんなことをさせられて……あまつさえ貴方に見られるなんて、顔から火が出そうですわ……」

 

チラリとこちらに一瞥をくれたダイヤは一瞬躊躇うような仕草を見せたが、その蕩けた綺麗な顔を机へと近付けていき――

 

舌を液面に這わせ、ミルクを飲み始めた。

 

 

換気扇と、遠くから聞こえる車のエンジン音。それしか聞こえなかった部屋に、ぴちゃぴちゃと小さな水音が混ざる。

 

手を使うことを許されず、動物の使う器で、それを憎い相手に見られながら飲まされる。

こんな屈辱的なシチュエーションが他にあるだろうか。

 

しかし、彼女は――

 

「んっ……んぐ、んくっ……はぁ…………あんっ、んっ……」

 

荒くなる呼吸で、上手く飲むことが出来なくなっているみたいだ。

 

口の端からは飲みきれなかったミルクが零れ、非常にまずい絵面を作ってしまっている。瞳からは徐々に光が快楽に塗りつぶされ、奥が欲望でドロドロに濁っているのがよくわかった。

 

「…………っ、ぷは」

 

そうして顔を上げた彼女と目が合った時、驚いたのは今度は俺の方だった。

瞳は寝惚けているかのようにトロンとしているのに、その奥では快楽の炎が揺れていた。口の端から垂れているミルクを見せ付けるように長い舌で舐め取って、少女のような、小悪魔のような笑顔を浮かべている。

 

ドクンと、俺の心臓が跳ねる。このままもっと彼女を辱めたら、一体どうなってしまうのだろうか――

 

 

「…………それで、次は何をご馳走してくださいますの?」

 

小首を傾げながら、ダイヤが愛する人に話しかけるような口調で尋ねてきた。

 

それに対し、俺は黙ったまま――

 

冷凍庫から取り出した棒アイスを彼女の鼻先に突き付けた。

 

「……デザートなんてどうだ?」

 

 

「――――貴方って、本当に、ほんっとうに最低ですわね」

 

そう言った彼女の顔は、今まで見た中で一番嬉しそうに見えた。

 

 

宴は、まだ始まったばかり――

 

 

 

 

 

□ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

 

 

「……っ、あの男……っ!最っ低!っあん……最あく……んんっ!ですわ…………っ!

この、私に……っ、この黒澤ダイヤに……はぁっ……っ!あんなことを、させてっ…………んっ……

タダで済むと……んぁっ……思ってますの……っ、くぅぅ……

いつか……っ、ああん……!絶対に……っ、後悔……っ、ふぅ――んっ、させて、差し上げますから――っ、あっ、んっ、あっ、んんっ……

 

んん―――――――――っ!!

 

 

……はぁ、はぁ、はぁ…………

 

本当に、最低、ですわ……」




体験版と言うことは……
お楽しみに!!!!(

企画はまだまだ続きます。そちらも是非楽しみにしていてください!

最後になりましたが、3回に渡って企画を主催してくださった鍵のすけさん、読者の皆様、作家陣の方々、そしてラブライブ!さんしゃいん!!を生み出したスタッフの方々に、この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。
本当にありがとうございました!
どうか、最後までお付き合い頂けたら幸いです。
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