ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――通り過ぎて』 作:鍵のすけ
今回、鍵のすけ氏の企画に思い切って参加させてもらいました。
あまり多く語るのもなんなので、自分からは一言だけ言わせてもらいます。
是非もないねっ!(ノッブ感
「ジィーザス! クラァァァイストッ!」
霹靂のような、それでいて若干涙声も混じった絶叫とともに顎に鋭くも鈍い衝撃が走る。
パニックになっていながらも顎先をつま先が見事蹴り上げたその刹那、一瞬だけソレは覗いた。
(……黒)
いや……上も思いっきり見ちゃったけど。
ずいぶん大胆な色をチョイスしてるんだな、って。
一応、『自称』駄天……もとい、堕天使と名乗っているから黒なのかなぁ、って。
下着姿の後輩についてそんなどうでもよさそうな事を考えながら、俺の意識は火星まで吹っ飛ばされていった。
ただ、1つだけ言いたい。俺は悪くねぇ。
地元の女子校が生徒数の減少に伴い俺が通う姉妹校である男子校と統合されることになった。
統合に向けた試験期間を設けることになって、何の因果かその選抜生徒に俺まで選ばれたわけなんだけど……。
自慢に聞こえるかもしれないが勉学は真面目に励んでいたからに成績は中の上くらいだし、目立った問題も起こしていない。
……が、聞く所によれば向こうの生徒会長と理事長が是非に、と言う推薦から選ばれたと言ううわさを小耳に挟んだんだけど、真相は謎のまま闇に葬っている。
別に向こうに知り合いが居ないわけでもなく、おまけにそこに通う友人の1人が熱烈かむかむしていたし、距離的にもこっちの方が近くて楽だから……という理由から2つ返事で誘いを受けてしまった。
確かに近くて楽だ。知り合いも何気に多く居るから緊張もしないで済んだ……けど。
「はぁ~……」
「ため息ばっかりついてると、幸せが逃げちゃうって聞いたよ?」
机に突っ伏し、大きくため息をついていたら知り合いその1、高海千歌が横からひょっこり顔を覗かせながら声をかけてきた。
「ため息をつかせる要因その1が何か言ってるな……」
「む。それじゃあまるでチカが悪いみたいじゃん」
「いや、みたいじゃなくて十中八九千歌ちゃんが悪いよね、さっきのは」
後からやってきた知り合いその2、渡辺曜の突っ込みに俺は激しく同意した。
男子校に居る友人たちは「羨ましい奴」なんてやっかんでいたけど、実際に通うとなると思った以上に精神面でキツイ。
何しろ女子校……つまり女子しか居ないわけで、まあ男子が入ってきたとは言ってもその存在感が限りなく薄い。片手で数えられるしか男子も来ていないから仕方ないのかもしれないけど……。
女子同士でふざけた拍子にスカートがめくれて下着が見えたり、裾で扇いでいたら素肌がちょっと見えたりとか、その場に男子が居ると言うのにそんなハプニングがよく起きている。
そして今回、ため息をついた理由と言うのは千歌も大いに関係……と言うより発端なわけで。
「うぅ…………うぅぅぅぅ」
「あの羞恥に顔を伏せている桜内さんを見てどうも思わないのでしょうか、男の前で堂々とスカート捲りしでかした高海さんは?」
「あっ……あれは、その~……タイミングが悪かったって言うかぁ~……」
事の発端と言うのも、要するに隣の席に座る彼女、桜内梨子のスカートを千歌がふざけて捲っちゃった時、たまたまタイミング悪く俺が通りかかって中身を見てしまって梨子は気が動転。パニック状態に陥った彼女は校舎を爆走して回り、体力が尽きた所を確保された。
……ちなみに色はピンクでした。ごめんなさい、俺も健全な男子高校生なんです……。
とにかく、この千歌がやらかしたせいでお互い気まずいんだ。隣の席ならなおさら余計に!
「ね~梨子ちゃん、そろそろ立ち直ってよ~」
「……そう言う千歌ちゃんは同じ境遇に陥った時、同じことを言われたら立ち直れるの?」
「ごめんなさい、千歌とこの人が悪かったです!」
「俺も被害者なんだけどなぁ!?」
勝手に共犯者にされたくないから全力で否定。いや、確かに見たけど、鮮烈に焼きついてることに罪悪感を覚えなくも無いけど、それでも千歌の共犯者にされるのはこれ如何に。
「ただ偶然居合わせたってだけで俺まで生徒会長に説教されたのに……一応男子も居るのにそういうことするのってどうなんだ?」
「だっていまいち存在感薄いし……」
「薄いとか言うな」
まあ……こういうおふざけに居合わせるのは運が良かっ…………ゲフンゲフン、悪かったけれど、他の面でも結構苦労している。
まず体育になれば当然着替える必要があるわけで、だけど男子更衣室なんてものは無いから空き教室とかを利用するしかない。トイレだって職員用のところにいちいち行かなきゃ行けない。
本格的に統合した時はそういった設備も整うだろうけど、まだ仮統合だからその辺も手付かずの状態だ。トイレはともかく、着替える場所については目を付けているからどうにかなっているけど。
「まあ、まだ女子校だから男子には不便なことが多いよね」
「ほんとだよ……特にこういう場合ってどうすればいい?」
「見ちゃったのは事実だし、素直に謝ったほうがいいんじゃない?」
「そうだよー。梨子ちゃんは特にデリケートなんだかんごっ」
茶々を入れようとしている千歌に対して、口の中にミカンを丸ごと突っ込ませて黙らせた。おまけでひっくり返ったけど自業自得だ。
癪だが千歌が言ったとおり、梨子は能天気な千歌と違って結構繊細だ。偶然とは言え見たことに変わりはないし謝るべきだろう。
「……よしっ」
覚悟を決めて席を立ち、梨子の前に立つ。俺が立ったことに梨子はビクッと震えて、恐る恐る顔を上げる。一応話は聞いてくれそうだ。
「えーっと、さっきは故意ではないにせよ見ちゃってごめん。けど安心してくれ、梨子のパンツがピンクだったってことは他の誰にも言わないかr「バカァァァァァッ!!!!」らもすっ!」
誠心誠意、心を込めて頭を下げて謝った途中、顔面に鈍い衝撃を受けて謎の重みとともに背後へひっくり返った。
な、なにが……? なんか机の下敷きになってるんだけど……。
「思いっきり言っちゃってるじゃない! 信じられないっ! リリーおうちにかえるっ!」
悲鳴混じりに叫び、脱兎のごとく教室を脱出していく梨子に、周りに居た人たちも唖然。その場にはひっくり返った俺と千歌というシュールな光景が残される。
「えっとさ……素直なことはいい事かもしれないけど、素直すぎでしょ」
じとっと呆れと軽蔑の目を向ける曜。
「……曜」
「ん?」
「見えてる」
「……見るなスケベっ!」
ずどむっ! 親切に指摘してあげたら、顔を赤らめた曜の右足が顔面に降って来た。
……ちなみに水色のレースと言う曜にしてはちょっと大人っぽい下着でした。はい、生まれてきてごめんなさい。
「ぁいたた……」
上半身に走る痛みに顔をしかめながら保健室からの帰り道。
なんか今日はいつにも増してトラブルに遭っている気がする……なんでだろう。いや、完全に自業自得なんだけど、このままだと危険な気がする。主に命が。
まずこういう場合はひっそりと、大人しくしているに限る。余計な波風を立てて生命の危機に陥らないためにも!
「待ってよマルちゃーん!」
「先にいくずらーっ♡」
階段に差し掛かった時、聞き覚えのある声にふと顔を上げた。
手すりに跨って滑り降りてくる見覚えのある後姿。あれって……ってぇ!?
「マルちゃん後ろー!」
「えっ」
下にいた俺の姿を見つけたツインテールの子が思わず叫ぶが、もはや遅い。
手すりを滑り降りてきたゆるふわロングの子が滑り終わって、ぽーんとまっすぐに俺のほうへフライアウェイしてきたのを――間一髪、背後から抱きとめる。結構軽く感じたとは言え運動エネルギーも追加されているから腰にかなりの負担が来たけど、そこはギリギリ堪えて倒れずに済んだ。
「えっと……あれ、先輩?」
「とりあえず女の子が手すりを滑り降りるのはあまり感心しないんだけど……花丸ちゃん」
「えへへ……ごめんなさいずら」
滑り降りてきた女の子、国木田花丸ちゃんが俺に振り返り、照れくさそうにはにかむ。
普段大人しい方なんだけど、何かの弾みではっちゃけたりすることがあるのがタマにキズなんだ。今回のこれがいい例。
まぁお互い怪我が無いのが何よりだけど……時にさっきから手に当たるこのマシュマロみたいな感触は何なんだろう。手にすっごい余るんだけど。
「あ、あの……先輩」
「ん?」
「えぇっと、そのー……でるずら」
「え? なんだって?」
何か言いづらそうにぼそぼそと小声で呟かれて、うまく聞き取れなかった俺は聞き返した。
すると花丸ちゃんはかぁっと頬を赤らめて目を逸らし――
「マルの胸……掴んでるずら」
「………………ふぁっ!?!?」
衝撃発言に目を下にやると、そこには確かに花丸ちゃんの立派な胸を思いっきり掴んでる俺の手がっ!
違うんだ! 単純に避ける暇も無かったから受け止めようとしただけで下心なんて無いんだ! むしろあの一瞬でそんなことを狙えるはずも無いでしょう!?
花丸ちゃんの言葉に巨大なハンマーで頭を殴られたような衝撃を覚え、ギクシャクしながら腕を放す。解放された花丸ちゃんはそそくさと俺から離れ、両腕で胸の辺りを庇い、ジト目で俺を見ながら一言。
「…………先輩のエッチ」
「この度は大変申し訳ありませんでした……」
事故とは言え言い逃れできない状況に、俺は被害者に深く頭を下げるしかない……が、話はそこで終わらなかった。
「ま、ま、マルちゃん……」
「ルビィちゃん?」
わなわなと小動物のように――と言うか完全に小動物系の子なんだよなぁ――震えているツインテールの女の子、黒澤ルビィちゃんにお互い気づき、ふと顔を上げる。
「マルちゃんが先輩に……ふぇぇぇ」
「いやちょっと待とうかいや待ってくれるお願いだから!?」
大いに勘違いをしているルビィちゃんに顔を蒼くし、手を伸ばしながら1歩踏み出す。
が、それが行けなかった。最近は少し慣れてきてくれたとはいっても筋金入りの男性恐怖症&人見知り。こんな状況で接近しようとすれば――
「――ピギィィィィィィッ!」
はい、こんな風に大音量で悲鳴上げます。学院全体に響くほどの(白目
「――――! ルビィのピンチですわっ!」
「ちょっ!? いきなりどうしたのダイヤ!?」
その結果悲鳴を聞きつけた姉の黒澤ダイヤさんが、例えどれほど距離が離れていてもすぐに駆けつける仕様となっております。ふつくしい姉妹愛ダネ本当に。
悲鳴からわずか数秒、上の階からふつくしい黒髪をなびかせながら手すりを飛び越えて踊り場に着地し、さらに踊り場から大ジャンプ!
「ぁっ! あの技は……!」
「知ってるのルビィ?」
「は、はい……あの技は『ダイヤモンド・バスター・キック』って言うお姉ちゃんの大技なんです。当たれば一撃必殺なんですけど……」
「……なんですけど?」
恐怖に固まっている俺の耳に、ルビィちゃんと慌てて駆けつけた先輩の松浦果南さんの話し声が聞こえる。
同時に脳裏に蘇るこれまでの出来事の数々。ああ、これって走馬灯って言うのかなぁ……短い人生だった――
「『ダイヤモンド・バスター・キーック』!!!!」
「――成功率は20%くらいでめったに当たらないんです。だから必殺じゃなくて大技なんですよ」
「――――――ぁ?」
空中で両足をそろえてドロップキックの体制に入っていたダイヤさんが途中でバランスを崩し、それでもターゲットを捉えながら飛んでくる……と言うか落ちてくる。
けれど崩れたバランスを立て直すことは出来ず、ばたばた手足をバタつかせていた。
結果、開いた足の隙間に俺の頭が入り込み、顔面がスカートの中にエントリー。高級そうな黒いレースの下着に顔を埋めてそのまま床に叩きつけられる。
「「「………………」」」」
真っ暗闇。それでいて生暖かい。むしろ顔が埋まって呼吸が困難だけど、まずそうじゃない。
「………………」
上に馬乗りになっているダイヤさんがどんな顔しているかは分からないけど、小刻みに震えているのは伝わって来た。
せめて事情は聞いてもらいたいけど、多分きっと間違いなく無理だよね。問答無用で磔獄門、舌斬って地獄行きコース一択。是非もないね!
「………………」
しばらく経って、ようやくダイヤさんが立ち上がる。俺はと言えば度重なるダメージともはやこれまでと言う諦観から手で顔を覆ったまま倒れていた。
「……一応、無駄とは思いますけど弁解聞いてくれますか?」
「……聞きたくありませんっ! ハレンチですわっ!」
「おふぁすっ!!!」
うん知ってた。鳩尾にダイヤさん渾身の突きを受けて意識が一瞬途切れながら内心同意。手加減とか慈悲とか情状酌量なんて一切混じってない一撃に胃液が逆流しかけた。
「行きますわよルビィ!」
「ピギッ! ご、ごめんなさい先輩ぃ……」
ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向き、ダイヤさんはルビィちゃんの手を引いてその場を去っていく。
その場にはヒットポイント残り3くらいの俺と、気まずそうな花丸ちゃん、そして同情しつつも呆れた目で瀕死の俺の頬を突っついている果南さんだけ残された。
「……どうしたのキミ。今日はとことん災難じゃない」
「俺が聞きたい……デス」
「う~ん……もしかしてキミ、たまってるの?」
「誤解を招くような発言をしながら服を肌蹴るのはやめてくれませんか!?」
あれから理事長室に呼び出され、この学院の理事長兼生徒というなんか良く分からないポジションにいる小原鞠莉さんに事情を説明。
聞き終えた鞠莉さんは変な解釈に持っていって艶っぽい笑みを浮かべながらセーラー服を肌蹴ようとしたけど、全力でそれを止めた。
「だってあんなトラブル巻き起こして、それで何もないって言うほうがアンビリバボーよ? 沢山のかわいい女の子に囲まれてビーストになっちゃうキミの気持ちも分からなくもないわ」
「人間には理性というものがありましてですね……」
「そもそも一連の件は(一部を除いて)先輩が被害者ずら」
「あと鞠莉は服着ようか」
花丸ちゃんと果南さんの冷静な突っ込みに鞠莉さんは「ジョークなのにぃー」と口を尖らせて着崩した制服を正す。
正直、2人がいてくれて助かった。彼女の相手は普段でも苦労するのに身も心もボロボロな今の状態じゃ絶対持たなかった。
「まあ話を聞く限り、キミに非はナッシングみたいだし……オーライ、この件は女子の不注意だったってことで該当生徒への注意だけにしておくわね」
「助かります……」
「でーもー…正直役得だったー、とか思ったりしてない?」
「……ノーコメントで」
なんやかんやでおいしい思いした――と思わなかったわけじゃない。俺だって男なんだし。
けどそれを素直に言ってしまえば人としての大事な尊厳を失うというか、好感度ダダ下がりだから口が裂けても言うつもりはない。
そんな俺の考えなんか見透かしているのか、鞠莉さんはにんまりと笑みを浮かべた。
「ちなみに私が今日つけているランジェリーは、さっき見せたレモンイエローのぉー……」
「そう言えば次の授業は体育だったな早く着替えないと遅れるぞー!」
言いながら鞠莉さんが制服を脱ぐか脱がないかのところで着替えの入ったカバンを肩に提げてダッシュ。
自分でもなぜこのルートを選んだのか、正直分からない。度重なるトラブルと肉体的・精神的ダメージの積み重ねから正常な思考が出来なかったのかもしれない。
ほんとにね、バカかと。アホかと。開いていた窓から外へフライアウェイしながら、俺は自分自身に対して突っ込んだのでした。
「飛んだずらぁっ!?」
「ここ2階だよ!?」
「ワオ! クレイジー!」
うん。俺も飛び出してから気づいた。人間って2階から飛び降りても生きているっけ? かの有名なジャッキ○・○ェンは映画の撮影で時計塔かビルから飛び降りるというスタントの失敗して大怪我しながらも生きていたって言うから死にはしないよねきっと!
――でもやっぱり怖いんだよなぁ! 内心叫びながら着地。同時に衝撃を流すため連続前転。
「……生きてたよ俺」
無我夢中だったけど死んでないし外傷もない。まさにミラクルだ。
校舎で唖然と身を乗り出している3人を振り切って、俺が普段着替えに使っているスクールアイドル部の部室へ向かう。更衣室代わりにするために自費で目隠しを設置しておいたんだから。
空き教室で着替えればいいと言う話もあるだろうけど、部室から直で中と外に行けるから移動の面で都合がいい。
「でもこんなダメージで授業受けれるのかな俺……」
さっきはエンドルフィンでハイになっていたからなのか分からないけど、今になって身体の節々が痛くなってきた……骨にヒビが入ってるのも十分考えられるかもしれない。2階から飛び降りたんだし。
でもここまでどん底に堕ちたのならこれ以上はないよねさすがに……そう思いながら部室の戸を空けて入ると、先客がいた。
「えっ……」
思いっきり着替え途中だったらしいその女子。しかも赤の他人じゃなく知り合いで、『自称』駄天……じゃなかった。堕天使と名乗る後輩、津島善子。
なぜここに彼女がいるのか、まったくわからない。確かにスクールアイドル部に所属しているからいてもおかしくはないけど、なぜ今日この日この時この場に彼女がいるんだと。
ああ……わからない。本当に便利だなこれ。
「……なにしてんの?」
「あ…あなたこそ。ヨハネが着替えてるのに……っ」
「俺は体育で着替える時いつも使ってるから……」
「ヨハネは蛇口が壊れてずぶ濡れになったから、着替えようって……」
見ればなるほど、確かに普段の片方お団子にしている髪は解けていてしっとり濡れていて、壁のハンガーに掛かってる上着がある。
しかし蛇口が壊れてしまうって、相変わらず不幸の星に生まれているな……。今日ばっかりは善子のこと笑えないけど。
「っていうかいつまでそこに居るのよ! 早く出て行きなさいよヨハネの素肌見るなんて呪われたいの!?」
「すでに十分呪い級の災い起きてるけど……とりあえずごめん」
もはや思考は完全に放棄され、機械的に謝りつつすぐに出て行こうとする。
……が、なにをトチ狂ったのか戸を閉めてしまった。俺がまだ室内に残ったまま。
「「………………」」
小さな部室にパタンと小さな音が鳴って、室内に居た男女は揃って固まる。
置いてきた思考がふと思い出したように戻ってきて、状況を整理し把握すると、やっちまった……と今更になって気づいた。
これはもう弁解の余地がないね。是非もないねっ!
「~~~~~~っっっ!!!!」
あー、死んだなこれはー。むしろ今まで生きていたのが不思議なくらい。
「ジィーザス! クラァァァイストッ!」
霹靂のような、それでいて若干涙声も混じった絶叫とともに顎に鋭くも鈍い衝撃が走る。
パニックになっていながらも顎先をつま先が見事蹴り上げたその刹那、一瞬だけソレは覗いた。
(……黒)
いや……上も思いっきり見ちゃったけど。
ずいぶん大胆な色をチョイスしてるんだな、って。
一応、『自称』駄天……もとい、堕天使と名乗っているから黒なのかなぁ、って。
下着姿の後輩についてそんなどうでもよさそうな事を考えながら、俺の意識は火星まで吹っ飛ばされていった。
ただ、1つだけ言いたい。俺は悪くねぇ。
それまでに受けた度重なるダメージに善子ちゃんの一撃がトドメとなって、ついに限界を迎えた彼は気を失い、保健室に運び込まれてずっと魘されていたそうです。
チカたちは「みんなしてやり過ぎ」と果南ちゃんに叱られ、Aqoursの練習は中止、鞠莉さんとルビィちゃんはおふざけと性格的な問題だったから軽い注意で済んだけど、他は下校時間になるまでずっとお説教されてました。
彼は下校時間になってもまだ魘されていて、連絡を受けた親御さんに引き取られて帰ったと聞いています。
よほどダメージが大きかったのか、3日間寝込んでいたそうです。
そして彼が意識を取り戻して、学校に行けるようになったと聞いてお詫びも兼ねて彼と一緒に登校しようとした日のことでした。
彼のお母さんにまだ寝ていると聞いて、起こしてあげようと彼の部屋に行くと……ベッドはもぬけの殻。
「あれ?」
不思議に思いながら首を傾げ、部屋を見回すと机に彼の携帯とその下に半分に折られた紙があったのを見つけ、チカは紙を手にとって広げると……。
『じっかにかえります。さがさないでください』
「……実家ってここじゃないの?」
一週回って思わず冷静な突っ込みが出てきた。
呆然となって1階に下りて、彼の両親にあいさつして家を後にして、彼の『実家』を見上げる。
「実家に帰る……あれ?」
意味がわからないけど、よくよく考えてみたらこれって失踪なんじゃ……。
落ち着いて考えて、その事実にだんだん青ざめていった。
「たっ――大変だぁぁぁっ!?」
その後、彼の行方を知る者は誰もいなかった…じゃないよねぇ!? こんなオチでいいの本当に!?
おまけ的な解説。『ダイヤモンド・バスター・キック』とは……
妹のピンチに発動できる黒澤ダイヤの大技。スイッチが切り替わったことによって跳ね上がった身体能力をフル活用した強力かつ強烈な一撃必殺のキック。
当たれば必殺に間違いないが、身体能力向上の代償に冷静な判断力を失い著しいポンコツと化してしまうため命中率(この場合本来の目標および対象(正否問わず))は非常に低く、命中率は最大でも20%とまず当たらない残念な技。是非もないねっ!
ちなみに元ネタはダイヤの名前と中の人が出演していた特撮作品を組み合わせ。名前負けもいいところry
いかがだったでしょうか?
散々な目にあった彼はこの後文字通り世界を渡って、名前を捨てて身体を鍛えた結果、ビームみたいな魔○拳を撃ち、一瞬で10メートルの間合いをワープしたみたいに詰め、倒れた相手を投げ飛ばしたりするくらいまで成長することになります(大嘘)。
今回初参加ということで緊張もありましたが、書いていて面白おかしくやれて楽しかったです。企画してくれた鍵のすけさん、そして読んでくれた方々に感謝をしつつ、この辺で失礼したいと思います。ありがとうございました!