ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――通り過ぎて』   作:鍵のすけ

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作者の専務です。皆勤です。


津島と俺の幸不幸世界物語 【専務】

自慢じゃないが俺はそれなりに運がいい生活を送ってる。

行く先々で何かと起こる。買ったアイスが5連続で当たったり、何の気なしに送った懸賞は一等だったり。

きっと何より幸運だったのは、いとこの女の子がアイドルになったことだろうか。

そう、今目の前にいるのがそのアイドルなんだ。家も近所だし、毎朝一緒にジャ〇プ読むし、10数年一緒にいるもんだから、連絡なんて取らずにこいつの部屋に行くこともある。今までもたまにあったし。

こいつの部屋には俺の私物もあるし、俺の部屋にもこいつの私物がある。言ってしまえば互いが互いの部屋みたいなもんだ。自分の部屋に入るのにノックなんてするか?俺はしない。

さて、前置きが長くなった気がする。俺は学校終わりに朝置いていったジャ〇プを取りに来たのだ。部活行って友達と飯食って帰ってきたから、少し遅くなったのは反省している。でもこんなことになってるとは思わない。

 

 

 

 

なんで善子(コイツ)は下着姿で寝ているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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さて、どうしたものか。

ご丁寧に仰向けで寝てやがる。高校1年生の育ち盛りの膨らみが2つ、女性であることを再確認されるが別に大した問題ではない。案外、昔からの馴染みの身体は年相応に成長しているのかと思ったくらいだ。

床には制服と鞄…うわ、練習着が放り出されてる。堕天使が聞いて呆れるな。堕ちたら汚くてもいいってのか。

とりあえず制服はハンガーに吊るし、洗濯物はとりあえずあとで洗濯機の方に持っていっとくしかないな。

善子の寝顔を見るとなんだか眠くなってくる。こいつ、寝顔は普通に可愛いんだよな。なんだこいつ。口開けたら痛々しいのに。

どーせだしこいつの部屋をすこし見渡してみる。思えば、高校が別なもんだからこいつとの接点も少なくなってきた。

まず目に付くのはこの時期に合わないコートだ。なんでわざわざ掛けてあるんだ?学校に来ていくわけでもあるまいに。

本棚には分厚い本が並ぶ。大抵は神話や異世界系の小節だ。こういった本もしっかり読んでるのだ。なりきってるというか、努力家なんだよなぁ。

CDラックにはメタル系の曲がある。堕天使を自称する手前、そういった関連のフレーズには敏感なのだろうか。メタルの歌詞もそこかしこに神の文字があるように思う。…まぁ、曲の好みだしとやかくは言わないけど。女子力ってもんを考えないのか。最近は桃太郎とかいう曲とかが流行ってるらしいぞ、善子。

部屋を物色してると足元に何かが当たる。雑誌のようだ。なんだ、こいつも女の子みたいなもん買ってんじゃねえか。

中を開くとスクールアイドル特集だった。μ's、A-RISE、他にもスクールアイドルの先駆者ともいえる面々が紙面を飾る。当時のスクールアイドルだと俺は福岡の2人組が好きだ。他に言うと馬鹿にされるが俺は推している。日の目を見るのは少なかったが、μ'sが有名になる前はそれなりに名を馳せていた。雑誌とかにも乗っていたらしいし、ラブライブもそれなりな成績は残せていたようだ。

…いかんいかん、話がそれた。雑誌を読み進めると、やはり一番大きいのはμ'sだった。善子のグループも、この人達に憧れて結成したものと聞いている。

まだ寝息を立ててる善子を見る。こいつがいつか、こういう大きなステージで歌って踊る時が来るのだろう。現実味のないような妄想だが、なぜだか近いうちに実現するような気もする。

 

「…頑張れよ。」

 

寝てる時くらいにしか言えないけど。

はぁ、やべえ眠い。まぁいっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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んっ、やばい、寝ちゃったわね。

アイドルの活動はやっぱりまだ慣れない。階段を駆け上がり、ダンスをして、それ以外にも勉強だっておろそかにできない。スクールアイドルってなかなかキツイわね。1年生だし、上級生もいるのに少なからず緊張はするし。はぁ、これじゃダメね。しっかりしないと。

 

「…っ!?」

 

なんでコイツがいんのよ…しかも半裸。窓を見ると開いている。しまった。暑いと思って開けたのを忘れていた。

すぐに自分の格好を見る。マズイ。見られた?見られてるよなぁ…くっ、一生の不覚ね…。

今更ながら幼馴染みを見る。何部に入ってたか忘れたけど、高校1年生にしては少し筋肉質な、運動頑張ってるんだろうということが容易に想像できる。羨ましい。昔から食べても太らないとかちょっと運動したら筋肉つくとか言っていた。こんにゃろ。

彼の手元を見る。今日持ってきた雑誌が握られていた。あまり私らしくないものを見られてしまった。下着姿より恥ずかしいかもしれない。

制服はハンガーに掛かっている。コイツがやってくれたのだろうか。男のくせにしっかりしている。私もズボラってわけじゃないけど。

練習着は雑に畳んであった。洗濯するからいいのに。

しっかし、千歌のあのTシャツはどこで見つけたのかしら。秋葉原にはそういうのも売ってるのかもしれないわね。あまり興味無いけど。

部屋着に着替えながら幼馴染みにブランケットをかける。憎たらしくイビキをかいている。これを録音しようとしてもきっと出来ないのだろう。私が不幸なのか、彼が幸運なのかわからないけど。

昔から一緒にいてくれた。私を堕天使だと言ったのは小学生の頃のコイツ。あの日から私は堕天した。人に煙たがられようと、高校で出会った幼稚園の頃の友人に引かれようと、私は堕天使ヨハネ(ワタシ)が好きだから。この名前に、救われてるから。

昔は自分が嫌いだった。何をやっても空回りし、うまくいかなくて、不幸で。そんな不幸を好きになれたのは、堕天使を教えてくれたから。

私のたったひとつの幸運。きっと彼がいなかったら、私はAqoursにいないかもしれない。…なんて、褒めすぎかも。

さて、そろそろ灸を据えてやらねばいけないわね。堕天使の部屋に無言で入った罪…鉄槌よ。

私は彼の顔に向けて上から縦にジャ〇プを落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「いって!何すんだ!…って善子か。」

 

「ヨハネよ!何なのアンタ人の部屋勝手に入って…しかも上裸で!」

 

「別にいいだろ今更。」

 

「仮にも女の子の家に隣の家から勝手に入ってきてるのよ?上裸で。しかも窓から。」

 

「窓開けてあったし窓ノックするわけにも行かねぇだろ…入ったら入ったで寝てるしよ。」

 

「…アンタ、私の…見たの?」

 

「ん?」

 

「…さて、遺言を聞かせて?」

 

「は?下着姿見られたことに対して怒ってんの?おいおい、幼馴染みだぜ?今更そんなん見てもなんとも思わねーよ。」

 

「…それだけ?」

 

「なんだよお前、待てよ何だその手元の分厚い本は。やめろ、ラッキーなんて思ってない!そんなスケベな心持ってないから!」

 

「うるさい!」

 

目の前の女の子の手が振り下ろされる。顔を赤くした彼女の後ろからは燃え盛る炎が見えるようだ。あぁ、あの角が脳天に当たるのだろう。きっと痛い。でも俺は防がない。

俺は至極幸運だ。こんな可愛くて憎たらしいアホみたいな幼馴染みを持って。善子…ヨハネとなら、どんな不幸も受け止められる気がする。

…痛いのは嫌だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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はぁ、はぁ…

目の前には男が倒れている。しばらく眠ってもらうわ。記憶も飛んでくれてたらいいのだけど。

ふと窓を見る。向こうには彼の部屋が見える。お返しだ。少し飛べばベランダに移ることができる。

 

「よっ…と。」

 

さっと飛び越えて部屋の窓を開ける。彼が窓から入ってきたのだ、こっちだって開いている。

電気をつけると、男だから…といって片付けられるものだろうか、いかにもといった具合で散らばっている。自分の事はずさんなのに他人の事は気になるのが彼の良いところであり悪いところ。

さっさと片付ける。元々どこにあったかは私も理解している。堕天使だからといって、部屋まで堕天してはいけないわ。

呆れながら服やら物やら本やらを戻していく。ふと、ベッドに目がいった。

別にベッドメイキングまでやれとは言わないけど、彼はよほど寝相が悪いのかしら。仕方ない。ついでにササッと整える。

枕の方には目覚まし時計やコンセント口などがある小さなスペースがある。そこに写真立てがあった。

私と彼が、お互い中学を卒業した後、家と家の間で撮った写真。ノリノリで私もポーズを決めている。彼もそれに乗ってよくわからないポーズをとっている。数ヶ月前の話だけど、この間のように思える。

この町に残ると聞いた時は私も驚いた。彼のことだ、きっと別の場所に行くのだろうと、勝手に思ってた。男子校だけど、楽しそうだからって決めたとか。

なんとなく、嬉しかった。また一緒ジャ〇プを読める。また私の知らない話を聞かせてくれる。それだけで嬉しかった。

…なんだか今日は変な気分だ。なぜこうも考えてしまうのか。すべては勝手に入ったヤツが悪い。思い出したら腹たってきたわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…痛っ、くぅー、手加減を知らない堕天使め…。」

 

起きるとアイツはいなかった。窓を見ると、俺の部屋が空いてる。別に俺はお前の家から何もとってねぇよと思いながら部屋に戻ろうとする。

 

「…お。」

 

「…あ。」

 

向こうも同じことを考えてたらしい。偶然にも、ベランダ越しに鉢合わせた。

 

「俺の部屋、別に何もねーよ。」

 

「別に何か盗ろうと思ったわけじゃないわよ、仮に金目のものがあっても、あんな部屋じゃ探す気にもなれないでしょうね。」

 

「うるせぇな、ジャ〇プ探してたんだよ仕方ねえだろ。」

 

「朝私の部屋に置いていったものね…片付けといたから、心配しないで…よっ、と。」

 

先に善子がこっちに来た。そして棚からジャンプを取り出すと、俺に手渡す。

 

「ほら、これ。」

 

「なんだ、部屋に落ちてた方じゃなかったのか。」

 

「朝の時点で置いてったのわかってたからね。私が見失わないように棚に入れといたのよ。」

 

「悪いな。」

 

そう言って受け取る。別に同じの買ってるからどっちでもいいのに。やけに律儀だ。堕天使らしくない。

 

「しっかしまぁ、幼馴染みのわりに大したハプニングにもならなかったわな。」

 

「…なに、また殴られたいの?」

 

そういって善子はさらに分厚い辞典を取り出した。

 

「はぁ?何してんだお前!」

 

「まださっきのこと覚えてるみたいだし…」

 

「だったらなんでそんな格好してんだよ!」

 

もしかしてコイツ、気づいてねぇのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「だったらなんでそんな格好してんだよ!」

 

アイツがまだ何かを言っている。

 

「?なによ、部屋着だけど。」

 

別に透けるような素材でもない。何を言い逃れしようとしているのか知らないけど、また眠ってもらわなきゃいけないみたいね。

 

「下!下!」

 

下?そう言われて私は下を向く。

上のTシャツ、その下には足が見えていた。

…足?慌てて後ろを振り向く。そこには、履こうとしていたボトムが無造作に落ちていた。

絶句する。なぜ履いていないの?慌てて思考を巡らせる。そうだ。彼が半裸で寝ていたからブランケットをかぶせようとして、上を着たタイミングでブランケットに手をかけたのだ。そのせいでボトムを履くのを忘れていた。

 

「…アンタ、覚悟はいいわね。」

 

「やめろ!元はといえば善子のミスだろ!俺のせいじゃねぇ!」

 

「…たとえ誰が悪かろうと、女の子の下着を見た人間は断罪されるのよ…」

 

「嘘だ!これは冤罪に近い!不公平だ!」

 

言うやいなや彼はベランダを飛び越え自分の家へと戻る。小賢しいわ。

 

「…ぅぅぅぅううううるさぁぁぁぁい!」

 

手元の辞書を投げつける。彼の後頭部にクリーンヒットした。ふらふらとした足取りで部屋に戻ると、ベッドの方に体が倒れた。

 

「はぁ、はぁ…」

 

私もベッドに向かう。枕に顔を埋める。記憶なら私も消したい。むしろ消えて欲しい。なぜ今日はこんなにも不幸なのか。

…彼にとっては、幸運なのか、不幸なのか。

慌てて考えるのをやめる。なんてことを考えてるの私は…!

頭がショートしそうだ。なんだか今日はどっと疲れた。帰ってからすぐ寝たはずなのにこんなに疲れるとは思ってもなかったわ。

開けっ放しの窓を閉じようと向かうと、足元にジャ〇プが落ちていた。よほど彼が慌てていたのだろう。またこれを取りに来るのかしらね…。

 

「…ふふっ。」

 

ジャ〇プを本棚に戻す。なんだか笑えてくる。本来なら大変なことなのだろうけど、幼馴染みだから、彼だから許せてしまう。なぜだか憎めない。そこが憎たらしい。

明日から練習頑張らないと。彼に後悔させてやる。アンタが見たものはトップアイドルのモンなのよって言えるように。

 

「善子ー!夕飯できたわよー!」

 

「はーい!」

 

部屋の窓に鍵がかかっていることを確認して部屋の電気を消す。こんなお色気パートは充分だわ。

私の物語の、不幸と、それを少し上回る幸福を祈る。今日みたいな不幸の分、これから大きな幸せが待ってるはず。

私の物語は、続く。




お読みいただきありがとうございます。
これまで3回の鍵のすけ様主催企画に投稿させていただきました。
この企画を通して、サンシャイン!!の世界をより1層好きになることが出来ました。感謝しかありません。
また、他作家陣の皆様の素晴らしい作風に埋もれないようにと前2回はおかしいものを書いてしまいました。後悔はしていません。反省はしています。
今回のテーマ、私には少し難しかったので、逆にふざけることも出来ず、少しだけ真面目に書きました。

これからも、サンシャイン!!をはじめラブライブ!の更なる発展を願っています。
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