ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――通り過ぎて』 作:鍵のすけ
「んー涼しい~、外の暑さったらないわね全く」
その日は天気もよく空は快晴、恨めしい程に晴れ渡る青空のもと私は、堕天使ヨハネはとある本屋に来ていた。
その本屋は色んな本が置いてあって私もよく利用している近所でもそこそこ有名なお店だった。そして今日の私にはあらかじめお目当ての本が決まっている
「さてと、それじゃ早速いつものコーナーに――げっ!」
意気揚々とオカルトコーナーに向かった先で見知った顔を見つけ思わず声を上げてしまった
「ずら丸!?なんでこんな所に、今まで一度も知り合いと出くわしたこと無かったのに」
距離があったため幸いあちらに声は届いていなかったよみたい、ずら丸こと国木田花丸はこちらには気付かず、なにやら真剣な表情でオカルトコーナーの本を眺めている
「それになんでオカルトコーナーなんかに居るのかしら、ちょっと様子を……あ!」
しばらく様子を見ようとした矢先、彼女の手に取った本の表紙が目に入る。『黒魔術~悪魔学の基礎知識~』と書かれたその本こそ私が今日買いに来た本である!急いで視線をずらして本棚を見るも同じ本は無い、つまりその一冊が最後ということで――
「その本ちょっと待ったぁああああ!!」
「ずら!?」
気が付いたら飛び出していた。いつもはこういう所に居るのを知り合いに見られないように気を付けているのだけど、数日待ってた本が売り切れると思い焦ってしまった。
「よ、善子ちゃん?ビックリしたずらぁ~。それで、この本がどうかしたの?」
「えっと、その、ずら丸もその本買いに来たの?」
今まで何度かこういう本を買いにお店を巡ってるけどずら丸の姿は見たことないしいつも読んでるものだって物語性のある本ばかりだったと思う。なら自分と同じように目的のものがあったんじゃないか、そう思ったのだけど
「ううん、私はたまたま手に取っただけ。私もって事は善子ちゃんはこの本を買いに?」
「そう、だけど……」
「じゃあはい、この本は渡しておくね。私はもう少し見て回るから」
「あ、ちょっと!」
止めるのも待たずに彼女は本を善子に渡して行ってしまった。
追い掛けようと思ったが少し騒ぎすぎたため周りの注目を浴びてしまっていたので、そのままレジを済ませて一度店の外に出た。
「あれ、待っててくれたずら?」
「途中まで道同じなんだからついでよ、ついで」
「そっか、ありがとう善子ちゃん!」
「あと、善子っていうな!」
そんなこんなでしばらくして店から出てきた彼女と歩き出す。
「それで、ずら丸はどうして――ん?」
他愛もない話をしながら歩いていたが、顔に何か落ちてきた感覚に顔を上げる。本屋に入る前より増えている雲とそこから連想される嫌な予感に従ってずら丸の手を取り走り出す。
「善子ちゃん?どうした……の!?」
「ちょっと走るわよ!」
説明する時間も惜しい、こういう時の私の運の悪さは残念ながら折り紙つきだ
「ほ、本当にどうしたの!?」
「いいから走って、凄いのが来るわよ!」
「凄いの?一体何の事――あっ」
そうこう話しているとポツリ、ポツリ、と何かが顔に落ちてくる感覚は次第に多くなってくる。ここまで来て全てを察した彼女も走る速度を上げる。
そして数分後には急な雨に降られてびしょびしょになった姿で私の住むマンションの前に立っていたのだった。
「うぅ、神様もヨハネが可愛いからって嫉妬するのは大概にして欲しいわね」
「なんでそういう結論になったかは分からないけど大概にして欲しいのは同感ずら……」
予想外の夕立に愚痴を言いながら私の部屋の扉を開けようとした時、丁度隣の部屋の扉が開いた。
開いた扉から出てきたのは一人暮らしを始めるときに挨拶した事もあるお隣の男性、多分大学生くらいだと思う。
「こんにちわー、雨降ってますけど今から外出ですか?」
「あ、お隣の。ええ晩御飯の買い出しに……っ!?あ、あのっ、ごめんなさい!失礼しました!!」
初めて会うわけでもないしご近所付き合いも大事かなと思い、声をかけたのだけど相手はこちらを見るなり慌てて行ってしまった。
「何なのよ、こっちを見るなり逃げるように行っちゃって。失礼しちゃうわ」
「えっと…善子ちゃん、服……」
「服?――あっ」
言われて気付く、先ほどの雨で服はびっしょり濡れている、というのがどういう事か
「下着、透けてるずら」
つまりそういうことである
「あ、あ、あぁぁぁああああ!!!?」
見られたって気付いたら顔から火が出そうだった、恥ずかしさから逃げるように部屋へ飛び込み扉を閉めた
「待って善子ちゃん!まるも入れて!!風邪引いちゃうずら!!」
「もうお嫁に行けないぃ!!」
結局もう片方のお隣さんから怒られるまで続けてようやく落ち着きを取り戻した私は、彼女を部屋へ招き入れた
「お風呂ありがとうずら、それに洋服まで貸してもらっちゃって」
「先に入らせてもらったし気にしないで……」
濡れたままでは風邪を引くだろうということで服は洗濯してお風呂で温まる事にした。私の事はいいから先に入ってきて、という彼女のお言葉に甘えて先に入った私はお客様用のコップと麦茶を出しておいた。なにかしてないとさっきの事を思い出して――ダメダメ!考えちゃダメよ!!
「それにしても、善子ちゃんも普通の洋服持ってたんだね」
そんな事を一人で思ってると、私が貸した服を見て意外そうな声を上げる彼女の声が耳に入る
「ちょっとそれどういう意味よ!」
「いやぁ、いつもコスプレみたいなのを着てるイメージだったから」
「私だって普通の服くらい持ってるわよ!」
「普段普通じゃない自覚はあるんだ」
これって一応私を元気付けようとしてくれてる……のよね?そうよね?
そんな風に話をしながら雨が上がるのを待つ。と、ここで気になっていた事を聞こうと思い立つ
「ところでさ、さっきの事だけど」
「さっきのって部屋の前での事?」
「それはもういいから!本屋での事よ」
「本屋?」
「えーっと、オカルトコーナーにいるなんて珍しいじゃない?だからもしかして買いたい本が決まってたんじゃないかって。もしこの本がそうならこれはずら丸に渡すわ」
そう言って先ほど本屋で買った本を取り出す。
本当は私も読みたいけど、もし彼女もこの本が並ぶのを待っていたならその気持ちは私にもよく分かるからこの本は譲ろうと、帰り道で思っていた、
「あぁ、その事なら大丈夫ずら。理由は、えっと……笑わない?」
「面白かったら笑うわ」
「酷いずら!?」
部屋に来てからからかわれっぱなしだったからちょっと意地悪な事を言ってみた、冗談よと言う私に「やっぱり酷いずら」と頬を膨らませながらも話を続ける
「善子ちゃんっていつも難しい本を読んでるでしょ?」
「あんたに言われたくないわね」
「もう!今は善子ちゃんの話なの。それでね、折角こうして再開してまた仲良くなれたんだからもっと善子ちゃんの事が知りたいなって思ったの。それで善子ちゃんが読んでるような本を読んでみようかなって思って今日はあそこに居たんだ。まさか本人も来てるとは思わなかったけど……あの、善子ちゃん?」
「……」
……なによそれ、つまりずら丸は私が読んでるような本を探してあの店に来たっていう事?私が読んでるのがどんな本か知るために?なによそれ、そんなの笑えるわけ無いじゃない、そんなの――嬉しいに決まってるじゃない
そう思ったら体が動いていた、奥の部屋に行き数冊の本を取って戻ってくる
「これ」
「え?え?」
「これを読んでって言ってるの!物語風になっててずら丸が読みやすそうなの選んだから読んだら感想聞かせなさいよね!!」
「善子ちゃん……」
「な、何よ!私だって嬉しかったしこのくらいはしてあげるわよ!その……あ、ありがとう」
「善子ちゃーん!!」
「いたっ!ちょ、離れなさいよ!」
結構な勢いで飛び込んでくる彼女を受け止めきれずにしりもちをついてしまう。
なによ、飛びつきたいのはこっちの方だっていうのに
「ほら、雨も上がってるわよ。もうそろそろ帰らないと遅くなるから」
「うん、分かったずら。これ読んだら返しにまた来てもいい?」
「……勝手にしたら?」
「うん!」
スクールアイドルに続けてまた楽しみが増えちゃったな、雨上がりの綺麗な空を見ながらそう思った。