黎凪君のストレスがマッハ。
「今日の授業はここまでな。次回までに宿題やってこなかった奴にはもれなく成績ダウンという景品が付くからなー。注意しろよ。一切の手心なんてやらねぇから」
キーンコーンカーンコーンとお決りのチャイムが鳴り、生徒たちが一斉にその身体を弛緩させる。こっちもこっちで最後に言いたいことだけを言ってトントンと教科書を片付けた。
教室から出て廊下を歩いていると、ついつい欠伸が出てしまう。やはりここ最近の寝不足が響いているようだ。これ以上変な奴らがここに来るというのであれば引っ越しを視野に入れなければならないかもしれない。
自宅にも変な宗教団体が来るようにもなってきたし。「貴方の力で世界を変えませんか?by英雄派」とか絶対やばい奴に違いない。
職員室にて、別のクラスでの授業の準備を行う。最近では兵藤がオカルト研究部に入ったおかげでセクハラに対する苦情も少なくなったためにこうした時間がゆっくりと取ることができる。
これはかなりありがたいことだった。アイツらどれだけ言っても聞きゃしねぇし。停学くらいにしたかったんだが、あまり注目を集めるのはよくないということで上の方から圧力かかるし物凄いストレスだったんだよ。
平和で大変よろしい。と考えていたところで、職員室の扉がノックされた。そうして入って来たのは俺が担任を務めるクラスの生徒で何より問題児集団オカルト研究部(主観)に所属している塔城だった。
「すみません。黎凪先生いらっしゃいますか?」
「んあ?俺ならここだが、どうかしたのか塔城」
どうやら俺を探していたらしかった塔城に声をかけると彼女はその小さいからだに似合った歩調でちょこちょことこちらにやって来た。そして、滅多に変化させない表情を変えながら口を開く。
「今日やった授業で分からないことが……」
「何?塔城にしては珍しいな。いつもはわからないままにしておいているみたいだが……」
「…………別に。思ったよりみんな出来てて一人だけ悔しい思いをした、というわけではありませんよ?」
したのか。悔しい思いしたんだな。
視線をそらしながら段々と小声になっていく塔城にジト目を向ける。こいつら基本的に夜は悪魔として活動しているから元々勉強が得意じゃないやつは結構ギリギリなラインをいっている。兵藤や塔城はその典型だな。最も兵藤は元からいい方ではなかったが。
直接深夜の活動が原因だと言ってやりたいところだが、そこは悪魔であり下級悪魔であるため仕方がないと言えば種族的に仕方がないのだろう。こっちとしては、学生らしく学業に支障が出ない程度にしてほしいが、彼らは将来グレモリーの下僕として過ごすから就職のこととかは考えてないのかね。
「………なるほど。ありがとうございます」
「これが仕事だ。気にすんな」
「なら口調も改めた方がいいのでは?」
「こればっかりは直んねぇんだよ」
本当に、生まれ変わってから敬語がまともに使えたためしがない。使おうとしても勝手に口からため口や汚い言葉に変換されて出てくるのである。おかげでこの場所しか受からないかった。これは当初結構いたいハンデだった。今では気にならなくなってしまい、むしろ思考の方も侵食されつつある。
「いつかクビにならなければいいですね。それでは失礼します」
用が済んだらしい塔城は職員室を出ようとするが、その直前で何かを思い出したらしく再び俺の方へと戻って来た。そして、俺の顔に自身の顔を近づけて小声でこう言った。
「最近は、物騒な人がいるらしいので、夜道には気を付けてください」
それだけ言うと今度こそ本当に塔城は職員室を出ていった。
……物騒な連中っていうのはおそらくこの街に侵入してきている烏たちのことだろう。奴らは最低限の人払いくらいはするが、それを通り抜けてきた相手は殺して口封じを行うという典型的な脳筋である。特にここに侵入してきた下級たちはその傾向が強い。それをグレモリー達もようやく掴んで、知り合いに忠告しているのだろうな。奴らから見て俺は一般人。巻き込まれたら面倒だからな。
そんなことを考えつつ、再び授業の準備に戻ると、同僚の一人から小声で
「……野水先生はロリコンか……」
「誰がロリコンだゴラァ!」
とんでもなく失礼なことを言われたので、思わず怒鳴ってしまった。
しかし、これに関して俺は悪くないと思う。いきなりロリコンかとか言われてしまった俺の悲しみはこんなものではない。塔城と話していたという部分だけピックアップされたことでほかの人にもそう訊かれた俺の悲しみはそんなものでは、なかった。
――――――――――――――
塔城の忠告も虚しくあたりは真っ暗。学校から幽霊でも出そうな雰囲気が漂うくらいには夜になっていた。最も、この学校には悪魔が通っているんだ。いまさら幽霊くらいで驚いたりはしないけど。
見回りを行い、オカルト研究部以外の人間が帰っていることを確認した俺も荷物を纏めて学校を出た。
空には美しい月が浮かんでおり、街灯は少々心もとない光を出している。
そんな中、今日は珍しくからまれることもなく普通に帰れそうだとスキップしたくなるような心持で居たのだが……それがフラグだったのだろう。
背後からぶつけられた殺気に気づき、前に転がる。すぐに体を起こして反転させるとそこには月の光を反射させて光っているように見える銀髪を携えた神父服の人が光る剣を振り切った状態で立っていた。顔は下を向いているため見えないが、唯一つお友達じゃないことだけはわかった。生まれ変わってこの方友達なんてできたことはないからな。
「……なんだてめぇ」
警戒をしつつ、攻撃を仕掛けてきた人物に問いかける。
すると、その神父服の男は整った顔を勿体ないくらい歪にして高らかに語り掛けた。
「会いたかったですよぉぉぉおおお!!
狂ったような叫び声を上げて再び襲い来る襲撃者、その時上げた顔が月の光に照らされはっきりとわかった。
「てめぇは……」
「思いだしてくれましたですかァ!?それはそれはとても嬉しいザンス!私、一度もあんたのことを忘れたことはありませんですよォォ!!」
何やら感極まっているようだが、残念ながら俺はこいつのことを全く知らない。俺だって様々なところに出向いて色々な連中と戦ってきたのだ。こいつみたいなやつそこら辺にウヨウヨいた。一々覚えない。
そんなことを考えつつ、俺は右腕の力を開放する。
「起きろ
言った瞬間右腕を中心に黒い渦が巻き起こる。そしていつもの服装と大剣を出現させると、光の剣をたった今生み出した大剣でガードした。そのまま、相手の左腕に持っていた銃を蹴りで腕からはじき飛ばす。流石に銃器を使われたらきついからな。
「やっぱりだ!似たような容姿だったから、適当に襲ってみたんだがあっていたようで何よりザンス!………てめぇには借りがたっぷりとあるんだ。ここで清算させてもらうぜェェェエェェエエエエエ!!」
「うるせぇな。大体俺は、テメェなんか知らねえ。つーか誰だ」
俺の言葉を聞いた男は目を限界まで見開いた後に、近所迷惑と思えるくらいの声で叫び散らした。
「ハァァァァアアアア!!!???何言っちゃってくれてるんですかァ!?ボクちんは一度も忘れたことなんてなかったんですよォ!?こんなに想っているのに忘れるとか脳みそからなんじゃねぇかテメェ!!」
「知るかバーカ。お前みたいな輩は山ほどあって来た。一々顔なんぞ覚えてられるか。……つーか、俺は今機嫌が悪ぃんだよ。今すぐ失せろ。ブッ倒されないうちにな」
「それこそ望むところだってんですよぉ!」
説得にも応じない銀髪の男、技術を感じる剣戟で俺のことを殺そうとしてくるが、所詮は人体の限界を超えることはできないほどの速度だ。
腐るほど人外と戦ってきた俺にはぬるすぎる。
「そうか、じゃあちっとばかり寝てろ!」
剣戟を大剣で受け止め、力強く押し返すことで隙を作る。
大剣を腰にぶら下げなおし、俺は
「な、なんだ!?」
拘束されている隙を突き、今度は狼の顔をかたどった闇を纏った右腕を先ほど左手をぶつけた場所に振るった。
「ヘルズファング!!」
「ぐっは……!?」
攻撃をぶつけた瞬間、影による拘束を解除し衝撃のままに吹き飛ばす。一応ここは住宅街なので誰も人がいないようなところに吹き飛ばすという配慮を行ったが多少の被害は勘弁してほしい。こっちは結界なんてものは作れないんだから。
「余計な手間をかけさせんな。しばらくそこで寝てろ」
先も言った通り結界を張れてないことからこの騒動は周囲に丸聞こえだ。ぱっと見こちらのことを見ている視線はなかったが、何時誰が覗くかも分かったものではないし、グレモリー達が来たらかなり厄介なのですぐにその場を立ち去った。
はぁ、今日も平和じゃなかったか。ま、今回はフラグを立てた自分が悪いとしよう。
俺が銀髪のイカレ神父に襲われた数日後、金髪の少女が転入してきた。
名前をアーシア・アルジェントといい、どうやらグレモリーの関係者らしい。この転入も結構な無理をしたものだということがわかった。
………一応クラスは兵藤と一緒ということで直接的なかかわりはないと思うが、面倒事が一つ増えたと考えていいだろう。色々偽装するこっちの身にもなれっていうんだよ。
今度、生徒会長の支取を呼び出して注意を促してもらおうと決めた俺だった。
実は黎凪、ソーナには普通に悪魔とかを知っている人間だとばれています。
というか初めからそういう体でこの学校で働いています。
いくら催眠があるからと言っても何の事情も知らない先生ばかりではあの行動の数々は成り立たないと思うので、理事以外にもそれっぽい教職員を何人か雇っているという設定です。
ちなみにそのことをリアスは知りません。理由?ソーナの方が確実にしっかりしているからです。