そろそろ胃薬を買うべきか
グレモリー達が帰って来た。そして、とんでもなく厄介な連中がこの街に入って来たのも見た。俺は引っ越したくなった。だから――――
「すまん。支取、やっぱ引っ越すわ」
「考え直してください先生っ!」
とりあえず世話になった支取に最後の挨拶をすることにした。一方唐突にこんなことを言われた支取の方は困惑気味である。まぁ、それはそうだろう。急に知り合いが引っ越すとか言い出したら焦る。それが自分と苦労を分かち合っているなら尚更だ。
とても必死に俺をとどめる支取を見ているとやはり彼女は天使ではないかと柄にもなく考える。ホント、疲れてんな俺。むしろ憑かれてると疑うレベルだけど。
「けどよ。この前だけでかなり面倒な奴がこの街に入り込んだぞ」
「そ、それは?」
「街中うろつくには目立ちすぎる、というか唯の不審者だった銃刀法違反者の教会の人間とイカレ神父に大烏」
「先生。名前で言ってください」
「コカビエルがこの街に来た」
「―――――――――――」
支取は絶句している。
まぁ、それも当然だろう。
コカビエル。聖書にも記される堕天使。昔の大戦を生き抜いた堕天使の幹部らしいからな。光が苦手な悪魔としては相手したくない相手だろう。しかもこの街にいるのはまだまだ雑魚なグレモリーと支取達、正直このままだと十中八九終わる。
まぁ、逆に言えばこのコカビエル以外は雑魚なんだけどな。聖剣使いはその表情から自信に満ち溢れすぎてて自分の実力をわかってない。イカレ神父も新しいおもちゃを手に入れた子どもみたいな表情を浮かべてやがった。どれもこれも戦うまでもねぇ。
「……それは間違いないのですか?」
「できれば俺も間違いであってほしかったぜ……」
勝てないことはないがめんどくさ過ぎる。少なくとも、グレモリー達に身バレする覚悟が必要だ。いざとなったらやるけど、ぶっちゃけそこまで乗り気じゃない。俺が積極的にあの大烏とことを構える理由はないからな。まぁ、この街をぶっ壊すとか、この街を戦場にしようってんなら話は別だが。
「このことは魔王様に報告しておいた方がいいでしょうか」
「しとけ。これは流石に無理だろ。魔王がお前の言うくらいシスコンの集まりならすぐ来るだろうしな」
本当に、あのシスコンっぷりならすぐに飛んでくるだろうよ。
ついでに色々な面倒事も全部片付けていってくんねえかなあのシスコン。そろそろ給料アップを狙ってもいいくらいには働いていると自負しているんだが。今度打診してみよう。
「しかし、ここは私たちが……」
「馬鹿かてめぇ。ここで問題が起きればお前らだけじゃなく俺達までやべぇんだよ。特にここの生徒は、悪魔が運営している学校に通っているんだ。他よりも狙われる確率は高ぇ。変な意地張ってると、取り返しのつかねえことになるぞ」
「………」
俺の言葉に黙り込んでしまう支取。別にこれが唯のはぐれ悪魔とかはぐれ神父とかならここまで気負う必要はないんだがな。よりにもよってコカビエルときたからな。ったく、こんなところにちょっかいかけるとかどんだけ暇なんだよ堕天使幹部。
「そう……ですね……。すみません。危うく取り返しのつかないことになるところでした」
「気にすんな。これも仕事だ」
それに俺にだってメリットはある。
悪魔は基本的に実力をスルーしてプライドが高い。例え自分の方が圧倒的に弱くても口だけは達者な連中がその辺を闊歩している。昔、仕事で知り合った連中はどいつもこいつもそうだった。
そんな中、支取みたいな天使のような悪魔が育てば多少はマシになるかなーと考えているのである。幸い、支取は貴族と言ってもいい家系だしな。
話がずれたが、支取は魔王に連絡するらしいので席を外す。ついでに俺も仕事のほうが終わったのでお暇することにした。
本当にトラブルに事欠かない街だと思う。マジで。どうにかしてくんねえかな。今まで散々引っ越してぇとか言ってるけど実際は謎の力が働いてて町の外に引っ越せねえんだよ。だから、この街平和にならねぇかな。
――――――――――――――――
「リィィイイイイベリオンちゃんよォォオオオオオ!!再びこの私、フリード☆セルゼンがやってきてやりましたよォ!アヒャヒャヒャ―――オブッ!?」
「うるせぇ」
放課後。
相も変わらず不意打ちをかましてくるイカレ神父を撃退する。こいつ本当にしつこいな。
「グヴヴ……愛{相?}も変わらずの塩対応……これがツンデレってやつなんですねェ!」
「ったく、またテメェかイカレ神父。いい加減諦めろよ。こちとらテメェみたいに無職じゃねえんだよ。仕事があるんだよ。アンダースタンド?」
「OH、YES!アンダースタンド!!」
と言いながら再び剣を振るう。
全然アンダースタンドしてないんじゃなねーか。何一つとしてわかってねえよ。理解する気もゼロだろこいつ。
心なしか前回戦った時よりも早くなった気がする剣戟を避けつつ、右腕を開放する。服を着て、剣出して戦闘態勢を整えると、早速腰に下げていた大剣を使ってイカレ神父の剣を受け止めた。
……よく見たら剣の形が前回のライトセイバーから意味不明で理解不能な造形の謎剣に代わっていた。よくそんな使いにくそうな剣使えんな。
「ハァー……。おい、今すぐ失せろ。じゃねーと、本気で殺すぞ」
「殺すぅ?殺す!?……ぶわっはっはっは!!やってみろよ!今の俺を捕らえることができるならなァ!」
ゲス顔で吐き捨てたイカレ神父は先程とは比べ物にならないくらいのスピードを俺に見せつけてきた。どう考えてもこの短期間でここまで早くなることは無理だ。そうなると―――――
「その変な形の剣か」
「イェス、イェス!イェェェッス!!これは僕チンの新しい剣、その名も
「はぁーっ……。後悔しても知らねぇぞ」
まったく引く気がないイカレ神父にもう色々面倒になった俺は、速攻で終わらせることに決めた。
「ブラッドカイン」
右腕の捕食者の能力を少し引き出す。すると黒いオーラが全身を包み込み、自分の身体能力が上がるとき特有の全能感が駆け巡る。
さっきとは比べ物にならないくらいに上昇した身体能力でイカレ神父の居場所を捕らえると、振りかぶった聖剣(笑)を右腕で掴む。
いくら昔、どれだけ強い聖剣だったとしても今は折れて別れ、しかも人間が再錬成したとなれば不純物がそれなりに交じっていることだろう。つまり昔ほどの強度も効果もないわけだ。だから、
右腕を自分の身体に似合わない大きなものに変える。
黒くとげとげしい俺の右腕はその部分だけ人間ではなく、どこかの悪魔から奪って取り付けたような不釣り合いさを醸し出していた。
「闇喰い」
聖剣(笑)をつかんでいる腕から数えるのも馬鹿らしくなるくらいの影が飛び出し、イカレ神父の身体を貫いていく。幾百、幾千、幾万の影を喰らいボロボロになったイカレ神父。ついでに止めとして聖剣(笑)の方も折っておく。
右腕に力を入れ、割れてかけらとなった聖剣を右腕で喰らいつつ、体のいたるところから穴をあけ、血を流しているイカレ神父を見下ろす。
「ぐぞ……伝、説の聖剣、の、癖に……」
「バーカ。聖剣がいくら強かろうが、使い手が雑魚じゃ意味ねえだろ」
ま、聖剣自体もそこまで強いものじゃなかったし。どちらにせよ俺を殺すには届かなかったな。
「さて……俺は言ったよな。次は殺すって」
「ぐっ、こんな……ところで、死ねる、かァ……!」
「そうか」
俺には関係ないけどな。
鋭い視線で見上げてくるイカレ神父の頭を左手で持ち上げ、体が地面につかない高さまで持ち上げる。
余った右手で大剣をつかんで持ち上げた頭の前まで持ってくる。そして、そのままイカレ神父の頭に突き刺した。
――――――――――――――――
イカレ神父を片付けて早数日が経過した。
この数日間割と平和な俺はもはやここをリスポーン地点にしたんですか?と言われても仕方がないくらいに入り浸っている生徒会室にて、いつものごとく仕事をしながら支取との雑談タイムに入っている。ここ最近ずっと来ていたからか、生徒会の奴らもちょくちょく会話に入ってくるようになった。
「そういえば、今日は教会の聖剣使いがここに来る日ですけど、覚えてますか?」
「あー……覚えるっちゃあ覚えているがな。ぶっちゃけ心配なんだよ」
「?何が心配なんですか?」
最近話しかけてくれるようになった生徒会の奴らその1である匙が俺にそう問いかけてくる。それに関して俺は簡単に返してやった。
「基本的に、三すくみの連中は仲がわりぃ。教会は天使陣営だから悪魔との相性は最悪といっても過言じゃねえ。そんな奴が聖剣携えて会いに来るんだぞ?グレモリーはグレモリーでプライド高いし、部下は主人に似たのか脳筋よりの連中ばかりだ」
せめて、校舎の中で争うのは勘弁してほしいと俺は切実に願っているのだが、自分でも正直それは無理だと諦めている。遠目で見た感じではあるもののあの聖剣使い達も脳筋っぽかったから、まぁ無理だろな。
こんなことを考えている間に本人が来たらしい。
正直、面倒事と不祥事だけは起こさないでほしい。
学校の中を歩いてもいいように来客用の腕章を用意しつつ、俺はそう考えた。
殺る時は殺る主人公です黎凪は。ただし苦労人だ。