[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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士官学校
プロローグ


唯退屈であった。

生まれは下級貴族であるギレル=リバースは高い術式適正のおかげでこの士官学校では大した苦もなく過ごしていた。

そんな折に起きたのがのちにイカルガ内戦と呼ばれるものだった。

 

「能力のたかいやつらは皆、収集されている。」

同じ部隊に配属していた奴はそう言っていた。

多分、学友も配備されたのだろう。彼は祈るようにそう繰り返していたのだ。

僕たちの配属していた航空部隊の作戦は魔操船からの遠距離攻撃による敵の掃討であった。

この作戦は制空戦力の低いイカルガ連邦を打ち倒すために効果的な作戦であり、術式の分劣る敵の心を折る作戦の要だったのだ。

作戦時刻が近づき僕も自らの武器である弓の形をした魔道書を取り、戦いに備えていた。

 

「圧倒的だ。」

思わず泣き出しそうになっていた。

見下ろす限り火の海で引き絞り、放つたび人が死ぬ。

だんだん体が言うことを聞かなくなってきた。

殺している。なぜだろうか学校より頭を使えているように思えた。

だが、楽しくない。涙で前が見えないはずなのに弓を引き絞り続けた。

嗚呼、あそこで味方が死んでいる。

おお、敵の命を飛ばしたぞ。

人は死んでしまう、この地獄の中では。等しく死んでしまう。

だから殺さなきゃ。

 

「もう引いたのか。」

誰かがそう呟き、隊の皆が気を抜いたその瞬間であった。いつの間にか隊長の首が飛んんでいた。

イカルガの忍者だ。その特徴的な服装と摩訶不思議な忍術で人を殺める種族だと聞いたことがある。

今、目の前で急に消えて、既に三人をも殺しているコイツのことだ。地獄がまた生まれていた。

気がつけば僕は逃げていた。

 

ここで終わるのか。

それともまた逃げるか。

眼前に居る先ほどの忍者はその黒い服を一滴の赤でも染めていない。

実力の差だけがはっきりと分かった。

「質問に答えれば見逃してやる。」

そう言われて、首を縦に振ることをせず術式を引き放った。

「なぜイカルガに侵攻した。」

そこにいたはずだった忍者は背後に回っていた。ここまで圧倒的なのか。

「知らない。僕は唯の下っ端だ。」

答えたと同時に首を掴んで締め上げられた。この時初めて忍者が女性であることを理解した。酷く動揺している。

「下っ端があれほどの戦闘力を持てるはずがないだろう!嘘ばかり吐いているならば本当に殺すぞ。」

「学生兵は学校の成績優秀者のみが参加させられているためだ。…それとあくまでも私的な見解だが今回の作戦は統制機構による見せしめだと思う。」

「そうか、済まなかったな。頭領にも知らせなければ。」

僕は足から力が抜けて座り込んでしまった。いつの間にか女に刃物で刺されていたらしい。

「そうだよな、これでこそ戦争だ。これだ。この痛みだ。でもさぁ負けちゃだめだよ。僕を、ギレル=リバースを示してくれる才能がさ。あんな女に劣ってる訳がない。今度は僕が首を締め上げてやろう。そうなんだよ、そうなんだ。………」

遠のく意識の中でやっと理解した。

こんな事でしか愉しめない僕はきっと壊れてしまったのだ、と。

 

この戦争は勝利したらしい。

いつの間にか病室にいたが、そのことは起きてすぐに知らされた。

他には、あの魔操船で生きていたのが僕一人だけだったこと。

それと士官学校卒業後に航空部隊に中尉として配属される事となった。

その事を教えてくれた人は最後に学生兵からも死者が出てしまったが気に止めないよう、と言って部屋を出て行った。

まだ戦えるその舞台はあるのだと、こみ上げてくる何かが空っぽの自分を満たしていくのを感じた。

「早く術式を知りたいもっと強くなりたい。這い蹲るのは僕の方じゃない。」

強者ともっと戦いたい。長く戦えるようにしなくては。

唯、倒してはつまらないのだ。戦わなければ意味がない、正面を切ってぶつかり、その上で頭を使わねば。そして、分からせてやるのだ。僕の才能を。

その日、世界が終わる夢を見た。

 

 

数日後、術式の研究をしているとルームメイトに声をかけられた。

「随分と人が変わったじゃないか。何か思う所でもあったかい。」

この男はジン=キサラギ。十二宗家の一つであるキサラギ家の人であって類稀なる才能を持ち、常人では使うと気が触れてしまう事象兵器という強力な兵器の一つで全て凍らせる力を持つ氷剣ユキアネサを使用可能である化け物じみたやつである。

「戦うためだ。それ以上でもそれ以下でもない。」

包み隠さずそう言った。本来こいつと僕は何も隠し事をせず、思ったことのみを話し合うのだ。

冗談だってもちろん言うし仲は良い。

孤高の天才は強くひかれあうのが世の常だ。

理解されるのは安心できる。

「そうか、君らしくなって来たな。」

ジンも時々訳のわからないことを言う。曰くなんとなくわかるそうだが、それが面白い。

何もかも見透かしているようだ。見透かしているというより見下している、の方があっているがな。

そんなどうでもいいことを考えているとジンが思い出したかのように言葉を続けた。

「そういえば、明日の祝勝パーティーに君も呼ばれているのだろう。」

祝勝パーティーなんて行っても意味がない。むしろ、なぜ呼ばれたのかも怪しい。

「まあそうだな。イカルガの英雄と違って表彰はないけどな。」

そうだ。こいつのように活躍したのならいいが、僕は戦ってもいないのだ。ただ殺すだけなら誰でもできる。

「おいおい、止めてくれ。好きで呼ばれている訳じゃないんだ。それに君だって有名だろう。」

まあなんでもいいか。ジンに一言、声を掛けてからベッドに横たわった。

 

 

また夢を見ている。

夢の中の僕は只管に階段を駆けている。

誰かを必死に探している。親とはぐれた子供のようだ。

やがて部屋へたどり着くと、一方的な殺しが繰り広げられていた。

虐殺をしているのはバイザーを着けた白い機械のような少女で、何よりも強く見えた。

もう一人の少女は統制機構の服装で確認する間もなかった。

僕の体はその少女を庇って串刺しにされていた。

倒れた僕はその後は泣いている統制機構の少女に済まない、と繰り返ししゃべっていた。

夢の中の僕は絶命して、その場に居た者も、来た者も全ていなくなってしまった。

 

 

それからというもの同じような夢ばかり見ていた。

起きた頃には忘れていて、見ている間だけ思い出すのだ。

結末はいつも変わらず僕があの少女を庇って死んでしまう。そのあとに少女も殺されてしまう。

少女の顔はいつも認識する前に全てが終わっている。

二年が経った頃にはその夢を見ることもだんだん少なくなり、もうなくなってしまった。

 

 

その後、ジンは生徒会長になって僕も生徒会書記になった。

今度、高等部の三年生になる僕たちは新入生を受け入れる準備をしているのだ。

普段はすかしているジンは人一倍、気合を入れており何でも入学するヤヨイ家のご令嬢と面識があるので歓迎してあげたいらしい。

妹のような存在だと言ってはからかわれている。

何気ない日常も案外楽しいと思えてきた。

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