[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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どんな形でも統制機構の支部に主人公が行ったらバッドエンドです。
という訳でCTの分はこれで最後となります。
感想お待ちして居ります。


バッドエンドルート其の一

 人の波を掻き分けながら走る。

 中々に賑わっているせいで思うように距離が詰まることは無かった。僕は今、稀代の犯罪者、史上最大の賞金首である。ラグナ=ザ=ブラッドエッジを追っている。事の始まりは、任務をこなす為に聞き込み調査をしていた時のことだった。術式の確認の為、空を飛んで捜索をしようかとも考えたのだが、大佐に言い渡されていた期日は今日まででは無かったので、急がずとも差支え無く。奇異的な視線を浴び続けるのも、気が引けたのだ。その時に、人だかりが出来ていたので駆け寄って見れば、食い逃げが出たと言われて、断る訳にもいかず、捕まえるために詳細を聞いて居た。唯の食い逃げだと高を括っていたのが抑もの間違いだったのだが、追いかけて視界に入った赤い服、白とも銀とも言えぬ髪の色、背後に携えた剣。それらを見た瞬間に脳が麻痺したのだ。捕まえて功績をあげたい訳では決して無かった。

 無差別に統制機構の支部を襲っては壊滅させる。その行動が許せなかったのだ。当然、人だって殺される。運良く、もしかしたら情けだけで生かされているだけ何かも知れない。が、残った衛士の結末は、刑罰に課せられるか、運良くて職がなくなるだけ済まされる。この時代で、職の安定を目指して士官学校に入り、苦節を重ねて、重役に上り詰めた人も、凡才ながらも尉官まで上り詰めようと励んでいた人も居ただろう。

 名誉の死を迎える事が出来たならどんなに良かった事か。落ちぶれて、新しい職場に馴染む事なく惰性で生涯を閉じる。職も見つけられずに餓死。非行に走るなんて多々あることだ。

 犯罪者が要らぬ情けなど掛けるのが抑もの間違いだ。自分で決めたこと、自分の役割を果たせぬ様な余計な物は必要無い。

 要は、気に入らないのだ。だから、僕は任務を半ば放棄してでも追っている。

 

 

 

 

 一応は大佐に連絡をして、指示を仰いだ。

 勿論、提案を蹴られたとしても独断で追う腹積もりでいたが了承を得られて良かった。心残りなく奴を葬ることが出来そうだ。実際は殺す事なく奴を捉える事が出来るならば最善だが、生憎と強力な拘束用の術式は持ち合わせていない。後に控えている報告書を考えると、生け捕りが一番なのだが仕方がない。先程から近くの支部に連絡を試みているが応答は無い。死神、ラグナ=ザ=ブラッドエッジが上層を目指しているので別に起きた事件があるのだろう。

 つまり、僕が今できる最良の行動はつい先程に下水道の様な場所へと進んで行った犯罪者を捕らえる事だ。まずは目の前の事から片付けねばならない。気取られぬ様に遠くから狙撃する。奴の携えている大剣も中々に良い武器であるが、防御したら最後。貫き、一切の動きも許さずにその命を散らすだろう。

「去らばだ、死神。せめて首は残しておいてやる。」

 引き放った瞬間、死神は背中に背負っていた大剣を逆手に持つと、地面擦れ擦れに振るった。僕の矢と、奴が一連の動作で生み出した頭だけの怪物がぶつかり合った。斬撃にしては大きすぎるそれは絶対的な威力を以て、此方の必殺の一撃を相殺した。

「さっきから人のことジロジロ見やがって、出て来いよ。磨り潰してやる。」

「大人しくお縄になる気なんて無いだろう。首だけ貰ってやろうと思っていたのだが、バレていたのか。せめてもの良心だったのだがな、致し方ない。」

 相手の右腕が予め貼っていた障壁に叩き込まれた。距離にして凡そ十m程を一瞬にして詰めて来た事になる。戦闘能力は確かに常人離れしている。そして、無理に追撃をせずに此方に隙を見せず様子を伺っている。

「思ったよりも堅実な戦い方をするんだな。犯罪者さん。」

「俺は急いでるんだ。てめえに構ってる暇なんざねえ。失せろ、図書館。」

 お互いに距離を取り、相手の出方を伺っている。敵は道を急いでいる様で、僕は遮蔽物の少ない地形であるために迂闊な行動は出来ない。奴が先に動くことは自明の理だ。それでも戦いに集中出来なければ命を落とすのは、やはり互いに当てはまることで、未知数の相手では慎重にならざるを得ないということだった。

 時たま、一合、二合と打ち合いをするものの、手札の探り合いに過ぎなかった。分かった範囲では初めの地上を這う赤黒い化け物の頭の様な物を飛ばす攻撃、それを大剣に纏わせる技術、基本身体能力、リーチだ。代わりに此方が明かした手札は、魔道書が弓状であること、空中飛行術、矢が魔素を術式で作っていること、常に防護壁を貼っていることだ。

 相手はSS級の犯罪者で、何処から盗んだのかは知らないが、手に入れた者は多くの富を手に入れるとさえ妄言が膨らむ程の史上最強の魔道書『蒼の魔道書』を所持している。あの大剣がもしそうだとするならば拍子抜けにも程がある。一旦は、どれが相手の魔道書なのかを判断出来ないことには攻めきれない。あのデタラメな地を這う化け物もどきは、蒼の魔道書を使用したものであると推測されるが、中々如何して戦いづらい。

「そこを退きやがれ!」

 走りながら身の丈はある大剣を振りかぶって来る。出鱈目なほどの腕力だ。空中にいる僕に向かって全速力で縦に一閃、剣を振るう。堪らず地に降りて体勢を立て直す。

「まだ終わりじゃねえぞ!カーネージシザー!」

 着地を隙に接近を許してしまった。僕の障壁を打ち壊す横薙ぎが一撃目、無防備な僕の胴体を目掛けて振り上げられた剣戟からは想像できなかった量の黒いエネルギー。

 死ぬには至らないまでも大きな衝撃を受けたこの体で戦闘を続行して勝てるか怪しくなる。そんな思考が脳を掠めた時であった。奴の頭上に蠢く黒い何かを見た。

「見つ た 。蒼、蒼 。我が喰 ぞ。 れに、あれは んだ。分 らない のが とり。いい、 えば、 かる。 う。喰う喰う喰う喰うくう喰う喰うくう喰う喰う喰う喰う!

キヒ、キヒャハハハハハハハハハハ。」

 

 

 

 黒い液体には白い面が浮いていた。目と口の穴という最小限の装飾しかなく、簡素であるが故により異常性を引き出している。アラクネとして手配書も出されていた筈だった。名の由来は、その体に多くの蟲を飼っている、体から甲殻類の脚の様な物が複数見られる。これらの理由だとされている。特筆をすべきことはなく、というのも死神に真っ先に襲いかかって行ったからであり潰しあってくれれば此方としては大助かりだ。

「我には、右も左も前も後ろも上も下も、無いないナイナイ、ナイィ!」

 突如として初めの時の如く僕の頭上に空間移動してきた。体が裂けて口が露出する。全くもってこの化け物の方が死神に板がついている。が、冷静な判断が出来ないのか動きが直線的すぎる。術式を起動して後方へと逃げる。この隙に乗じて死神は逃げおおしてしまった。

 早々に片付けて追わなければならない。

「アハ、ハハハハ、た、タ、高まルゥッ!」

 近くの壁に張り付いたかと思えば、体を文字通り開き、高火力射撃をしてきた。これ程までに持続して続くレーザー兵器は現存していない。見た目以上に化物だ。咄嗟に防護術式を十数枚貼ったが殆どが破壊されてしまっている。一応、防護壁の術式は統制機構内でもそれなりの実力者であると自負していたのだが中々に恐ろしい攻撃をしてくる。

 安堵をしていた訳では無かったが、気を緩めていたことは確かだったのだろう。背後から迫るものに気が付かなかった。赤い霧が僕に纏わり付く。次いで僕に届いた異臭が、この身に起こっていることを知らせ、状況を把握した。

 匂いか、成分か、湧くように擦り寄ってくる無数の蟲。羽虫だったり蜘蛛だったり見たことのない蟲もいる。共通点は殺傷能力が極めて高く、奴の意思に従っているかのように統率の取れた行動で襲いかかってくる。僕の障壁は未だ健在で、幾ら物量で押した所で意味もない。

 蟲が死ぬことを厭わずに先程の攻撃を仕掛けてくるが、自身を固定しなければならないようで僕の意表を突くには至らないでいる。流れ弾が見当違いの方向に飛ぶばかりだ。

 互いに遠距離を得意とするのだが、はっきり言ってこの程度の相手に時間を割く余裕は無く。急ぎ死神を追わなければならない。奥の手が仮に有ったとしても使われる前に葬る。防御に一層、力を込めて敵の本体へと突貫する。宙に浮く虫などはぶつかり潰れていく。

「ア、ハハ、馬鹿が、ばかが、バカが!そこを右にィ!」

 予め右手に持っていた矢を振るが敵は地面に溶けて、僕の背後に出現した。支離滅裂な言葉と共に僕の体を貫かんと攻撃を浴びせてくる。

「これで終わりだ。化け物。」

 僕の右足が奴に突き刺さる。体を流動させて逃さんとばかりに攻撃を加えようとしてくるがそれは叶わなかった。相手を構成している物が魔素だと僕が気づいていた時点で勝負は決していた。

「あ、ぁ、魔、道書。」

 僕の右足はイカルガ内戦で切り落とされて義足にせざるを得なかった訳で、士官してからは大佐の人形作りの知識の応用で魔道書を内蔵するようになったのだ。使った術式は簡単な物で、物質を固定化するものだ。本来ならばそのまま義足に掛けて接近戦で相手の裏をかく為に容易したのだ。実際に空中に魔素を固めて足場を作れるんなど、優秀な術式で応用方法は驚く程に多い。

 足を引き抜いて、動くことの出来無くなった彫像に向けて弓を引き絞る。蟲が此方に向かって来るのが確認できるが最早意味など皆無であった。

 

 

 

 

 

 捜索の増員要請に統制機構支部に来た僕が見たものもまた皆無であった。

 物は所々に置物が有ったりする訳だが、中に入っても見張りは愚か職員が一人も居ない。支部を潰して回っている死神が此処に来ていたとしても、縁起でもないが死骸の一つや二つ、血痕位は残っている物であろう。だが、何も異常は見つからなかった。この状況こそ異常であるのだが目を逸らしたく成る程に気味が悪い。何か手がかりでも無いものかと奥へと足を進めた。

 漸く見つけた人物は僕の良く知る人物だった。

「ジン、如何したんだ。酷い怪我だぞ。」

「ギル、か。に…ラグナ=ザ=ブラッドエッジを止めてくれ。奴を此処の下に行かせては絶対にならないんだ」

 息絶え絶えに話すジンが痛々しく映って、頷くことで安心させようとする他なかった。

 地下を目指して駆け出す。任務の際に多くの場所の支部を訪ねる事が多いので内部構造はじゅくちしている。ジンの言っていた此処の下とは、基本的に立ち入り禁止とされている地下の実験機関の事だろう。僕も其処で何が行われているのかを知っている訳では無い。向かっている、という事はそこには奴にとって壊さなければならない物があるのだろう。

 寧ろ、壊す人物を世界的な犯罪者に仕立て上げなければ成らない程の代物だということだ。ただの人殺しなだけならばテロリストや其処らの辻斬りの方が殺している人数の数は多い。何故なのか、此処の下には果たして何があるのだろうか。

 妙に胸騒ぎがする。まだ引き返せる。ジンを背負って退避してもいいのでは無いだろうか。

 心に不安がよぎった。だが、此処で引き返したら皆に会わす顔がない。友の頼み一つ聞けないでは示しがつかない。

 

 

 

 

 

 普段、厳重に閉ざされている扉は開いていた。ジンとの約束が守れなかったのかそれとも他の誰かが、ジンが僕を急かさなければならなかった理由となる人物でもいるのだろうか。

 中を覗くと今まで見たことの無い様な景色が広がっていた。部屋の中央には大きな底なしの穴、それの中には、信じられない程の大きさの剣が聳え立っていた。これは誰が何を考えて作ったのだろうか。抑も人為的に作られた物なのかさえ怪しい装飾が施されている。

 この部屋は競技場程の大きさがある。今、部屋を観察していた時には気付く由もなかった事であるが、その穴の前、ちょうど二人分の影が見える。一人は白いボディをした機械を彷彿とさせる少女らしき人物だ。白い髪を三つ編みにして、顔はバイザーの様な物で半分程隠れている。周りには細長く鋭い大きなナイフの刃の部分に見える物が数本浮いていて、絶えずもう片方に飛来している。どうやら戦っているようであった。しかし、押しているのは明らかに白い方であった。

 もう一人は、僕のよく知る人物であり、実はこの部屋に入った瞬間から僕は二人のいる所に持てる最大限の力で向かっていた。近くに来る程に、鮮明に戦況が分かってくる。浮遊している物体の他に虚空から剣を飛ばしている。冗談だろうか、過去最高の術式適性を誇る人間の防壁を確実に、目視出来る程に削っている。このままでは何れ。そう考えると頭が可笑しくなりそうで、今度こそ本当に独りになってしまいそうで。

 彼女が好きで。

 失いたく無いから。

「ノエル!」

 僕は誠意一杯に防護壁を貼って二人の間に入り込んだ。前方から飛来する剣戟は幾重にも重ねた防御を剥がそうとして次第に数と威力が増してくる。

「ノエル、一旦引け。ここを食い止めたら直ぐ戻る。発着場に僕の部隊の魔操船が来ている筈だからジンを回収して逃げろ。」

 後ろを見る余裕は無かった。一言、返事が来るのを待ち障壁を貼り直し続ける。

 

 だがノエルは返事をせずに僕を後ろに引き剥がした。

 

 僕の網膜に焼き付いたのは、剣で串刺しにされたノエルの姿だった。

 

 

「良かった。先輩が無事で。」

 僕達の後方の虚空から放たれた剣を察知したノエルが僕を助けてくれた。

 僕は良いからノエルを治療しなければ。

 飛来する剣は僕らに突き刺さる。

 ノエルにこれ以上怪我をさせることは出来ない、障壁を貼らなくては。

 僕の魔道書は、右腕と共に飛んでいった。

「先輩、ギ、レル、先、ぱ、い。」

「どうした、ノエル。」

 もう既に攻撃は止んでいる。これ以上は必要ないと判断したのか、それとも別に要因があるのだろうか。どうであれ、僕はノエルの話が聞こえる様に近くに抱き寄せようとしたが、もう腕が無い事に気づいた。ノエルの傷を増やさなかった事だけを誇ろう。

「だい、すき、で、す。こ、れから、も    」

「ああ、僕もだ。」

 

 

 流れ弾だろうか。

 僕の頭は吹き飛び、五体が完全に不満足になった。

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