理由などは活動報告に載せておきますので知りたい方はどうぞと、さりげないステマをします。
感想お待ちして居ります。
簡単に言ってしまえばカルル=クローバーという人物は僕にとって後輩以外の何でもなかった。
僕が学生だった頃に数回、顔を合わせたことがあるが子供の中でも際立つ程に整った容姿をしており、先生や先輩の頼みは二つ返事で行動していた。皆が、皆といっても飽くまで世間一般で言われるもので有るのだがここでは観測者である年上の人間の価値観である、そう皆が求め愛する好少年をこの現実の世界に写し取ったかのような人物であった。
抑もの話であるが、彼と知り合ったというのも、生徒会の手伝いをするようにと先生に言われて来たことが結果的に僕と面識を持つことに繋がった訳である。だから、本来であれば当時から魔眼と呼ばれ、忌み嫌われていた僕に態々会いに来たという事はないし、会いたくもなかったのだろう。それでも嫌な顔の一つもせずに時々談笑を交えながら仕事をこなす様は、流石の一言でその精神力たるやいなや思わず感嘆の声を漏らしたのを覚えている。
誰もが追い求める様な理想的な生徒だったのだ。
果たして、最後に会ったのは何時だろうか。
当別に思い出もないが、僕は昔の事を回想していた。話はしたことがないし、顔を合わせたのも他の人程に多くあった訳でもなかった。
雑談に時間を費やしていたために時間の余裕も無いはずだったのだが、思ったよりも簡単に見つけることが出来た。考えをある程度読むことが出来る程に仲が良かったとは記憶しておらず、奇妙な巡り合わせもあるのだな、と感じていたのである。
「まだ授業中の時間だろう。こんな所で彷徨いているのは感心しない。」
大佐の赤に近い紫の服に似通った、青に近い紫を基調とした服の色。父と同じようにマントを付けて、目を引くのは絵で書いたような体の大きさとは不釣合いなシルクハット。そして何よりも威圧感を放つのはカルル=クローバーも後ろに控える従者の存在であった。
体躯はシルクハットを足しても及ばない程に高く。服の色、髪の色、共にカルル=クローバーと同じものであった。目に光は無く、いや抑も目玉が無い。手のひらにかけて肩から少しずつ大きくなっていて、明らかに殺傷能力を秘めた腕であった。
見る限り女性であろうそれは、無駄な物が一切無く思える程に美しかった。よく、女性の容姿を褒めるときに、人形の様に美しいということが有るがこれはまた別のものであった。
幻想的なまでに美しい人形、嘗てこの世の危機を救ったアークエネミーの一つ、機神ニルヴァーナは右を腕を少し上に動かしたかと思えば此方に向けて突き出してきた。
思ったよりもずっと長い獲物の間合いに圧倒され初撃から此方の防御で戦いを始める事となった。腕の重さが人間の比ではない為に上手く衝撃を受け流せずそのまま数歩、後ずさる。左手が下から突き上げられる様に放たれる。人間では再現不可能な上半身を残したまま、攻撃の質を下げずに叩き込む力技。脇腹を抉る様な一撃を受け止めては吹き飛ばされた。
術式を用いる事で空中の体勢を整える事が可能な僕のとっては、馬鹿力を出される分には問題は無いのだ。無論防御をしなければ今頃内臓を千切り取られていた事であろう。途轍も無い威力の一撃は流石としか言い様がない。
咎追いとしてここまでカルル=クローバーが生き延びれて来れたのは偏にニルヴァーナの御蔭であるのだろうか。幾ら強いと言われていても子供が奮う力では技術が高くても差が出てしまうのは明白であろう。そうすれば考えられるのは、上手く位置取りをして行う援護による堅実的な連携か。それとも同時に前に出て戦う相手に反撃をさせない連携か。どちらをするにしても初めの接触が大切で動きを止める必要が有るのだが。
僕には関係のない話だった。
「姉さん!」
床を蹴り上方へと飛び上がったこの体を引きずり降ろさんとばかりにニルヴァーナへの命令が叫ばれる。腕を折りたたみ、人形ながらも微かに膨らみを持たされている胸部の前に構えを取った手のひらがゆっくりと此方に向けられる。体が揺らいだかと思えば、その両方の五指、合わせて十になる槍として伸び、笛の音の様に甲高い空気の擦れる音を出しながら到達してきた。
当然防ぐ他なく、乗り越えて本体を狙おうとした僕の目論見が失敗に終わった。遠距離を主軸においた戦いをする僕からしてみてもあの攻撃範囲は異常に長い。今の攻撃で更に後ろに後退して此方からは仕掛けられずにいる。魔道書を出して様子を伺ってはいるが片方の隙は明らかな誘いであるため先程以上に追撃を受けやすくなってしまう。襲いかかってきた理由も分からず、逆に逃げられても困るので間合いも限界まで詰めておかなければならないのだ。
近づくためには攻撃を掻い潜って行かなければならないのだが、迂闊に動くだけで外に弾き出されるか取り囲まれるかの二択であろう。
大佐には見つけたという事を伝える為に信号を送った訳だがこれで取り逃しでもしたものなら、大佐からの信用と自分のプライドを失くしてしまう。
多少無理をしてでも近づかなければならないだろう。相手が打ってきた砲撃の術式を正面から叩き伏す。直径1m程の砲弾は統制機構の衛士でも打てるものは数えられる人数しか居らず、というのも砲撃特化の人間の魔道書しか術式を使うのに対応していないからだ。アークエネミーとはこれ程までに非常識極まりない代物だったのかと悪態をつくものの、未だ動きの見えないカルルに注意を払って正面突破を試みる。
飛行術式を起動した僕の速度は中々に素早い物だと自負しているのだが、ニルヴァーナの両腕の間から放たれた砲撃のせいで最高速度に乗る事が出来ない。咎追いとして戦いの知恵は蓄えられている様で此方の動きを抑制するいやらしい戦法をしてくる。
「稚拙ですね。」
間も無くの時間で本体に攻勢を浴びせられると思っていた矢先に、その本体自らが迎え撃ちにでできた。一時的に術式で前方へと飛びかかってきた勢いのまま、マントの下から出現した体半分の小ささの人形が武装である槍を突き放ってきた。
十合にも渡る人形と僕の打ち合いは決着がつかず、此方が弾き飛ばす事で仕切り直しとなった。奇襲に不意を突くための奇襲による迎撃は悪いものでは無かったが飽くまでもこちらは航空部隊の隊長を任されている身であって、空中戦では勝負になる筈が抑も無かったのだ。
縮まった距離を活かして図体の大きな人形の脇を通り抜ける。向かわせまいと横薙ぎに振るわれた両腕は空を切り、体勢を立て直した本体の防御は自分で行う他無くなっていた。
障壁を正面に貼りつつ突進していくかち合っても勢いのままに確保は出来るだろう。
「こんなものォ!」
此方の突進に備えたカルルの取った策は迎撃であった。先程の槍を持っていた人形は変形しており人型から馬を模した形となっていた。激突する形となる僕に振り落とされたその馬の足は障壁を打ち破りつつ右肩目掛けてそのまま叩き落とされた。統制機構でも有数の防護壁をこんな年齢の子供に打ち破られたのは悔しいが、相手の判断ミスが否めない。後ろでは召喚の術式でニルヴァーナが出現してきているが最早意味もない。少なくとも狂気の人形師である父親に恥じない程の人形を使っているが、残念なことに自分で攻撃するだけの力が無い。子供であるから仕方の無い事だが、本体と人形二つであればもう少し張り合いが持てただろうが、人形の役割を本体の攻撃として使うならば磐石の布陣とは言い難い。
故に攻撃を喰らおうが拘束をしてしまうだけならば、ここまで接近できれば容易であるのだ。
「リバース先輩、何をするつもりですか。姉さんだけは、お願いですから傷付けないで下さい。」
負けた途端に弱気になったカルルはニルヴァーナを『姉さん』と呼び、傷つけないでと懇願していた。それ程までに大切なのか、ここまで謙った言い方で命乞いのように、今にも泣きそうにしているのが居た堪れなくなって仕方がなく慰めていた。
当初は間に割って入っていたニルヴァーナも大人しくなっていた。操作しているのはカルル本人だと思っていたのだが改めて見てみると人間らしき魂のようなものが視界に写っていた。魔眼を使うまで気づくことさえ無かったが、もし本当にカルルの姉であるとしたら僕の手には負えないことだ。
大佐は何を考えているのだろうか。
其処まで思考した所で報告が済んでいないことに気がついた。
「大佐、任務を達成しました。何処に向かえば良いかご指示をお願いします。」
「そうか、出会えたか。私はオリエントタウンにいる、後は任せたぞ。」
それだけで通信は切れてしまった。いつもならば要らないことを延々と話し続ける大佐は何時になく口数が少なく、口調もどことなく早口であった。
「今の声、父さんですね!先輩父さんは今何処にいるんですか。」
つい先程の大人しかった態度から一変して、鬼気迫る表情で問い詰めてきた。会わなければならない理由でも有るのだろうか。視線を動かしニルヴァーナも同様に狼狽えているのかと思えば、カルルの見つめている様な格好で固まったまま動かない。
「焦らずともいい、僕の任務は君を大佐の元まで送り届ける事だ。」
驚いた表情で声を漏らしたかと思えば、怒った様な声色で独り言を言ったり、泣きそうな顔になってニルヴァーナを見つめては姉さんと呟いていた。アークエネミーの使用者は余程の適正と精神力がなければ気が狂ってしまうと聞いていたのだが、情緒不安定ではあるものの狂っているというには程遠い程度であった。
この程度ならば問題は無いだろう。そう考えてしまうのは自分の学生時代はもっと酷いもので、自分以外の人間ももっと酷い精神状態の人間がいたからである。上には上があると昔の人は言ったものだが、下にも深淵が如き深さがある。所詮、人間は自分の下を見てアイデンティティを保つ事しかできないのだ。
と、昔の僕ならば思って居たのだろう。そんな僕を変えたのは言うまでもなくカイケイであった。才能では僕が勝り、見下していた。同時に、人として扱われる事のなかった自分は万人から見下されているものだと思っていた。人に成りきれない化物が昔の僕だった。
だからせめて化物らしく力で人間を叩き伏せようと凡ゆる方法で勝負に勝とうと躍起になった。初めに考えていた、静かなれども力は誇示しようなんて甘い考えは何時しか薄れ、力に溺れた僕の行き着いた先でもあったのだ。自分を否定されるのは怖いから発言さえさせぬ様にしてしまおう。そして同じ欠陥品であったジンと、足りないものを虚栄を見せ合うことで補い合っていた。
必死に足掻いた、己を誇示した、見栄も張った。
認めて貰いたかった。ジンも自分にいっぱいいっぱいで、互いに気づいてやれなかった。
だからあの時、カイケイに言って貰った言葉がなければ心がバラバラになって居ただろう。
拘束の術式を解いてカルルの前にしゃがみ込む。相手は迂闊な行動をした僕を呆然と見つめた。
「何してるんですか、馬鹿なんじゃないですか。さっさと父さんの居場所を言えよ!」
前後の言葉との繋がりが皆無な言いがかりで今度は睨みつけてきた。罵倒することで自分を優位に立たせようとしているが、お互いに分かっている。この距離ならば何度でも拘束できる事が、抵抗したところで意味の成さない事が頭では理解できている。
「落ち着けよ、ニルヴァーナも心配している。」
「姉さんは、姉さんはそんな名前じゃない!父さんのせいで姉さんは、姉さんは…。」
自らの無力、何とかしたくても姉を救いたいが出来ない。今は逃げなくては姉さんは捕まってしまうが逃げることが出来ない。もう、逃げる必要が無いが、己の弱さを認めてしまうことに対する恐れが言い表せない感情を、吐き出したいが今までの自分が意味の無い事をしてきた様に思えてそれは認めたく無かった。
いや、今までの努力を認めて欲しかったのだ。
「何だ、親子ゲンカなら手を貸すぞ。大佐の人使いの荒さは此方も頭に来ているからな。」
「えっ。」
頭のシルクハットを退かして頭へと手を伸ばす。中に先ほどにの人形が鎮座していて心臓が止まりそうになったが怯まず、退けてから頭を撫でる。
その昔、僕が一人でいた時カイケイに話しかけられて確かに怯えていた。あれほどに力を見せても僕を見下す人がいるのか、と。自分よりも明らかに背丈がしたの人にさえ見下されているのだとお思っていた。しかし、カイケイだけは違ったのだ。
何をされているのか分からない、という風に困惑しているカルルに、僕がカイケイに言われた事と殆んど同じことを言う。あの時からカイケイは格好付けたがりだったのだ。
「何世界の終わりみたいな顔してんだ、お前不良だろうが。そんなに怖い思いしてるんだったら仕方なく僕が救ってやるよ。」
自分もこうだった、懐かしいものを見ている。
カルルは今までの苦難やら、失敗やらを叫びながら泣いている。最早泣いているせいで断片的にしか聞き取れないが、頑張ったな、なんて相槌を打つたびに嗚咽が大きくなっているのが分かる。カイケイは僕が泣いたときは狼狽えていたか、と昔を懐かしみながら暫くはこのまま慰めていた。
大佐には聞かなければならない事が増えてしまった。