[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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次回でやっとCSの最終回に入ります。

モチベーションも維持できているので失踪の危険性は無いと断言します。

感想お待ちしています。


第十四話

 手を離した。

 階層都市の下、見下げても見ることが叶わない地面まで落とした。自らの手で殺すことも憚られる程にその人物、マリー=ローゼンは性根が腐りきっていた。それこそ見下げ果ててしまう程に、口から溢れる言葉は僕を不快にさせた。

 支部に向かう道中に彼女を見つけた僕は真偽を確かめる為に話しかけた。

「カイケイが負傷したことを知っているか。」

 頷いてみせるでも無く、首を横に振る事もなく、呆然としていた。

 もしかしたら彼女では無かったかも知れない、見る限りでは驚いているようだったので有らぬ疑いをかけてしまった気分になって謝罪の言葉を掛けようとした時であった。

「嘘、殺しきれなかった。何で死なないのよ。」

 零れた言葉は僕の頭に冷水の如く降りかかり、明確に殺意を抱かせた。今こいつは殺すと言った。自分たちにの恩人を、自らの手で殺そうとしたと言った。こいつは生きていてはいけない人間だと瞬間的に感じ取った。

 周囲には結界を貼り、一発顔面を振り抜いた。衛士である僕たちは魔素が無くなれば、即ち術式が使えない状態になれば自らの身体能力だけで戦わなければならない。手っ取り早いのが魔道書を奪うことをすれば良い。今みたいに周囲を術式で囲って自分以外の人間が魔素を引き出せない様にしても良い。理由を聞き出すための尋問で抵抗されたら気が立って仕様がない。既に頭は沸騰しているが、理由付けをすれば理性的な行動を取れると思った。

「お前はカイケイが僕達を救ってくれた事を忘れたのか。」

「あなたこそ事の重大さ分かって無い。あいつは世界を滅ぼしてしまう。今までの振る舞いは全部演技で皆を騙していたの。」

 此処までの戯言を吐くとは思いもよらなかった。気が触れているのか、矢張り洗脳されているのか見当もつかないが、見当をつける意味もない。こいつは危険だ。

「帝様も言っていたわ。このまま放っていれば本来在るべき世界は無くなってしまう!」

「もう良い、その口を閉じろ。」

 はっきり分かった。元より僕の大切な人間は三人、僕を救ってくれたカイケイ、共に頑張って来てくれたジン、僕を必要としてくれたノエル。必要なのは、それだけで、他は付属品。態々気にかける事は無い。そして、どうなろうと関係無い。

 だから殺しても問題は無い。不必要な物だから、殺しても良い。

「貴方だって殺されてしまう。それでも、良いの!」

 どうでも良い。羽虫の如く耳障りだ。

 

 

 

 

 

 

「大佐、支部に到着しました。」

 無線で指示を仰ぐ。大佐はまだ着いていない様である。自分が間に合わないから僕を此処に向かわせたのだろう。この頃では有るものの、それなりに信頼を置ける関係となって来ている。丁度、害虫を駆除した後なので気分が昂ぶっていた所だった。仕事を終わらせて帰って酒を飲めたならどんなに良い気持ちで今日を終える事が出来るだろうか。

「少佐には指定の場所でネズミ捕りをして貰う。最近は礼儀を知らない輩が多くて土足で上がり込んだ連中の相手をしてやってくれ。」

 非常に簡素な遣り取りで通信は終わった。統制機構に殴り込みに来るような人物と言えばラグナ=ザ=ブラッドエッジだ。此処に奴が来てその経路がある程度分かる、というのだろう。

 端末に送られた情報通りに歩を進める。

 場所は立ち入り禁止の区画の入口であった。

 

 

 

 

 

 一体何れ程此処に立っていれば良いのだろう。流石に日を跨いではいないが、数時間もの間は此処に一人でいた。侵入者が出たとも聞かない、連絡も来ない。本当に誰かが来るのだろうか。いや、来ないのならばそれが一番楽が出来るのだが、情報が大佐から来ている以上はいつか来るのであろう。最後に来た連絡は「例え統制機構の人間であっても、通すな。」との事だ。当初思っていたよりは重要な任務だ、というのは分かったがそれっきりで新しい事は何も耳にしていない。立っているだけなので疲れる事は無いが、来るならば早々に来て欲しい。誰が来るとも分からないので魔道書を常時出しているのは正直言って邪魔だ。

「ほう、これは数奇な巡り合わせもあったものだな。」

 先程まで僕以外の人間が居なかった此処に曇った声が染み渡っていた。視線の先には白一色の人物が居る。赤鬼の様に無骨では無いが、何処か無機質さを感じさせる大男。顔を含めた体全体が鎧に近い物で覆われていて、唯一出ているのは背中の方へ流れている白い、長い髪だけだ。そして、その背には一般的な男性の身長を優に超える長さの野太刀、事象兵器斬魔・鳴神を携えている。

「六英雄のハクメンが何故此処に居るのだ。統制機構は一体何を隠している。」

 嘗ての英雄が僕と向かい合って居る。その中でも特に強いと伝承されている人物ハクメン。この前の様に撤退するだけを目指す戦いとは訳が違う。今回は侵入させぬ為、確実に仕留めなければならない。全力で以てしても至らない相手を負かさなければならない。

「…、済まないが其処は通らせて貰う。我が名はハクメン推して参る!」

 その巨躯に似合わぬ速度で此方との距離を詰めて来る。一度目の攻撃を行うも、掠ることすら無いでその進行を止めることは出来ずにいた。相手は既に獲物を抜き放っている。距離は既にお互いの射程内に入っていた。

「ズェイヤァァァ!」

 横一線、胴を薙ぐ為に振るわれた一撃。僕が矢を以て防ごうとした時である。鳴神に触れた瞬間掻き消えてしまい、代わりに円盤の形の大きな何かに変貌した。此方の術式ごと切られてしまう。其れだけでなく、相手が優位に立つための何かも与えることになる。相手の攻撃を防ぐには避ける他無いらしい。

 受けるだけでは絶対に勝てない。此方から攻めて、反撃も許さない立ち回りをしなければ勝機は無くなってしまう。術式で浮いた体を叩き付ける勢いで特攻する。地面を這う様にして接近をして、その胸に獲物を突き立てる。

「甘い、その程度か。」

 突き立てられた攻撃を籠手で以て去なされた。同時に僕が通り抜けようとした所を強引に襟首を掴み地に叩き伏せられた。肺の空気が押し出されると共に、視界が爆ぜた。スタングレネードでも投げ込んだ様に目の前が白く光った。頭への損傷が著しく、行動に移れない。体に傷は付かなくても大部分の衝撃は術式では無くしきれない。

「生まれ変わって出直せ。虚空陣奥義 疾風!」

 身を翻す事で至近距離からの斬撃を紙一重で逃げ切る。床が裂ける程に大きな斬撃、当たれば防御など関係無しに御陀仏だ。だがそれ以前に不可解な事が一つ有る。

「虚空刃奥義、キサラギ家の者。」

 ジンと組手をした事の有る、話を聞いたことが有る僕だから分かる虚空刃奥義とは宗家キサラギ家に伝わる奥義。抑も、六英雄のハクメンがいた頃に十二宗家としては機能していない筈で、キサラギ家の人間でも有る訳が無い。

 何故知っている。太刀筋は、宗家であるジンと変わらない程の腕前、習ったとしても練度はジンよりも遥かに上。仮にもジンはイカルガの英雄だ。事象兵器の力が有ったことも大きいが、それでも宗家で実力が認められた故の、事象兵器の使用許可だ。本家でない人物が易易と勝てる訳が無い。

 幾ら六英雄であろうと、イカルガの英雄に、英雄に、えいゆうに――本物の英雄に成る気はない?

「ジン…なのか、いや、僕は何を言って…。」

 目が痛い。こんな時に疼く。今は集中しなければならないというのに。

「っ!真逆、此処で至ったのか!」

 駆けてくる相手に、体が勝手に動く。避け方、去なし方が分かっている様に動いている。不思議な力に動かされている訳では無い。経験則から、動き方がインプットされている。

「咢刀!」

 飛び上がった事を囮にして肩を切りつけようとする攻撃を防ぎきる。次いで落下しながらの背後からの蹴りも魔道書振るって相殺する。

「閻魔!」

 ガードをすり抜け、顎を狙った一撃を半身反らすことで回避する。その後の上段から振るい落とされた剣戟も後ろに飛ぶことで避ける。

「ズェアァァァア!」

 喉を狙い突き出された剣を又も回避する。右足を軸として左半身を擦る様に下げる。同時に、一瞬で此方との距離を射程範囲内まで持ってくる。

「蓮華!」

 鋭い下段への回し蹴りが飛来する。真上に飛ぶ事で何を逃れるが、相手も二段構えで空中の僕の腹部を目掛けて、もう一回りして蹴りを浴びせた。流石に受け止めるしかなく壁際までは吹き飛ばされたものの離脱に成功。体勢を立て直すには十分な距離であった。

 今までの僕の記憶の中にある攻撃程度ならば見切れない事もない。相手にも言える事なので、攻撃の際には隙を付く他無いが、このままならば粘る事は叶いそうだ。本質的な実力の差、この体での経験の差が顕著であるために勝つことは不可能に近いが、大佐が来れば実質的な数的有利を取れるので何とか出来る。

「私は、正義の名の元にやらねば為らぬ使命がある。その道程に嘗ての亡霊が現れようと、意地でも押し通らせてもらう!」

 相手の雰囲気が変わった。今までよりも明確な殺意が僕に降り注がれる。全身の器官が逃げるように訴えている様に、本能が指示する。だが、任務上此処を空かす訳にはいかないのだ。

「封陣展開!虚空陣奥義 夢幻!」

 目の前の光景、溢れ出る力が僕の髪を後ろへと攫って行く。一般衛士の射程圏外は有る距離から感じる恐怖は、何処か現実的でない為に危険信号すら麻痺してしまって居る。本能は忠実で僕が動かすことの出来ない体を精一杯、逃がそうと必死になっている。

「虚空陣奥義 疾風!」

 先程の攻撃は何だったのだろう。僕が死ぬ気で貼った障壁を凡そ数十枚。臥間を破くかの如き勢いで斬撃が通り過ぎていった。必死に避けようとした結果も無残、右腕の二の腕から先がスッパリ削ぎ落とされていた。

「ぁぁぁ嗚呼あああ!」

 痛みを感じる暇さえも無い。逃げる事は叶わない事が、僕の最高速度を上回る勢いで此方に駆けてくるハクメンを目の当たりにして悟った。兎に角、防壁を貼る。何枚も、幾重にも、できるだけ多くの数を、出来るだけ強固な物を、死にたくない。

「椿折!」

 上方から響く衝撃に膝が折れる。切り裂かれなかっただけましなのだろうか。生き延びたい、その一心で魔道書を動かし続ける。やるべき事があった。まだ、もっと、いっぱい。こんな陰気臭い場所で過去の亡霊に、殺されるわけにはいかない。

 その希望は、当然の如く、目の前の上段に構えられた剣によって、打ち砕かれた。

「斬鉄。」

 一撃目、衝撃に耐え切れなかった障壁と魔道書が壊れる。

 二擊目、脚を狙った下段の攻撃は、最後の魔道書である義足を壊した。

 このまま僕は死ぬのだろう。何せ生き残る術はもう無いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 出血多量で死ぬだろう僕は、もう何の音も、感触も消え去っていた。さっさと果てれば良いのに魔眼のせいだろうか。視覚だけは生きていて、落ちて来た小石や、砕けた魔道書、僕の腕の断面が見える。もういい加減死ぬだろうと高を括ってどれくらい経ったのかは知らないが、案外しぶとい様で思ったよりも長生きをしている。この世に執着があるのか。繰り返されるこの世界で死んでも変わる事などないだろうに、何に拘るのか。

「せ、んぱい。嘘、何で、」

 見た事のない装飾のされた人が見える。見えるといっても足だけだが、動いて欲しい。僕に話しかけているのだろうか、動いてくれない。

「もう、良い。要らない、要らない要らない要らない要らない!こんな世界は壊してやる、滅ぼしてやる!何で私ばかりこんな目に、皆、要らない!!」

 僕の視界から足が消える。運んですらくれないのか、生きてると、声高々に主張したくともそんな力は残っていない。僕には、僕も長所は、結局のところ、魔眼の恩恵しかないのか。魔眼がなければ誰との関わりも持てなかった。嫌な時期もあったけど、それまでは本当に空虚だった。

 思い返せば、今のように死にかけて、いつの間にか魔眼だった。前の時は、視界も霞んで、意識を示す物が無くて、繋がりが無いから、自分だって示すものもなくて、死んだ。

 一度死んだ。蘇ってこの状態になった。

 はて?この繰り返す世界でそのままの状態で生き返るのは、可笑しい。死後を認識するとはどういう事だ。死後があったなら記憶はループしない。

 でも確かに、死んだ。そして生き返った。

 死ぬ前、魔眼は無かった。

 生き返ったら魔眼があった。

 これは僕の物じゃない。

 僕が盗んできたものだ。

 丁度意識が沈んだ先に僕が着いた世界の果てで僕は世界の理を、この世の全てをこの目に写した。

 

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