[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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第一話 

「生徒会長、ありがとうございました。」

只今行われている士官学校高等部の入学式は本来であればありえない程の盛り上がりを見せていた。

イカルガの英雄として知られるジン=キサラギ本人と対面しているのだ。

床が揺れるほどの拍手喝采、それだけでなく式の最中であるのに黄色い歓声までもが飛ぶ始末だ。

実際に今のジンの知名度は途方も無く高い。統制機構という世界の最高機関で、最高権力を保有する帝様。過去に、世界が滅びる程の力を持った「黒き獣」を撃退した六人である「六英雄」。

その次に、有名と言っても過言ではないのだ。

しかしながら、これだけ五月蝿くされては式が進まなくなってしまう。

「学園生活での注意。生徒会書記、ギレル=リバースさんお願いします。」

司会を務めている副会長に呼名されて、そういえば仕事があった。と思い出して壇上へ歩を進めた。

 

 

「生徒会書記のギレル=リバースだ。」

いざ、また話が始まると、静かに目線をこちらに向けた。士官学校に入れるだけあって優秀な人材が揃っているようだ。

「君たちにまず話さなければならないことがある。イカルガ内戦が終結したのは記憶に新しいだろう。しかし今の統制機構は予想以上に戦死者が出てしまったために人材が不足している。そこで今年度から成績優秀者10名が着任時の階級を少尉になることが決定した。」

少しざわめきだした新入生を眺めつつも、その時は6年以上かかる、と言われていた戦争を僅か3年足らずで終わらせたあの強行ならば仕方のない事だと改めて思った。

「なお、勉学についてだが学年が進むに連れ実習や訓練が多くなってくる。自身の無い者や、より高い実力を身に付けたい者は放課後に図書室にて貸出を行って居るので利用するといいだろう。術式適正の低い者でも努力を惜しまず学校生活を充実したものにできるよう頑張ってくれ。」

自分の管轄である図書室の宣伝をしているとジンから咳払いが聞こえたのでこの話をここで終わらせておく。

「それと、この士官学校は原則として生徒会を中心に運営している。何か疑問や相談、不平不満がある場合生徒会室か図書室に来てくれ。生徒会室には、生徒会長、副会長、会計が居る。図書室には書記が居る。では僕からの話は以上だ。」

所定の位置に戻った僕は後片付けは何時間かかるのだろうかと考えて陰鬱とした気分となった。

 

 

図書室で蔵書整理をしていたところ、ジンから生徒会室へ来るようにと連絡を受けた。

今日は会議はなかった筈だったどうしたのだろう。未だに誰も来てくれないが一応生徒会室に居るという事を伝える張り紙をして鍵をかけた。

しかし、皆と話をする方が明らかに有意義なので良かったとも言える。

ここ数日は放課後ずっと一人だったのだ。皆、練習意欲はないのだろうか。

 

 

生徒会室に入ると見知らぬ顔がいた。

会計の彼が黙々と勉強しているのが視界の端に映った。

ちなみに彼は名前もカイケイと言い皆に面白半分で生徒会に入れられた猛者である。

そのことから伺えるように皆からも慕われていて、実力もある。

だが、今の問題は違うところにある。カイケイの話を延々とするわけにはいかない。

実は、この生徒会の清涼剤は副会長のマリー=ローゼンだけで、彼女の特徴は女性にしては高い背丈と紫の髪を頭頂部で丸く纏めた髪型、柔和な笑顔とあるのだが明らかにその女性以外にも3人程見知らぬ女性が居るのだ。

その3人全員が僕を見ていた。

一人はカメリアレッドの髪の高貴な印象のする少女だ。確かジンが言っていた十二宗家のツバキ=ヤヨイご令嬢ではないだろうか。

よく妹みたいなやつだった。と言って今年入ってくるのを気にかけていた筈だ。

その横にいるのは、特徴的な耳と尻尾を生やした獣人である。

その尻尾の形と茶色の毛並みから察するに多分リスだろう。何故か睨まれている。

最後に、その二人の後ろに隠れた金髪の少女であるが、過去最高の成績で編入を果たしたノエル=ヴァーミリオンだ。ジンもそうだが金髪の人間は術式適正は高いのだろうか。

人見知りなのだろうかずっと俯いている。

「わざわざきてもらって済まないね。そこの3人が生徒会の手伝いをしたいらしく、顔合わせをしておこうと思ってね。」

ジンが紅茶を持って来てくれて僕と3人に座るよう促した。

「ああ、紅茶も4人分あるってことはそこの子はやっぱり背後霊でもないのか。」

先に座り3人にも座るよう言いながら、僕がそのように冗談めかして言葉を投げかけると小さな悲鳴のような声を上げてから黙りこくってしまった。

「私たちは自己紹介済ませちゃったからあとはあなただけよ。」

ローゼンは本当に気の利く人だと思いながら、今度はもう少し真面目に喋ろうかな、と反省した。

「ギレル=リバースだ。ギルで構わない。血液型はA型。好きなものは勝負事。嫌いなものは怠慢とか堕落かな。君たちは名前だけでいい。カイケイ、悪いけど順番に名前言ってくれ。」

何故か3人の警戒がゆるくならない。やはりもう少し気を使うべきだったのだろうか。

「じゃあ簡単に言うぞ。赤い子がツバキ=ヤヨイ。会長とラブラブ。茶色い子がマコト=ナナヤ。昨日、俺を穴の底に叩き落としたやつ。お前が背後霊って言ったのがノエル=ヴァーミリオン。」

ジンとご令嬢が赤面している。多分だがこのご令嬢がジンと一緒に居たい事と、リスの子がカイケイに迷惑をかけてその自責の念だろう。そして、その付き添いで意思が弱くて断れなかった、という感じである様に伺える。

「あの、少し聞いてもいいですか。」

ヴァーミリオンがそう聞いてきたので僕は肯定の意を伝えると、おずおずと口を開いた。

「間違っていたら失礼ですけど、あなたがあの魔眼と呼ばれる人物であっていますか。」

空気が凍った。むしろ僕は納得したけれど、だからこの子達は怯えていたのか。

そうか、だったら有耶無耶にするのも悪いと思う。

「これで納得してくれるかな。」

僕はヴァーミリオンに視線を向ける。空中に目を象った朱色の紋様が浮かび上がり鈍く発光している。およそ人の頭と同じ大きさである。それがどのようなものかなど関係のない程に気色が悪く、所有者である自身でさえも気分のいいものでない。

悍ましい塊を霧散させて、様子を確認する。

ご令嬢はジンの後ろに隠れて、ナナヤは咄嗟にカイケイの手を握ってしまったのが気恥ずかしかったのか飛び退いていた。ヴァーミリオンはその場に座り込んでしまった。

ローゼンは我関せずといった風に紅茶を飲んでいる。

これは悪いことをしてしまったと思って顔合わせも一応済ませたから、場の収拾を皆に任せて図書室へと戻った。

 

 

椅子に腰を下ろして体を休める。

図書室の片付けが意外と終わらずもうすっかり日没してしまった。

完全に下校時間が過ぎてしまって居る。

また、今日も書庫に備え付けたベッドで寝なければならないだろう。

机に置いていた自身の弓状の魔道書を手に取る。あの日戦いに魅せられてからなのか、それとも魔眼が覚醒したせいなのか。どちらにせよ僕の周りには片手で足りるほどしか人が居なくなった。

ジンとカイケイは見捨てることはなかった。変わらず僕と接してくれる。

ローゼンはイカルガ内戦で友達を亡くしている。戦績を挙げたからという僕と同じ理由で生徒会に居るが精神的に脆い。

今回あの3人が手伝いとして来てくれたことで良い方向に向かうだろう。

ジンはユキアネサを使用したせいで多少ではあるが精神を蝕まれている。ヤヨイ家のご令嬢とは懇意であると聞いているので静養して欲しい。

ローゼンも女性といた方が気が楽であろう。いつも無理しているのを誤魔化していて心が痛い。

そのフォローをしているカイケイの心労もす少しは薄らいでくれると嬉しい。

怖がらせてこちらに来ないよう仕向けるつもりであったのでヴァーミリオンが話を振って来てくれて助かった。もう繋がりは作らなくていい。

どうせ1年もすれば戦いに浸ることができるのだ。

犯罪者相手なら加減もいらない。もしかしたらあの時の忍者とも戦えるかもしれない。

その程度の希望で十分だ。

残りの仕事を終わらせてからゆっくりしようと腰を上げたところで、扉の開く音がした。

「失礼します。」

そこにはヴァーミリオンが立っていた。

「何をしに来た。下校時刻は過ぎているぞ。もし手伝いに来たなどという巫山戯た事をいうようならさっさと帰れ。もう終わる。」

できるだけ突き放す様な言葉を選んでそう言った。

「違います。誤りに来たんです。」

もともと予想していなかった事態なので頭がよく回らず立ち尽くしてしまった。

「すいません。私があんなこと言ってしまったばかりに不快な思いをさせてしまって。しかもリバース先輩は悪くないのにツバキとマコトがあの先輩は嫌いだって言っちゃって私、どうすれば良いかわからなくて。ごめんなさい。ごめんなさい・・・・。」

僕の軽率な行動のせいで気に病んでしまったしまったらしい。泣き出してしまったのでとりあえずハンカチを渡して椅子に座らせた。

自分だけ助かろうとしても不幸になってしまった。

他人を救おうとしてさらにほかの人を傷つけてしまっている。

ヴァーミリオンが落ち着くまでずっと傍に居ることしかできなかった。

 

大分時間が経った今も、もう流れる涙も残ってないのに呪詛の様に繰り返し謝っていた。

「ヴァーミリオンもういい。十分だ。」

僕はお湯とタオルを渡して顔を拭くように言った。

「でも、私のせいで先輩は。」

一頻り顔を拭いた後ヴァーミリオンがそう言ってきた。

「誤解だったらすぐ解けるよ。それにヴァーミリオンが心配してくれるだけで嬉しい。人に案じられるなんて久しいから。」

妙にこそばゆくなって顔を背けてしまった。ヴァーミリオンは今日初めて笑みを見せている。

負けてしまったような気分になり、意趣返しとして急にヴァーミリオンの体を抱き上げて書庫のベッドまで持って行き投げた。

「今日はもう遅いから書庫で寝ろ。明日はちょうど良く休日だからゆっくりしろ。それと女性が容易く泣き顔を見せてはいけない。」

そこまで一息で言い扉を閉めて、残りの作業を再開した。

 

 

 

あの日から何日か経ったが図書室に少しだけ変化がある。

一人ここの担当が増えたのだ。利用者はいないため僕らが自習しているだけだが。

「先輩、この防御の術式なんですけど・・・。」

主にヴァーミリオンが質問して僕が教える形になっている。

ちなみにご令嬢とナナヤとはそれなりに話すようになったそれもヴァーミリオンのおかげだ。

粗方教えて向き直るとヴァーミリオンがノートと此方を交互に見ている。どうしようかとも思ったのだが気を遣わせるのも申し訳ないから声を掛けた。

「なあ、ヴァーミリオン。今度の休日暇か。」

そう言うと身を乗り出してきて何故か自信満々と。

「はい!予定はありません。」

と断言した。僕も不器用だがそれ以上だと認識を改めた。

「一緒に買い物してくれないか。欲しい本があるんだが。」

言ったが早いか答えるが早いか食い気味で

「大丈夫です。」

そう微笑んだ。

この時この瞬間を僕は愛おしいと思った。




この作品内ではイカルガ内戦は早期に決着のついたものとしています。
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