[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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最終章です。
独自設定とか多く入ってきますので、原作とはかけ離れてしまっています。

完結が見えてきたので、読み物として纏められる様に頑張ります。

感想お待ちしています。


CHRONO PHANTASMA
第十六話


 史上最大級と言えるであろう魔操船が「連合階層都市イカルガ」へ向けて舵をきっていた。空気の壁をこじ開けながら進むその姿は、必要以上に大きすぎる体躯も相まって、水を掻き分けながら泳いでいく鯨を連想させるものであった。鯨が生きながらえるために大量の餌を飲み込む様に、この魔操船も大量の魔素を動力源としている為に、さながらうねり声をあげる人間で、辺り一帯に重低音を響き渡らせていた。最大収容人数が百人を超える魔操船で、他の魔操船とは規格が一切違うオンリーワンであり、統制機構の航空部隊の旗船には相応しい外観だった。砲撃用の魔道書を内蔵の物で五十門搭載している。これらの魔道書一つ一つが打ち出す弾丸の種類を打ち分ける事が可能で、艦体の随所に敷き詰められた砲門に死角は無いと言って良い。

 もし、イカルガ内戦の時にこれが導入されていたとしたら、たったの一機で戦争を終結出来たとさえ開発部に豪語させる。性能だけをいったら折り紙つきであり、実際に試験運用をした際の数値をとっても、今までの人類史に残る兵器と言えよう。

 輸送する魔操船が一級品であるのなら、乗組員も一級品であった。各部隊の精鋭が集められている本作戦では、非戦闘員と別働隊を含まずに合計九つの小隊が編成されている。本部を強襲された時の為に全ての部隊を配備する事は無かったが、現在名を残している精鋭中の精鋭を選び抜いた猛者共ばかりだ。まるで戦争を起こしに行くのかと噂されていた作戦であるが、同乗者及び出港後に聞かされた作戦内容に乗組員全員が殺気立っている。

 今回の作戦の内容は、第七機関との全面戦争。指揮官は、総司令直々に任命された人物であり、先日第七機関の赤鬼を打ち取り、中佐に昇進、航空部隊の総隊長に任命されたギレル=リバース中佐。今回の戦争の引き金を引いた人物である。

 

 

 

 

「目的地確認。残り一時間ほどで到着する予定です。」

「各部隊に伝達して戦闘準備態勢を敷け。」

 艦長席に座る僕に視線を向けた部下が目標への到達推定時刻を言い渡し、それを部隊全体に通達するように指示する。復唱した部下が艦内の通信機器を使い、何度か繰り返しながら念入りに指示を伝達するのを見て、艦長席に深く座り直した。信頼の置ける部下をこのコントロール室に配属したのだが、航空部隊の総隊長として頭の上に乗っている帽子が気になり、いまいち緊張出来ずにいた。

 イカルガに投入予定の過剰とも言える戦力。僕が第七機関の赤鬼を倒したことによる報復戦、内通者による統制機構がイカルガに向かう算段がリークされたこと等、全てが表面上のことでしか無い。本当に注目すべきは、部隊の数でも旗艦のスペックでもない。技術大佐のレリウス=クローバーがこの船に乗ってっていること。歴戦の老兵達からしてみればきな臭い事この上ないだろう。それに加えてこの艦には帝様が乗っているのだ。それを理由にして戦略兵器じみた旗艦を運用出来る口実を作ったのだろう。何せ帝様の命が失われれば、中央に残った人間に打ち首にされかね無いのだ。

 とは言っても帝様のお姿を見たことがある人間など本部には残っていないが、それだけ真実を隠すために大々的にこの作戦を実行する必要が有るのだ。帝様が死んでしまった場合よりも世界が激震してしまう事実を隠さなければならない。

「前方より高熱源反応、直撃します!」

「障壁展開急げ。」

 確認してからでは、避けられない一撃がイカルガの中腹辺り―発着場から放たれていた。次々に飛来する攻撃は、イカルガまでもう直ぐそこまで迫っていた旗艦の出した障壁に当たっていた。距離の関係上で肉眼でも見える光軸は機体を揺らし、その体を地に跪かせようと攻撃の手を激しくして、此方は反撃をしようにも発着場を壊す事の出来ない。

「損害報告を急げ。」

「損害は出ていませんが、このままでは航路を維持できません!」

 此方のレーダーの範囲外から撃たれた砲撃に、艦内が混乱させられていた。収拾をつけようにも誰も耳の傾ける事は無く。あと数分もしたら僕の責任問題だと騒ぐ者が出てくる。一々そんな下らない事の対応をして任務が完遂出来無くなるのは面白くはない。艦長席の横に備え付けてあるマイクを握って艦内に伝わるように告げる。

「本館はこのまま直進。僕が今から打って出て露払いをする。」

 近くに立てかけてあった魔道書を持って近くの非常口から身を投げ出した。

 

 

 

 

 

 横を通り抜ける砲撃が空気を巻き込んで僕の飛行を妨げていた。強引に自分の航路を確保しつつ弓なりの魔道書を引き絞り、第七機関の大砲目掛けて打ち出した。あちらの見立てでは此方が反撃をしてくるとは思っていなかったらしく僕の位置は見つかっていない。対艦体用のスコープでは僕を見つけられないのも無理は無く、逆に魔眼によってはっきりと捉えることのできる僕からしてみれば格好の的であった。しかし、遠距離からの奇襲程度で終わることは無いだろう。今回が旗艦だった為に加減のできる砲撃ができないだけで、第七機関も攻撃をある程度はとっぱしてくると踏んだ上での作戦だろう。

 単身、発着場に降り立った僕は周りからの攻勢が収まった事に多少の疑念を抱きつつ辺りを見回したが、約五十名近い第七機関の人間が完全武装をして銃口を此方に向けている。他には見知っていた顔二人が歩み寄って来ている。

「カイケイは元気か。」

「カイケイ先輩もイカルガに来てますよ。」

 会話を続ける気はさらさらなく、確認することだけして弓を引き絞る。後ろの第七機関の人間が騒いでいるのが見えるが先にやるべきことをする。

「帝勅命で、ジン=キサラギ、ノエル=ヴァーミリオン、マコト=ナナヤに死刑命令が出ている。ジンはあいつに任せるにしても、お前らは俺が葬ってやろう。」

「装置起動しろ!」

 弓を放った瞬間に女性の声が響いた。あれは確かココノエとか言った科学者、いや観測者だっただろうか。奥の方から何かの機械が駆動している音がしたかと思えば放った矢が霧散した。霧散した魔素がこちら側に向かって来て吹き抜けると同時に、新たに義手となった右腕と義足から力が抜けていき地面に倒れふした。

「魔素除去装置か、詰まらない物を作ったな。」

 つい先日に辛酸を舐めさせられた格好となり、僕の気分は最悪だった。見下ろしてくる二人と、大勢の第七機関の人間が兎に角気に食わない。苛立ちが募る一方であるのに飽くまでも自分に非がないという様に二人が語りかけてきた。

「魔素がなければ魔操船も飛べません。統制機構は大打撃を受けてイカルガに進行も出来ないで盤面は此方に傾きます。そうすれば先輩だってそんな所に居なくたって済むんです。」

「危険だと、ふざけるのも大概にしろよ。自分の側が絶対的な正義だとでも思っているんだろうがそれは違う。考えても仕方がないんだよ。自分は世界の一部で、世界に回されてるんだ。抵抗してどうにかなる物でもないんだよ。抗えば抗う程に他の所で弊害が出る。幸せに成ろうと思うこと自体が間違いなんだよ。」

 魔素が無くなって僕を封じ込めれると思っている時点で及第点にすら届いていない。魔眼は強大なエネルギーの塊で流用することで行動するくらいは容易く行える。魔素で行き渡るよりもより正確な感覚が染み渡ってくる。作り物の自分の足、腕を染め上げていく感覚は嘗ての感触と先日まできちんとついていた時の記憶を思い出させた。

「先輩、目を覚ましてください!」

「眼が覚めたんだよ。現実を見せつけられてな。」

 殴りかかってくるナナヤをいなしつつも魔眼を顕現させて第七機関の兵士たちに死線をむける。突き刺さる様に向けられた死線は背後にいた数人にまで貫通して、一人一人を確実に息の根を止めていく中で逃れた周りの人間が銃を乱射してくる。火線が僕に殺到してくるが、腰の引けた人間の打つ弾が当たる訳もなく次々と命の灯火が消えていく。

「肉弾戦で勝てると思っているのも間違いだ。強さは絶対的な摂理で、覆らない。」

 右手で拳を受け止めながら、淡々と告げる。こうして距離を態と離さないことで援護射撃を抑制して数の利を使えなくする。そも、ノエルの持つアークエネミー魔銃・ベルヴェルクさえも封じてしまう魔素除去装置を発着場で使用したことは間違いだと言って良い。おいそれと持ち運べる大きさでは無いが、空中で待ち伏せをする形で設置すれば又違う結果になったかも知れない。今のままでは僕にとって的にしかならず一つ、また一つと死線が突き刺さり、煙が上がると共に、義足と義手に不快感のある感覚が戻ってくる。

「総員撤退しろ!」

 ココノエの怒号が響き渡り、第七機関の人間は散り散りに転移装置を使って逃げていく。僕を睨んで動かないナナヤと、探るような目で観てくるココノエ。取り敢えず、前哨戦は統制機構の勝ちといった所だろうか。もしかして、一番強いのが赤鬼程度の物で世界に喧嘩を売っている訳でも無いだろうが、もう少し骨のあるのを配備しても良かったんでは無かろうか。どう足掻いたところで統制機構に勝てる要素が見つからないが、戦争を起こしに来た理由も他にあると思ってしかるべきだ。僕は大体の原因が分かっているが、ここまで大佐の掌の上で踊らされているのに抵抗が出来ないもどかしさが僕の心をかき回していた。

「ギレル。目を、目を覚まして下さい。」

 ノエル=ヴァーミリオンが目を滲ませながら僕の方に歩み寄ってくる。それを誰も止める事はなく段々と近づいてきて真っ直ぐに僕を見つめてくる。今まで名前を呼び捨てにしたこと等無かったのに今更になってこんな事を臆面もなく言ってくるこいつに心が揺れるが、もう何もかもが遅い。

「眼も、頭も、とっくに冷めてる。感情論ではどうにもならないんだ。歯車に定められた人間が余計な事をするだけで自分以外の人間がどんなことになるか分かった物じゃない。犠牲はもう増やすべきでない。」

 後ろから聞こえる旗艦の近づいて来る音に僕の声が掻き消される。これ以上話をすることは許されないだろう。憂いはまだ残っているが、覚悟はもう決まっている。これまでその為に生きてきてその為に全てを犠牲にしてきた。

 転移装置によって視界から消えていくノエルを脳裏に焼き付けて、僕は一切の後悔を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「各部隊に伝達、指定された場所を制圧して第七機関が立ち入れないように拠点を築け。くれぐれも市民には手を上げるな。」

 降りてきた兵士たちが各々の隊長に続いて任務を遂行しに走り去って行く。旗艦に残る部隊は捨て駒のような人物で、どうせ人数分を飛ばす魔操船を本部から持って来ればいいので防御はする必要はあまりない。上層部としても、本作戦で第七機関との決着をつける気でいるらしい。実際、今日明日で世界の命運が決まってしまうなんて思ってもない現場の人間は落ち着いている風だが、戦場を経験してない若い衛士も混ざっている分仕方がないと言えば仕方がないのだが、自分の死が近くにある事を感じるのにはいい機会なのではないだろうか。

「ご苦労だったな、中佐。長かった付き合いだが、それも今回限りだ。」

「らしくないですよ、大佐。貴方は最後まで非情であるべきですよ。」

 隣に並んで含み笑いをする大佐を見ながらも、その更に隣に居るカルルを見やり難儀な運命に巻き込まれた物だとしみじみと思い返す。

「良かったんですか、連れてくる必要も無かったんでしょう。」

「子供は、知らないうちに大人になっているものなんだろう。ならばいっその事世界の汚い所も見せてしまおうと思ったまでだ。」

 覚悟を決めた人間同士というべきか、少しの会話にも愛着が湧いてしまう気がして、素直にこんな時間が僕の生きていた中で続いていて最後になってしまうのかと自嘲気味になってしまう。一応カルルのお守りとして出来うる限り僕が面倒を見ることになっている。戦力としては申し分ないので寧ろ僕が護衛をされていると言っても過言ではないが、大佐と僕の戦闘力を考えたら妥当な組み合わせだろう。

「観測者どもに見られず会話が出来るのは、楽でいいな。帝が既にイカルガに来ている事の他大多数のことを隠れて話をする必要がない。その点ではヤヨイ家のご令嬢には感謝している。」

「封印兵装・十六夜、でしたか。その影響下では、何者からも観測されない。随分と僕たちに都合の良い能力ですね。」

 代わりにある代償については本人が一番分かっているだろう。僕と違って完全に洗脳が進んでいるがそれでも人間としての知性と自分の判断能力は生きているだろう。

「では、また後でお会いしましょう、大佐。」

 今回僕が課せられた任務は、又も重要拠点の防衛だった。今回は距離があるため敵対勢力との競争という形になるが、妨害を受けてもお釣りがくる程の物で、目的地を知っているのは僕と大佐。そして既に現地に入っている帝とハザマ大尉だけだ。

 ここまで万全な状態で行われる任務を失敗する訳にはいかない。

 

「健闘を祈るぞ、中佐。いや、アマテラスの寄り代。」

 十六夜の影響下で呟かれた大佐の声は誰に届く事もなく風に中に消えていった。 

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