普通は逆だと思います。
心が綺麗になった主人公が死亡フラグを立てている気がしてならないです。
出来ればもっと悪役風味に書きたいのですが、ままなりません
感想お待ちしています。
体の表皮を滑りながら後ろに吹き抜けていく風を感じながら半刻程、目的地を目指して飛行を続けていた。義手となった事で術式の出力を底上げする事に繋がり、遥かに重いものを伴いながらの移動を可能としていた。僕の義手である右腕には、カルルの保持するアークエネミーであり、カルルの実の姉の魂が宿っているニルヴァーナがしがみついている。単独での高速移動を行えないカルルを任務に同伴させる為には僕が移動の足となる必要があった。
今、カルルはニルヴァーナの腕の中に収まっており、特に何を言うでもなくついてきている。大佐がカルルを連れてきた理由は単純で、戦力の増強を図っただけである。今回の任務において、先ほどの様に敵側の戦力も多く投入されている。しかも、第七機関の戦力ですらはっきりとした事が分かっていないだけでなく、第三勢力の介入も予想されている。行方の掴めないジン=キサラギ程の実力者が出て来た場合、他の相手と戦った後の疲弊した僕の力で打倒するのは至難の業となるだろう。負担の軽減を目的とするこの方法は、飽くまでも理にかなっている。
表向きは、そういう話になっている。そんな事をするくらいなら少ない時間でニルヴァーナを元の状態に戻して、一旦空にした器に新しい魂を入れて僕が使った方が簡単だ。幾らアークエネミーが使用者の精神に干渉をするからといって今の僕はその程度に飲み込まれる訳がない。そうすれば今頃はカルルも姉と仲良く暮らせているはずだった。
しかし、大佐が選んだのはそれを踏まえた上での、カルルの将来性だ。曰く、既に才能の片鱗が見えて来ているらしく、この戦場の終わらない内に開花させてしまおうというのだ。大規模な戦いがこれ以降行われない様に差し向ける手はずに水面下では動いているので、機会を逃すわけにはいかない為に、連れてきている。
完璧主義の大佐らしい選択だと思う。当初思っていたよりも人間臭いところを発見できたこの頃は、どうしてか、周りの悪評みたいに嫌いになれない自分がいる。どこまでも冷徹に見られようとも、プログラムそのものではない人間だ。理性では分かっていても何処か、本人のエゴが混ざっていることがしばしばある。気にかけているのは、実験だが、実の息子に関する物が多かった。後継者としての素質を見抜いての事で、自分と同等かそれ以上になれる逸材だと呟いていた事があった。それがいつの話だったかは、覚えてはいない。でも、今回の件は、僕がそのことを覚えている前提で話していた風に感じるのだ。でなければ、完全とはいかないまでも、二人が和解できた事を決定づけられないと思う。
減速して適当な場所に降り立つ。合図を送ってこそいないが此方の動きに合わせて、ニルヴァーナが地面に足をつけた。敵が来たのかと焦るカルルを見やり、これからは歩いて目的地に向かうことを告げて、カルルの反応を待った。
当然の反応であるかのように困惑している素振りを見せていたが、僕としても半ば思いつきで言ってしまった節があるのでそれらしい言葉を並べることにする。
「十中八九、追跡を受けるとしたら僕たちだ。こっちの秘策にはまだ準備に手間取っているだろうから時間を稼ぎつつ、ボロを出した所を追撃するくらいが丁度良い。」
いまいち納得しきっていない様子を見せたものの、言及することなくついてくる。歩幅が違うために僕が少し調子を合わせている形となっている。改めて、自分よりも大分、年下の人間と行動を共にしていると自覚しつつ、士官してからはこのように心を落ち着かせて歩くという事が少なかったのだと思い返す。任務となれば、地に足をつけている感覚なんて無かった。隊舎を歩いている時でさえも先々を考えていた為に、自分の足元を考える暇さえ作れなかった。確かに、そうまでして仕事に追われていて余裕がなければ、愛想を尽かされても当然といえば当然だったな。
「結局は口先だけだったな。」
不意に呟いていた言葉に更に困惑した顔をするカルルに誤魔化し、本当に駄目な人生を送って来たのだと自覚した。将来の事を見据えて地位を上げる努力をするくらいなら、その一瞬を大切にしていくべきだった。
偶然にこんな眼玉を手に入れてしまったが、実のところ自分の事しか見ようとしなかった。手に入れたと思っていたものは全てが虚像。初めて、自分が何も持っていない事に気付いた。
「なあ、カルル。大佐に姉を元に戻して貰わなくて良かったのか。仮に、大佐が戦死した場合どうするつもりだ。」
「どうするも何も、初めは自分だけの力で元に戻そうとしていたんですから、やることは変わらないと思います。それに、父さんには、母さんが付いてますから。」
全幅の信頼、と絶対に言い切れる物では無かったが、もう一度家族を信じようと心境の変化が現れていた。未だ、信じきれていないのでは、ないだろう。目覚めつつある才能が、確証のない人間同士の信頼という絶対性のない事を拒んでいる。大佐が態と資質の覚醒だとか難しい事を教えていたのはこれが原因だろう。
無意識による、自分の特別な力が生み出せる事に対する盲信。これと向き合えない限り人は前には進めないこと、それを教えなければならない。
ゆっくりと歩いているところで、想定外の自体が起きていた。
「なあなあ、お二人さん。俺の一座に入らないかい。何も悪いようにはしねえからよ。」
先程から懲りずに通せんぼをしてくる人物が、一人いる。アマネ=ニシキと名乗った人物は、一人称と声の高さから考えるに男であった。それと、先程からずっと話している言葉から察するとこの男は舞踊の一座で女形をやっているらしく、宣伝の為かは知らないが舞台衣装であろう女装のままでスカウトに来ている。
何処で得た情報かは知らないが、何でも『咎追いの美少年』がイカルガに来る、と聞いて遠路遥々ここまで来たらしい。ついでにと言われて、僕も含めて熱烈に通行の妨害を受けているのだが、中々お互いに説得が出来ずにいる。
「済まないが、生涯この仕事に生きると決めたんだ。僕は人生をこの任務にかけている。その提案は受けることは出来ない。」
「おお、いいねぇ。その硬派な感じ。ますますの逸材だ。カルル君からも言ってくれないかな。」
「ですから、僕もアマネさんの提案に乗ることは出来ませんと先程から言っているのですが。」
聞く耳を持っていないらしい彼の喋りは留まる事を知らず、このままでは人の良いカルルは断りきれずに話に乗ってしまうかもと思っていたのだが、余りのしつこい勧誘に正直苛立ちを隠せなくなっていた。何度も話を続ける度に返しが素っ気ないものになっていった。段々と食い気味に否定の言葉を出すようになって、言い方も辛辣になってくる。
「よし、分かった。そこまで頑なに断るなら仕方がない。」
漸く引く気になってくれたのかと安心しているカルルが深い溜息を吐くが、そんな簡単に引き下がる手合いなら今のイカルガの状態を知って来る筈がない。統制機構の隊長格と、アークエネミーを前にして物怖じない度胸から見て、これまで生き残って来れるのに十分な実力は持っているのだろう。身に纏う雰囲気を硬いものとし、少し足幅を広げた構えをとってきた。
「引きずってでも、気絶させてでも、無理矢理にでもついてきて貰おうか。」
咄嗟に身構えたカルルを尻目に敵に向かって駆け出した。先程の状況下では、僕自身の細かい状態を把握出来なかった為、この戦闘を有意義に利用させて貰う。一番に考えなければならないのは接近戦だ。今の状態になってから体の耐久力がどの程度上がったのかを知るために、一撃程度攻撃を受けてみる必要がある。
「防御用術式、最大展開。及び、加速開始。」
弓状の魔道書を展開する必要性はない。相手の攻撃を受けても構わない特攻じみた物であったが、意表を突かれたであろうアマネは、避ける、という対処方法を失った。反撃か防御か、どちらを取れば最善かは、実に簡単な話である。力任せの突進に対して受けに回ったら、ペースを持っていかれるのは当たり前なことである。故に反撃をして一矢報いなければならない。
因みにではあるが、一番正しいのは回避をすることである。相打ちをするにしても、特攻と迎撃では突破力が段違いであるから、戦場で判断を遅らせる事の愚かしさが良く分かる。
「珠波衣羅盧(スパイラル)!」
布がアマネの腕に纏わり付き高速で回転を始める。やがて空気と擦れ合うことで甲高い音を発するまでに回転している円錐状の武器となったそれを僕に突き出してくる。僕が相手の右肩を拳によって打ち抜くのと同時に僕の腹部に押し付けられた、螺旋回転する武器は僕の障壁を削り、内側の内臓を捩じ切らんとばかりに押し込まれていく。
しかし、途中まで進んだきり動かない間に、二度目の僕の攻撃が振るわれて吹き飛ばされていく。あの程度の攻撃では僕の障壁は破れないようだった。体を走る魔眼の力がより強固な防御壁を作り上げる。自己嫌悪の末に自分を見つめ直す事で真に覚醒を遂げることが、いや、そうなるように仕向けられた事で確固とした力を手に入れることが出来た。前に大佐が言っていた様にこれ程のエネルギーが副産物であるとは、にわかに信じ難いが成ってしまった物は受け入れて、自分の境遇を最大限まで利用させて貰う。
「ありえねえだろ!俺の攻撃で貫けないなんて、絶対に勝てないじゃないか。」
「別に勝つ気なんて無かっただろうに。」
肩を抑えるアマネが睨むように僕を見てくる。動く間もなかったカルルが呆然としているので順を追って説明をしなければならないが、そろそろ時間であろうから無言のまま少し待つ。
イカルガ随所から聞こえる爆発音に此処に居る全員が反応を示す。どうやら始まった様であるが分かっているだけ皆が苦々しい顔をしている。このイカルガで再び戦争が起こっている。
「始まってしまったな。」
特別な感慨もなく、唯呟いただけの言葉がより、収まりがつかない事の理解を進ませる。進化を続けてきた人類の英知が結集して行われる大規模なドンパチが振動となって伝わる。
「さっさと行けよ、アマネ=ニシキ。戦争の被害を増やさない為にイカルガまで来たんだろうう。」
「そうだ。これまで多くの戦争孤児を見てきた。そして、助けてきた。戦争が終わっても、未だ全てを助けきれないでいるのにどうしてお前たちは戦争を起こすんだ。」
どれだけの苦労の元で生きていて、どれだけの人間を助けてきたのか。僕なんかよりも尊敬できる人であるのは確かで、これからの惨状を見ても折れない覚悟を持って来たはずだ。力も身の丈にあった程度の物だ。その中で苦悩して、自分の生き方を決めたんだろう。
「僕が謝れる事は無い。」
僕の発言に対して怒りを露わにしたアマネが僕に攻撃をしようとして、又もや布を螺旋回転させている。それを見たカルル、ニルヴァーナが割って入るがそれを静止して僕が前に出て話を続ける。
「許される事をしているとは思わない。それでもやらなければならない事はあるんだ。強大な力にはそれに伴い、大きな責任を果たさなければならない。」
納得は出来なかった様だが、これ以上話をしていても平行線だと悟ったであろう、僕に攻撃を受けた右肩を抑えながら戦火に向かって歩いていった。他の人間との価値観が違うことも、見える景色も違いがある事も知ってはいたものの、真っ向から否定される事を経験してこなかった為、多少新鮮に感じる。
「ギレル先輩、正直僕が先輩のサポートを務める必要性が分からないのですが、父さんは何を思って僕をイカルガに連れてきたのでしょう。」
カルルの思い詰めた表情が伺えるが、実際のところ自分で考えるしかない。大佐が僕に任せている理由としては、大佐の様に間違った方向に進まないように導いて欲しい、と思っているのが大半を占めている。そも、切っ掛けがない状態で導くのは難しい。
「カルルは自分の家族以外の人間と深く関わった事はあるか。」
「それは先輩方を除いて、でしょうか。」
士官学校からも抜け出してしまったカルルは、同年代は愚か、何年も一緒に過ごした人間が極端に少ないのだろう。自身の意思で、皆の輪から離れたのならばまだしも、離れざるを得ない状況で育ってきた為に、人との関わり方が上手くない。一人ぼっちだった僕だから言えるが、一度離れてしまった物を自力で戻すのは案外難しい。僕の場合はカイケイだったが、切り口となる出来事が必要だ。
「大佐が死なない以上、君の姉は死なない。だったら、自身の正義を、理念を貪欲に求めないと、それはカルルの人生では無くなってしまうんじゃないかな。」
「僕の求める物…。」
姉のために費やして来た人生。それしか知らなかった人生を変えてやらなければ、それが大佐の贖罪なのだろうか。そして、力を持つものとして、同じ過ちを起こさせない為に僕がやらなければならない事でもあるのだろう。