[習作]哀の果てに   作:解法辞典

22 / 30
ココノエ参戦おめでとうございます。
本編には関係ありませんが素直に嬉しいです。
家庭版がでたら触って見たいと思います。

物語も佳境に入ってまいりました。
きちんとまとめられるように頑張って行きます。


感想お待ちしています。


第十八話

 イカルガにも夕日が差し込んできて、もう直ぐ夜になることを告げていた。六英雄の活躍の御蔭でさながら御伽噺の様に伝えられている、第一次魔導大戦。それが起きた時よりも、ずっと昔の戦争の様な闇が広がることによって生じる緊張感など、今日における戦争の定義には当てはまらなかった。暗ければ一帯を明るくする技術の恩恵により夜襲という作戦は殆んど優位性が無くなっている。今の主流がゲリラ戦と言って過言でない為に元々奇襲自体が淘汰されつつあるこの時代で、同じ条件下であれば練度の高い方が生き残り易いだけの話で済んでしまう。術式が発展して、個人が持てる戦力が大きくなるにつれて、人間の作り出した階層都市の入り組んだ地形では、旧時代の戦車や装甲車は取り回しが効かず、訓練を受けた兵士にさえ突破力も射程範囲も追いつけない。科学を使い、世界を発展させようと考えている第七機関においても、それらの物は開発を断念された。

 断続的に聞こえる戦火の音が、何処にいても聞こえてきた。大佐に指定された場所に向かうにも戦闘を行っている場所が幾らか見られ、介入した挙句名も知らぬ有象無象に殺されでもしたら、僕は悔やみきれないだろう。遠回りをしてきたこの道でも戦争の跡は残っている。両方の勢力が相打ちになったであろう死骸の配置に、昔に僕が逃げ回っていた記憶が脳裏を掠めた。雨上がりに水溜りができるが、あの水は中々渇かず天気によって一日以上残ることがある。仲間だったものが冷えてしまう程の時間が経っているのにも関わらず、全身から流れてきた血は何人分も混ざり合って、絵の具をひねり出したかの様な生々しい溜まり場を形成していた。

 運良く溜まり場ができている傍では、激しい戦闘によって亀裂の入った地面に染み込んで、赤い線を描いている。間接的に人が死んだ事を伝えてくるものばかりではない。腕だけで無く、腰からも折れ曲がっている第七機関側の人間。首から上が見当たらず、後ろの壁には、少し干からびた肉片がこびりついていて、特定の誰かも分からなくなった人の残骸もある。爆発物を使った痕跡が残る地面の焦げ跡の近くには、両陣営の服の切れ端だけが落ちている。

「カルル、必要以上に見る必要はない。戦争を忘れるな、とも言わない。視界の端に映るだけで忘れることなんか出来ないからな。」

「はい…。」

 滅多な事がなくては見れない光景だが、如何なる理由が有っても見ていいものでもない。無駄口を叩きあった知り合いが死んでいるのも、知らない誰かが死ぬのも、見て得なんかしない。獲れるものは後悔と、きつい死の臭いだけだ。様々な死に方が、見るだけで粗方想像できてしまう程にはっきりと、し過ぎている。

「見たことのある人間の筈なのに、無機質に感じてしまう。そこにある筈の魂が、魂の脈動が見れないだけで、死骸に成り下がっている。確かに、カルルの姉の方が人間としての温かみを見て、分かる分はやっぱり人間と言えるんだろうな。」

 魂を見えることについて否定をしなかったという事は、大佐と同じで魂については理解出来ているのだろう。もう既に、カルルの能力はある程度の部分まで開花しているに違いない。それを確認できてもこんな場所では、落ち着いた話もできない。今のところ十分な刺激として作用しているが、ここまで大量の人数の死を目の当たりにした場合では思考が定まるないだろう。考えをまとめる時間を設ける必要も出てくる。

「済まないが、少しだけ席を外していてくれ。弔ってやりたい奴がいる。」

 丁度良く隊長同士面識のある人間がいたので、カルルを一人にさせて落ち着かせる事にする。話の出汁に使ってしまった事は詫びるが、有効に利用することで弔いとさせて貰おう。最期になって、人類の繁栄の糧になれるのだから、救われただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 戦火が広がっているという事は、敵との接触の可能性が非常に高くなっている事に直結してくる。特定の敵への陽動も兼ねての単独行動なので、初めの接触以来これまで手を出してこない相手の意図も気になるところだが、これ以上戦争を長引かせても無駄だろう。何も知らない一般兵士の目を誤魔化すために戦争を手段の一つとして用いたが、技術革新が著しい両陣営がかち合って、長引くのは有り得ない。準備時間を稼ぎつつも、戦争が終わる前に目的地に到着しなければならないさじ加減が難しい。

 不慮の事態で遅れては本末転倒だ。そろそろ休憩を終えてこの近くから離れたいので、先程席を外すように言って近くで休んでいる筈のカルル呼びに行こうとしたところで、喧騒に近しい話し声が聞こえた。

「だから、平気だって言ってるだろ!ルナ様が其処らの雑魚相手に遅れを取ると思ってんのか!」

「ここは戦争が起きていて危ないですから、安全な場所まで保護をですね…。」

 見たところ、子供が逃げ遅れている様だがカルルに説得されても言う事を聞かない。子供同士の微笑ましい会話に見えるが、一見して普通ではない。その子供は声を聞く限りは女の子であるが、不釣合に大きいローブとフードで体と顔を共に隠している。隠しているのは見た目に限らず、その服にかけられている何かによって僕の魔眼の効力を打ち消してくる。更に馬鹿でかい何かを背負っておりそれもまた、全く素性が掴めず、今のところ特殊な立場にいる人物程度にしか認識は出来ない。

「保護者は、何処にいるか分かるか。」

「いや、いつの間にか此処にいたから分からないぞ。」

 僕が話しかけると、至って普通に返事をした。目上の人物に話慣れているというのも多少特殊に思えるが、今は気にしないでおこう。近くには仲間の姿は見えず、引き渡した所で意味を持たないだろう。何せ戦争の最中であり、渦中に放り込まれても対処ができないだろう。

「二重人格とは、少し違うんですね。」

「そうだよ、カルル君。僕とルナは魂が分かれてるんだって~。」

 雑談に花を咲かせている二人、いや話を聞く限り三人、を視界に入れつつも近くの統制機構員に連絡を試みる。取り敢えず、捨て駒でも増やしたいのが現状だ。大隊でも小隊でも、落ち武者でもいいから繋がらないかと思ったが、あの術式を妨害する機械がいたるところに配置されているのだろう。術式に頼った通信手段では連絡の取りようが無い。軽い舌打ちをして辺りを見回す。開けた土地に出ることができたが、二人分の護衛をこなしながらの進軍は望めないと言って良い。事が起きたらカルルの頑張りに期待するしか無いだろう。

 周囲の魔素の動きが不自然に揺れて、僕らの近くに集まってくる。

「二人共、退避しろ!」

 魔道書を空間から取り出して横っ飛びするやいなや、僕のいた地点を中央と定めた攻撃が周りの空間ごと凍結させた。二人も何とか無事なようだが、目配せで急ぎ下がらせる。

「ジン。」

 ゆっくり歩いてくる人物を睨み、弓に手をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 手合わせを含め一番戦ってきた人間と対峙している。手の内を知り合っている身からしてみれば大佐の試作兵器の分、意表を突ける。ただ、意表を突いた程度で倒せる程甘い相手ではない。状況に対する選択肢が多いだけで勝てる訳もなく、実力と相性の世界になる。戦績はあちらが僕の二倍ほど勝利数が多いが、過去の事だ。今の僕に勝てる筈がない。

「お前には、帝の勅命で殺害許可が下りている。」

「ギル、お前が何をしようとしているかは知らない。だが、奴らがしようとしている事は猫からの情報で想像ができる。利用される前に、止めさせて貰う。」

 散々、秩序の力に振り回されていたというのに、今では制御下に置いているのだという。確かに見て分かるだけの力が増幅されている。分が悪いが勝てない道理はないのだが、戦う相手はジンだけで済まない。あと何人と戦うのかは分からないが、保険を使うのも仕方がないと言ったところか。

「帝、それにハザマ大尉がきちんと働いている御蔭で第一段階は消化できそうだ。出来ればこんな所で撒き餌を使うのはやりたくないが仕方ない。」

「ユウキ=テルミに利用されているだけだと、何故分かってくれない。ツバキも、ギルも、死なせたくないんだ。」

 救って貰うほど弱くはない。僕だって、救いたかった。でも、僕では力不足だった。だから、今まで以上に強大な力を手に入れる為に、全てがこの両腕から溢れないように、僕自身の安否より優先しなければならない。

 顕現した魔眼に意識を注ぐ。血管の如く脈動する魔眼が、少しずつ輪郭をあらわにしていき、今まで誰も見たことがない程にはっきりと形を認識することが出来た。戦闘に意識を移行したジンが牽制を仕掛けようと試みるが、僕が矢を射る事でその行動を予め抑制する。僕からの干渉を受けた魔眼が辺りにスパークを撒き散らし地面を焦がす。抑圧を受けた魔眼は、その力を吸い取り大きくなり直径が五メートル近く膨れ上がると、収縮していく。

「ジン、お前の秩序の力が世界の変容を理解させているだろう。神の力の一端を魔眼を媒体に模倣することで、僕は力を手に入れる。」

 小さくなった魔眼が僕の頭に付いている目玉に重なり合う。魔眼が消えた訳では無く、新たに力を手に入れる事で生まれ変わった。重なり合った眼が熱くなり、人の身に過ぎた力が僕を刺激する。扱いきれる事を確認した僕は、手始めに自身の体をジンの背後へと移す。驚く様を見せず僕に斬りかかって腕を削ごうとしてくるが、刀には当たらず、周りに漂う冷気で体を凍らせる事もなく身を翻らせた。次いで放たれた横薙ぎは義足の魔道書で飛行術式を使うことで回避して、距離を取る。

「まだ十分に体に馴染んでないが、見ただろ。これが神の力の一端、事象干渉だ。僕でしか出来ない裏技に近いものだが、凄まじいな。」

「ギル!そのままだとお前は人間に戻れなくなる。そうまでして成さなければならない事が、自分を犠牲にしてまでしなければならない事があるのか!」

 僕を追って地面から突き出てくる氷柱を躱して、弓を引き絞る。僕に接近するために自らが出した氷柱を蹴り、僕の狙撃を躱す。避けられた矢が、ジンの後ろに生えている氷を吹き飛ばす。後ろの状況を確認しながらの飛行にも限界が生まれる。建物にも阻まれた退路から脱却するために壁を踏み台にして一気に加速する。義手に精一杯の術式を掛けてジンの斬撃に備える。斬撃以外の要因である能力を事象干渉で打ち消して、空中でぶつかり合った。相手の獲物がアークエネミーということもあってか薄い刃は折れることなく、むしろ少しずつ切れ込んできた。強引に引き剥がした僕は、一度地面に降り立って息を整えた。

「氷翼、月鳴!」

 氷剣・ユキアネサの先端から放たれた氷は近くの氷を巻き込みながら飛来してきた。避けきろうと足に力を入れた所で、後ろには運悪くカルルたちがいることに気がついた。前方に出て二人を守ろうとするニルヴァーナ、いやエイダ=クローバーが先に見えて、更に後ろでは、カルルが件の女の子を抱きとめて庇おうとしている。僕の体と比べても凶悪なまでに肥大化した氷の刃は前方に見える僕との対比で更に絶望を広げているだろう。やむを得ず、オーバーワークと言える魔眼に再度力を込めて事象干渉を開始する。僕から発せられた波動が氷に触れると、当たった部分からこの世界から無くなっていく。明らかな体の酷使で何とか受け止めたが、自分だけの力では負けていたかもしれないと思い自分の非力さを呪った。

「霧槍 突晶擊!」

 僕の隙をついて、ジンは自分で生み出した氷の上に乗り、術式で加速しながらの突撃を一直線にしてくる。タイミングとしても、後ろにいる人間を考えても、避けることは出来ない。多少凍る事を覚悟して障壁を全力で展開する。一応は受け止めた障壁は徐々に侵食され、氷へと変わっていく。強引に障壁を殴る事でジンを下がらせる。あと何回使えるか分からない事象干渉を起こしてジン自体をこのイカルガの何処かに飛ばす。抗体に事象干渉を起こすのは骨が折れるが出来ない道理はない。

「僕は、咎を負う。もうお前と顔を合わすこともないかもしれない。じゃあな、ジン、ご令嬢と仲良く暮らせよな。」

 返事も聞く暇も無く。ジンを飛ばした。思ったよりも疲弊してしまった。カルルの援護があればもう少し上手く立ち回れたが、これ以上この下らない茶番の犠牲者を増やす訳にはいかない為一般人保護は最優先にしなければならない。

 振り返ると眼前には、ふざけた装飾のミサイルがあった。判断する余裕もなく戦闘の名残である最後の砦、体に貼った気休め程度の障壁に当たって爆発した。地面に投げ出された僕は、攻撃を受けた方角を向き直した。

 そこには、フードを取った先程の女の子が後ろに携えていた長柄の物を握りしめて立っていた。

「教えなさい、ユウキ=テルミが何処にいるのか。」

 さっきまでの二人共違うトーンの声。ユウキ=テルミと浅からぬ因縁を持つ、トリニティ=グラスフィールの人格が敵意を剥き出しにしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。