[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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第二十一話

 多分、僕は何者でも無かった。

 ただ生まれて、理由なく死んでしまう。僕が世界の一部であり、それ以上の役割は与えられていなかった。永劫、何かの歯車のまま過ごして何度も朽ち果てるのが役割と言えたかもしれない。それを知ったのはスペアで無くなった時だったか、もしかしたら初めから知っていたのだろうか。

 誰の目にも捉えられる事はかったあの日に、僕は世界の部品では無くなった。思えば、彼女も世界の部品だったのだろうか。死ぬ運命にあった彼女にとっては、会うもの全てが新鮮に感じられた。彼女にとってはその中の一人だっただろう。だが、僕にとって、認識してくれる人間の最初の人物であったのだ。最低限、人の形を保ったまま死ぬことが命題であった僕には、これ程の未知の経験は無く、段々と生きる渇望を見出した。自分の器を満たす為に、自分が消えて無くならない様に、尽くした。

 僕は、尽くした。

 明くる日も、明くる日も会いに行った。手紙だって書いた。一緒に仕事だってした。休日には共に買い物に行ったし、遊びにだって行った。四六時中喜ばせる方法を考えて、彼女を第一に考えてた。

 

 自己を保つために行動する内に、僕は彼女に「恋」という物を見つけてしまったらしい。或いは、これこそが僕の存在意義だと考えた。元が空っぽの器では、入った物を認識する事しか出来なかったという事だ。どんどん満たされていく器は、やがてもう少しで一杯だった。

 

 そして、あの日目の前でその大部分が損なわれた。器が満たされたあの日に、大部分が意味をなさなくなった。妬みも苛立ちも溢れてしまい、残ったのは空虚な感情。がらんどうの器のみが僅かに中身を残していた。

 

 僕はその残りカスの為に、この場に立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 躊躇いのない拳を相手に目掛けて叩き込む。異形の右腕は見た目には似合わない速度で加速して、その大きさに見合った質量をのせてぶつかった。相手の顔面を寸分の狂いなく打ち抜く筈だったが相手の展開した光の壁に阻まれて腕を伸ばしきる事なく止まった。蒼の継承者が使用する神殺しの剣クサナギの力は強大で僕ではまるで貫けそうにない。ユニットを使用した全方位防御のバリアは術式では、範囲、硬度ともに、再現が出来ないだろう。

 しかし、それも防御に徹した場合のみである。常に展開していても剥がれる事はないだろうが、僕としては好都合なのだ。なにせ、僕の任務は防衛で、相手に攻める気がないなら適当にあしらうだけで済む。しかし相手はそうはいかない。おおよそ相手の目的はここの突破だろう。つまりは、僕の撃破である。いくら神殺しの剣・クサナギと封印兵装・イザヨイだとしても一人で僕を相手にするのは論外だ。それで勝てるのであれば、二人は要らない。一人は僕を無視して通って行けばいいのだ。勿論、見殺しにするのであればその作戦は十分に機能するのだが、やらないみたいだ。

「使いこなせていないみたいだな。その展開では穴だらけだ。」

 義手から伸びる弓状の刃が、半回転して巨大なクワガタの顎を想像させる形となる。僕から見れば丸見えの欠陥部分に向けて深々と突き刺す。一度に崩壊することは無いが、着実に壊して相手を殻から引きずり落とそうと右腕の動力炉が駆動音を響かせる。

 がしかし、それも一瞬にすぎない攻防であった。後ろに転移してきたイザヨイが、自らの武装である大槍を僕の背中に目掛けて振るいかかってきたのだ。振り返る勢いで右腕を引き抜くと、それを大槍に向けて力任せにぶつける。お互いに体勢を崩すことはなくそのまま鍔迫り合いになり、力比べを始める。薙ぐ、突く、叩き付けると多様な攻撃が出来る槍では有るが攻撃後の、腕が伸びきった状態で均衡できる訳が無く、僕は術式で飛び上がるとほぼ同時に右手に力を入れてヤヨイを吹き飛ばす。腕をだらしなく伸ばしきった眼前の敵には目もくれず宙に身を投げ出した。殺人的な加速に体はついて行かず、特に体に対して重い義手と義足の接合部分は悲鳴を上げる。

 飛び上がった僕の足から焦げ臭い匂いが立ち込めていた。急ぎ飛び上がったが、敵のビーム攻撃を避けきれずに靴に掠ったらしい。義足側に掠ったからましだが、今の攻撃を生身に浴びていたらと思うとぞっとする。見た限りの情報と照らし合わせて分かる敵の武装は、ヴァーミリオンが自立の防御ユニット、自立の砲撃ユニット、そして本命の、剣である。ヤヨイの武装は、大きめの槍、能力が未知数の自立ユニットとなっている。両方共空中移動が可能で、特にヤヨイの方は僕と同等程度の飛行能力に加えて、空間跳躍が可能。更に僕の虎の子である「事象干渉」が二人共レジスト出来る。ある程度の苦戦は覚悟していたが、二人同時に相手取るには少々難しい。

 どちらかを先に倒してしまおう。

 右腕の砲撃を二人が固まっている場所を目掛けて照射する。飛び上がろうとしていたヤヨイの出鼻をくじき、僕の後ろの空間から現れた幾つかの刃が到来することによって生じた隙を突かれることも無かった。しかし、僕が接近する牽制もまた、潰されてしまいにらみ合いが続く。相手は枚数の有利を活かしたいため分断されることを恐れて手出しが出来ない。僕としては、第一に接近する旨みが少なくより距離をとってでも遠距離戦で戦いたいが、生憎と僕の後ろは通すわけにはいかない場所なので自ら退くなんて事はもっての他であるのだ。

 因みに、僕と二人がガチンコで戦ったとして勝率はほぼ無いに等しい。それでも僕が逃げ出す算段をしていない理由の一つに、この場所に仕掛けた罠が挙げられる。本来ならば歩行する人間を獲物とした物が多数であり、殆どが役立たずと化したのだが、正常に機能するものも存在する。多用できるほどには仕掛けられていないので、起点にすることはできないが、からめ手としては十分な働きが期待できる。だが今のままでは、ボードゲームの盤面をかき回すことができても続く一手が欠けているのが実際のところなのだ。今は相手の愚策を待つしか出来ない。

 

 

 

 

 僕と相手の戦力比は単純に考えても二対一なんて生易しい物ではない。相手には自由に動かせるユニットがあり僕と数を比べるだけでも大体が十対一である。僕の実力を統制機構の大隊と換算するとこの戦いは、一大隊と十中隊のぶつかりあいと同程度だと言っても差支えないのが現状だ。正面から戦って勝つこともあるだろうが、限りなく低い確率で、しかも相応の被害を想定の上でのことになるのだろう。慎重に戦ってもギャンブルの様な戦いであるから、できることなら相手から分の悪い賭けに出て欲しかったが、こちらにも事情があるためそろそろ決めにかからなくてはならなくなって来ていた。仕方なしに攻め入るしかなかった。

 アクションを取る必要もない術式の発動で、相手の間をこじ開ける。爆発音と共に襲いかかる無数の矢は、巻き上がった粉塵の影から相手に飛来した。ヴァーミリオンは先程と同じようにユニットを展開して全てを防御、ヤヨイは空間を移動して回避した。まず狙うのは、走り回る狗ではない。難攻不落の要塞に亀裂を言えて一気に叩く。此処等一帯に敷いた拘束用の簡易的な結界でヤヨイの足を止める。計算では約二十秒ほど止められる予定で、その時間は人を一人仕留めるには十分な時間であるといえよう。

 術式開放の更に上。義足、義手にかけられていたリミッター、セーフティをすべて解除する。一人を無力化出来ればそのあとに残った一人は貯金に残した罠で十分に対処できる。右腕に強化の術式をかけて全速力で突っ込む。砂埃が舞っている中に入って、魔眼で見える方向に直進する。舞い上がった小石が皮膚を裂いて、耐え切れない速度に体中の骨が悲鳴を上げる。内蔵は使い物にならず、補強がなければ、首はあらぬ方向を見ていた事だろう。

 今あらぬ方向を向いているのはヴァーミリオンで、背後に回った僕に反応ができていない。ずっと引きこもっているつもりだとしても、あらゆる物の欠陥部さえも見抜ける魔眼の前には意味がない。悲鳴を上げる体を強引に捻り、右腕をヴァーミリオンの背後に叩きつけた。

「お見通しだったか。」

「ギレルの考えは見えずとも分かります。」

 迎撃でもなく、ただ逸らされた僕は全くの無防備であり半端に速度を緩めてしまったせいで相手の攻撃が丁度当たってしまう。通り過ぎようとする僕を追い越して繰り出されたて鋭い蹴りは、僕の腹部に深々と突き刺さり、内臓の潰れた音と骨の砕ける音が確かに響いた。その攻撃で減速した僕に右腕、義手は即座に切り捨てられて大きな音を立てると同時に砕けてしまった。

「オモイカネ!」

 重かった腕を切り落とされた僕がバランスを崩している間に完璧に捕まってしまい今度は僕が結界状の物に閉じ込められて、頭上には無数の馬鹿でかい剣があり、まるでギロチンの様に僕の目に映った。断頭台の刃は下ろされ、僕の入った結界に向けて降り注いだ。

 剣は地面に深々と突き刺さり、近くに立っているヴァーミリオンに向かって拘束を解いたヤヨイが歩み寄っていく。眼下に見えるのは血だまりのみで剣群のせいでそこに横たわっている筈の人間の姿は観る事が出来なかった。

「何でこんな事をしなければならないの。誰を殺さないといけない世界なんて誰も望んでいないというのに。」

 そして、この場所でギレル=リバースという人物は死んでしまったと勘違いされた様だった。しかし右腕を削ぎ落とされた今となっては反撃の手段は少なく。落ちている義手に近づき、ただ威嚇の攻撃をした。完全に終わっていたと思っていた二人は反応が出来なかったが、どうにかする必要もない弱々しいものであった。

「流石に自分の死を幻視したぞ。御蔭でその未来を破棄することはできたがな。」

 肩で息をする僕を見て二人は驚き、そして攻撃をする気が失せた。見るからに死に体の僕にもはや追い討ちをする必要はないと思ったのだろう。それでも僕はここから先に通すわけにはいかない為倒れそうな体に鞭を打って通路を塞いだ。

 が時間切れであった。

「来たれ雷よ。」

 敵の増援、吸血鬼が僕に雷を落とす。流石にこの攻撃は事象干渉で打ち消すことが出来るため、遠のく意識が白熱するほどの負荷をかけつつも防ぐ。更に増援、増援増援。いくら防いでも限がない。事象干渉の酷使だけでは耐え切れない。僕は魔眼を具現化して通路を塞ぐ位に大きくした。事象干渉で周りを埋めて近づくことも出来ない。隙間をくぐり抜けることも叶わない完全な要塞。先には絶対に通せない。いくらクサナギだろうと、イザヨイだろうと、吸血鬼だろうと、六英雄だろうと、その妹であろうと、娘であろうと、後輩だろうと、元ルームメイトだろうと突き通せないだろう。なにせ、僕の全力である。突き通さない。絶対にこれ以上は行かせない。

「ノエル=ヴァーミリオン。せめてもの報いよ。ひと思いにあれを壊して魔眼の呪縛からあの男を救って上げて。」

「…はい。」

 見上げれば今朝乗ってきた旗艦と同じくらいに大きい剣が此方に向けられていた。遠巻きから見ればゆっくりとした速度で、実際にはバカにできない速度で僕の防壁に衝突した。

 

 視界が爆ぜる。僕自身の目玉と連動している具現化された魔眼は痛みさえも僕に還元される。最上級の頭痛の表現として「眼玉をスプーンですくわれたような痛み」があるそうだが、剣とせめぎ合う目玉の痛みは誰も経験したことはないだろう。少しずつ侵食されていく。連動して僕の目玉からも血が滴り落ちてくる。すでに視界に意識を回す余裕はなく、痛みの根源たる剣を押し返そうと事象干渉を強くしていく。当然、魔眼を媒体として酷使する為、痛みは加速的に増えていく。さらに酷使して、さらに痛みが増していく。この悪循環に気づいても、いたいのだ。体全体が軋んでも足りない程に痛くて痛くて仕方がない。もう、声を上げている余裕すらない。ただ痛みをなくしたい一心で痛みを増やしていく。どう足掻いても破滅だ。

 

 結局は自滅。自分の左目が破裂して終わり。

 

 

 

 

 

「ご苦労だったな。じゃあお前は後で楽にしてやんよ。」

 横たわっていると背中を思い切り蹴り抜かれた。声を聞く限りは、ハザマ大尉だろう。僕の任務であった時間稼ぎ。下準備まで邪魔を入れないという任務は一応、完遂されたという事で間違いないだろう。ここまでくれば僕の仕事はもう終わりだ。あとは、大佐たちに任せてしまえば目標はなされる。




でかい口叩いても、主人公は一対一で勝てません。
どれだけ化け物じみたパーツをつけようが無理なものは無理です。
相性が良い相手なんかアラクネしかいません。単発が大きい相手には押し負けます。



アニメ楽しみですね。

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