[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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種明かしをするだけで文章が滅茶苦茶増えますね。
レリウスのセリフが本作トップに躍り出ました。
読みにくい部分、分かりにくい表現があれば質問を下さい。


感想お待ちしています。


第二十二話

 死屍累々のギレルを蹴りつつ顔を上げたユウキ=テルミは、視線を相対する敵に向けたまま後ろからやってくるレリウス、帝がついてきている事を確認した。統制機構、或いは帝サイドの人数は視認できる限りで三人。対して、向き合っている相手の人数は、レイチェル、ヴァルケンハイン、ハクメン、ココノエ、セリカ=A=マーキュリー、ノエル、ツバキ、マコト、カイケイ、そして遅れて来たラグナ、総勢十人である。レリウスの持つ波動兵器デトネーターを一人と計算しても、数的不利は完全である中で飄々とした態度でテルミは口を開いた。

「遅刻は格好つかねぇぞ、ラグナちゃんよぉ~。味方待たせたらまずいだろ、しかも年寄り待たせたらぽっくり逝っちまうぜ。」

 足元のギレルの頭を踏み抜きながら話をするテルミに次第に視線がきついものとなっていく。当の本人であるギレルはそれこそ死んでしまったかの様に動きがない。異様な自信を見せる三人に対する絶対的な行動がない十人がたたらを踏む。傍から見れば追い詰めている筈なのに、それをタダで追い詰められた様に思わせない雰囲気がテルミにはあったのだ。

「味方を足蹴にするなんて、本当に行儀が悪いのね。」

「おい、くそ吸血鬼、こいつを俺の味方って言ったか。イヒヒ、ヒャーハハハハハ!この道具が、言うに事欠いて味方だとよ!!馬鹿じゃねえの!」

 探りを入れるレイチェルの言葉の何かが彼に面白く聞こえたのだろう。いきなり高笑いをするテルミを見て怒りを募らせる者、慣れている為に冷ややかな視線を送る者、懐疑の目でみる者と様々であった。そして、テルミのその姿を見て一番に怒鳴り散らしたのは、ギレル本人を慕っていたノエル、では無く、以前に死力を尽くして戦い、先程の執念も見せられたヴァルケンハインであった。

「黙れよ下郎。貴様らがその小僧に優っている部分など意地汚さ程度のものだ。最期まで戦い続けた人間を笑う権利など貴様らにありはしない!」

 吠えるヴァルケンハインの姿を見て、テルミはより一層声を上げて笑った。

「自分が負けた相手を称え上げたところで自分自身も強くなるわけじゃねえんだぞおっさん。ご主人様の前で、格好の一つや二つ、つけたくなったのかよ。気持ちわりぃなぁ、おい。」

 喋りつつテルミはかがんで、その手をギレルに伸ばした。胸ぐらを掴み上げて持ち上げようとするも流石に、魔道書を内蔵した義足という重りがついているので上手く持ち上がらない。あまりにも自然に行われる行為に、この場にいる殆どの人間が動くことを忘れてしまった。

「レリウス、もう少し何とかなんなかったのかよ。こんなの運ぶなんて普通に考えて無理だろ。」

「仕方がない。テルミ、そのまま持っていろ。その足を切り落として貰えば万事解決だ。」

 レリウスが言い終わると同時に巨大な人影が落ちて来た。漆黒の大剣を携えながら降りてきた人間は、体と同じくらいある剣を軽々と振り回し、ギレルの義足を切り飛ばした。取れた義足は剣の勢いのまま帝たちの後ろに転がって行き、着地と同時に大きい音を立てたものの、壊れる事はなく何回か回転していた。

「いや済まないな、思いのほか戦争の決着がつかなくてな。抜け出す訳にも行かなくてきちんと終わらせては来たんだが、遅れちまったよ。」

「構わない。総司令は、レリウス=クローバー大佐とそこの奴らの片付けをしろ。テルミはそれを持って窯に迎え。」

 加勢に来たカグラ=ムツキを見て、帝がようやく口を開いた。ギレルを担いだテルミが窯へと向かい、遮るようにカグラとレリウスが立つ。その少し後ろで帝は佇んでいた。その目的、手段を問いただす前にココノエはカグラに向かって糾弾をする。

「裏切り、違うか。最初から私たちを騙していたのか。今の世の中を変えたいと言ったのも、皆が笑って暮らせる世界を作りたいと言ったことも全てが嘘だったのか。帝に従っていては統制機構を変えられないと、革命を起こしてでも変えたい世界があるといったのはでまかせで、それが、自分の部下にも嘘をついてまですることなのか!」

 取り合う島もないといった具合に剣を構えたカグラ。その横で一言、来い、と言って波動兵器デトネーターを呼ぶレリウスと共に臨戦態勢に入った。それを見た全員が戦う姿勢を取って、時間が止まったかの様な錯覚を覚える。

 テルミの歩みは止まらず、先程吹き飛ばされた義足の所まで差し掛かった辺りで、レリウスが動いた。指を打ち鳴らして、一言呟く。

「やれ、イグニス。」

 空間転移するデトネーターを見るやいなや相手も味方も一斉に動き出し両間での爆発的な衝突が起きて、待ちの戦法のカグラに向かいスピードのあるツバキ、ヴァルケンハインが挟撃を仕掛ける。

 

 

 出現したデトネーターは帝の首をはねた。

 

 

「はっ?」

 誰があげた声だっただろうか。振り返ったテルミだったかも知れないし、一部始終を見ていたレイチェルやココノエだったかも知れない。ただ、その呟きがその場にいた大多数の意見を語っていた事は言うに及ばないだろう。地面に鮮血をこぼす頭蓋骨、豪華なかんざしは取れてしまい乱雑に髪が放り出されている。サヤ、と一言喋り彫像の如く動かなくなったラグナも、突然の裏切りに声も出ないテルミもそのほかも全員が呆然と帝の死骸を見つめるしか無かった。特別、なんでもない一般人であるマコトとカイケイはまず頭が真っ白になっている。セリカは今、自分の周りで何が起こっているのかさえ把握できずにいる。

 誰も動くことさえ憚られる空間で、絞り出すような声が聞こえる。

「眼玉ってのはなぁ、二つあるんだよ。」

 この一場面。テルミの意識が完全に自分から外れる一場面を狙っていたギレルが、右目。つまりは潰されて栓なくこぼれ落ちる血の涙を出す側の反対の目を鈍く光らせていた。

 

「捕らえたぞ、スサノオォォォォォ!!!」

 体から抜け出た魂がテルミの体を包み込む。そして、大きな目玉の形をした空間の中に、ギレルの魂とテルミの体が引きずり込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静寂が訪れる。

 切り結ぼうとしていたカグラは剣を地面に突き刺して座り込んだ。無条件に曝け出した相手の無防備な姿に怖気づき攻撃を躊躇ったのは、ヴァルケンハインだった。全員の理解が追いつかない場面において、唯一人、レリウス=クローバーだけがくつくつと静かに笑っていた。誰かが言及するまでもなく本人自ら種明かしを始めようとしていた。

「此処に居る全ての人間をねぎらいたい。そして、完全な人間の世界ができたことに心から祝福を捧げたいと思う。」

 無駄に大きな身振り手振りで、芝居掛かった口調で話し始めた。普段の彼を知る者ならばここまで饒舌な語り口の姿を見れば顔をしかめる筈だ。現にココノエは胡散臭い物を観る様な面持ちであり、更に睨みを効かせていた。

「まず、順を追って話を始める。彼、ギレル=リバースは、元々マスターユニット、アマテラスに不慮の事態が起こった時の為に存在を許されていた、謂わば抜け殻の状態であった。存在を許されてもそこに彼の意思は存在しなかった。」

 ひと呼吸おいて、皆が自分の話を聞いている事を確認して話の続きを語り始めた。

「しかし、それだけでは終わらなかった。その原因となるのは、イカルガ内戦において死にかけたとされるギレル=リバースが、死んだと錯覚してしまい、生霊のまま冥府の門、つまりはイカルガにあった窯に潜ってしまったことだ。その時彼はマスターユニット、アマテラスの瞳を、その瞳に映る景色を観た。彼の魔眼の正体は、世界を映すアマテラスの瞳の真似事だ。写し取った強大なエネルギーは副次品であり、その本来の力は繰り返される世界を映す、膨大な情報量。しかし、元が空として作られた彼にとってはアドバンテージとしてではなく人間とは、かくあるべきだという、教材でしかなかった。逆にそれを元にしか動けない彼は相対する人によって人格が変わったように映る。ヴァルケンハインは直接見ただろう。」

 ヴァルケンハインは、確かにと呟きあの時の情景を思い出す。思い出せば、テルミの口調に似ていたと感じてしまい、面影を重ねてしまう。

「そして、世界は何度も繰り返される内に、ズレが生じてしまう。特異点、第十二素体。後にヴァーミリオン夫妻に引き取られ、ノエル=ヴァーミリオンと名乗る人物だ。」

 ピクリと体を動かしたノエルは真っ直ぐにレリウスを見て視線はそらさなかった。

「無論のこと、アマテラスの寄り代である、ギレル=リバースにとって情報にない人間との対面となるのだが、その場合に限り彼は彼自身の意思のみで動いていた。第十二素体にとっても初めて、人間と触れ合う機会であったが、彼とは比重が違った。因みに、秩序の力や特別な力を持たないそこの二人の様な人間は、ギレル=リバースという人間を認識できたのはノエル=ヴァーミリオンという人間の前でだけだ。」

 言われて思い返すとその通りであったマコトとツバキの心の内には信憑性が高まっていく。元々何かを企んでいることを知っていた他の人間からしてみれば気づくのが遅いくらいなのだがそこは愛嬌であろう。

「ギレル=リバースが一人の人間に惹かれれば惹かれる程一点のみを観るようになって、多大な情報からは目をそらしていった。自我が生まれる程に、人間に近づいていった。ここで重要なのは仮にもアマテラスであって、更に自我が芽生えたという事だ。人間の基準で神の力を持つ存在を作り上げることが出来る。今のアレを見てもらえば分かると思うが、今は完全にアマテラスを喰らっている。」

 話を淡々と続けるレリウスに向かって、ココノエが丁寧にも挙手をしてから質問をする。ここら辺は研究者としての礼儀だろうか。

「段々と人間に近づいていったならどの段階であいつのことを知ったんだ。話を聞く限りでは識別は不可能だろう。しかも、認識できるのがノエルの前だけなら、尚更だ。」

「困難だったさ。でなければもっと早くに実行に移せた。だが、簡単な糸口があった。繰り返される世界で何時も、何故か、ノエル=ヴァーミリオンを結果的に助けようとして窯へと向かって行く。それで、死因は何時も斬殺。これが意味するのは単純な事だ。神を殺すなら神殺し、叢雲ユニットでしか殺せない。逆に、彼の死因は何時も叢雲ユニットだ。詳しく調べればどうとでもなった。それにこれを利用すれば、言い換えれば彼を窯に向かわせなければ、この世界のループを止めることができる可能性は十分にあった。」

 ここで、区切りだったのか話を一旦終わらせたレリウスは周りを確認した。世界のループを終わらせる為に手回しをしてきたレイチェルにとっては衝撃的な内容であり、自分がいかに無駄な行動ばかりをしてきたのかを思い知らされた様だった。しかし、ここまでの内容をただ聞いていた、そして考えを発展させなかった人間がいる。ラグナはその一人であり、今の話だけでは納得ができない部分があった。

「それで、サヤを、帝を殺した事、今あるあの球体の説明はどうやってするんだ。関連性がいまいち見えてこないんだが。」

「そうだな、まずは目的を明確にしようか。私たちが一連の行動で目指したのは、完全に人間が統治する世界だ。つまりは、神、を排除しきった世界だ。神そのものから、神と崇められるもの全てを無くし人間が対等に生き、人間の力だけで生きる。いつまでも横槍を入れられるのは、ほとほと憤りが募るのでな。」

 レリウスは皆に背後を見せて、帝の死体に目を移した後、宙に浮かぶ大きい球体状の空間とその下に横たわるギレルの体を見ながら語り続ける。

「神となりうるのは巨大な組織と、その頂点に立つものだ。そちらの第七機関は飽くまでも科学者の集団だ。科学が神を証明できない限りは絶対的な存在にもなり得たが、この世界の根源は既にあることが確約されている。神になりうるのは組織としてだろう。対して統制機構は、術式を使って統治しようとする集団だ。こちらは大々的に帝をトップとして扱っていたため全ての信用、信頼は帝に向いていた。かと言って組織自体も強大だ。この戦争は二つの勢力を疲弊させるためのものであり、帝の暗殺の為でもあった。そして、もう一つは、本物の神を殺すためだ。アマテラスとスサノオ。正確にはアマテラスの力を持たせた、寄り代に、スサノオと刺し違えて貰っている。寄り代には、これまでの繰り返しの中で蓄えた力があった。それを早期に手に入れておく事で存在を定着、その後段々と記憶を蘇らせると共に自我を完成させていく。両方が同時に完了したとき、アマテラスの力を受け継いだ他の個体が出来上がった。それがあれだ。テルミと帝を騙して、油断させてあの球体に引きずり込む。あの空間はこの世界とは隔絶された物で、今はあの二人しかいない。中で行われるのは殺し合いだが、どちらが勝った所でもう片方を観測できなくなるためどちらにしても、今日此処で神は死ぬ事に変わりはない。」

 全てを話したレリウスは再度向き直った。他の三輝神と呼ばれるスサノオユニット、ツクヨミユニットを保有するハクメン、レイチェルは自分たちの魂の単位では神を名乗れないことを知っている。他の人間が聞いた所で分からないというかは、知り得ない。しかし、此処に居る殆どは、その神によって悪い影響を受けた人間であった。ギレルを知る者は、彼の命を投げ出して未来に願いを託す決意を無碍しようとしないだろう。

 

 

 

 そう唯一人の凡人を除いて、他にはいなかっただろう。

「訳わかんねぇ話で、はいそうですかって、友達見捨てる訳にはいかねえだろうが!」

「カイケイ先輩、そこにいるのは抜け殻です。諦めて下さい。」

 ギレルの体の近くに膝をついたカイケイが必死に声を張り上げる。他の人間は動こうともせずにいる中で一人、諦めることができずにいたのだ。

「俺は認めないからな。魂がそこの中にあるってだけで、それはあいつの魂だろうがよ!アマテラスとかいう知らない名前じゃなく、ギレル=リバースがそこにいるんだ。なら、ここにある体が寄り代だとか観測された物とかいうややこしいものだったら、これをとっぱらっちまえばあいつの純然な魂だけがのこるだろぉ!」

 

 奇行か蛮勇か、はたまた英断か。カイケイは、元々ギレルの魂の器だった物の心臓を切り裂いた。

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