[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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アニメ、ブレイブルーの魔操船が格好良すぎる今日このごろです。
ハザマ大尉の顎が、ブザマ程でないにしろ違和感がある。
ゲームだと皆の顔が少し丸っこいからでしょうか。


さらっとCP最終回です。
ギャグルート含めずあとはエピローグを残すのみとなりました。
感想お待ちしています。


第二十三話

 現し世とは隔離された世界。アマテラスの生み出した結界の中で、ギレル=リバースの魂はマスターユニット、アマテラスへと昇華した。カイケイが行った心臓への一突きで、完全にギレル=リバースとしての身体活動は停止した。己を縛るものが無くなったのだ。同時刻、結界の外でレリウスが語っていた時は薄くぼやけていた体は輪郭さえも見えるようになった。

 ゆっくりと目を開けて正面を見据えると、僕が観測した人物が観えた。僕以外でこの空間に存在する唯一の存在だ。僕とは違い、肉体もろとも巻き込んだ彼もまた僕の存在が定着するまでの間は肉体もろとも薄らぼんやりしていた。地面に落ちていた帽子を拾い直した彼の口元は、三日月状に歪んでいる。この状況を楽しんでいるのだろう。

 少しずつ笑い声を大きくしていく彼に釣られて僕も笑い声を上げてしまう。どれだけの間、皆がこの時を待ち望んでいただろうか。例え、レリウスの説明通りに殺し合い、この空間でどちらかが死んだとしても、残った方は必然的に観測されなくなってしまうために消失する。殺さなければ殺されるが、殺しても死ぬのだ。出来の悪い喜劇のようであった。いや、これは実際に起こって居ることである為、本当に出来の悪い喜劇なのだ。これを笑わずに何を笑えばいいのだろうか。

「「アハハハハハハハハハハ!!!」」

 二人の笑い声が反響する。殺し合いをしようとする人間としては不謹慎であり、この一幕だけを切り抜けば仲のいい二人に見えないこともない。仲のいい二人だとしても、片目を魂単位で欠損している僕の、目の収まる穴から止めど無く溢れる赤い滝のせいで台無しだろうが、仕方がない。

 そう、締りがないことも、僕達が笑うのも、例え殺伐とした空気であっても無理はないのだ。僕たちにとって、今の状況はそれだけの喜劇に相当しているのだった。それこそ、上っ面だけでなく心の底から笑うほどに、僕の怪我なんて言うちっぽけな事を気にする事も無い。しかし、この欠損は必要不可欠であったからそれも含めて、僕たちにとって今の状況は滑稽であった。

 一旦笑うことを止めた目の前の彼は、腕を上げて高らかに声を張り上げた。

 

「作戦完了です。ギレル=リバース中佐。」

「ご苦労だった。ハザマ大尉。」

 

 全てが自作自演の茶番劇であった。

 

 

 

 

 

 

 

「いや~、それにしても疲れましたよ。さっきもそうですが、帝の前でずっとテルミさんの振りをするのは流石に骨が折れました。」

「確実性を取るには、あの後殺しておくのが都合が良かったからな、済まない。」

 あの後、つまり先日のカグツチでの出来事の後、僕たちはテルミの暗殺を決行した。あれ程大きな目立つ魂であれば狙って射貫く事は容易く。そして、テルミ亡き後は僕の観測で、よりはっきりとした人物となった「ハザマ」がテルミの振りをしてきたのだった。付け加えるならばあの後の僕、ハザマ大尉、レリウス大佐、カグラ司令、そしてカイケイは須らく道化を演じてきたのだ。

 理由は一つ、僕をアマテラスと誤認させるためだった。レイチェル=アルカード、ココノエ。その二人が幾ら観測者といえど、僕と違い魔眼を有さない。所詮は上辺の情報しか理解出来ない。それを逆手にとって、アマテラスの寄り代である僕を大佐の口八丁手八丁で僕をアマテラスだと勘違いさせた。この結界は元々、吹き飛ばされた義足を媒体に作ったものだが、見せ方一つで「アマテラスの残った片目で作った結界」だと誤認させたのだ。勿論、僕の魔眼は片目しかなかった。アマテラスの寄り代だといっても、アマテラス本体が危機に瀕する時の脱出用でしかない器であった。勿論、大佐が語ったように、僕の自我が芽生えたのはあの時であった。全てが嘘では無かったが、僕たちは都合の良い様に演出したに過ぎない喜劇を演じていた。

 面白いことに、観測者に認識される事で現実の情報が上書きされるのだ。何でもなかった僕は今ではアマテラスとなり、そのついでに結界は特別なものになった。その副次品として僕のもう片方の目も魔眼となり、僕の目はこの結界とリンクしている、謂わば一心同体となった。更に、僕がアマテラスと認識された事で窯の中の本物のアマテラスは消失した。勿論ハザマ大尉は、ずっと僕が観測していたので、テルミが復活することはない。因みに、自分を自分で観測する事は原則出来ないので僕はアマテラスのままとどまることが出来るという訳だ。

 自作自演と、それを観る観測者を用意するだけでこの作戦は完成させることが出来る。まるで一人相撲だと頭の中で考えては、笑みが溢れる。元々、今日この時の為に僕が赤鬼を殺したり、第七機関と統制機構の戦争を起こすことでココノエ本人をおびき出し、テルミを餌にすることでレイチェルをもおびき出した。他に誰が来ても完遂する事が出来る。これこそが一番確実に目的を達成できる方法であった。

 

 

 その為に犠牲が出ても、目を瞑るしか無かった。

 

 

 そして、最後の仕上げが始まる。全てはそのためである。大佐が掲げた「神のない世界」を実現させる為だ。誰にも、不当な悲劇が降りかからない世界を作る。その考えの下に僕はこれまで頑張って来たのだ。そうすれば僕のたった一つの願い、祈りも叶う。

 ここまでくれば、失敗は無い。最期まで一人相撲で終わらせることができるのが、この作戦の素晴らしいことであった。それでいて被害を受ける人数は最小限。これ以上の犠牲は出ない。

 僕はアマテラスの膨大な力を使って、まずはこの結界を破壊する。観測された事によって僕の残された片目と連動しているこの空間からまずはでなければいけない。ここから出れば、僕はアマテラスだ。観測者にその姿を観られる。そして、未来永劫この姿のままになる。名前も肩書きも役割もアマテラスになってしまう。

 多分、最後になるであろうアマテラスの力を使い結界を、僕の目を破壊する。

 眩き光を最期に、僕の視界は永久に閉ざされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場に居た殆どの人間の予想を裏切って、アマテラスが生きたままに現れた。レリウスの思惑と外れてアマテラスに飲み込まれてしまったか、と躊躇のない攻撃が飛んできた。後ろに降り立ったハザマ大尉の逃げる姿には目もくれずにほぼ全員が攻撃を浴びせてくる。潰れた両の目では見えはしないが、衝撃は分かる。防壁を展開する事もなく、僕の体に当たる攻撃は、貫くことは愚か傷一つ付けることは終ぞなかった。圧倒的なまでな力の差に、「これがアマテラスの力か」と呟いた僕の姿を見て完全に僕のことをアマテラスの力に飲み込まれたものだと思っているらしく、皆の発する殺気と緊張感が肌を刺激した。遊んでいる暇はあっても、そんなことに気を回す余裕だけは無かった。腕を振るい殺到していた攻撃を全て消すと、気配だけで方向を特定して、僕は口を開いて話し始めた。

「レリウス=クローバー。」

 緊張感が走る。初めて特定の人物に向ける声に辺りは静まり返った。全容を知っている大佐も万が一のことを考えて固まっている。

「いや、大佐。今までお世話になりました。この一生分だけで無く、これまで幾度となく迷惑をかけた事をお詫びします。それとカルル君には、宜しく言っておいて下さい。」

「…ああ。」

 予想外の言葉に一同が静まる。次いで探すと少し離れた所にカイケイの気配がした。大佐が送り込んでいたスパイに伝えさせた。僕の伝言を信じて、多分僕がやろうとしていることをわかった上で協力してくれた親友だ。

「カイケイ、僕の馬鹿みたいな話をを信じてくれて有難う。ジンはいないか。イカルガの何処かには居るだろうが話ができないのは寂しいな。お前たちは僕には眩しすぎた。それで、憧れだった。いつかお前みたく他の人間の役に立つ事を目指していたんだ。聞いてくれ、この前やっと人を一人救えたんだ。唯のお前の真似事だったが、嬉しかった。僕にも、人を救えるんだって分かった。お前と同じ様に生きることもできるんだって分かった。そして、その救った人も今日、人を救った。人間の善意の連鎖はこんなにも美しいものなんだって、お前に教えられるまで知らなかった。」

「俺だって、感謝したいことが有るんだ。いくらだって、お前には良いところがあった。間違いない俺の親友だったよ。この命を救ってくれたことも、これからお前が、救う人間のことを考えるとなんでお前みたいな良いやつがそんなことしなくちゃならないんだって…。」

 鼻声になったカイケイの話し声が聞こえる。釣られて、僕も泣くような事はしない。カイケイが言っていた漢の涙を見せることも一理有る。それでも、僕は意地を張って、涙は見せないようにしたいのだ。したいのだが、それでも、もう、こぼれ落ちそうだ。

「ナナヤ、たまには素直になってやらないと、カイケイが拗ねるぞ。そいつは嘘が言えない奴だからその分苦労もあると思うが寧ろ振り回すくらいに扱ってやれ。」

「はい、先輩!」

 何とも元気に返事をしたナナヤ。こんな、人間ですら無い僕ををまだ先輩と言ってくれるのか。お前には、お前だからこそカイケイと幸せになって欲しい。

「ヤヨイは、心配はいらないな。お前は、僕が知りうる限り一番しっかりしているからな。特にジンは危なっかしい奴だから暴走しないように見守ってやってくれ。」

 何の声も聞こえないが、僕にはヤヨイが無言で頷く様子が感じ取れた。そして、僕が話すべき最後の人物に目をむけた。本当にお世辞ではなくその魂の輝きは何時も美しいと思う。例え目が見えずとも分かる。その気持ちをもっと早くに伝えられたなら、結末は違っていたのかもしれない。他の方法でこの世界を救い、僕がノエルと幸せに暮らす未来の姿を想像する。

 今となって、叶う由もない事だ。

「先輩、何でそんな今わの際の様な事を言うんですか。」

 心臓が跳ねる。

 僕が話しかける前にノエルが消え入りそうな声で僕に言葉を投げかけてきた。今わの際、か。そんな難しい言葉を知っていたのだな、と今までどれだけノエルの事を分かっていなかったのかを自覚してしまう。今更になって、こんな思いをするぐらいなら、何でもっと早くに気付けなかったのか。潰れた目玉に涙が染み入り、チクリとする痛みが走る。実際その程度の痛みではないだろう。だが、自分が馬鹿みたいで、今の自分のアホさが悲しくて、それどころではない。この際、痛みなんて事に意識を割くことはできない。

 少しでもノエルを頭に留めて置きたい。

 本当に今更こんなことをしなければならない僕は不甲斐ないと思う。

「そう、だな。でも死ぬことはない。ただの贄だよ。境界とかの悪い部分が現世に干渉するのを防ぐ。その為に僕はアマテラスになって、必死に生きようとする人間も殺した。自分のエゴを押し通す為に他人の主張を跳ね除けたりもした。」

 泣くまいと思えども、溢れてくる涙を抑えることは出来ず血と混じった涙が、僕の鼻を擽ぐる。マスターユニットに変わったこの体にも、はっきりと命は存在している事を認識した。本能が生への渇望を思い描いても、もう変えることのできないことだってある。

 

 もっと君と生きていたかった。

 

「でも、聞いて欲しい。僕は初めて、人の幸福を願って行動してる。今まで、世界の繰り人形でしかなかった僕が自分の意思で決めたことなんだ。ノエル、君に教えられた大切な事、無償の愛。それは単に自分の恋人だけで無く。家族にも、友人にも、唯の知り合いにも、すれ違った人にも、知らない誰かにだって、当てはまることだった。下手に、色んなことが見えてしまうからこそ分かることだったんだ。あの日、死屍累々であの場所にたどり着いて、そしてあの場所でみんなが裏切っているようにも見えたんだ。信じていた親友に裏切らた。そして君は賞金首と寄り添っていた。誰にも言っていなかった秘密で、僕の魔眼は、人の感情さえも読み取る力があったんだ。それで、君が死神に好意を抱いていると分かって、酷く悲しくなった。唯の逆恨みだったと実感したよ。今日、発着場でノエルを見て、僕に対する思いが見えて、全部が全部自分の勘違いだって気づいたんだ。」

 僕の独白を聞きながら、僕を抱きとめる体温を感じた。少し小さくて、柔らかくて、優しくて、おっちょこちょいで、それでいて憎めない。今はただ、ただただ愛おしい。もっと早くに気付けなかった自分が嫌になる。手の届く所に、大切なものがあったのに一度無くならないと実感できなかった自分が嫌いだ。早とちりでこんな姿になってしまった。

「君が、僕を愛してくれなくても僕は君を思っていた。世界の理の視界の役割を果たすアマテラスの偽物として、目の潰れた僕が欠陥品のまま居座れば世界は永遠の安寧と秩序を保てる。人間の世界を救うことで、君が幸せに暮らせるものだと、君の幸せが願えれば良いと勘違いしていた。でも、本当は違う。もう手遅れだけど、君の枷にしかならないかもしれないけどそれでも、僕はノエル=ヴァーミリオン、君を愛している。君を離したくなんてない。」

「ギレル、私もあなたが好きです。あなたの気持ちが聞けて嬉しいけど、私も離れたくないけど、もう手遅れなんですよね。」

 唯、頷く事で返事をした。僕がいつまでもここにいれば、境界は新しい、「マスターユニット」を生み出すだろう。だから、僕は窯に入って居座らなければならない。もう一生会える事はない。人間が窯に入れる訳がないのだ。

 

「ギレル。」

 何だ、と返事をする前に口を塞がれる。

 そして、抱きついていたノエルが離れていく。

「絶対、迎えに行きますから私の事忘れないでくださいね。どれだけ時間がかかっても絶対にギレルを連れて帰りますから。」

 そんなこと言われたら、ますます好きになってしまうじゃないか。

「そうだな。僕のお姫様が迎えに来てくれると信じてるよ。」

「任せてください。私の王子様。」

 

 

 

 憂いは無い。僕は浮遊感を感じたあと、窯の扉が閉まる音を聞いた。

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