[習作]哀の果てに   作:解法辞典

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どんどん文章量が減ってきている気がします。戦闘シーンが無いせいでしょうか。
感想お待ちしています。


第六話

 いやはや、全くもって驚いてしまったものだった。真逆、あの場所に本当に医道に通ずる人がいるとはお思いもよらなかった。確かにあのままカカ族の少女を気絶させてしまったまま放置する訳にはいかなかったので、あの様なことを口走っていたが、私はこの街で医師をしているのだけど問題ないかしら、なんて誰かに返されることは意識の外にあったのだ。自力で診療所程度には連れて行くつもりで居たし、先程に空を徘徊していた時点で把握しておいたので構わなかったが、運命とは実に数奇な道を僕に築いてくれているように感じる。

 一応、話しかけてきてくれた女医の後について行き、診療所に到着した。気絶しているカカ族を持ち上げたまま、中に入る様に促してくる彼女の先導に取り敢えずは従い、仄かに漢方や薬品らしき匂いの漂う入口へ足を踏み入れた。

 仕事場のような場所で、ある程度の治療を済ませた女性が改めて僕に向き直り簡素な自己紹介を促して来た。

「名前はライチ=フェイ=リンって言うわ。職業は先程も言ったけど、この診療所を経営している医者なのよ。それで、統制機構の衛士さんはあんな所で何をしていたのかしら。」

 名乗った女性は、中国風の服装に身を包んでいて、白衣は着ておらず、如何にも民間医といった感じであった。内装もどことなくゆったりとしている過ごしやすい建物だ。

「先に名乗らせてしまうとは、これは大変失礼をした。統制機構航空部隊第一小隊隊長、ギレル=リバース少佐と申します。先程は手合わせを申し込まれたのですが、侮ってしまい、不覚にも想定外のダメージを与えてしまった次第です。治療費はこちらで負担させて頂きたい。」

「少佐さん、そんなにお固くならなくてもいいですよ。それに、タオが怪我をするのは何時ものことです。それに今回は貴方の心遣いのお陰で単に気絶しているだけなのでお金はとれませんよ。」

 別段、知り合いだったということには驚きはしないが、医師をしていれば顔も広くなるのだろう。任務を速く終わらせて帰るために、調査の一環として聞いてみるのもいいかもしれない。

「お手数ですが一つお聞きしてもよろしいですか。」

 ええ、と返事をした彼女に言葉を発する。

「第七機関の事を知っていますか。」

 

 

 一目見た時からこの女性が普通ではないことは、分かっていたが、ここで地雷を踏み抜いてしまうとは思いもよらなかったのは事実だ。

「貴方の目的は誰かしら。彼でも私でも無いのでしょう。幾ら聞かれても博士のことは話す気は一切ないわ。私はまだあの人を尊敬している。話すことなんて一つも無い。」

 キッと、僕を睨んでから診療所に響き渡る程に大きい声を出して警戒を怠らないでいる。これは、戦いになれている者のそれだ。直ぐに対応出来る様な体運びや、警戒心、僅かに浴びせてくる殺気。

彼女が強いかどうかを置いて考えれば、いや、今は考える必要も無いのだが。

「落ち着いて下さいよ。少なくとも貴女と戦う気は此方には無いですから。」

「分から無いわね。私に第七機関について聞いたってことは狙いは定まってくる。争うつもりが無いなんて、虫のいい事を言っても言い逃れは出来ないわ。返答によっては実力行使で」

「物騒なことを言わないで欲しいです。仮にも僕は一端の衛士ですから、一般人に危害を加える理由が無い。」

 毒気が抜かれたのか、驚いた表情で少しの間固まっていた。ここの支部は其処まで態度が悪いのだろうか。何故嫌われているのか僕には及びもつかないが、何も統制機構全体として常識が無い様に思われるのは気分が悪い。

「そうね。何処に行ったってピンからキリでしょうから、決め付けるのは早計だったわね。それで少佐さんはなんであんなことを聞いたのかしら。」

 見れば漸く話し合いが出来そうな様子で、ちょうど良くお茶くみをしてくれていた、ライチと名乗った女性の助手と言える立ち位置の少女がお盆に乗っていた物を並べてくれた。

「どうもありがとう。それで、理由としてはですね。一応、規則では言ってはいけないのですが。死神―――ラグナ=ザ=ブラッドエッジが此処等に潜伏しているらしいのです。それで第七機関も出しゃばってきているために、被害が少ないうちに戦闘及び、交渉によって退けろなんて任務なんです。」

 無茶を言いますよね、と締めくくり、折角出して頂いた茶を口元に運んだ。飲めばわかる、これは良い物だと。そうすると、ここまで気を遣わせてしまって非常に申し訳の無い気分になる。しかし、飲まない方が失礼に当たるだろう。変に気を遣うのも柄では無い。

「もう用事は無いんでしょ。お茶のんだらさっさと帰ってよね。」

 お茶を運んできてくれた少女、そういう説明も可哀想なので訂正して、目の前の医師の助手である

少女がそう言い放った。着ている服はライチさんの赤色とは違う白を基調とした色の服を着ている。

「リンファ、なんてことを言うの。少佐さんに謝りなさい。」

「気にしなくてもいいですよ。結局は僕達が悪いのでしょうから、何の理由もなくそんな事を言える様な性格には見えません。でもまあ、折角煎れてくれたのに急いで飲むなんて失礼はしません。」

 奇妙なものでも見えてしまったかの様に唖然としている。僕が、驚く程の異常な内容を話しているのか、それとも今の発言が異常に思えてしまう程、総合的な一般の価値観が歪んでしまったのか。

 どちらにしても、今までの僕がしてきた業績が意味のないものへと変貌してしまったことは、最早覆しようのない事実であり、当然、気分の良い話でも無かった。だとしても、これまで不快な思いをさせていたとなると、統制機構の体制には思いやりだとかの、人間味に欠ける部分がある可能性を否定するのはそろそろ難しくなって来る。

 果たして、何が原因なのか。根本に来るのは、衛士や衛士になろうとしている人間の宗教観なのだろう。昔の、黒き獣が出現する事で招いた多くの事態が起因している。大きな理由の一つは、危機を退けた六英雄のナインを筆頭として世間に多く知られる様になった魔法だ。人の進歩の全てであった科学を否定しかねなかった其れは、より簡易化された術式によって、表立って生きてきた人類の努力を否定したのだ。勿論、元々は魔法のために結界まで敷いて引きこもっていたのだが、黒き獣の被害で聖地であったイシャナが穢され科学と同様にこちらも廃れてしまった。しかし、科学の結晶であった核兵器をものともしなかった黒き獣を下位互換である術式がものの見事に打倒して見せた。当然、国家規模で靡く、魔法を元に作った技術であるなら魔法使いを優遇する、ましてや血筋が才能に直結するのでいつの間にかその血族は、権力を持つ様になり、肥大化し続けた。結果的に術式が世界の中心となっている。

 そして、科学の再興を図っているのが第七機関だ。と言っても大きく反旗を上げている訳でも無いので、一般衛士としては仲が悪いと思っているが実際には水面下で手をとっていたりするのが実情なのだ。はっきりと言ってしまえば、見て分かる程に、自惚れの勘違いした統制機構と、真当な意識の無い第七機関との間にいる、一般市民が段々と露出してくる世界の歪みに耐えられ無くなっている。一般市民だけでは無く、各々の立場にいる正義感の強い人物も不満や苛つきを振りかざし、色々と画策している。

 思案している内に、段々と話をしなくなって重い沈黙に包まれてしまっっていた。何とか話を繋げようとしてか、リンファと呼ばれていた少女が話しかけてきた。

「少佐さんはさ、自分の仕事についてどう思ってるの。」

「一概にどう、と言われても難しい。もう少し詳しくして貰えるかな。」

 こんな事、聞き返す必要なんてない。僕だって彼女が何を言いたいのか感づいている。本当に意味もなく、ただ口から溢れ落ちたのだ。

「皆知ってるんだよ。統制機構が警備隊だったり、中間管理職じゃないってこと。ここらの支部の新人は憂さ晴らしで下層に住んでいる人を貶したりしてる。優しい咎追いだったひとはその事を注意して投獄されたって聞いた。それに近くには、イカルガ内戦で住む場所が無くなった人もいるから、話を聞けば聞くほど、今の世界って何なんだろうって思うんだ。ねえ、仮にも世界虚空情報統制機構だったらもっと良い世界にできないの。」

「結果から言わせてもらうなら、出来るけれどやらない。それが全てだ。」

 え、と掠れた声が漏れた。二人共理解し難い内容だったらしい。

「残念だけど、僕が見ている世界と君たちの見ている世界は違う。実際に現状で僕は満足している、重大な問題もない。後から言われるのが、いや、言わせるのが嫌だからはっきりとさせておくけども僕個人は人を殺すことに躊躇いは無い。本当に必要だと判断さえすればなんだってやる。」

「じゃあ、貴方は自分の利益のために他人を犠牲にしても構わないのね。」

 悲しそうな表情のライチがそう言った。

「嗚呼、申し訳ない。確かに、これは仕事に関してじゃなくて自分のことだった。済まない。仕事はある程度割り切ってしているって言いたかっただけなんだ。口下手で悪かったね。じゃあ、貴重な意見も聞けたから此処の支部に直談判してくるから安心してもいいよ。個人的に許せないからね、上に立つ資格も無い奴はさ。」

 ご馳走になった礼とカカ族の少女のことも忘れずにお願いして、玄関に向かう。途中で振り返り、

「いい加減隠れなくていいからさ。要件済ませろよ。」

 言い放った方向には、緑と黒の男女。その片方は、忘れもしないあのときの忍者だ。

 

 

 

「お主、魔眼でござるな。その手で奪ったイカルガの民の命を忘れたとは言わせぬぞ!」

 空気が震える程の怒号によって完全に意識が切り替わってしまった。先程のカカ族よりもこの男は数段強い。黒い忍者は今となっては取るに足らない雑魚で、復讐をする気さえ萎えてしまっているが確かに強い、それに面白い物をもっている。

「別に、餓鬼の頃だからとか、自分を棚に上げて反論する気は無い。だから、殺り合うならさっさと済ませよう、生憎と予定が詰まっていてねぇ。元々する気はなかったみたいだが、暗殺ができない以上広場に出ないと被害が出るぞ。」

「これは勘違いをしてしまったようでござるな。成程、大した武人でござる。その心意気や良し、手加減も要らぬであろう。皆の集下がって居れ、拙者が一人で片を付けるでござるよ!」

「お頭がそう言うのなら従います。」

 ついてくるでござる、と矢張り芯の通った声を言い放ち、歩いて行った。僕は、今一度、診療所の面々にお礼を言ってから歩いて行く。しかし、人となりをみてから判断するように手を組んでいたようだが、暗殺する気は殆ど無かったようなので何をしたいのか真意は分からない。だが今必要なのは過程では無く結果として戦うということだ。

「こちら、ギレル=リバース少佐です。先日から議題に挙がっていた、疑似戦略兵装の試験運用が叶いそうです。」

「ちょうど良い所で通信が入ったな。此方も新しい情報が入った。今回、そちらに潜伏している第七機関の兵士は『赤鬼』だ。見つけるまでは楽だろう。もし戦闘になった場合は仕方無いが、話し合いの余地がある場合は通信をつなげてくれ。」

「了解しました。では引き続き任務を続行します。」

 通信機を用いて大佐に連絡を取り、広い場所に着くまでにできることを済ませておいた。

 連れて来られた場所は宛ら廃都市といった具合に壊れかけた家くらいしか目に入る物は無い。更に言えば、寂れているだけで無く人の気配が一つも見当たらず、所々の付着した血痕から推測すると、嘗ては、ろくでもない場所であったことが予測できる。

 情報の把握に努めていると、向かい側に居る、お頭、と呼ばれていた忍者が叫んできた。

「合図は不要でござる。我が名は、愛と正義の忍者、獅子神萬駆!いざ尋常に勝負!」

 相手方は、自然体に近い構えを取って、僕の名乗りを待っている。あのバングと名乗る忍者は生産性よりも、義理とか人情などの人間性を重視するようである。

 僕は短い詠唱で身体強化を済ませると武器は未だ出すことをせず、煙草を踏み潰すと、答えた。

「統制機構航空部隊第一小隊隊長、魔眼、ギレル=リバースだ。本気で相手してやるよ。」

 前には、球状の塊、力の源、禍の象徴。出したからには、全力でやる。先程のデモンストレーションとは訳が違う。

 戦闘を始めるのだ。凡ゆる手段を以て相手を下す。倫理なんて此処に存在はしない、支配するのは勝敗のみが、効率も無く、唯、潰す。

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