【Fate/kaleid ocean ☆ イリヤの奇妙な冒険】   作:荒風

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『18:Raise――蘇生』

 

【ある魔術師と殺人鬼の会話】

 

 

『サラ・パーディ・ウィンチェスター……ウィンチェスター夫人は22歳のときにウィリアム・ワート・ウィンチェスターと結婚した。24歳の時に娘であるアニー・パーディを出産、まさに絵に描いたような幸せな結婚生活を送っていた。その時まではな』

『不穏な言い方だな』

『そう……愛娘は生後一か月で病死、その15年後に夫ウィリアムも肺結核で亡くなり、自身の両親も、義父のオリバーも次々と死んでしまった。ウィンチェスター夫人に残された資産は現在の価値で約240億円、他人にまかせたウィンチェスターの会社からは一日1000ドル以上、年間約5億円の収入があったが、ひとりぼっちになってしまった』

『金があっても幸せにはなれない、か』

『そんな彼女に近づいた者がいた。死者の交霊を行う霊媒師さ。その霊媒師が本物であったかは今となってはわからないが、霊媒師はウィンチェスター夫人に告げた。ウィンチェスター夫人の周囲の人間の死は、ウィンチェスターの会社が開発したウィンチェスター・ライフルの呪いであると』

『ウィンチェスター・ライフル? 銃かい?』

『刀剣には詳しくても銃は知らないよな? 故障のリスクがない、13連発の名銃。良い銃であるということは、多くの死傷者を出した銃ということだ。多くのアメリカ先住民を、南北戦争で多くの軍人を、殺戮した銃――その銃で殺された悪霊の怨念が、銃を開発したウィンチェスター家に祟っていると、霊媒師は言ったのさ』

『真実かどうかは、この際関係ないか。問題は、信じるか、どうかだ』

『そういうことだ。ウィンチェスター夫人は霊媒師の言葉を信じ、館を建て始めた。悪霊から《逃げる》ための家。悪霊が迷うような迷宮を。悪霊も混乱する不可思議な家を。悪霊に追いつかれないように、増築し続けながら……39年間、ウィンチェスター夫人が死ぬまでずっと』

『それはどんな家なんだ?』

『部屋は最初8部屋から始まり、160にまで増えた。2千枚のドアに1万以上の窓。47のデザインの違う暖炉。40の階段に40の寝室、6つの金庫室。しかし鏡は2枚だけ。煙の出ない煙突に、天井に突き当たる階段、床にあるドア、3階の外に通じるドア、どこにもたどり着けない廊下、隠し通路、隠し部屋――材質は超一級、ステンドグラスはティファニー製。しかし、金と銀に豪華に飾られたダンスホールは一度も使われたことはなく、正面玄関は一度も開けられず、セオドア・ルーズベルト大統領が来館した時も裏口から入った。すべては徹底して、悪霊から《逃げる》ために――使った金は現在の価値で、65億円を超える』

『彼女は逃げられたのかい?』

『死んだとき、彼女は82歳だったが、悪霊から逃げ切ったのかはわからない。だが逃げ切っていてほしいものだ。彼女の執念は、報われるに足るものだったと思うよ』

『悪霊の眼から隠れ続けた、歴史に残るほどの《逃亡劇》か――確かに、そんな執念で逃げられたら私の眼でも見ることができるかどうか』

『そういうことだ。《逃げる》というのは弱者の選択ではない。たとえ行く先が荒野であろうと、生きて戦うという覚悟の道なのさ』

 

 

 

   ◆

 

 

 それは、一つの予言から始まった。

 

『明日の昼、貴方に面会人が来る。でも会ってはいけないよ【その人】に……』

 

 刑務所の中にいるはずのない人間――野球帽を被り、野球ボールとグローブを持った、小さな子供。

 

『もし……会えば』

 

 彼は告げる。

 

『死ぬ事以上に、不幸なことが起こるんだよ』

 

 

 

   ◆

 

 ザグンッ!!

 

 ルヴィアのステッキに生み出された魔力の刃は、バーサーカーの首を切り落とした。

 

 高密度の魔力で編まれた刃により、面ではなく線の攻撃をすることで、威力を集中――バーサーカーにも通じる攻撃を可能にしたのだ。

 

「おーほっほっほっほ!! どうですか? 遠坂凛では到底真似できない美しい剣さばきを受けた感想は!」

「―――――――――――ッ!!」

 

 勝ち誇るルヴィアに、バーサーカーは咆哮を持って答えた。

 恐ろしいことに、断たれた首が、切断面から生え変わってきている。

 

「フッ! ゴキブリ並みの生命力は遠坂凛だけで十分ですわ! 力尽きるまで、何度でも首を落としてさしあげてよ!」

 

 ルヴィアは、カレイドサファイアで再度斬りかかる。どれほど強く凶暴であろうと、品性のない野蛮な獣など、幾度なりとも首を飛ばすことは容易であると。

 が、

 

 ガギィィィンッ!!

 

 肉に剣を当てた音とは思えぬ、硬い響き。狂戦士の肌は、今度はルヴィアの一撃を通さなかった。

 

「そんな……!?」

「【運命の石牢に自由を求めて(ストーン・フリー)】!!」

 

 愕然とするルヴィアに、バーサーカーが炎の縄をちぎり、手が伸びようとする。しかしその前に、ランサーが横から伸ばした糸がルヴィアの身に絡まり、グイと引き寄せる。手繰り寄せられたルヴィアは、ランサーに受け止められた後、ランサーに抱えられて運ばれる。

 ランサーはバーサーカーと距離を取りつつ、さきほどの現象をルヴィアに尋ねる。

 

「今の、斬り方が悪かったって、言ってくれたりしない?」

「……残念ですが、私の剣の腕の問題じゃありませんわ。明らかに、バーサーカーは蘇生前より硬くなっています」

「やっぱりね……つまり殺せば殺すほど強くなると」

 

 蘇生するうえに、一度効いた攻撃には耐性をつける。冗談ではないと、もはや笑いたくなる。

 

「ランサー!!」

 

 ランサーに声をかけたのは、凛であった。

 

「その格好、あんたも?」

「この格好のことはお願いだから言わないでッ!」

 

 凛もまた、カレイドルビーを手に、黒い猫耳と猫しっぽをした、魔法少女へと変身していた。

 

《いやー、まあ仕方ないですよー。いい歳して恥ずかしい格好してんですからー》

「お前が着させてるんだろーがーッ!!」

 

 乙女がしてはいけない形相で、凛が吠える。バーサーカーといい勝負だ。

 

「余裕ねー。ところで私のマスターは大丈夫なんでしょうね?」

「少し離れた方に寝かせてきたわ。美遊がついてくれてる。あっちの方にはバーサーカーを行かせないようにして」

 

 凛はイリヤと美遊がいる方を指差す。気絶したイリヤを戦力にできないが、彼女を運び、護りながら戦う余裕もない。それゆえに、凛が魔法少女となったのだ。意識の無いイリヤを一人残すのは心配だったが、しっかり者の美遊がいてくれるなら大丈夫だろう。

 

「それで、あいつの倒し方だけど、もう宝具は効かないわ。貴方たちの魔術でなんとかならない?」

 

 ランサーが、ルヴィアを抱えていた腕から降ろしながら問う。

 

「私たちがカレイドステッキを使って、準備したうえで全力を注ぎ込めば、いけるかもしれない……でも、タイミングが上手く決まるかどうか」

「それなりの時間。それに、一瞬でもいいから、バーサーカーが動きを完全に止める隙が必要ですわ」

 

 相談しているうちに、ついにバーサーカーが、【魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)】の炎の戒めを完全に振り払い、自由の身になる。そしてまた、追いつ追われつの、戦闘が再開された。

 

   ◆

 

 彼女は面会室に入り、初めて面会人の正体を知った。

 

『こ、こいつは……こいつはッ!』

 

 来るなんて思っていなかった。

 

『母さんに預けておいたペンダントは……受け取ったか……?』

 

 諦めていた。

 

『お前と知ってたらここには来なかったッ! のこのこ父親面して来てんじゃねェ――――――ッ!!』

 

 信じられなかった。

 

『やれやれだ………。しかしお前をここから……出す。すぐに……。そのために…来た』

 

 そして告げられる――陰謀――宿命――そして、怨敵。

 

『ジョンガリ・A―――ッ!!』

『徐倫!! お前は窓へ進めッ!!』

 

 襲い掛かる――殺意――銃撃――そして、別離。

 

『う………撃たれたの? ど……どこをよッ! なんでかわせなかったのよッ!』

 

 ああ、なぜこんなにも声が、体が震えるのか。

 もう、この心に、彼のことなど残っていない、はずなのに。

 

『先に行くんだ。このペンダントを持って……落とすなよ。一見わからないが、これには発信機が内蔵されているんだ。お前の位置がいつでもわかるように……。そして潜水艇は自動的にこれを追尾してくるよう……既にセットされている』

 

 それは、他の何よりも求めていた言葉だった。

 

『海岸に行くだけで、潜水艇はお前の所にくる……。そしてスピードワゴン財団という所が、潜水艇を見つけてくれる……。わかったなら、行け……徐倫』

 

 それは、涙が出るほど欲しかった言葉だった。

 

『お前の事は……いつだって大切に思っていた』

 

 なのに……どうしてこんなに、聞いていたくないのだろうか。

 

 

 

『どぉして【心臓】が止まっているのよォォォォォ!!』

 

 

 

 死ぬ事より……恐ろしい事が起こる。

 

   ◆

 

「【運命の石牢に自由を求めて(ストーン・フリー)】!」

 

 ランサーのスタンドが、バーサーカーの前に立ちふさがり、闘牛士のようにその暴力をいなしていく。

 ランサーの【運命の石牢に自由を求めて(ストーン・フリー)】は岩を砕き、鉄の棒をへし折る程度の力はあるが、それでもバーサーカーには敵わない。それでも、銃弾を視認し、瞬時に糸をマットのように編み込んで防御できる精密な動きは、バーサーカーの無茶苦茶な破壊を受け流すことに成功していた。

 

「――――――ッ!!」

 

 バーサーカーが振り下ろす巨腕を、糸のしなやかさをもってかわし、

 

「オラオラオラオラオラッ!!」

 

 拳の連打を浴びせ、注意を引き付ける。攻撃はまるで効いていないようだが、うざったくは思っているのだろう。現状、攻撃対象はランサーに絞られている。

 

(まあ、一歩間違えば捕まって直撃食らって潰されるか、捕まって捻りちぎられるか……かなり綱渡りだわ)

 

 だが、このバーサーカーを引き付ける役目は、ランサーにしかできない。凛とルヴィアが、魔術を使うベストのタイミングを作り出すために。

 

「あと少し……」

 

 だがそうそう都合よくことは運ばないもので、バーサーカーはクイと視線を横に向けた。その方向には、ステッキを手に、バーサーカーを仕留める用意を行っている二人の魔法少女(そう呼んだら怒るだろうが)がいる。

 

「―――ッ」

 

 狂気に支配された脳であれ、何か怪しいと勘付いたらしい。ランサーへの攻撃を止め、体の向きを変えて、凛たちの方に走ろうと足に力を込めた、

 

「ちぃっ!!」

 

 ランサーは己のスタンドを解きほぐして糸に変え、更に編んで太いロープにすると、バーサーカーの右足に絡みつける。

 それは、この怪物の足を止めるためのものではない。彼女のパワーでは到底止めることはできない。だが、左足を持ち上げた瞬間、バーサーカーが走る直前に、グルグルに絡んだロープを思い切り引けば、

 

 グルゥンッ!!

 

 コマのように、バーサーカーの体が、右足を軸に回る。バーサーカーの体の向きは、凛たちからランサーに戻った。

 

「こっちを見なさい……!」

「――――ッ!!」

 

 無視しようと思えば、バーサーカーはできただろう。体の向きを戻されたのは、そうされると思っていなかったからだ。何をされるかわかっていれば、回転されることもなく、ランサーを引きずりまわして走ることができる。

 

 だが、バーサーカーはランサーの行為に、苛立ち以上の、微かな警戒を覚えた。あろうことか、このメンバーの中でおそらく最も火力の弱い相手に、バーサーカーの戦士としての本能が、侮ってはいけないと、訴えたのだ。

 ゆえに、この巨人はその本能に導かれるままに、ランサーを踏み躙ることにした。

 

「―――――――――ッ!!」

 

 バーサーカーは拳を振りかぶる。それは、今夜繰り出した中で、最大威力の攻撃を生み出す構えだ。そして、狂戦士は右足を力強く踏み込む。より強く、より重い一撃を放つために行った踏み込みであった。

 だが、

 

 ズボォッ!!

 

「ッ!??」

 

 バーサーカーが、一瞬ではあるが驚きを顔に浮かべた。

 彼の足元が急に崩れ、その巨体が土中に沈む。いかにバーサーカーの踏み込みが強力であれ、地面が砕けるだけならともかく、その巨体がすべて沈むような穴が開くわけがない。

 そうそれは、

 

「はまってくれたわね」

 

 落とし穴。

 

 古典的、いや原始的とさえ言ってもいい、ありきたりな罠。だが、その有効性は原始の時代から衰えることを知らない。

 

「よくやってくれましたわ! ミスター・アヴドゥル!!」

 

 ルヴィアが褒めたのも当然。

 この落とし穴を掘ったのはアヴドゥルであり、彼だけがそれを行えた。

 

魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)】の優れた能力により、炎を地中に流し込み、土を焼き掘ったのだ。ただ手を地面に当てて、誰からも見えず、誰にも気づかれず、下の土をグズグズに焼き、スカスカの空洞にしたのだ。

 そして、その落とし穴までランサーが誘導したという寸法。

 

「チッ、チッ、チッ! さあ、あとは頼むぞ!」

「当然!!」

「お任せなさい!!」

 

 人差し指を振って決めるアヴドゥルに応え、凛とルヴィアが動き出す。

 その上空には、七つの巨大な魔法陣が、空間に浮かんでいる。ランサーが稼いだ時間分、一つ一つの魔法陣に、魔力砲がチャージされているのだ。

 

「チャージ完了……心臓を貫いても、頭から真っ二つにしても死なないなら」

「跡形もなく、粉々にしてあげるわ」

 

 凛とルヴィアが構える。互いにステッキを振りかぶり、準備したすべての魔力を、一気に解き放つ。

 

斉射(シュート)!!」

斉射(フォイア)!!」

 

 太陽が堕ちてきたかのような閃光。重ねに重ねた魔力の爆発。

 それらがバーサーカーの身を包み、飲み込み、押し潰す。

 

 ゴッガァァァァアアアア!!

 

 耳がちぎれるような爆音と共に、バーサーカーが吹き飛び、そして宣言通り、跡形もなく粉々になっていった。悲鳴をあげる暇もなく、光と熱に蹂躙され、灰も残らずその巨体は消え去った。

 ほんの数秒で、辺り一帯は焼け野原になる。草木は一本残らず消失し、地面はめくり返り、旧間桐邸の敷地の半分以上は、まさに根こそぎに破壊しつくされてしまっていた。

 

「どうよ!!」

「ふっ! いかに不死身のサーヴァントといえど、これをくらえばひとたまりも……」

 

 髪をかき上げて決めポーズらしき姿勢をとるルヴィアだったが、言葉が途切れる。

 

 空気に漂う塵――バーサーカーの存在の残り香が、渦巻き、逆巻き、飛び交って一つの形をなしていく。

 塵は人型を形成し、やがて色を濃くし、質感を伴い、果てに鉛色の肉の塊へと変わっていく。そして、シュウシュウと煙を噴き出しながら、肉塊に手足や目玉が生まれ、元の巨人へと戻っていく。

 

「反則すぎでしょ? プラナリアだって、もうちょっと可愛げあるっての……」

 

 凛の悪態も力が無い。もう全ての力を出し切ってしまったのだ。

 もはや手段は使い切った。

 

「――――――――――――――――――ッ!!!」

 

 再生した口から、今までで最も力強いバーサーカーの雄叫びが放たれた。

 

   ◆

 

『お姉ちゃんはギリギリで生き残れたんだよッ! それなのに! なぜ逃げなかったんだ!!』

 

 野球帽の少年の問いに、彼女は強い言葉で答える。

 

『犯人が中に逃げたからよッ! 外へではなくッ! 中へッ!!』

 

 父から『スタンド』と『記憶』を奪った敵は、刑務所の中へと逃げて行った。敵は外ではなく、刑務所の中にいる。

 

『スタンドを取り返せば、お……お父さんは生き返るとでもッ……!!』

『そのために戻るのよ……中へ!』

 

 彼女は気高く、強く、その目は前へと向いていた。

 

『生きてはいないけど死んだわけでもないッ!! スタンドを取り返せば、必ず生き返るわッ!!』

 

 父親と、同じように。

 

   ◆

 

「――――――――――――――――――ッ!!!」

 

 夢を断ち切ったのは、人型の喉から出たものとは思えぬ轟音であった。

 

「イリヤスフィール!」

 

 目を開けて、まず見えたのは美遊の顔。

 

「美遊さん……?……!! 戦いはっ!?」

 

 バッと勢いよく身を起こすと、すぐに視界に飛び込んできた。

 

 

「――――――――――――――――――ッ!!!」

 

 

「あ………」

 

 見ただけで、もはや理屈抜きで理解できた。

 もう、どうにもできないのだということが。

 

 敵は、まさに最強。今までの敵は、どれほど強くても、殺せば死んだ。

 だがバーサーカーはその当たり前のことを覆す。

 

 殺しても殺しても立ち上がる、黒い絶望。

 

「ああ………」

 

 もう駄目だと、イリヤがそう結論した瞬間、

 

 カチリ

 

 イリヤの中で、何かが小さく、しかし確かに、外れる音がした。

 

 

 

 

 ……To Be Continued

 

 

 

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