物語館   作:むつさん

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どうも悠樹@夢子&松K.です。

5月中にできるかなと思ったのですが、
いろいろが重なって考えている場合じゃなく。
結局6月に投稿になってしまいました。

お待ちいただいていた方。
大変申し訳ございません。

まぁ、長い作品ですからごゆっくりどうぞ。


幻想郷に生きる者達

二つの命

 

幻想郷に住む俺は近日挙式を控えていた。

 

相手は一つ上の幼馴染。

静かで大人しく、優しい女性だ。

 

まぁ、歳上と言っても見た目はまだ幼さが抜けておらず、背も低い、

 

今はもう同居で戸建の家に住んでいる。

 

「祐奈おはよう。」

 

「おはよう、悠。」

 

ベットから起き上がる彼女に手を貸す。

 

「大丈夫よ、起き上がるくらい」

 

「朝は力が入らないだろうと思ったんだ」

 

「いいよ、ありがとう。」

 

彼女は以前、事故に遭って、それ以来体の力が衰えて、弱ってしまっている。

 

事故自体は妖怪達の争いで起きたことだが巻き込まれてしまった、永遠亭の医者に頼んで治療してもらっても、完治までには至らなかったそうだ。

 

彼女自身、割り切っているそうだが…

俺はなんともまだその気にはなれない。

 

「ご飯用意するね。」

 

「今日仕事が休みだから祐奈はゆっくりしてくれ。」

 

「そうなんだね、ありがとう」

 

子供の頃。母親を亡くした俺は父親と双子の妹と弟と四人で暮らしていた。

長男だった俺はまだ赤子の双子の世話をしながら、何から何まで家事を全部やっていた。

 

そのおかげか、今も家事程度ならいつもやっている

 

洗濯から炊事、掃除まで淡々と黙々とやっていく。

 

「ねぇ悠。」

 

「ん?、どうした?」

 

「行きたい場所があるの」

 

彼女にしては珍しく自分から用事を申し付けてきた

 

「いいぞ。ただもう少しだけ待ってくれ」

 

朝食で使用した食器を片付けてから

彼女の用事を尋ねる、

 

 

「それで、行きたい場所って?」

 

「毎回ごめんね、太陽の畑なの」

 

「幽香さんか、いいぞ。」

 

彼女は河童特製の車椅子に移り

俺はそれを押して進む。

 

里から出ればそこはもう無法地帯。

昼間はさほど被害はないが、妖怪に襲われない保証はない。

 

一応、護身用の物は常備していた。

 

しかし、里を少し歩いた所に見覚えのある人影が立っていた。

 

「あ、幽香、どうしたの?」

 

「今日来るって話だったかしら、迎えに来たわ」

「そうなのね。わざわざありがとう」

 

「道中襲われると危ないでしょう。」

 

「まぁ、居てくれると助かる」

 

「貴方も下等妖怪程度ならよっぽど大丈夫だとは思うわ」

 

「まぁ、数の問題になってくるな。」

 

「そうね」

 

こちらの歩くペースに合わせる幽香。

優しいというか頼もしいというか。

普段ならもっと堅牢とした態度だが

俺達にだけは優しくしてくれている

 

彼女曰く

【貴方達は花に好かれているから】

らしい

 

太陽の畑に着き、少し歩くと小屋に着いた

メディスンが中でお茶の用意をしてくれていた。

 

彼女と幽香とメディスン。

この三人はこの太陽の畑でよくお茶会をする。

 

俺はそれを見守っているばかりだが

別に抵抗はない。

普段出歩かない彼女の、数少ない交流だからな、好きにさせてあげている。

 

小屋の外のベンチでのんびりとしていると。

小屋からの話し声や楽しそうな笑い声がよく聞こえてくる。

 

何よりも彼女が楽しいと思えるなら

それでいい。

 

昼過ぎ。ベンチで寝てしまった俺は幽香に起こされた。

 

「日向は気持ちよかったかしら?」

 

「ああ、すまないな、」

 

「いいのよ、待たせてしまっているもの、」

 

幽香が振り向いた先の車椅子で彼女は眠ってしまっていた。

 

「彼女も寝てしまったけど、どうする?」

 

どうすると言われても困る

 

「無理に押しても良くないしな…ベットがあるなら借りれるか?」

 

「構わないわ上がって頂戴」

 

小屋に上がって小部屋に入る。

ベットが2つ用意してあった。

客間のつもりらしい。

 

 

「片方借りるぞ」

 

「いいわ。好きにしなさい」

 

彼女をベットに寝かせ、隣の椅子に腰掛けて一息つく、

 

「あなたも大変でしょう?」

 

「何がだ?」

 

「こんな不自由な女性を相手して苦労ばかりじゃないのかしら。」

 

「まぁ、確かに苦労はあるかもしれない。でもそれを理由に彼女から離れるようなことはしないさ、」

 

「そう。彼女、大切にしなさいよ」

 

「どうした?幽香にしては珍しいな。」

 

「彼女のことが心配になっただけよ。」

 

「そうか、ありがとうな。」

 

幽香が誰かを心配する。

珍しいことだ。

だが、それだけ幽香にとっても祐奈は大切なのだろう。

 

夕方、祐奈は目を覚した。

 

「起きたか?」

 

「ごめん…寝ちゃってた」

 

「いいんだよ、」

 

「ゆっくりできたかしら。」

 

「幽香、うん、ありがとう」

 

「今日はもう帰るのでしょう?」

 

「そうだな。そろそろ帰らないと」

 

「里までは一緒に行くわ、」

 

今日はやけに優しい。

ありがたい限りだ。

 

帰り道。

里よりまだ距離があるところで何かを感じた、幽香も同じようで立ち止まった

 

「どうしたの?」

 

どうやら祐奈にはわからないみたいだ。

 

「誰か、いや何か居るな」

 

「妖怪の類だけど、なかなか大きそうね」

 

ゆっくりと進む幽香。

それに後ろからついていく。

 

大きな何か、その正体は異形の妖怪。

 

獣の様な姿の化物と例えるとよくわかる

そんなものがなぜここにいるのか…

 

しかし、近づいてもそれは襲ってくる様子はなかった。

いくら幽香がいるとはいえど。

人には容赦なく襲いかかるはずだが。

その気配はなかった、

そして幽香を恐れているようでもなかった。

 

「これなら気にせず素通りしましょう」

 

「触らぬ神に祟りなし。か」

 

「そうね。」

 

真横を通ってもこちらに見向きもせず

ただ一点を見つめているようだった。

 

人里に着いて家についた。

 

「道中変なのがいたけど特に何もなく帰ってこれたな。」

 

「そうだね。なんだったんだろう…」

 

「気にしなくていいと思うわ、それじゃ私は戻るわ」

 

「幽香、ありがとう。」

 

幽香は手を振ると飛んで行った。

 

夕方頃畑を出たものだからもう夜だ、

 

「晩飯用意するよ。」

 

「ありがとう。」

 

食事を済ませて寝室でゆっくりしていた。

 

彼女もベットで落ち着いた様子だったがどうも眠れないようだ。

まぁ、昼寝をした後だ仕方ない

 

「寝れないか?」

 

「まぁ…ね。」

 

「今日は少し晩くまでなりそうだな」

 

「ごめんね」

 

「いいさ、俺も昼寝してたしな」

 

「そうだったんだ」

 

「あぁ、だから別に構わないぞ」

 

同じベットで特に話をするわけでもなく、ただ横になる。

 

そのうち彼女は眠った、

その近いうちに俺も寝てしまっていた、

 

それから数日後

 

博麗神社に俺と彼女はいる。

 

そう、挙式だ

お互いに着物姿で式に出たんだ。

 

そして何事もなく挙式が終わった。

お祝いに来ていた人間達はすぐに里に戻っていった。

 

「挙式があったからか、今日はお賽銭が多いわ」

 

「良かったじゃないか小遣いが増えて」

 

「小遣いじゃないわよ、これでも立派な生活費なの。」

 

「それなら私達もお賽銭しましょうか。」

 

「そうだな。」

 

普段より多めに入れ、御参りをする。

 

「いつもありがとう。」

 

霊夢は見届けると改めて御参りのお礼を言った。

 

「いえ。お礼を言うのは私達の方ですから。」

 

「至るところで助けてもらってるのもそうだが。今回もここを式場として使わせてもらえたしな。」

 

「また、頼むわね」

 

「はい、こちらこそ」

 

神社の後にして里に向かう途中、

一人の少女に会った。

 

「あっ、悠だ。」

 

「あら、ルーミアちゃん、また会ったね。」

 

「来てたんだねー」

 

「今から帰るところだ、」

 

「そうなのかー。ついて行っていい?」

 

「いいよ。おいで」

 

ルーミアは彼女と手を繋ぎながら歩いている

まるで子供と親のような光景だ。

いつかこんな風景が日常になるのだろうか

 

神社からずっと歩いていたからか。

彼女はかなり疲れた様子だった。

 

「祐奈、大丈夫か?」

 

「うん…ちょっと疲れただけ、大丈夫。」

 

ソファーに座って一息ついたようだ。

その隣にルーミアも座る。

 

「ルーミアは祐奈が好きか。」

 

「んー。うん。」

 

「ふふっ、ありがとう。」

 

少しするとルーミアは眠ってしまった、

先程会った時も少し体を浮かせて移動して居たようだから、恐らく歩くのは慣れていないのかもしれない。

ルーミアも疲れていたのだろう。

 

「ルーミア。寝ている姿は普通の女の子なのね。」

 

「妖怪と言ってもまだ少女なんだな。」

 

「いつか私達にもこんな子がいるといいな。」

 

「そうだな。」

 

少しすると祐奈も眠ってしまった。

 

俺は買い出しに人里の市場まで向かっていた。

 

市場で見慣れた二人と顔を合わせた。

 

「あっ、悠さん。こんにちは。」

 

「お久しぶりです、稗田さん、本居さん」

 

「お買い物ですか?」

 

「まぁ、夕飯の支度をするから。」

 

「祐奈さんは一緒じゃないんですね。」

 

「家でルーミアと寝てる、起こすわけにはいかないし、一人で来たんだ。」

 

「そうなんですね。」

 

「ルーミアって人食い妖怪じゃないんですか?」

 

「あの子なら大丈夫さ。」

 

「悠さんが言うなら大丈夫ですよ。」

 

「そうですね。私達は今から帰るところです」

 

「そうか、それじゃあまたな。本居さん、また本借りに行くよ。」

 

「はい、またお願いします」

 

家に帰ると、祐奈が起きてお茶を淹れていた。

ルーミアが見当たらない。

どこか行ってしまったか。

 

「おかえりなさい。」

 

「ただいま、ルーミアは?」

 

「起きたときにはいなかったわ。」

 

「そうか。一人分余分に買ったのにな。」

 

「私なら居るよ?」

 

ルーミアは後ろから出てきた。

 

「おぉ?どこに居たんだ?」

 

「さっき戻ってきたの」

 

「そうか。」

 

その日は彼女とルーミアと三人で過ごした。

夜は彼女とルーミアはベットで寝ていた。

俺は仕方ないから床に布団を敷いて寝る事にした。

起きて少しするとルーミアはどこか行ってしまった。

 

 

その日、彼女の体調が優れなかったため。

永遠亭に向かうことにした。

迷いの竹林にも慣れたおかげで最近は迷わずに済むことが多い。

 

永遠亭に着き。

永琳に診てもらう、

 

「どうしたのかしら。」

 

「永琳さん、ちょっと調子が良くなくて…」

 

「具体的にどんな感じかしら?」

 

「体が重たくて…食欲もないし。すぐに息が切れちゃうの。」

 

「そう。昨日何かした?」

 

「博麗神社で挙式をしたな。それ以外は特に」

 

「そうね…何かしら…」

 

てゐがあとからやってきて。

唐突に話しかけてきた。

 

「永琳。あれじゃないの?」

 

「あれって?」

 

「だって。二人は夫婦なんでしょ?」

 

「そういうことね。」

 

永琳はすぐに気が付き、

彼女のお腹に手を当ててみる。

 

「…そうね…その可能性は否定できないわ。」

 

「まぁ…それはそうかもしれないな。」

 

「一応、そういうことはしましたし…」

 

「ならそうなんじゃない?」

 

「経過観察、時間を見てまた来て頂戴。」

 

「わかりました」

 

「ただ…」

 

永琳は少し思案顔をしていた。

 

「どうかしたのか?」

 

「そうね、祐奈、少し残って頂戴」

 

俺は屋敷の外で待っていると、

すぐに戻ってきた。

 

「何だった?」

 

「ううん、何でもないよ。」

 

少し気がかりだったが…

大丈夫そうならいい。

 

家に戻り夕飯の支度をする。

その途中も祐奈が気分が悪そうだった

 

「大丈夫か?」

 

「うん…疲れちゃっただけ。」

 

「そうか。無理するなよ?」

 

「うん、休んでいれば大丈夫だと思う」

 

夕食を済ませベットで横になる。

隣に彼女もいるが、ずっと俯いている様子だった。

 

「具合でも悪いのか?」

 

「ううん…大丈夫…」

 

いつも大丈夫と言って誤魔化すことが多い。

体も弱く、そのせいで精神的にも追い詰められていて大丈夫な訳がない、

 

「永琳に何か言われたか?」

 

「…私の事、いろいろと心配されたの。」

 

永琳曰く。

 

妊娠自体は問題はないが、いざお産になると。体へのショックは大きい。

今、体が衰弱状態に近いような彼女がお産を迎えると、どうなるかわからないという。

無事にお産が済んでも彼女の身が通常通り健康体で済むかわからないのだ。

 

「そうか…祐奈は怖いか?」

 

「うん…でもどうしよう、って」

 

「無理はしてほしくない。」

 

「うん…」

 

「お腹に子供がいるのは祐奈だし、産むも諦めるも祐奈しかできない。俺は祐奈が決めたことについて行くから。」

 

「ありがとう。」

 

「だから、心配するな。」

 

「赤ちゃん絶対産むから。」

 

「ああ、例え何があっても子供も祐奈も守ってやるさ。」

 

落ち着いてきたのか彼女は手を握ったまま、そのまま眠った。

 

とはいえ。俺もそのことを知るとまともを保つのも少し大変だ。

 

なにせ。彼女のことだ…

居なくなるなんて考えたことはないが。

万が一にもあり得なくない。

これからが物凄く心配だ、

 

 

日が経つに連れ

やはり彼女のお腹は大きくなっていた。

永琳からも妊娠していると告げられ。

彼女もそういったことは理解していて。今はもう子供を産むということに楽しみがあるようだった。

 

だが、俺はそれでも祐奈が心配だった

もちろん楽しみじゃないわけではない

 

気がつけばもう、近いうちに陣痛がきてもおかしくない時期だった、

 

「永琳さんは明日ぐらいに来るかもと、言ってた、」

 

「明日か、丁度休みだから明日だと助かるな。」

 

「ついに、子供が産まれるのね」

 

「そうだな、待ち遠しいよ。」

 

彼女が楽しそうにしているおかげか、心配してた心が少し和らいだ。

 

今は、きっと大丈夫だと。そう思っている

 

 

永琳が言っていた通りだろう

翌日の朝方、彼女が苦しそうに話しかけてきた。

 

「悠…ごめん。」

 

「祐奈?そうか!」

 

知り合いの天狗に頼んですぐに永琳のもとにいく。

 

着くとすぐ準備を始めて。

俺は部屋の外で待っていた。

 

彼女の辛そうな声は度々聞こえてくる。

それでも我慢して待ち続けていた。

途中、輝夜や優曇華が心配そうに話しかけてきてくれて。何とか不安を凌げていた。

 

それから数分経って。

泣き声が聞こえてきた。

そう、赤ん坊の大きな泣き声。

遂に産まれたのだ。

永琳から呼ばれて部屋に入る。

すぐ目についたのは元気に泣く赤ん坊と、抱きかかえる彼女だった。

 

「産まれたよ…悠」

 

赤ん坊の泣き声が響く中、か細い声だがしっかり聞こえた。

 

嬉しくて声が出なかった。

頷いてわかったことを示すと。

彼女は涙を流して喜んでいた。

 

「元気でよかった。」

 

そうだ、元気に産まれたのだ。

 

赤ん坊が泣きじゃくる中

抱きかかえる手が少しづつ下がっていった。

 

「いけない、このままでは!」

 

唐突に永琳が焦りだす。

どうしたものかと様子を伺う

 

「早く点滴を用意しないと、彼女、持たないわ…!」

 

補助の兎もせっせと用意をする。

 

「祐奈?大丈夫か?」

 

「ううん…ごめん…疲れちゃった…」

 

明らかに意識が薄れているように見える

 

「しっかりするんだ!まだ眠るには早い!」

 

「うん…頑張るよ…」

 

そう言いつつも、ほとんど意識はない。

 

準備が整い点滴を始める。

赤ん坊はまだ泣いているが。

祐奈の手元から俺が代りに抱き。

そのまま祐奈の治療を始めた。

 

準備が終わって丁度眠ってしまったようだ。

 

どうなるのだろうか…

 

「永琳…助かるか?」

 

「申し訳ないけど、何とも言えないわ…」

 

「そうか…」

 

俺はかなり不安だった…

赤ん坊が産まれたと言うのに祐奈がいなくなる…そうなれば赤ん坊はどうなるのだろうか…この子には俺のように親を亡くして生きて欲しくない…

そんな考えが当たり前のように浮かんで

胸の奥がかなり苦しくて痛い。

 

気がつくと赤ん坊は泣き止み眠っていた。

 

沈黙が続く中。

永琳が話しかけてきた。

 

「この様子を見る限り。生きてはいるわ。」

 

その言葉を聞いて俺の情緒は何とか収まってきていた。

 

「ただ…これでもかと体は弱まってる…母乳を出すどころか赤ん坊を抱くことすら、多分ままならないわ…」

 

「そんな…」

 

母親の役目を果たせないようなものだ。

彼女は一体どうなってしまうのか…?

 

「残念だけれど…今は命があるだけ喜ぶ事しかできないわ。」

 

「…そうか…」

 

言葉が見つからなかった。

赤ん坊が産まれて、彼女が生きていて。

それなのに喜ぶことが出来なかった。

 

もう一度笑顔で笑う彼女が…

どうしても見たかったからだ…

 

「このまま居ても仕方ないわ、とりあえず…そうね…どうしましょうか。」

 

永琳も戸惑っている様子だった。

 

「あなた、里で経験のある人は知り合いはいるかしら?」

 

「まぁ、居なくはないが…」

 

「こういったことは私も知識はあまり無くて、本物の母親達に聞いた方が参考になるわ」

 

「そうだな…何とかしてみるよ」

 

天狗に頼んで里まで戻る

 

「今日はありがとう、急にすまなかったな、」

 

「いいんですよ、いつでも呼んでください」

 

そういうと山に戻っていった

 

律儀な天狗だ、いつも世話になっている

いつか礼をしないといけないな

 

家についてから。

眠っている赤ん坊を見て

いろいろと考えた

 

「ひとまず…できることからやっていくか」

 

赤ん坊の服や下着などは全部揃えてある、

 

昔の経験のおかげで、世話程度ならなんともない。それでもできる限りは他人の力も借りたい。

 

「とりあえず何人か声を掛けてみるか」

 

助言からサポート、

いろいろと助かりそうかと思ったが…

 

とにかく全部知っているどころか、

昔やってたこと、今もやろうとしてた事ばかりだ、

 

なんとも…助力と言うのは手伝ってもらうぐらいだろうか。

 

家に戻って一息つくと。

赤ん坊が起きた。

 

目が合って、微笑ましさから笑顔が溢れる。

それを見たからか、赤ん坊も微かに笑顔のような表情をしている。

 

「せっかく、産まれてきてくれたんだ。絶対祐奈と合わせてやるからな。」

 

赤ん坊だ、まだ言葉の理解はできないが。

約束をするように一人で呟く

 

あの日の彼女との約束はまだ覚えていた。

この子も彼女も守る、それを思い出すと

改めて決意が固まった気がした。

 

 

 

 

 

ベビーシッター

 

上司達にも話をして、暫くの間、育児休暇を取った。

 

暫くとは言っても、祐奈はいつ戻るかわからないから、仕事に復帰するのは当分無理だろう、

 

祐奈も数日経ったがまだ目を覚まさない…

 

毎日を育児と家事で追われる

昔に戻ったような感覚だった、

 

ある日の昼間、赤ん坊が寝て、俺も眠気に襲われて意識が薄れていた時、家の扉を叩く音がして目が覚めた

 

「誰だろうか…」

 

扉を開けてみると。

 

「ご機嫌よう。祐奈はいるかしら?」

 

風見幽香、花の妖怪だった。

 

「幽香さん…それが…」

 

これまでのことを話すと、幽香はわかったように頷いた

 

「それなら、暫くは竹林にいるのね。」

 

「ああ…まだ目は覚まさないが。」

 

「そう…貴方も世話が大変でしょう。」

 

「まぁ…大変だが、昔っからこういうのは慣れてて、とりあえずは大丈夫だ。」

 

「そう、それならいいのだけど。」

 

「心配してくれてありがとう。」

 

「いいのよ、貴方達だからこそなのよ。」

 

幽香は椅子から立ち上がると、赤ん坊を眺めていた、

 

「ちゃんと産まれたのね。」

 

「元気な男の子だ」

 

「男の子。そう」

 

幽香は赤ん坊に撫でるように触れると、

少し笑顔になって話しかけてきた。

 

「この子も、花に喜んでもらえそうね」

 

そんな不思議な事を言いながら戻ってきた。

 

「貴方達と同じね。」

 

「そうか。」

 

少しすると幽香は帰って行った。

 

ソファーに座ってゆっくりしていると気がついたら寝てしまっていた。

 

不意に目が覚めて正面の窓を見ると

紅く夕焼けが見えていた

赤ん坊はまだ寝ているようだ。

 

ふと、何かに気づく。

後ろから気配と物音を感じて振り返ると。

一人の少女が掃除をしていた。

 

「こんにちは。起こしちゃってごめんなさい、貴方が悠さんかな?」

 

青い服に青い髪。そして青と赤のオッドアイ

見覚えがない…誰だろうか

 

「どうしてここにいる?」

 

「あっ、えっと私は多々良小傘って言うの」

 

多々良小傘…やっぱりわからない

 

「あー、えっと、幽香さんはわかる?」

 

「風見幽香か?」

 

「そう、幽香さんに頼まれてここに来たの」

 

「幽香さんが?」

 

「そう、私、里でこっそりベビーシッターやってて、幽香さんはそれを知ってて私に声かけたのかな、一応幽香さんとは知り合いでね。」

 

「ベビーシッター?母親の代わりに赤ん坊の世話をするというあれか?」

 

「そう。それだね。」

 

「いや、まぁ、困っているわけじゃないし…別に何かお願いしたわけでもないんだがなぁ…」

 

「う~ん。私邪魔かな?」

 

「いや、邪魔というわけじゃなくてだな」

 

幽香も親切心での行為なのだろう。しかしお願いしたわけでもない、

ベビーシッターも欲しいと思った訳でもないのだが。まぁ、手伝って貰えるならそれはそれで助かるか。

 

「まぁ、手伝ってくれるならお願いするよ。」

 

「うん、任せてね。こう見えてもいろいろできちゃうんだから。」

 

多々良小傘、ベビーシッターか。

幽香の知り合いだから、大丈夫だとは思うが…お願いしてよかったのだろうか。

 

まぁ、家事全般は俺がやるとして、その間の赤ん坊の世話をしてもらえるだけでも、多少は落ち着いて暮らしていける

 

もちろん、多々良に任せっきりも疲れてしまうからたまには代わってやらないといけないか。

 

「そういえばこの子、名前は?」

 

「雪樹(ゆき)だ。」

 

「ゆきちゃんだね。」

 

「男の子だ。」

 

多々良は寝ている赤ん坊を見て呟いた

 

「お母さんに会えるといいね。」

 

「いつか会わせでやりたい…」

 

日も落ちて外は暗くなっていた、

もうこんな時間か、

 

夕飯の支度をする前に赤ん坊のミルクを用意しようと思い台所に向かうと。

 

ミルク入りの哺乳瓶がすでに用意してあった。炊飯もしてあって、煮物と軽い野菜も用意してあった。

 

「これは…?」

 

「疲れてると思って、もう用意したの、」

 

「あぁ、ありがとう。助かる。」

 

ソファーに座り特に意識もせず窓の外を眺めていた。

 

「お茶入れてくるね。」

 

気を遣ってくれたのか、多々良はお茶を出してくれた。

 

「あぁ、ありがとう」

 

温かい緑茶、昨日も飲んだはずなのに、

何故か染みるほど美味しく感じた。

 

「さっきから、どうしたの?」

 

「いや…すまない、疲れてるだけだ。大丈夫だよ、」

 

大丈夫…疲れてるだけ…

彼女が誤魔化すようにいつも言っていた言葉

 

多々良が隣に座り話し掛けてくる。

 

「大丈夫だって心配かけたくない気持ちはわかるよ。でも、疲れてるのにそんなに気を張ってばっかりじゃ、余計体壊しちゃうから」

 

「まぁ…」

 

「休める時はゆっくり休んで、しばらくは大変だと思うから、私も手伝っていくからさ。」

 

「そうか、ありがとう」

 

疲れても、いつもならなんともないはずなのだが、今日だけは気が遠のくような感じがした。そして、こんな風に誰かに支えてもらうのもあまり無いから、嬉しく感じた

 

「ほら、晩御飯食べて元気出そ。」

 

多々良は立ち上がって台所に行くと

食事の用意をした、

 

しかし、用意したのは一人分、つまり俺の分だけだった。

 

「あれ?多々良さんは。いいのか?」

 

「私は妖怪だから、普通の食事は滅多に食べないの。」

 

そこで初めて知った。

多々良小傘。彼女は妖怪だったのか。

 

「妖怪?そうだったのか」

 

「うん。でも安心して、私は人は食べないから、」

 

「そうか。」

 

「私はね、人間を驚かして、びっくりさせる妖怪なの。それで、そのびっくりしたときの人間の心を食べるんだ。」

 

「びっくりした心。なるほどな。」

 

「でもね、最近みんな驚いてくれなくなっちゃったから、つまんなくなってきてね。」

 

「まぁ、慣れてしまったらそれまでだしな。」

 

「うん、だからこうやってベビーシッターとか、いろいろやってるの。」

 

「妖怪も、大変なんだな、」

 

「うーん。こういうことするのは私だけだから、そういうわけでもないかな。」

 

「そうなのか、」

 

「うん、まぁ、私ぐらいかなぁ。」

 

「まぁ、助かるよ。」

 

夕飯を食べ終えて、片付けたころ。丁度赤ん坊が起きた。寝起きだが上機嫌で、すぐに泣く様子はなかった。

 

「あっ、起きたんだね。」

 

多々良は赤ん坊用の哺乳瓶を手元に持ってくると、赤ん坊は泣き始めた。

 

「お腹空いてるもんね。」

 

赤ん坊はすぐミルクを飲み始め、

落ち着いた様子だった。

 

「わかるんだな。」

 

「まぁね。」

 

多々良の戸惑いのない行動を見て

本当にベビーシッターなんだなと確信が持てた。彼女ならきっと大丈夫だろう。

 

「いいのか?ベビーシッターを任せても。」

 

「幽香さんのお願いだし。それに母親と一緒に居られない赤ちゃんを見過ごすわけには行かないの。」

 

「そうか、本当に助かるよ」

 

母親の様な姿の多々良を見て。

祐奈のことを思い出し。

また少し頑張ろうと思えてきた。

 

何日か経って、ある日の夕方

 

珍しく天狗がうちに来た。

 

「どうした?」

 

「永遠亭から手紙です。」

 

「手紙?ありがとう受け取るよ。」

 

「一応仕事中なんでこれで」

 

天狗は手紙を渡すとすぐ戻っていった

 

手紙。永琳からだった。

 

「なんて書いてあるの?」

 

多々良が覗くように見にくる。

 

手紙の内容は…

 

今朝、祐奈の意識が戻ったわ。

記憶もしっかりしてる、

それでも衰弱状態なのは変わらないから

しばらくはまだこっちで休ませてるわ。

落ち着いたときにいらっしゃい。

 

「祐奈さん起きたんだね。」

 

「よかった…ほんとに良かった…」

 

「いつ行くの?」

 

「天狗が仕事中だって言ってたからな。今日はやめておくか。」

 

「そっか。早く会いに行けるといいね。」

 

「明日、天狗にお願いしてみるか。」

 

次の日の昼間。

天狗を呼んで永遠亭までお願いした。

 

途中、天狗が珍しく話しかけてきた。

 

「昨日の手紙、なんだったんですか?」

 

「祐奈が起きたって知らせだったよ、」

 

「祐奈さん。起きられたんですね。」

 

「あぁ、よかったよ、」

 

「ええ、ところで隣の方は?」

 

「彼女は多々良小傘、妖怪でベビーシッターなんだ。」

 

「相変わらず、あなたの周りは妖怪やそういった類が集まりますね。」

 

「そう思うとそうかもな。」

 

「多々良さん。よろしくお願い致します。」

 

「えっ?うん、こちらこそよろしくお願いします、」

 

そんな会話をしていると

永遠亭についた。

 

「待ってたわ、昨日すぐ来ると思ったのだけど、」

 

「手紙もらった時間も遅かったしな。落ち着いたときでいいってのは永琳からのことだろ?」

 

「まぁ、そうね。」

 

永琳は案内をするように歩き始めた。

 

部屋につくと祐奈は座っていた。

 

「祐奈、」

 

「あっ、悠。来てくれたんだね。」

 

「まぁな、起きたって聞いて来たよ。」

 

「ありがとう、」

 

「あと、彼女なんだが」

 

「隣の方、だね。」

 

「多々良小傘って言います。えっと幽香さんに頼まれてベビーシッターやってます。」

 

「多々良さん。ありがとうございます。ゆきは大丈夫だった?」

 

「はい、元気にすくすくと」

 

「よかった、」

 

祐奈は安心するように肩を落とした。

祐奈は多々良からゆきを預かると抱き上げていた、

 

「ゆき。また会えたね。」

 

祐奈が笑顔になるとゆきも笑顔の様な表情になり。とても微笑ましく見えた。

 

「やっぱり、本物の母親にはなれないなぁ…」

 

多々良は呟いた。

 

「産みの親ですからね。でも人間の育児ができる妖怪なんて、そう居ませんよ。」

 

天狗は慰めるように多々良に話した。

 

「そう、なのかな。」

 

しばらくは永遠亭で過ごした昼食は永遠亭で済ませた。

 

夕方。

 

「日が落ちてきたな。」

 

「家のこともあるけど、ここにずっとって言うのは、だめですよね。」

 

「そうね。私も追加で二人、正確には三人だけど、養うわけにはいかないわ」

 

「祐奈はまだ体調が戻ってないんだ。もうしばらくはここにいるだろ?」

 

「うん…ごめんね。心配かけて。」

 

「いいんだ。また元気になって帰ってくるのを待ってるよ。」

 

俺等が部屋を出て襖が閉まる頃祐奈は小さく手を振っているのが見えた。

 

帰りも天狗に頼んだ。

 

「祐奈さん元気そうで良かったね。」

 

「あぁ、まぁ…」

 

「どうしたの?」

 

「多々良さん。祐奈さんはね。」

 

「俺から言うよ。」

 

そう言うと天狗は控えるように話すのをやめた

 

帰り道、祐奈の事を多々良に話した、

事故があったこと体が衰弱状態なこと、お産時に意識を失ったこと。

 

「そうなんですね…」

 

「だから…今の祐奈の状態は必ずしも元気とは、言いたくない。」

 

「でも、やっと起きたんでしょ?」

 

「まぁ、な。」

 

「いつかきっと帰ってくるんだったら待とう?」

 

「もちろん、そのつもりだ」

 

「私は、祐奈さんが帰ってくるまで、ちゃんとベビーシッターするからね。」

 

「ありがとう。」

 

家についた頃にはもう夜だった

 

「晩御飯用意しないと。」

 

「飯は作るよ。ゆきをとりあえず寝かさないと。」

 

「大丈夫もう寝たよ」

 

「そうか。今日は早いな。」

 

「それなら二人で早く済ませるか。」

 

俺と多々良で手短に作った。

その日は天狗も一緒に夕飯を済ませた。

 

多々良が来てから。

いろいろと落ち着いた気がする

 

ただやはりそれでも世話というのは大変で、俺と多々良で代わりながら世話をしている。ベビーシッターは頼もしいが。

まだまだ祐奈は帰ってこない。

 

度々永遠亭には顔をだして。

祐奈に会いに行っている、

祐奈も雪樹に会いたいだろう。

 

そんな日が続いた。

 

 

誓う者。

 

「そういえば。名前聞いてないや。」

 

多々良が天狗に尋ねる

 

「私の名前、ですか。」

 

「うん。」

 

「私に名前なんて。」

 

「楓、だったかな。」

 

「それは…えっと。」

 

「楓、楓さんだね。」

 

「楓…か…懐かしい名前ですね…」

 

「あぁ、かなり前のことだな。」

 

そう。昔のことだ

 

俺と祐奈が同居を初めて数カ月ほどの頃、祐奈が妖怪達の争いに巻き込まれる頃の出来事だ…

 

 

 

 

いつものように。俺と祐奈が太陽の畑に向かっていたとき。

遠くで誰かが倒れているのを見つけた、

 

黒い翼に白い服。

烏天狗だ。

 

天狗といえば山の妖怪。

それが何故か何もない平原で倒れている。

 

近くづいても起き上がる様子はない。

かと言って、そのまま放っておく訳にもいかない。

 

「大丈夫か。」

 

声をかけると、微かに唸り声が聞こえた。

祐奈が体を揺すると意識が戻ったのか座り込んだ

 

「うぅ…背中が…」

 

「何があったんですか?」

 

「あっ!…あなた達は?」

 

「たまたま通りかかっただけだ。」

 

「そうですか…よかった。」

 

安心したように肩を落とす

 

「どうかしたのか?」

 

「いきなり背中の翼の付け根が痛くなって…飛べなくなって落ちてしまって。」

 

「それで、落下の衝撃で気を失ってたわけか、」

 

「はい…うーん…まだ痛い…」

 

天狗の背中に目を向けると翼の付け根あたりに傷があった、切り傷のような痕。

一体何があったのが。

 

その時、後ろの方から足音が聞こえた。

振り向いて見るとそこには…

 

「チッ…他のやつがきちまったか…」

 

猟銃を持った男がいる。

 

「一体何者だ。」

 

「話す必要なんかねぇ。おい、そこの天狗に用事があるんだ。どいてくれねぇか。」

 

「彼女は今、怪我をしてるの。だから待ってあげて。」

 

祐奈が止めるように促すが…

 

「うるせぇなぁ。黙らすぞ。」

 

男は猟銃を祐奈にむけて構えた

 

何となく察していたが。

やはりこうなるのは望みたくなかった。

 

祐奈を守るように正面に立ち、護身用の木刀を構える。

 

「何だてめぇやるってのか。」

 

その気はないが…

こうなってしまっては後に引けない

 

「構えられたらこちらも守りの体制はとるさ。」

 

男は猟銃を構え直す。

 

「鉄砲相手に木刀なんていい度胸じゃねぇか、後悔すんじゃねぇぞ!」

 

猟銃の引き金がカチンと音を鳴らす。

もちろんその瞬間先端から弾丸が放たれた。

 

猟銃から放たれた弾丸をうまく木刀に当てる、そして、その弾丸は的外れのような場所に飛んでいった。

 

「木刀で…弾きやがった…」

 

弾丸弾き、幽香さんにさんざん教えこまれた。使い処なんてないと思っていたが…

 

まさかここで生かされるとは思わなかったよ

 

「頼むから手荒な真似はよしてくれ。お互いに利益はないだろ。」

 

「そういうなら、その天狗をこちらによこせ」

 

「それは断る、怪我をしてるし、それに引き渡したあとが嫌な予感しかしない。」

 

「てめぇ…」

 

男はまた猟銃を構え発砲した。

 

当然弾丸を弾き飛ばす。

 

「畜生…何者だこいつ…」

 

「あら、危ないわね。」

 

後ろから聞き覚えのある声…

振り返ると幽香さんがいた。

 

「あっ、幽香。」

 

「貴方ね、飛ばすなら人の居ないところに飛ばしなさい。それじゃ自分しか守れないわよ?」

 

「まだ、これが手一杯ですって、」

 

「まぁ、それもそうでしょうね。精進なさい。」

 

「努力はするよ。」

 

「なんだ、この女…また増えやがったよ」

 

「あなたね、彼等に手を出すなら容赦はしないわよ?」

 

「俺はお前らの後ろの天狗に用事があるだけだ。」

 

「そう。でも彼等は断ってるのでしょ?それなのにそんな物騒なもの使って痛めつけようとして。許せないわね。」

 

「な、なんだてめぇ。」

 

男はまた発砲した。

 

幽香は傘を広げそれを防ぐ。

 

「な!なんだよそれ!」

 

傘は弾丸を受け止めたが傷一つ出来ていない。その事に驚きまた発砲したが、それも防がれる。

 

「畜生…ホントなんなんだよ!」

 

「さて。どうされたいかしら?」

 

「チッ…」

 

幽香は瞬く間に男に近寄り、腹を一発殴った。

 

男はその場に屈み込み、酷く咳込んだ。

 

「次はどうするかしら?」

 

「まて…わかった…もういい。」

 

それを聞いて、幽香は下がる

 

「天狗はもういい、このままこんなこと続けてたら命がいくつあっても…足りやしない」

 

そういうと男はどこかへいった。

 

「大丈夫だったかしら。」

 

「ああ、まぁな、」

 

「あの、皆さんありがとうございます。」

 

「怪我してるなら、早く治療しないと傷口酷くなるわ。歩けるかしら?」

 

「はい、歩くのは大丈夫です。」

 

「そう。それじゃ。ついてきなさい。」

 

幽香さんについていくと、いつも通り太陽の畑の小屋にたどり着いた。

 

「元々ここに来る予定だったから、丁度いいかな。」

 

祐奈と幽香がお茶の用意を始めている間に、俺が天狗の怪我の治療をしていた。

今思えばなぜ俺が治療をしているのか…

 

「…えっと…あの…」

 

「すまん…我慢してくれ」

 

背中の傷口の治療をしているから、上半身の服を脱いでいるわけだ

傷口の周りだけに塗り薬では足りないから当然傷口用のテープとそれが剥がれないように包帯も使う。包帯を、巻くときが一番際どい…

 

殆ど前は見えないとはいえ。彼女も女性。

当然恥ずかしいだろう…

 

「うう…」

 

声から察するにかなり涙ぐんでいる、

悪気はないのに…なんだろうか

この罪悪感は…

 

「もう、悠。泣かせちゃダメだよ」

 

「待ってくれ!これは俺が悪いのか!?」

 

「そうです…この人は…悪く…ないんです…」

 

半泣き状態で言われてもなんのフォローにもなってない…

 

「よし、これでいいだろ…頼むから許してくれ…」

 

天狗は服を着て、深々と礼をしてくる

 

「すん…ありがとう…ございました…」

 

既に目から涙が見える…

泣いている。明らかに泣いている。

 

「もう、泣かせちゃだめだって言ったのに」

 

「なんで俺のせいなんだ…」

 

「ふふっ、なかなか面白いわね。」

 

幽香と祐奈は俺をからかって楽しんでいた。

 

天狗が落ち着いた頃にお茶会を始めた。女性同士のお茶会だからな

俺はいつもみたいに外のベンチで待っていた

 

陽が当たって暖かいものだからつい眠たくなってしまう。うとうとしていたとき隣から声が聞こえてきた。

 

「あの。隣良かったですか?」

 

先程の天狗だった。

 

「あぁ。いいけど、お茶はいいのか?」

 

「えっと…また戻りますけど、ちょっと…謝りたくて…」

 

多分さっきのことだろう、

 

「まぁ…あんな状態じゃ仕方ないからな。謝る必要はないと思うぞ」

 

「助けてもらった恩があるのにあんな風になってしまって申し訳なくて…」

 

「いや、普通に誰だってなると思うぞ…恥ずかしいんだもんな…」

 

「ほんとに…ごめんなさい…」

 

「そんな謝らんでくれ…」

 

ここまで謝られると逆に困った。

 

なんとかして話題を変えないとな。

 

「そういえば、名前はなんていうんだ?」

 

「えっ…名前…ですか?」

 

「そう名前だ。あるんだろ?」

 

「その…私、名前という名前がなくて…」

 

「それなら、いつもなんて呼ばれてるんだ?」

 

「郵便天狗とか、郵便屋とか、」

 

「郵便?」

 

「そうです、これでも運び屋やってまして、手紙とか軽い荷物の運び屋なんです。」

 

「それで郵便なのか。」

 

「はい…」

 

名前がないなんて…なんて可哀想に…

 

「流石に郵便屋なんて呼べないしな…」

 

「私は気にしてないです」

 

「でもそれじゃ俺はなんか嫌だな」

 

「そう言われましても…」

 

名前…名前か。

 

「それじゃあ、わかった。」

 

「なにがですか」

 

「俺は君のことを楓って呼ぶことにするよ。」

 

「楓…ですか。」

 

「嫌か?嫌なら他にするが」

 

「嫌じゃないです。名前ですね。」

 

「あぁ、名前だ。」

 

「また、一つ恩が出来てしまいました…」

 

「いやいいよ、気にするな」

 

「あの。私普段は人里にいるので、もし良かったら来てください。」

 

「里にいるのか?」

 

「そうです。とは言っても手紙とか包とかは自分で運ぶ人もいるのでたまにしか仕事してないですけど。」

 

「そうなんだな、」

 

「それでは、私は戻りますね。」

 

「ああ、」

 

天狗は小屋に入って、またお茶会を楽しんでいた。

 

俺もすぐ眠たくなって寝ていた。

 

夕方頃声をかけられて起きた。

 

「ごめんね、お待たせ。」

 

「ああ、終わったか。」

 

「うん。」

 

「それじゃ。帰ろうか。」

 

「里まで一緒に行きます。」

 

幽香に挨拶をして太陽の畑を出る、

何事もなく里に着いたが…

どうも騒がしく様子がおかしい。

 

少し歩くといきなり黒い何かが楓を目掛けて飛んできた。

 

「危ない!…ひゃっ!」

 

楓を庇って祐奈がそれを受けてしまった、

 

「祐奈さん!大丈夫ですか!」

 

ぶつかった衝撃などは無く、すぐしゃがみこんでぐったりしているようだった、

 

「祐奈?大丈夫か?」

 

「うん…痛くはなかった…けど力が入らないの…」

 

「立てるか?」

 

「ごめん…足が動かない…」

 

俺は祐奈をおぶって家に向かう。

 

楓に前を歩いてもらって。

俺は後ろを気をつけながら進む。

 

「あれは?」

 

楓が何か見つけたようだ。

 

それは二体の妖怪。

掴み合ってはお互いを殴り合い。

たまに弾幕のようなものを飛ばす。

 

片方のそれはまさに先程飛んできて祐奈が受けた黒い何かだった。

 

「あいつらが…なぜ里で暴れてるんだ?」

 

「わかりませんが…早く屋内に行かないと私達まで受けてしまいます。」

 

「そうだな。」

 

急いで家に向かう、

 

そう遠くないうちに家に着いてなんとかなった。

 

「一体…何だったんでしょうか」

 

「わからないが…今は祐奈のことが心配だ。」

 

ベットに寝かせて様子を伺う。

 

「だめ…力が入らない…」

 

「無理をするな。とりあえず安静にするんだ。」

 

「うん…」

 

気がつくと外は静かになっていた、

どちらが片方が倒れたか、両方が共倒れか。

 

どちらでもいいが、俺は永遠亭に向かった。

 

「あら、珍しいじゃない一人で来るなんて」

 

「輝夜さん、永琳はどこに居る?」

 

「永琳ならさっき里に向かったわよ?」

 

「そうか…行き違えたな…ありがとう」

 

「そんなに急いでどうしたのよ」

 

「文字通り緊急事態ってことだな。」

 

そういうと俺は走って、

少し時間がかかったが里に戻ってきた

 

永琳には運良くすぐ会えた

 

「あら、そんなに息を荒げてどうしたのかしら?」

 

「あんたを、探してた…はぁはぁ…祐奈が…祐奈が…」

 

「落ち着きなさい、すぐ行くわ」

 

永琳が家につくとすぐ祐奈のもとに行く。

 

「こんにちは、どうしたのかしら?」

 

「あの…体に力が入らなくて…」

 

「何かあった?体をぶつけたとか頭をぶつけたとか。」

 

「先程、妖怪が里で争ってまして…」

 

「知ってるわそれを聞いて怪我人がいないか確かめに来たのもの。」

 

「それで、妖怪の弾幕のような物が当たってそれからこの様子で。」

 

「つまり巻き込まれたのね。」

 

「はい…祐奈さんは私を庇って…」

 

「人間なんだから、天狗を庇うなんて無茶ね、」

 

「なんとお詫びすればいいか…」

 

「あなたが詫びをいれたって治るわけじゃないわ。」

 

「それはわかってます。何かできる事は…」

 

「まぁ、今はまだ大人しくすることね、見た感じあなたも翼を怪我しているようだから。」

 

「そうですか…まぁ…そうですよね…」

 

永琳は思案顔を続けていたが

次第にそれが晴れて話し始めた。

 

「そうね。どういう症状かわからないし、私特性の万能薬を、もってきたほうが早いかしら。」

 

「そうしてもらえると助かる。」

 

「待ってなさいすぐ戻るわ。」

 

永琳は家を出て、永遠亭まで飛んでいった。

 

その少しあとに霊夢が家に来た。

 

「あんた達は大丈夫そうね。」

 

「大丈夫じゃないな。」

 

「どうかしたの?」

 

「祐奈が巻き込まれて、弾幕みたいなものを受けてから、体が思うように動かないみたいなんだ」

 

「あいつら被害者だしてたのね…」

 

「あの妖怪達はどうなったんですか?」

 

「迷惑行為はお断りなの、退治したわ。まぁ里で暴れるようなやつは当然よ、」

 

「そうなるんだな。」

 

「被害者も出ちゃってるわけだしね、」

 

「まぁ。永琳がさっき出ていったの見たからなんとかしてもらえるとは思うわ。」

 

「あぁ、」

 

「気をつけなさい。それじゃ私は行くわ」

 

そう言うと家から出ていった。

 

「祐奈…」

 

気がつくと祐奈は眠っていた。

 

「祐奈さん…私が気づかなかったばかりに…」

 

「仕方ないさ。急なことだったんだから」

 

少しすると永琳が戻ってきた、

 

「大丈夫かしら、寝てるのね、」

 

永琳が持ってきた飲み薬は

以前もお世話になった特殊な薬で。

飲んで数分経てば良くなるものだ。

 

「起きてから飲ませるよ」

 

「わかったわ。それじゃ、朗報待ってるわね」

 

永琳が帰ってからしばらくしたあと、祐奈は起きた。

 

「おはよう…」

 

「具合はどうだ?」

 

「うーん…体が重たいよ…」

 

「さっき永琳さんが持ってきた薬あるからこれ飲んでみるんだ。」

 

祐奈は薬を飲みまた横になる。

 

「どうだ…?」

 

「なんか、体がすっと軽くなった感じはする。」

 

「そうか、よかった。」

 

「でも、手足の力が入りにくいんだ…」

 

「なっ…まだだめなのか?」

 

「立ったり歩いたりはできるようになると思うからもう少しゆっくりさせて、」

 

「ああ、それはいいんだが…」

 

祐奈は少しするとまた眠ってしまった。

 

「私を庇ったから…私のせいです…」

 

「いいんだ。楓は悪くない。」

 

「…でも…」

 

「心配する気持ちはわかるが、俺等にはもうやれることはないんだ…」

 

「そう…ですね…」

 

しばらく二人は黙り込んでいた。

 

「あの、悠さん」

 

「なんだ?」

 

「この笛渡しますね、」

 

「これは」

 

「呼び笛、私にしかわからない音色が鳴るんです。何かあったらこれで私を呼んでください。」

 

「どうしてこれを?」

 

「恩返し…と言うには程遠いかもしれないですけど、何か手伝ってほしいことがあるときは、呼んでください。」

 

「そうか、ありがとう。」

 

 

「それから、度々楓には世話になっているんだ。」

 

「そうなんだね。」

 

「まぁ…恩返しでもありますから。」

 

「いつもありがとうな。」

 

「こうやって、ここに居られるのも、祐奈さんが助けてくれたおかげです、なので今度は私がどんなことでもいいから助けるんです。」

 

「優しいんですね。」

 

「私。山から追い出されてから、ずっと里に住んでいるので、人との関わりも大切に感じてるんです。」

 

「里を追い出された?」

 

「元は山で活動してたんですけど。いざこざに巻き込まれて、追い出されてしまったんです、」

 

「巻き込まれたのか…」

 

「私、全く関係なかったんですけどね…」

 

「そうなのか…よかったのか?」

 

「別に気にしてないですよ。元々嫌われがちでしたし、あんまり居心地よくなかったので、」

 

「そ、そうか。」

 

「それに、里の人たちのほうが優しいですし。今の仕事もありますからね。」

 

「そうだな。」

 

「だから、これでいいんです。」

 

「そっか。」

 

「では、私は戻りますので、またお願いしますね。」

 

「ありがとうな。」

 

「はい、また今度。」

 

 

 

幻想郷に生きる者。

 

俺は多々良と楓とそして雪樹も一緒に永遠亭に居た。

 

祐奈が目を覚ましてから何週か経つだろう

 

定期的に会いに行っており、今がその時だ。

 

「祐奈、来たよ。」

 

「ありがとう。また来てくれたんだね。」

 

「調子はどうだ?」

 

「うん。なんか前よりずっと良くなってる気がするんだ。」

 

「そうなのか?」

 

「うん。さっき、輝夜と外を散歩してたよ」

 

「そうか…本当に戻ってるんだな」

 

「もう。帰れるよ。」

 

「ああ、帰ろう。」

 

永琳が荷物を持ってきた。

 

「ほら、これ家から持ってきた祐奈の荷物よ。ちゃんとこれも持って帰ってよ?」

 

「もちろんだよ。立つ鳥跡を濁さずって言うからね。」

 

「それじゃ、また何かあれば世話になるよ」

 

「次に会うときはまた元気な調子で来なさいよ」

 

「そうですね。それでは、」

 

永遠亭を後にして竹林を進んでいると妹紅が話しかけてきた、

 

「おい、治ったのか」

 

「うん。もう歩けるし元気だよ」

 

「そうか。良かったな」

 

妹紅が珍しく心配してくれているようだ。

 

「ありがとうな」

 

「もう見舞いはいらないな。」

 

「そう…だね今までありがとう」

 

「たまに家に来るといい」

 

「そうしたいとこだが、人里は好きじゃないからな。」

 

「そうか。」

 

「それじゃ、またな。」

 

妹紅は竹林の奥に行ってしまった、

 

「妹紅もよく来てたんだな、」

 

「うん、ずっと一人で寝てるだけじゃつまらないだろって、」

 

「そうだったんだな。」

 

「でもあんまり話してくれないんだよ。安心感はあったけど。」

 

「そうか。」

 

竹林を抜けて平原に出る。

 

遠く上空から何か飛んでいる。

次第に近づくとよくわかる。

 

妖精達だ。

 

三月精と大妖精とチルノ、

そこにミスティアとリグルもいる。

 

しかし

こちらに来る様子はないようだ。

 

「相変わらず楽しそうだね。」

 

「あいつらはいつも、あんな調子だからな、」

 

 

「あら、もういいのかしら?」

 

ふと聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あっ、幽香。うん、もう大丈夫だよ。」

 

「丁度、見舞いに行くところだったのだけど、その必要はなさそうね。」

 

「わざわざ済まないな。」

 

「友人が病に伏せていたら、誰だって心配になるでしょ?当然のことだと思うわ。」

 

「ありがとう。また今度畑まで行くね」

 

「ええ、いつでもいらっしゃい、」

 

人里に着くといろんな人が声をかけてくる。

 

そう祐奈を心配に思ってくれていたのだ、

稗田さんに本居さん、

彼女の知り合いから市場の人まで

 

本当に彼女は帰ってきた。

そう思うと急に肩の荷が降りた感じがした

 

家について。

小傘が雪樹を降ろして寝かせる

 

椅子で一息つく。

 

「戻ってこれたんだね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「良かったですね。あの頃のことが嘘のような感じがします。」

 

「私は。もういいかな、?」

 

「えっ?」

 

「だって祐奈さん帰ってきたし。」

 

「あっ、そっかベビーシッター。だったもんね。」

 

「うん、でも母親が戻ってきたなら私はいてもあんまり意味ないし。」

 

「まぁ、戻ってきたって言っても、祐奈はまだ本調子じゃないんだ。まだしばらく居てくれると助かるんだが。」

 

「うーん。そういうことなら。」

 

「ごめんね、ありがとう。」

 

「わたしもお手伝いできることあればいつでも呼んでください」

 

「うん、楓さんもありがとうね、」

 

楓が帰ってから、雪を多々良に頼み、博麗神社まで挨拶に行くことにした。

 

道中、また立ちつくす異形を見かけた、

 

「ねぇ…あれって。」

 

「この前見た奴だなずっと空を見てどうしてるんだろうか。」

 

 

「この化物はね…元は人間だったのよ」

 

声がする方を向くと霊夢がいた。

 

「霊夢さん。いらしたんですね」

 

「こいつ、人間だったのか、」

 

「…あんたらと一緒にいた小傘の知り合い。いえ愛人だったのよ。」

 

「えっ…」

 

「なっ…!」

 

俺等は驚きを隠せなかった。

多々良の愛人だったと聞いたら何も言えなかった

 

「彼も妖怪の争いに巻き込まれてしまったのよ。でも彼はもっと酷かった。」

 

「何が…」

 

霊夢は淡々と話し続けた。

 

 

元は人間だったのよ、人里で小傘と一夜を過ごし彼は小傘に誓った。

その後離れの森で幸せに暮らしてたんだけど

 

貴方達も覚えていると思うけど大きな地震があったでしょ?実際は地底の仕業だったのよ、それで人里での建物の倒壊に巻き込まれたのよ、

 

それで故が分からなくなってから

小傘は森の中でひたすらに待ってたのよ。

当の彼はというと、記憶を亡くして一人の独身男性として暮らしてたみたいなの。

記憶喪失なんて私も知らなかったから詳しくはわからないけど

 

そのうち小傘を思い出したのか森でまた一緒に暮らしてたみたいよ。

 

それから数カ月経ったある日

小傘と彼が人里に来たとき

不運にも妖怪が怒りに暴走し始めた

それ自体は里を追い出された魔法使いの仕業なのだけど、暴走した妖怪たちはひどく暴れたわ

魔法を使うもの弾幕を撒き散らすもの暴力を振るうもの

沢山いたわ、私も押さえ込むのには手間がかかる異変だと覚えてるわ。

 

 

それで…それに巻き込まれて魔法を幾つも受けてしまったの

自分に向かったものも小傘を庇うようにして飛んできたものすべてね

 

それから直ぐ見るに耐えないような姿になって、自分の姿に恐怖を覚えそれが暴走した妖怪達への怒りに変わって彼自体も暴走してしまった。

 

私は彼だけは殺さず札で押さえ込んだ。

彼の怒りが収まり札を外すと

小傘の前で座り込む姿勢を取って

二人とも涙を流してたわ…

 

お互いに何を思ったのか知らないけど

殺してくれと願う彼とそれを拒む小傘

二人から散々言われたわ。

結果的に他の力を借りて彼の意識だけを奪うことになった。

それで…ずっと空を眺めるようになってしまったのよ

 

 

「そんなことが…」

 

「彼女。小傘はそれからしばらくは塞ぎ込んでしまったわ。」

 

「そうなるのもわからなくはないな」

 

「驚かす妖怪のくせに人にばかり優しくして、ベビーシッターをやっているのも彼との関係があるみたいなのよ。」

 

「そうか…」

 

「彼女、相当辛いでしょうね、」

 

「…なんとかならないのか…?」

 

「なんとかなってたら今頃こんな話ししてないわ」

 

「だろうな…」

 

「多々良さん…可哀想だね…」

 

 

「その話、本当か?」

 

横から話しかけてきたのは化け狸、二ッ岩マミゾウだった、

 

「またあんた…今度は何かする気?」

 

「うーん。面倒そうじゃなぁ」

 

「その気はすでにあるみたいね、」

 

マミゾウはそれだけ言うとどこかに行ってしまった

 

「全くね…」

 

「霊夢さん。」

 

「あの、お世話になりました、」

 

「な、何よ唐突に?」

 

「あの、いつもお世話になってますし、私もやっともとに戻ったので、」

 

「いいのよ、」

 

「これからもよろしく頼む」

 

「もちろんよ、あとあんた達、」

 

「なんですか?」

 

「小傘、喜んでたわ。」

 

「小傘が?」

 

「ええ、まるで家族みたいだって、笑顔で話しに来てたことがあるのよ。」

 

「そうだったんですね、」

 

「小傘があんな笑顔になるのは久しぶりに見たからね、本当に嬉しかったんだと思うわ、だから、彼女を大切にしなさいよ。」

 

「あぁ、わかった。」

 

「それじゃ私は散歩の途中だから。」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「また何かあったら呼んで頂戴。」

 

霊夢と別れてから。里に戻った。

 

「二人ともおかえり。」

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい。」

 

家に帰ると何故か楓もいた、

 

「あれ。楓?どうしたんだ?」

 

「悠さん宛の手紙があったので。届けに来たんです。」

 

「なるほどな」

 

「誰からでした?」

 

「それが差出人の名前がないんです。」

 

「そうなんですね、誰だろう?」

 

「とりあえずこれでひと仕事終えましたしもう少しゆっくりさせてもらいますね」

 

「ああ、構わないよ」

 

楓からもらった封筒を眺めていると

微かに葉っぱの匂いがした。

 

「これって…」

 

「どうかしたの」

 

「いや、何でもない。」

 

「そう。」

 

「楓、多々良、祐奈を頼むな、ちょっと出てくる。」

 

「え?うん。」

 

「お、お気をつけて。」

 

「手紙、の事かな。行ってらっしゃい。」

 

家を出て封筒の口を開ける

中身は空っぽだが、これが何を意味しているのかはなんとなくわかった気がした。

 

里を出て草原に出る。

 

しばらく歩くと、先の異形がいた。

その手前で止まると。

 

後ろから何かが飛んできた気がして、

護身用の木刀を構えながら振り向いた。

 

「おや、そんな物騒な。」

 

「なんだ、さっきの狸か。」

 

そこにいたのは、二ッ岩マミゾウ。

そしてその連れの妖怪達だ

 

「しかしお前だけ来ても困るのじゃが」

 

「そういうことじゃないってのは知ってる。ただ、お前がこいつに何かしてそれに巻き込まれるかもしれないと思って俺だけ来たんだ。」

 

「ふん。下手のことはしやせんのにな。」

 

「で、この化物をどうするんだ。」

 

「元に戻す。それ以外あると思うか?」

 

「だろうと思った。」

 

「さすれば、あの傘も喜ぶじゃろう?」

 

「まぁ、そうだろうな、なぜそれをする気になった?」

 

「ただの暇つぶし、と言えば満足するかの?」

 

「あんたが謎深き妖怪だってのはなんとなくわかったよ。」

 

「んー。聞き分けのない人間じゃな。」

 

「本当はなんの目的だ?」

 

「先の通り暇つぶしでもある。ただ、本意は彼が戻ってこなければ困るのじゃ、」

 

「どういうことだ?」

 

「度々あの傘が人間を誑かすのでな。あの傘が人の心を縛り付けおる。」

 

「どういうことだ?」

 

「あやつはベビーシッターやっとるやろ?自然と人間が傘に心惹かれ寄ってな、里の人間共の繁栄に支障が出てきておってな。」

 

「んー…そういうことか。」

 

「まぁ、こうなっては霊夢は知れとるが、賢者もいつ手を出すかわからぬ。」

 

「予防線張ってお前が事を収めよってことかなるほどな。」

 

「そういうことじゃ、それで小奴らの力を借りて彼を元に戻す。」

 

「人の姿にか?記憶はどうなる?」

 

「そうじゃな、多少遡るじゃろう。その辺はお願いしてある。なにせ幻想郷の妖怪と他界の妖怪達だからの。うまく行くに決まってある。」

 

「よっぽどの自信だな」

 

「過去にも一度やっておるし、成功しておる、安心せい、」

 

「ここにいると邪魔だな、」

 

「では、始めようとするかの。」

 

五体の妖怪が順番に魔法のようなものを使う。そうしているうちに異形の様子が変わった。

 

ずっと上を向いていたのが、急に下を向き始め、頭を抱える。小さく唸る声は次第に大きくなっていった。

その後、信じられない光景が続いた。

 

少しずつ異形の身体が白く光だし唸り声は名前を呼ぶ声と変わっている。

その声は確かに多々良を呼んでいた、

 

巨体の身体は人のそれに近くなりそして、次第に小さくなる。

 

まさに人間の姿だった。

 

「…ほんとに人に…」

 

「そこでやめじゃ。」

 

化物だった男は屈み込んで酷く咳き込む。

 

「大丈夫…?ではなさそうじゃな、ほれ、水じゃそれで落ち着け」

 

男は水入りの瓶を受け取ると勢い良く飲み干した。

 

「いや…マミゾウ助かったよ。」

 

「お、儂を覚えておるか」

 

「ああ、小傘を誑かした悪ダヌキだな」

 

「命の恩人にその言い草は酷いものじゃ戻してやろうかね」

 

「悪かったよ。しっかり覚えているさ。」

 

当たり前のように話す二人。

その光景にしばらく言葉が出なかった。

 

「しかし…元の姿に戻れるなんてな…」

 

「傘が待っておろう。」

 

「そうだな。」

 

「あっ、多々良のとこまでは案内するよ」

 

「知っているなら頼もうかな」

 

人里に戻り家に帰る。

 

「あっ、悠、おかえり。」

「ただいま、えっと多々良…」

 

「どうしたの?そんな気まずそうにして。」

 

「えっとだな…」

 

俺は体をずらして横にそれる、

そうして見えた男に小傘は驚いてた

 

「えっ?えっ…えっ?」

 

「落ち着いて。またこの前みたいになってるぞ。」

 

「いや、だって…」

 

「あの時は済まなかったな。また帰ってきたよ。」

 

「もう…なんて言ったらいいかわかんない…」

 

次第に泣き始める小傘

男は少し困りながら慰めていた。

 

「ねぇ、悠もしかしてあの手紙って…?」

 

「まぁ、あの狸からだ、」

 

「そうなんだね。なにもされてない?大丈夫?」

 

「別に俺は何もされてないから大丈夫だぞ。」

 

「そっか、良かった。」

 

 

「多々良さん、」

 

「は、はい。」

 

「霊夢さんからお話を聞かせてもらってたのですが。もし、多々良さんがいいというのなら、自分達の生活に戻ってもいいとおもうんです。」

 

「祐奈大丈夫なのか?」

 

「ええ、楓さんもいますし、それに悠だって、いるでしょ?」

 

「そうだな。」

 

「いいんですか?」

 

「だって、せっかく帰ってきたんだよ。二人でいてもいいと思う、私のことは気にしないで。」

 

「気遣いありがとう御座います。」

 

「また何かあれば呼ぶかもしれないけど、その時はよろしく頼むよ。」

 

「はい、わかりました。」

 

「帰ろうか、小傘」

 

「うん。」

 

多々良と男は二人手を繋いで、里を出て森へと向かっていった。

霊夢さんが言っていた離れの森での暮らしをまた過ごすのだろう。

 

「行っちゃったね。」

 

「そうだな。」

 

「えっと、私戻りますね。」

 

「あぁ、手紙、ありがとな」

 

「は、はい。それではお幸せに」

 

慌てるように家を飛び出していった。

 

「何をあんなに急いでるのか。」

 

「ふふ、面白いね。」

 

そうして。少しの間だけ無言になっていた。

 

なんとなくだが落ち着いて来たのを感じたからだろうか。

 

「なんか、疲れちゃったね。」

 

「そうだな。」

 

なんだかんだあったがまだ昼間だった。

よく晴れた昼間、窓からの日差しのせいか家の中は若干暖かい。

その暖かさのせいで眠気が来ていた。

 

「たまには昼寝もいいかもな。」

 

「ふふ。そうだね。」

 

俺と祐奈は雪樹を挟むようにしてベットで横になった。

 

祐奈はすぐ眠ってしまったが

俺は少し起きていた、

 

「これが、幸せってやつかな。」

 

確かに目に映る、嫁と息子の寝姿を眺めていると、とても微笑ましく思えた。

 

次第に眠気が来て、俺も眠ってしまっていた。

 

 

……………………………………

 

どうでしたでしょうか。

幻想郷に生きる者のお話は。

 

えっ?ありきたりじゃないかって?

 

そうですね。そうかもしれません。

 

ですが、そのありきたりすら

あえて書き記し文章とすることが

大切なのです。

 

そうしてこのような作品ができるのですから

 

よくあるお話かもしれませんが

その作品にはその特徴や面白さがあるのです。どんな展開になるか、どんな登場人物がいるのか、読んでいて興味の湧くような作品こそ面白いと思うのです。

 

さて、今回はここまで。

 

また会えたら会いましょう。

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