物語館   作:むつさん

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どうも悠樹です。

いつだったかの話のその後のお話。

それではごゆっくり


館主と執事

食事を終えて自室に戻ると。

執事であるハルが居眠りをしていた。

 

「仕事中に居眠りは、感心しないわ」

 

しかし、そう言いながらも毛布を肩からかけておく。

 

「疲れてるなら言えばいいのに」

 

まだ15歳なのに、執事としてしっかりと働く、それこそメイド妖精なんか比べれないくらい。

 

それなのに根を上げる訳でもなく、

弱音すらも聞いたこともない。

ただ笑顔を絶やさず仕事をする。

 

元奴隷とは言えないくらい様変わりしている

 

今日も私の代わりに書類の整理をしてくれていた

 

「お願いはしてないのだけれど…」

 

ハルの手が止まった所から続きを始める。

 

黙々と書類を纏めて終わる頃に疲れた感じがした。

 

「いつもこれだけやってくれているのはありがたいわね。」

 

ハルの父親の一件からもう数カ月経つ。

それでもハルは紅魔館で執事として働いてくれている。

 

特に私の事になると誰よりも、咲夜よりも熱心に。

 

「いつもありがとう。」

 

そう言いながら、ベットに寝かせる。

 

しばらく本を読んでいたけど、眠たくなったので寝た。

 

 

朝起きるとハルが既に居なかった。

 

「起こしてくれてもいいのに。」

 

そう呟いた直後、誰かが部屋のドアをノックした。

 

「お嬢様。」

 

「ハルね、入って頂戴」

 

扉を開けるとハルがお茶を持ってきてくれた、

 

「ありがとう、二人分ってことは?」

 

「えっと、パチュリー様は籠もってまして、妹様は暁さんと…」

 

「そう。わかったわ。」

 

ハルと二人でお茶なんて、しばらくなかった気がする。

 

「羊羹、如何ですか?」

 

「美味しいわ、これは柑橘ね」

 

「はい、先日、母が私宛に送ってくれたそうです。母はこれが得意でよく食べてました。」

 

「手作りなのね。なかなか癖になる味、嫌いじゃないわ」

 

「そう言って頂けると幸いです」

 

「このお茶もそうなの?」

 

「いえ。これはいつもの紅茶にレモンの果汁を少し、」

 

「そう、良い味ね、悪くないわ」

 

「ありがとうございます」

 

そう、ハルも頑張っている

毎日私の為にいつも工夫をしてくれている。

 

 

「そうね、こちらこそ、ありがとう」

 

「ありがとう?ですか。」

 

「何か可笑しかったかしら?」

 

「あっ、いや、お礼を言われるのは初めてだった気がするので…」

 

「ふふっ、そうね、そうかもしれないわね」

 

「えっと。なんか嬉しいですね。」

 

「そう、よかったわ。」

 

ハルは食器を片付けに部屋を出た。

 

 

窓の外はもう明るくなっている。

散歩もしたいが…日が出ている間はあまり外に出たくはない。

 

暁と弾幕ごっこも飽きてきたし、

パチュリーは最近また籠もり気味だし。

 

考えに老けていると咲夜が来た

 

「お嬢様、おはようございます」

 

「ええ、おはよう」

 

「いまお茶を…」

 

「お茶はもう頂いたわ。」

 

「え?もう済まされたのですか?」

 

「ハルが用意してくれたから大丈夫よ」

 

「そうでしたか…彼は早いですね。」

 

「ハルのこと?」

 

「何も能力がないのに。あれだけ出来てしまうのは少し羨ましく思ってしまいます。」

 

「ハルは熱心だから。咲夜にとって当たり前のことかもしれないけど、紅魔館の仕事を熱心になってやっているからよ。」

 

「熱心に…ですか。」

 

「ええ、彼、私のことになると貴女よりも奮起しているわ。もちろん他の仕事でもしっかりしているみたいね」

 

「そうですね…」

 

「貴女も初心に返って見るのが一つ良い手かもしれないわよ?」

 

「はい、頑張る、ですね。」

 

「そう、頑張りなさい」

 

「はい、それでは失礼します。」

 

咲夜は部屋を出ていった。

 

今日は何をしようかしら。

霊夢のところに行くのも、日差しが強いからあまり行く気になれない。

 

かと言って本も読み過ぎると頭が痛くなるのが多々。さぁ…何をしようかしら…

 

「もう少し、寝るかな…」

 

ベットに入り直すと、そう時間も経たないうちに眠った。

 

 

目が覚めると。ハルが部屋にいた。

また居眠りしているようだ。

 

「今度は本を読みながら、ね。」

 

付箋をつけて本を閉じる。

体に手をかけたところでハルは起きた。

 

「お嬢様…すいません寝てました…」

 

「いいのよ。疲れてるのでしょ。」

 

「いえ、そんな。」

 

「私の部屋くらい、ゆっくりしていきなさい。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

ハルは軽くため息を吐いて本を手に取った、

 

本を読まれると私がまた手持ち無沙汰になってしまうかと思って。向かいに座った。

 

「ハル、」

 

「はい。」

 

「無理してないかしら?」

 

「無理は…しているつもりはありませんが…」

 

「でも、最近居眠りが多いわ、しっかり休んで頂戴。」

 

「えっと…はい…」

 

バツの悪い顔をする。

でも、言わなければハルはずっとこのままだっただろう。

 

「まだあなたは子供なの。甘えるくらいいいのよ?。」

 

「そんな…甘えるだなんて」

 

「ハル。あなたは奴隷じゃないの、私の執事なの。だから働くだけじゃだめなのよ」

 

「執事…ですもんね…」

 

「ハルはまだ実感がないのかもしれないけど、もしかして奴隷だった頃のことをまだ思ってるの?」

 

「そんなことは決して…」

 

「それなら、自分も大切にして頂戴。あなたは立派な人間なんだから。」

 

「えっと…はい…」

 

「咲夜だってしっかり切り替えをしてるわ、黙って里に行ったりするけど…それは彼女が毎日の疲れを取るために行っていること。あなたも我儘言ってもいいのよ。」

 

「私は…その…」

 

詰めすぎたせいか、ハルがあまり話せない状態になりつつある。涙も流している

泣かせてしまったのは、やり過ぎかしら

 

「少し言い過ぎたわ…ごめんなさい」

 

「私は…レミリアお嬢様が好きで…」

 

私のことが好きだとはっきり言われたのは初めてだけど、なんとなくは気づいていた。

 

「私の事が好きなのね。」

 

「でも…私は…僕は執事なんです、ですから。」

 

「ハル?」

 

「はい…」

 

「私も頑張ってるハルが好きよ」

 

「あの…」

 

「だからね、私に甘えてほしいのもあるから、たまには羽を伸ばしてほしいの」

 

「お嬢様…」

「そうね、泣いてもいいわ、おいで」

 

緊張の糸が切れたのかハルは涙を流しながら泣きついて来た。

 

「寂しかった…もうそればかりで…」

 

「いつも一緒に居たじゃない。」

 

「執事だから…駄目なんじゃないかって…ずっとそう思ってて…」

 

「駄目なんかじゃないわ、それだったら私は部屋になんか入れないもの。」

 

「レミリア様が好きで…でも伝えたら嫌われるんじゃないかって思えて、怖かったんです…」

 

「私はあなたの事を認めているわ、想いはしっかりと受け止めるつもりだったし、思い詰めずに、言ってくれればよかったのよ」

 

「なんだか…申し訳ないです…」

 

「いいのよ、ほら、暁だっていつもフランと楽しくしてるじゃない。」

 

「あの二人は…例外ですよ…」

 

「あっ…そう?」

 

「まぁ…そう思ってます…」

 

例外ってなによ…例外って…

ただのカップルみたいなものじゃない…

 

「でもね?貴方も私にくっついてくれてよかったのよ?」

 

「なんか、近づき難くて…」

 

「私はいつでも良かったのだけど」

 

「レミリア様…」

 

まるで幼児の様に抱き付いて

ずっと泣き続ける、

 

しばらくはそのままだったけど。

気がついたらハルは眠ってしまっていた

 

「ゆっくり休んでね」

 

ハルをベットに寝かせて部屋を出る。

 

「お嬢様」

 

「咲夜、何か用?」

 

「ハルの事なんですが…」

 

「彼が何か?」

 

「私から提案するのは…あまり良くないのかもしれませんか…彼は執事でなくレミリア様の…」

 

「咲夜?」

 

「はい。」

 

「余計な事は言わなくてよろしい。それは私が決めることよ。」

 

「失礼致しました。」

 

「彼はまだ執事としても私の相手としても何処をとっても未熟、だから、まだその時じゃないのよ、今はまだ執事として居ればいいのよ」

 

「かしこまりました、それで私はこれで…失礼します」

 

外に出て、庭先に建つ小さな日避けに行き、

椅子に座る。

たまにここに来ては館を眺めてる。

 

すると、暁が近くに来ていた

一人で散歩してるみたい、

 

「暁、ちょっとこっちに来なさい」

 

「はい、お嬢様。」

 

向かいの椅子に暁が座る。

いつ見ても清楚で立派な体つきをしてる。

 

「執事ってどんな気分?」

 

「どんな気分?とは?」

 

「貴方の場合、フランが主人な訳だけど、普段館の仕事をするときはどんな気持ちなのかしら?」

 

「そうですね、それはそれ、これはこれ。ですよ」

 

メリハリ、ということかしらね

 

「そう。仕事もこなして、フランの相手もしっかりしてってことかしら」

 

「まぁそういうことです」

 

「そう、」

 

仕事、ね。

やっぱり、ハルには重荷なのかもしれない

 

「ハルのことを心配されてるのですか?」

 

「そうよ。彼はまだ15だから、内容についていけてないところがあるかと思ってるの」

 

「ハルはしっかりしてますよ。ただ自己犠牲心が強いかもしれないですね。」

 

「やっぱり、無理してるのかしらね」

 

「ハル自身その感覚はないと思いますよ」

 

「そうね、無理をしているつもりはないと言ってたわ」

 

「ハルがついていけてないというより、ハルの体がまだそれ相応ではないかと。」

 

「そういうことね」

 

15とはいえ執事という仕事をさせるのはまだ酷なのかしら。

それでも彼には頑張ってもらうしかないのだろうけど…

 

「そうですね…数日に一度、まる一日休ませてあげたらいいんじゃないですか、」

 

「なるほどね、それも悪くないわ」

 

「私の場合は仕事していても、常にフラン様が隣りに居ますから、そんなに疲れてる感じはしないですが、彼の場合、淡々と仕事をこなしているだけですからね、」

 

「あなたの場合はフランといるだけで仕事が成されているのと変わりないじゃない」

 

「ごもっともですよ、咲夜さんとフラン様で決めたことですけど、私はそれでも充分満足してます」

 

「休ませてあげると言っても。ただ漠然と過ごされても困るのよね」

 

「そこは彼の思うようにしてもらうしかありません、お休みというのはそういうものです」

 

「そうよね…何か彼が喜ぶようなことがあるといいのだけど」

 

「まぁ、詰めた話、彼がここに残るか、里に行って親子として生きるかですから。それを決めるのはレミリア様ですよ」

 

「いきなりプレッシャー掛けるのやめなさいよ、」

 

プレッシャー…そういうこと?

 

「その顔は何かに気づいたようですね」

 

「なんとなくね、」

 

「彼を心配されるのなら、彼にどうすればいいのか考えるのが今の段階ですよ」

 

「貴方、ほんと口が減らないわね」

 

「そういう性格なので」

 

「まぁいいわ、要はハルの癒やしになるような事を探してみればいいんでしょ」

 

「ご名答です。」

 

「わかったわ。ありがとう、また何かあったら呼ぶわ」

 

「珍しくお礼を言うんですね、」

 

「お礼くらい普段から言うわ」

 

「まぁ、そうですよね、それでは。」

 

相変わらず口の減らない執事ね…

 

にしても…癒やしね…

年頃の男の子の癒やしってなにかしら…

 

部屋に戻って

考えに更けながら、ハルの隣で眠った…

 

目が覚めるとハルはまだ寝ていた。

机の上の本を片付けていると。

ハルも目を覚ました。

 

「おはよう。ハル」

 

「おはようございます、お嬢様」

 

「ハル」

 

「はい、何でしょう、」

 

「今日一日、仕事を休みなさい」

 

「お休み…?ですか。いいのですか?」

 

「私がいいと言うんだから。いいのよ、」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「それじゃ、私はお茶をしてくるから。まぁ、ゆっくりして頂戴。」

 

「あの、レミリア様」

 

「何かしら?」

 

「館の外には行ってもいいのですか?」

 

「構わないけどね、妖怪やイタズラする妖精がいるから。その時は声をかけて頂戴ね。」

 

「はい。ありがとうございます」

 

部屋を出てフランの部屋に向かっていた。

部屋の前につくと…

明らかに甘い雰囲気が漂っている感じがして、なんだか入りづらかったから

結局自分の部屋に戻ることにした。

 

「咲夜が来るかな、その時お茶を頼みましょ…」

 

しばらくはあの部屋には入れそうにない、というよりも入ってはいけない感じがする。

 

部屋に戻るとハルはまた寝ていた。

 

「ゆっくりして頂戴ね」

 

声をかけながら撫でる、

こんなに手をかけるのはフラン以来かもしれない

 

まぁ、今は暁に任せきりだけど、

そんなことを考えていると咲夜が部屋に居た

 

「お茶をお持ちしました」

 

「ご苦労様、下がって頂戴」

 

「失礼します」

 

一人でお茶を飲むのもかなり久しぶりかしら

あっ、いや、そうでもないわね

 

「館の外…か」

 

ハルが行きたい場所

人里…かしらね。

 

やっぱり母親に会いたいと思うのは子として、本望でしょう。

彼が望むのなら人里でもどこでも連れて行かせてあげたいわ。

 

「執事の相手をする主人…」

 

まぁ、それもそうよね、

主人と執事なのだから。

まぁ…執事がまだ青年以下ってのも…

少しおかしな話かもしれないけど

 

「それはそれ、これはこれ、ね」

 

お茶を飲み終えた頃、丁度ハルが起きた

 

「レミリア様…おはようございます」

 

「おはよう、ぐっすりだったわね。」

 

「こんなに、熟睡したのは…初めてかもしれません…」

 

「そう、よかったわ」

 

「あの。お茶用意してきます」

 

「今済ませたとこなのよ。済まないわね」

 

「そうなんですね。」

 

「それと、今日は休んでいいのよ?」

 

「毎日のことなのと、私もお茶を飲みたかったので…」

 

「まぁ、そうね、」

 

「ですが…もう済ませてるなら。仕方ないです」

 

「あなたの分だけでも用意すればいいじゃない。」

 

「大丈夫です。」

 

「そう。」

 

「それと。一つお願いがあります。」

 

「何かしら?」

 

「あの。博麗神社に行ってみたいです。」

 

博麗神社?

人里じゃないのね。

わざわざ博麗神社に何の用があるのかしら?

 

「ええ、構わないけど。博麗神社なのね?」

 

「はい。一度行ってみたくて」

 

まぁ。彼からすればどこも未知の世界だから、わからなくはないけど、

まぁ、ついて行ってあげる事にしましょう

 

「いいわ。今から行くの?」

 

「えっと、軽く身支度だけ。」

 

「ええ、また声かけて頂戴」

 

しばらく経ったあとハルが戻ってきた。

 

「行きましょうか」

 

「はい。」

 

館のエントランスについた頃、咲夜が待っていた。

 

「今日はどちらまで?」

 

「博麗神社よ。」

 

「日傘を指しますからどうぞ」

 

「日傘は自分で指すわ。咲夜は館の仕事に専念して頂戴。」

 

「か、かしこまりました…」

 

日傘を自分で持つなんてもう随分なかったわ。いつも咲夜が持ってくれていたから、片手が塞がるのは違和感があるわね。

 

正確にはハルと手を繋いでいるから両手塞がっているのだけど…

 

「博麗神社に用があるの?」

 

「えっと…一度行ってみたくて。」

 

「そう。」

 

特に何事もなく博麗神社までついた。

私は慣れているからいいけれど。

ハルには神社の前の長い階段状はきつかったかしら

 

「ここが…博麗神社…」

 

「そうよ。ほんといつ見ても質素よね」

 

「質素で悪かったわね。」

 

「あら、今の聞こえてたのね」

 

横を向くと霊夢がいた。

頂戴。今帰ってきたところみたい。

 

「あんたの趣味の悪い赤い屋敷よりマシでしょうが」

 

「赤の何が悪いのよ」

 

「正直、センスないわ」

 

そこまで言わなくてもいいじゃない

 

「センスないなんて失礼ね」

 

「あれで何がカリスマよ?大体あんたは」

 

「お二人とも喧嘩はよしてください」

 

ハルの一声で冷めた…

確かに少しカッとなっていたかもしれないわ…

 

「そういえば居たわね。この前言ってた執事ってこの子のこと?」

 

「そうよ、」

 

「ハルと言います。よろしくお願いします。 」

 

「霊夢でいいわ、よろしく」

 

「仕事熱心で、いつも助かってるわ。」

 

「あんた、いくつ?」

 

「15です。」

 

「レミリアあんたさ…」

 

「いろいろあったのよ。誰も無理矢理執事にしたわけじゃないわ、訳ありよ、」

 

「えっと…そういうことです」

 

「そ、そう…でもなんか…見覚えあるのよね…」

 

「私ですか?」

 

「えーと…フリーデの…?」

 

「あら、よくわかったわね、」

 

「あの。奴隷扱いされてた…」

 

「はい…」

 

「やっぱりあんた…」

 

「話してなかったかもしれないけど。フリーデの大馬鹿者は死んだわ、彼は追い出されたって聞いたから、うちに向かい入れたの、それだけよ」

 

「そう…って死んだってことは館は?まさか誰もいなくて放置なわけ?」

 

「…そういえば。全く考えてなかったわ。」

 

「あんたしっかりしなさいよ。死んだってこと館の使用人達は知らないわけでしょ?」

 

「そう…ね。」

 

「あいつが死んだのいつ頃?妖怪とか住み着いてなければいいけど…」

 

「四、五ヶ月前くらい?だったかしら」

 

「半年近く前じゃない」

 

「今から見に行きます。」

 

「ハル?よかったの?」

 

「はい。」

 

博麗神社をあとにして。

紅魔館と人里の丁度間くらいの森。

そこにハルの住んでいた館があるはず

以前行ったことがあるから薄っすらと覚えている

 

「ここです、」

 

「随分と綺麗ね」

 

しっかりと手入れされた庭先

窓の光の反射が少し眩しいわ…

 

館の扉をノックして。少し待ってたら、

扉が開いて、使用人達がまだいた

 

「あなた様は…確か…」

 

「紅魔館のレミリア・スカーレットよ。」

 

「ようこそおいでくださいました、ですが…生憎旦那様はご不在でして…」

 

「知っているわ。相変わらず、きれいな館ね」

 

「ありがとうございます。」

 

「館のものは?貴女だけ?」

 

「いえ、まだ数名います。立ち話ではいけませんので、客間までご案内しますね、」

 

エントランスも廊下も何処も綺麗に掃除されている。うちも負けてないけど。ここには人間しか居ない。

そこが何故か羨ましく思ってしまうわ

 

「どうぞ。お掛けください、」

 

「ありがとう。館の使用人達を集めてちょうだい、できるだけ早めに」

 

「はい?えっと。かしこまりました」

 

数分と経たないうちに。十数人集まった

 

「これで全部?」

 

「はい。」

 

「わかったわ。貴方達にはいくつか知らせがあるの」

 

「知らせ…とは?」

 

「まず、ハルス=エル=フリーデ、この子は知っているわね。」

 

「まさか、エル…?」

 

「そうです…皆さん、お久しぶりです」

 

「心配していたよ…よかった。」

 

「彼は、フリーデ公に追い出されてからうちのものが行き倒れてたのを連れてきたのよ。それで彼の希望とまぁいろいろあってうちで執事をやってる。」

 

「そうだったのですね。安心しました」

 

「それと、フリーデ公は亡くなったわ」

 

「まさか…そんなことが」

 

「彼の横暴な行為が閻魔まで怒らせたらしくて、うちに来たときに、命を狩られたわ、」

 

「そう…ですか…」

 

「奥さんとその息子の一人は人里で別の男と暮らしてるって聞いてるわ」

 

「それでは…私達は!」

 

「そう、帰らぬ主人を待っていたことになるわ」

 

「そんな…」

 

「正直な話、気の毒としか言えないけれど。そういうことなの。だから、この館をどうしたいか。あなた達に聞きたい。ハルはうちの執事。奥さん達をここに呼び戻すでもよし、ここを捨てて各々の道を目指すもよし。もちろん私の館に来てもらってもいいわ。」

 

使用人達にはそれを選ぶ権利がある…

ハルは仕方なくうちの執事になったけど…

本当なら各々の道を選んでほしいところね…

 

「私…奥様がどこにいるか知っています…一度確認を取ってからでもよろしいでしょうか…?」

 

「ええ。まぁ、それは構わないけど。」

 

「私達は…主人が帰ってくるのを待っていたんです…だから奥様が戻って来てもらえるなら、今はそれが私達の本望です」

 

「そうね。今は使用人だものね。」

 

彼らは自分よりも今の立場を優先するのね…

 

「なら、私とハルが確認をしてくるから。あなた達はここで待っていて頂戴。」

 

「いいのですか?」

 

「ええ。元々、フリーデ公がうちの買収の話をし始めていたから、それを閻魔が止めたって言うのが筋。私も少なからず彼には怒りを覚えていたのもあるし。何よりハルのことがあるから。」

 

「ありがとうございます!」

 

腑に落ちないところもあるけれど…それはそれ、私達が真実を知っている唯一なのだから。しっかりと後始末はしないといけないわ。

 

それにしても。今日は色んなところに行くわ…次は人里だものね…

 

「この家だったはずなんですけど」

 

「はずって…美鈴、しっかりして頂戴。」

 

「多分…いやそうですよ」

 

「ハル?わかるの?」

 

「その…この柑橘の匂い…母の好物で…」

 

「なるほどね。」

 

カン、かしらね。戸をあけてもらわないことには、わからないけど…

 

「あの…どちら様ですか…?って…吸血鬼?」

 

「ええ、レミリア・スカーレットよ、貴女がフリーデ公の奥様だった方かしら?」

 

「はい…そうですが…私が何か…?」

 

「ええ、館のことについて話をお伺いに参りました。お時間は宜しくて?」

 

「構いませんが…どうぞ上がってください」

 

里の質素な家…椅子もなければ紅茶もないけど…我慢ね。

 

「フリーデ…彼はどうなったんですか」

 

「彼は亡くなったわ。悪事の数々が目付いたのか閻魔に裁かれて今頃地獄にいるでしょうね」

 

「そうなのですか…」

 

「それで、エルという子についてなのだけど。覚えているかしら?」

 

「はい…今でも思い出すと…何もしてあげられなかったのが…苦しく思ってしまいます…」

 

「あなたはエルに優しかったと聞くわ。」

 

「彼と違って私はエルを大切に想ってましたから…」

 

「何故フリーデ公はエルの事を奴隷のようにしたの?」

 

「今更ですが…エルの成り立ちを話ますね…」

 

「成り立ち…?」

 

「彼は…私の実の息子ではなく…私の友人の子供なのです…」

 

「つまり、養子ね。」

 

「はい…友人は二歳のエルを残して事故で亡くなり…そしてエルを養子として預かったのです。ですが…彼はそれを受け入れず…」

 

「器の小さい男ね…」

 

「世話の殆どを使用人達がやっていて、エルが物心ついた頃には…彼が命令をするようになり、教育という名目で虐待を繰り返していたのです…彼の横暴な態度もそこからエスカレートしていったんです」

 

「養子…ね」

 

フリーデ公は知っててこんなことをした…

それがまた許せなく思ってしまう。

 

「それで結果的に閻魔に裁かれた…と」

 

「そういうことになると思います」

 

「なるほどね。それでも、館はまだ残ってしまっているのよ。使用人達は主人の帰りを待っていたようでね。」

 

「そうですか」

 

「まぁ。男もいると思うから検討するといいわ。」

 

「いえ!館に戻ります!あの館は私の大切なものがいくつも残っています。それに今の旦那もいつか館に戻れるといいなって話してくれてました。だから帰ります、」

 

「そう。使用人達も喜ぶと思うわ。」

 

「はい。わざわざありがとうございました。」

 

「礼には及ばないわ、私はただ大馬鹿者の後始末をしただけよ。」

 

「近いうちに戻りますと。お伝えできますか?」

 

「もちろんよ。あとそれと」

 

「まだ何か?」

 

「この子は見覚えあるかしら?」

 

「…エル…エルなの?」

 

「お母さ…ん…?」

 

「やっぱりエル…生きてたのね!」

 

「僕は…レミリアさんに助けてもらえて…でも…僕は…」

 

今のハルはかなりショックを受けているでしょうね。養子、実の両親がいないこと。そして今の自分の立場、相当混乱してるはずだけど…

 

「ハル。」

 

「どうしたの?エル?」

 

「多分、今の彼はかなり混乱してるわ。唐突に自分の過去を話されたのだもの、わけがわからなくなってもおかしくないわ。」

 

「ハル落ち着いて。」

 

「レミリア様…僕は?」

 

「今あなたの目の前にいるのがあなたの母親。あなたを本当に救ったのは彼女なのよ。」

 

「はい…そうです…ね」

 

「エル…ごめんなさい…何もしてやれなくて」

 

「お母さん…」

 

親子…か、ほんと微笑ましいわね…

 

「レミリアさん。本当にありがとうございます。」

 

「お礼を言われるようなことはしてないわ。」

 

「あの…それじゃ僕達はこれで…」

 

「エル…また来てね」

 

「はい。お母さん」

 

 

人里を後にして、またフリーデの館まで行かなければならない…

そろそろ歩くのも疲れてきたわ…

 

「それで…奥様はなんと…?」

 

「戻るって言ってたわ。新しい旦那も一緒に来るそうよ。」

 

「よかった…ありがとうございます」

 

「それと。ハル」

 

「はいレミリア様。」

 

「貴方、執事のままでいるか、それとも母親と暮らすか。どちらがいいかしら?」

 

「それは…」

 

「私は決めないわ。貴方が思うようにすればいい。」

 

「それなら…このように数日に一度…ここに帰って来るというのでは。だめでしょうか?」

 

「欲張りね、でもいいわ。そうすれば寂しくないものね。」

 

気がつけばもう夕方…

いつもはお茶や昼寝で過ごす時間が。今日は早く感じたわ…

 

「ハル。お疲れ様。」

 

「わざわざ我儘に付き合って頂いてしまって。申し訳ないです」

 

「いいのよ。執事の面倒を見るのも主人として、館主としての仕事だもの、」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

最近、ハルの様子が変わった気がするわ

なにか…活き活きしてるというか。

 

「ハル。」

 

「はい、レミリア様」

 

「お茶、お願いしようかしら。」

 

「はい、いまお持ちします。」

 

「今日は二人で、ね」

 

「パチュリー様はよろしいのですか?」

 

「また本ばかり読んでるもの研究の邪魔をするのは良くないわ。」

 

「そうですね、かしこまりました。」

 

ハルの笑顔を見ると、何故か

胸に熱いものを感じてしまう

 

「さぁ…何でしょうね…」

 

恋…とは違う気がするけれど…

私にとってハルが大切な存在であることには

変わりないわね。

 

 

フラン以外にこんな気持ちになったのは初めてかもしれないわ。




特に何もありません

また会えたら会いましょう

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