angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

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Chapter.1_1

 

 ――――――♪

 

 アコースティックギターの音色がする。

 探るように何度も、同じメロディーを繰り返している。

 まるで真っ暗闇でゆっくりと確かめながら、手探りで道を進んでいくように。

 

 

 机に突っ伏して寝ていた。

 気怠い身体をなんとか起こす。寝ぼけ眼をこすりながら見渡した。

 そこには、同じ形の机と椅子が等間隔に並べられていた。

 

「ここは、教室……」

 

 よく見慣れた光景、でありながら 座っている椅子や寝ていた机に見覚えはない。

 

 

 俺はいつの間に学校に来たんだ。というか、なんで学校にいるんだ……

 いつからかなんて覚えてはいないが、学校なんて何年も来ていない。

 

 この部屋の正面には中央に大きな机がひとつ。

 そしてその後ろには黒板がかけられていた。

 よくある光景。しかし、その作りも無機質でまるで特徴がない。

 

 いや、それよりどうなったんだ。

 あのあとは、ライブはどうなったんだ、楽器はどこに置いたんだ、あいつらはどこへ行ったんだ。

 なにより俺は殺

 

 ――――――♪

 

「……ギターか」

 

 眠りを覚ました音再び色が聴こえる。

 やさしく、けれど力強く、まるでなにかに訴えかけるような。

 

 立ち上がり、聞こえてくる音を頼りにその方向を定め、教室の扉を開けた。

 開けた先にはよくある長い廊下が続いていたが、またしても自分の記憶にはない風景だった。

 やはり、ここは過去に在籍していた学校ではないようだ。

 そもそも入学して以降まともに通った記憶はないので、全く自信はない。

 

「音は上からか」

 

 ギターの音色はこの階の教室から響いてきているようではない。俺は教室から出た。

 ここがどこなのか大いに気になる。

 しかし、そんな疑問は頭の隅に追いやられ、好奇心で占められていた。

 演奏しているのが誰なのかも気になるが、何よりあの音色をもっと近くで感じたかった。

 

 #

 

 上に向かう階段は簡単に見つかった。校舎の造りなんてものはどこも似通ったものらしく、不登校児であった頃のわずかな経験でも見つけることができた。

 俺はすぐに階段を駆け上がった。

 

「ハァ、ハァ」

 

 バカみたいにはしゃいで一段飛ばしで駆け上がったものの、すぐに肺から鉄のような味が広がる。

 肺活量には自信があったが、どうやらそうでもないらしい。

 普通の男子学生ならまだしも運動以前に全力で走ること自体久しぶりなのもあるが。

 

 音のする階を求めて駆け上がり続けると、屋上の扉の前まで来た。

 音色はこの向こうから聴こえてくる。この先に、あのギターの奏者がいる。

 はやる気持ちを抑え、息を整えてからゆっくりと扉を押し開いた。

 

 屋上は風が吹いていた。着ていた学ランが緩くはためく程度の強さで、ギターの刻む音を運んでいた。

 音のする方へ目を向けると、夕日と向かい合いながらギターを弾く少女がそこにいた。

 白いセーラー服のような服を着たアコースティックギターをかき鳴らす少女は、セミロングの赤い髪を風で揺らしながら、歌っていた。

 こちらには背を向けているので、何を歌っているのかはよく聞こえない。

 顔を拝むことができないが、美少女であることを祈ろう。なぜならそのほうが夢が広がる。

 というか少女でいいのだろうか?、一応格好と体格から判断したけど、女装をした男という可能性もなきにしもあらず。前に注目度を上げるためにメイド服きてすね毛剃って演奏してたバンドマンがいたし。

 

「……あほらしい」

 

 そんな可能性を考慮する自分が悲しい。

 少女はこちらの様子には気づいていないようで、依然として弾き語りを続けている。ならば好都合、その音色を存分に聞かせてもらおうじゃないか。俺は扉に背を預け座り込み、そっと目を伏せた。

 訴えかけてくる。ギターの音色は初めて聴いた時と変わらない印象だ。ただ、近づいたことで新しく感じるものもあった。探るように力強く、そしてその強さは何かを訴えかけるように胸の奥底を叩き鼓動を起こす。

 だけれど、なんとなく、その鼓動はとても寂しく思えた。

 

 ――――――♪

 

#

 

『まだfもまともに押さえられねーのかよ』

 ―――うるさいなぁ。押さえられるって

『ちょっと貸してみろって』

 ―――いいよ、できるにはできるんだよ

『ほう、じゃあやってみろ』

 ―――ええと、こうしてこうして……あ

『できてねーじゃん。いいから貸してみろ』

 ―――チッ

『何舌打ちしてんだよ。よくみてろ』

 ―――みてできてねーから苦労してんだよ

『ちなみにこういう押さえ方もある』

 ―――おい親指使っていいのかよ

『いいんだよ弾けりゃあ。でもちゃんと押さえられるようにもなれ』

 ―――へーい

『まったく。がんばれよ』

 ―――じゃあさ、この曲できるようになったらあれ教えてくれよ

『あれ?』

 ―――ループ

『なんだお前DJにも興味あんのか』

 ―――このまえクラブハウスでEDMやっててさ、結構面白かったんだよ。そっち本職だろ?

『本職じゃねえよ。まあ、もろもろ合わせてエレクトロを教えてやるよ』

 ―――まじかやった!

『ただし!課題をちゃんとこなすこと、ちゃんとギターも続けること』

 ―――わかってるよ

『ま、いつか俺を震えさせるくらい上手くなってみろよ』

 ―――みてろよクソ兄貴!

『ハハハハハ』

 

 #

 

 ――――――――――――♪

 

「んぁ」

 

 涎がたれそうになっていた、口元を拭う。いつの間に寝ていたようだ。

 夕日はもう落ちかけており、あたりは屋上に来た時ほど明るくはなかった。風は相変わらず吹いているが、不思議と寒くはない。

 そういえばギターの音がしない、もしかして少女は帰ってしまったか。

 慌てて少女がいた方向に顔を向けると、眼前に当の本人がいた

 

「うぉああ!!いでっ!」

 

 突然の光景にびっくりして後ずさろうとするが、扉に背を預けていたのを忘れていて頭をおもいっきり打ちつけた。痛い。

 

「大丈夫か?」

 

 ぶつけた後頭部をかかえていると少女が優しく問いかけてきた。小声で大丈夫と言いながら、視線を改めて彼女へ向ける。

 予想、というより期待していた通り少女は整った顔立ちをしていた。可愛いと言うより綺麗だ。その瞳はまっすぐとして凛々しい。きっと微笑んだらもっと綺麗なんだろうな。

 少女は訝しげに俺のことをじっと見つめていた。いかんジロジロ見すぎたか。すぐに少女から目線を外す。しかし少女はまだこちらを見続けた。

 なんだこれ恥ずかしいぞ、気でもあんのか俺に。そんな馬鹿な話があるわけもないので、素直に彼女でへ問いかけた。

 

「あの、なんでしょう?」

「いや、ここで出たいんだけど」

「ああ、すみません」

 

 俺が扉の前で寝ていたから、下に降りたくても降りられないだけだったようだ。慌てて立ち上がり、彼女が通れるように扉前からどいた。

 少女も立ち上がり、おいていたギターケースを担ぐ。

 

「変なNPCもいるんだね」

 

 NPC、なんだそれは。ノンプレイヤーか、それともノンプレイアブル。

 ああ、たしかアパートの近くにそんな会社の営業所があったっけな。

 どうでもいい思考へ至っているうちに、気づくと少女は出るために扉へ手をかけていた。

 

「あ、ちょっと!」

「なに?」

 

 手をノブにかけたまま少女がこちらへ向いた。その瞳がまっすぐとこちらを射ぬく。ほんと綺麗だな、じゃない。

 

「ギター、よかったよ」

「そう。ありがとう」

 

 クールで淡泊な返事だ。

 まあミュージシャンにその手の人は結構多いし、相手するのに慣れてるからいいけれど、だけど俺はそこで会話を切り辞めたくはなかった。

 なんとなく、いや違う。どうしようもなくこの少女ともっと会話をしたかった。

 だから俺は興味をもたれるように、感じたちことを口走る。

 

「なんつーか、心に打ち付けてくるものがあった」

「作りかけのものだから、だからろくにつながってもいなかったと思うけど」

 

 バッサリと切られる。作曲中だったのか。

 でも、適当なことをいってると思われたくなかったから俺は言葉を続けた。

 

「いやでもさ、とぎれとぎれのメロディーからでも伝わってくるものはあったよ?」

「へぇ?どんな?」

 

 

 

 お、少し食いついてきた。

 この手のタイプは音楽に自覚あるなし関係なくこだわりを持ってることが多いから、こういう話をすれば多少は釣れると思った。

 だが、ここで適当なことを言えば全てが台無しにもなる。

 俺は必死に選ぶべき言葉を考えながら、彼女の問いに答えた。

 

「あれ、バラードだよね?たぶん。だからなのかな、訴えてはいるんだけど、まるで寄り添っているみたいな感じで……」

 

 少女はこちらの言葉に、特に反応は示さない。ただこちらをじっと見つめている

 続けてもいいかの判断はつかないが、逆に自分の中の情動に抑えが効かなくなっていた。

 

「ロックだったら、たぶん、投げかけているというか、いや訴えている訳ではあるんだけど、さっきの違うっつーかなんつーか、問いかけてる?」

「それで?」

 

 反応はまたしても質問。

 ここだ。ここでコケたら終わってしまう。

 慎重に、自分の中で湧き上がった感情を言葉で表現した。

 

 

 

「イメージになってしまうけど、暗闇の道を歩いていて、なんにも見えなくて、先だけじゃなくて足元ですら確かじゃなくて、それでも、不安にならず必死に胸の奥を打ちつけて、力強い鼓動になって、進む勇気と安心を与えているっていうのかな」

「ふーん、詩的なんだね」

 

 少女からはようやく問いかけ以外の言葉が出てきたものの、俺の答えが良いのか悪いのかもわからない反応だった。

 もしかして、クールというより感情の起伏がうすいのか?

 

「あーでも、その鼓動がなんか寂しい感じはしたよ。一見不安にならないようにしてんだけどさ、なんつーか虚勢というか、歩いていたら結局人は一人なんだよって気づいてしまうような、寂しい印象があった」

 

 言うつもりはなかったが、クールな少女がどのような反応を見せるか、つい言ってしまった。  怒られるかもしれない。まあそれはそれで少女の感情が見られるかもしれないし、それはそれで相入れないということを知ることもできる。

 しかし、少女は憤慨してはいなかった。まるで不意をつかれたかの‎ような、呆気無い顔をしていた。

 確かにその表情はこれはこれで面白いが、予想したものとはだいぶ異なった。

 

「……オモシロい奴だね。本当に変なNPCだ」

 

 どうやら俺の言葉は悪くはない印象になったようだ。

 

「ところでさ、質問がいくつかあるんだけどいい?」

 

 ここにきてようやく当初に悩んでいた疑問やらなんやらを思い出した。

 彼女との会話も楽しみたいが、せっかく人に会えたのだから聞いておきたい。

 

「いいよ。答えられる範囲なら」

「ありがとう。ちょっとまってて」

 

 片手で額をつかむよう両側のこめめかみを指で抑える

 こうして考えてみると、質問はいくつでも出てくる。そこからなるべく個人的なことは外して、答えられそうなものをピックアップしてみる。

 

「まず一つめ、NPCってなに?」

 

 いきなり常識を問われるようことをいうと変人扱いされかねない。

 だから、少女が先程から口にしていた単語。言葉として存在はするが、世間一般で広く使われている訳ではない。俺のことを言っているようだったが心あたりはない

 

「一般生徒のことだよ。なんだったけな、たしかゆりはノン?なんちゃらとか言っていたな」

 

 少女はギターケースを担ぎ直しながら思い出すように答えた。

 やはりなにかしらの略語であり、nonから始まるようだ。

 だが、不確かな情報のためわからないことも増える。

 一般生徒とは、一般でない人間も居るのか……俺は一般なのか……

 じゃあ彼女はなんだ。

 

「なんで俺がそのNPCなんだ?」

「知らないよ。ゆりたちがそう呼んでたんだ」

 

 呼んでた?呼称をつけたやつがいるのか。そのゆりってやつか。

 覚えのない名前だ。打倒すれば、固有名詞としての渾名ではなく分類の総称か。

 何を持ってして俺は一般なのか。

 また、今の会話に誰かの名前が出てきた。おかげでこの少女以外にもここには人がいることがわかった。機会があればあとでそいつに聞いてみよう。

 

「じゃあ二つめの質問」

「うん」

「ここはどこなんだ?」

 

 一番の疑問である、常識的な内容をここで問うた。

 

「俺の在籍していた高校でもないし、なんかいつの間にか知らない学ランを着てるし、ここはどこなんだ?」

 

 目が覚めたら知らない場所で、身に覚えのない服を着させられている。なんらかの犯罪に巻き込まれている可能性がある。

 『どうして俺がここにいるのか』でも良かったのだが、それをこの少女が知っているとは思えないし、知っていたとしても上記の内容から彼女が”犯罪者側”だった場合に教えてくれるともわからない。

 だったらまずマクロに質問して、回答を得られたら再びミクロに質問をしてみよう

 

 だけど少女が口にしたのはは予想もしない答だった。

 いや、本当はわかっていたのかも知れない。

 

「どこって、学校だろ……ああ、世界のほうか。じゃあNPCじゃないんだな」

 

 意識しなかっただけ、無意識に拒んでいただけで。

 

「ここはね」

 

 なぜなら俺には覚えがあるのだから。

 焼けるような痛みと、鈍く光るあのナイフで、

 

「死後の世界だよ」

 

 刺されて、殺された記憶が。

 

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