angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

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Chapter.1_15

『AゲートからCゲート、依然天使との接触の恐れがあります』

 

 耳にかけたインカムから遊佐の抑揚のない独特な声が聞こえてくる。

 柱のかげからひょっこりと顔をのぞかせながら俺は応対した。

 

「他はNPCの出入りで混雑しているだろうからな。流石にきつい」

 

 目線の先ではNPC達が熱気を帯びた表情で歩いている。

 

『仕方在りません。やはりこちらから誘導しますので指示に従って下さい』

「そうだな、わかった」

 

 それしかないか。

 多少不便であっても仕方がないだろうこの状況は。

 俺は顔を引っ込めながら岩沢達の方向を向いた。

 

「うっし、おめーら脱出すっぞー、40秒で支度しな」

「もうできてるよ」

 

 

「関根さん、もうちょっと頭さげろ。みつかっちまう」

 

 前を行くオレンジ色の頭を押して下げる。

 みぎゃっとか変な声が聞こえたけど気にしない。

 女の子はそんな奇怪な声をださないはずだからそう信じてるから。

 

 先頭のひさ子が振り返り、手振りで次の方向を尋ねてきた。

 周りを警戒しながらインカムを繋げる。

 

「遊佐さん、次どっち?」

『2時方向の机まで移動して下さい』

 

 言われた方向を指さしてひさ子に教える。

 うなずいたひさ子は移動し、それに続いてアヒルの子供のように俺達もついていく。

 どっちかというと勇者様一行だった。

 

 ライブで活躍したスター様たちがこんなスネークしているのには理由がある。

 日向達の天使足止めが予定時刻よりもだいぶオーバーしてしまったからだ。

 当初予定していた正面からの脱出経路では天使と接触してしまう恐れが捨てきれなくなってしまったため却下となった。

 他のゲートに進もうにもライブの熱でフィーバーしちゃってるNPCどもの群れを突破しなければならない。

 そんなところに熱源である彼女たちを投下してみろ。

 地獄絵図しか浮かばない。

 

 審議の結果、上階からの指示に従って人目につかないルートを通りながら脱出する案が採用された。

 おかげで面倒な事態は起きなかったが、代わりにかがみながらこそこそと食堂を抜けてくる羽目にあった。

 

 ちなみに今は飲食スペースを抜け、おばちゃんたちの戦場こと厨房内である。

 広いスペースのうえ食事のピークも過ぎているのでおばちゃんたちもそこそこの人数しか居なかった。

 

「さっきまで観客の視線を独占していた存在が、こうして逃げることになるとはね。有名になるのも大変だな」

『ファンに追われるとは、スター冥利に尽きるのではないでしょうか』

「俺は別に関係ないやん」

『マネージャーがタレントの為に苦労するは仕事のうちかと』

「……そうっすね」

 

 だんだんマネージャー扱いが浸透してきている。

 一応、本部からの連絡要員であってジャーマネではないんだが。

 暗黙の了解というより、外堀埋められているってかんじだ。

 実際の仕事内容はパシリだからぶっちゃけどっちでもないよねー不思議だね。

 

『机から見える青い扉から外に出ることが出来ます。そこから寮に向かってください』

「本部には戻んなくていいの?」

『橋付近に天使がいる可能性があります。近づかないほうがいいでしょう』

「りょーかい」

『では、お気をつけて』

 

 インカムを切って一行を進ませる。

 扉を抜けると辺りは真っ暗闇だった。

 

「うわー、よくみえねえ」

「裏ですから外灯も入らないですね。さっきまで強い光源の下にいましたから目が慣れないです」

 

 光もないし人の気配もしない。

 一応感覚的に寮の方向はわかるが障害が見えない状態で進むのは危うい。

 

「ちょっと進むのあぶないから一旦ここで休むか」

「さんせー。腰痛っくて……」

 

 ババア臭く腰をとんとんさせながら近くにあった瓶の箱に座る関根に習って女子たちは座り始めた。

 ライブ後すぐに移動だったためかみな疲れていたようだ。

 俺は関係なかったから元気だけど。

 

「あーつかれたあー」

「しおりんもうちょっと女の子らしくしようよ。一応男の人の前なんだからさ」

「一応かよ」

 

 悲しくなるぞおい。

 

「ライブであんだけはしゃぎまわってたらそりゃ疲れるだろうよ」

「へー、リンリン先輩ちゃんと見てたんだ」

「どこに行ってたと思ってんだよ……」

 

 ライブほっといて飯でも食ってたとか言うのか。

 あんな喧騒のなかで見ずにいる方が難しいっての。

 

「でも星川、観客席にいなかった気がするんだけど」

「あの群衆の中から俺を見つけようとしたんすかひさ子さん。愛を感じちゃうね」

「ばっバカ違ぇーよ!!いつもと違う変な視線を感じなかったんだよ!!」

「変な視線って何だよ」

「お前が胸みてくる時に発している視線だよ」

 

 まじかそんなんでてたか。

 気を付けたいけど自覚ないからどうやって発しないようにすればいいのか。

 やっぱ見ないことだろうか。無理だな。諦めよう

 

「上から見てたんだよ。さすがにライブ中にそんなとこ見ねーっての、変態じゃあるまい」

「お前変態だろ」

「仮に俺が変態だとしてもそれは変態紳士だ。でも変態じゃないから」

「意味がわかんねーよ」

 

 言ってる俺も意味がわかんなくなってきた。

 自己崩壊の凶兆かね。アイデンティティ失っちゃうかね。

 まあどうでもいいけど。

 

「俺はやるなら相手の前で堂々とするわ!あとセクハラに関してはNo Touch!がモットーなんで口だけですよ」

「リンリン先輩、セクハラに一家言もたれても……」

 

 うっわ関根に呆れられちゃったよ。

 アホの娘に蔑まされた目で見られるとマジでへこむな。やめてくれおねがい。

 

「バカな談義してないでリンゴも休みなよ」

「俺は別に疲れてないが」

「いいから座って。邪魔」

「へいへい」

 

 お言葉に甘えて扉の前に座っていた岩沢の横に座り込む。

 彼女の視線は空を向いていた。

 その視線をたどって同じように空を見上げてみるも、そこは真っ黒な世界が広がっているだけだった。

 

「星も見えねーのな」

「外灯とか夜間でも結構光が多いから。でもたまに見えるよ」

 

 星の明かりはないが不思議と空を見続けていた。

 月以外の光が存在しない夜空はすべてを飲み込んでしまいそうな気がして視線を外すことができなかった。

 

 見えない星のことを考えると、この世界のを造った存在がどういうものなのか考えさせられてしまう。

 

 仮に神という存在が本当にいるのだとして、そいつはどんなやつなのか。

 どうしても俺は宗教的観点から見てしまおうとする。

 別になにかしらの熱心な宗教家というわけではない。

 ただ、"神"という言葉を使っているせいなのか。

 まずはそこから考えてしまおうとする。

 

 もし、この世界の神が俺らが生きていた世界で信奉されていた存在だったとしよう。

 それがヤハウェなのか釈迦なのかは知らないが、仮にどれかだとする。

 だとすれば、この世界はその神を奉る宗教の価値観によって偏った構築をされているはずだ。

 例えば、食事等で何かしらの禁止事項があるとか。

 そんないかにもな制約や儀式等があってもおかしくはない。

 

 しかし、今のところそういうものは見当たらない。至って普通である。

 いや、むしろ見当たらなすぎる。

 

 そもそもなにが普通という基準が決まっていない。

 その宗教にとってはそれが普通だという考えのはずなのだから。

 ということは、俺が普通に感じるということは、俺にとっての宗教的には普通の世界なのだ。

 

 だけれど、そう考え直してもそういった行為や制約は思いつかない。

 むしろまるで儀式があまりにも浸透しすぎて慣習となってしまったような。

 無宗教国家とよばれた母国のように感じた。 

 

 ならば"神"という考え方は、間違っているのだろうか。

 

 そもそも神なんて偶像の崇拝だ。

 現実ではありえない存在。

 それを意図的に創ることで人が夢見てすがるためにある。

 それはまさしくアイドルに傾倒している奴らと変わらない。

 こうあって欲しいとひたすら望み続けるだけで近えづく事ができない絶対不可侵の存在。

 

 なら、俺らが今敵対している神も誰かしらが創り上げた偶像なのだろうか。

 本当は存在しないのかもしれない。

 居ないものに向かって刃向かい続けている。

 そんな愚かな行為なのではないだろうか。

 

「……バカバカしい」

 

 行き着いた結論を自ら一蹴した。

 もしそうならば、誰がこの世界を造ったんだ。

 どうして俺らが連れてこられたんだ。

 自ら望んだとでもいうのか。

 それこそありえない。

 だれが、死んだあとの世界なんて望むかよ。

 

 「リンゴ先輩どうしたんですか?」

 

 入江が顔を覗き込んでくる。

 空を見上げブツブツとつぶやいている姿が怪しくて心配してきたようだ。

 それをわらって誤魔化した。

 

「何でもないよ、大丈夫」

「本当にそうですか?」

「大丈夫だって。ただ、星が見えればここの位置とか季節がわかるかもと思ってね」

「ああ、そうかもしれませんね」

 

 あとその星座の並びが俺の知っているとおりなら、ギリシャ神話は無かったことにはなっていないからそれと敵対する神でではないとか。

 でも、これからはそういう観点で考えるのはやはり危険だろうか。

 さっきまでの思考を考慮しても、そこに固執して考えてしまうと間違った方向を見続けそうな予感もする。

 あくまで予感だけど。

 

「そろそろ目も慣れてきたから移動しよう」

「えー、もう少し」

「どうせこのまま寮に帰るんだから頑張れ」

「うー」

「さっさと立て」

 

 愚図る関根をひさ子が蹴り飛ばす。

 それを横目で見ながら、辺りを確認した。

 

 目がなれるまでは気づかなかったが、食堂裏の通路は結構荒れていた。

 普通に酒瓶とか転がっている。

 ちゃんと管理しろよと思う。

 NPCといえど、どうも人間臭いな。

 

「ほら行くぞ、足下気をつけろよ」

 

 俺が先を歩きながら安全を確認する。

 一応注意を呼びかけるが、総てを気づくことは出来ず関根とひさ子は転けた。

 それでもなんとか外灯のある道まで出る。

 

「やっと出れたな」

「さっさと帰ってシャワー浴びたい……」

 

 転けたが拍子にゴミ袋へダイブしたひさ子が死にそうな目をしている。

 あれクッションとか粗大ごみだったからそんなに汚れてないと思うけど。

 というかなんで食堂裏に粗大ごみあったんだろう。

 おかしいだろここの食堂。

 

「まあ早く帰りたいのは俺も同感だな」

「NPCとかに捕まる前にささっと帰りましょー」

 

 たしかにそういう可能性もある。気をつけなければならない。

 俺は辺りを確認する。

 等間隔に並ぶ外灯に照らされた道が広がっている。

 方向を再度注意しながら指示を出す。

 

「こっちの道だな、このまま行けば寮にたどり着け――――――

 

 だが、言葉を最後まで紡ぐことができなかった。

 

 なぜならば、先の外灯の下にあいつがいたからだ。

 


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