angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster 作:カリー屋すぱいしー
ガルデモのメンバーを送り届けた後、自分も寮へと戻る。
さすがに夜遅かったか、外へ出入り出来る戦線メンバーの部屋は寝ているようで通れなかった。
仕方がないので、握りこぶし大の石ころを靴下に入れて、モーニングスター的な要領で正面玄関のガラス扉に叩きつけた。
砂入れたらジャックナイフって呼ぶのは知っているけれど、石とか入れても同じ呼び方なのだろうか?
どうでもいい事を考えながら複数回叩きつける。
さすがに一発とはいかないが、何回か叩きつけることで鍵付近に穴を空けるることができた。
警報でもなるかなーと一応警戒していたが、いらぬ心配だったようでだれもこなかった。まあ警備会社とかこの世界に存在しないだろうしね。
壊した扉は直すことなんて出来るわけないので、放置する。
俺は足早に自分の部屋へと帰った。
●
「タダイマー」
小声で帰宅の挨拶をしながら、ゆっくりと扉を開ける。
未だに顔を知らない同居人は寝ているだろう。起こさないように慎重に入った。
しかし、真っ暗だと思っていた室内はなぜか明かりが灯っていた。
「え?」
そして、奥の机に座っていた少年が驚きこちらを振り向く。
眼があった。
「……」
「……」
互いに唖然としながら、沈黙する。
戸惑いが隠せない、というか初対面ですから。
不意打ち過ぎる展開にどうしようかと考え、相手より先に話しかけた。
「あー、あーっと。ご、ごめんねー、夜遅くまで出歩いちゃってさ。俺非行少年だから」
「別に僕は大丈夫だけど、あんまり遅くならないほうがいいよ?先生の目もあるし」
「わるいわるい、今度から気をつける。たぶん」
予想通りだ。
こいつは俺と初めて会ったことに戸惑ったのではなく、同居人が夜中に帰ってきたことに驚いたのだ。
「いやさー、色々あってねー。大変なんだよー」
「ふーん、まいいけどね」
「ごめんねー本当。えーと、」
やべえこいつの名前わかんねえ。
NPCは昔から俺がここにいたという認識をしているはずだ。
その俺が長年一緒にいるルームメイトの名前を知らないという矛盾が起きてしまう。
いや、矛盾ではなく単に俺がおかしな人の目で見られるのか。
しかし、NPCというくらいなのだから適当な名前だろう!
「ごめんね、山田くん」
「何言ってるの?僕はヨモヒロだよ」
「……ほーかほーか」
NPCだからどうせ無難な名前かと思ったらどういうことだよ!
ヨモヒロってなんだよ!どういう漢字かもわからねえよ!
「そこに書いてあるでしょ、忘れないでよね星川くん」
ヨモヒロ少年が指さした方向をみると、入り口近くの壁にネームプレートがあった。
そんなのあったのか。知らなかった。
「あー、
なにこのDQN名字
どこぞのやたら長い会話劇とめんどうな言葉遊びが多い某小説とかに出てきそうな名前だな。
しかも下の名前が次郎って普通過ぎるだろう。
「ごめんね、俺人の名前って憶えずらい質でさー」
「本当だよー、ハハハ」
面白そうに笑うヨモヒロ少年だが、俺はなんともいえない気分だったのでなんとか適当に笑顔を見繕った。
セカイッテヒロイナー
「俺、シャワー浴びるけど大丈夫?」
「大丈夫だよ、僕ももう少し勉強するし」
「わかった」
そう言ってそそくさと着替えを取り出す。
なるべくヨモヒロ少年に視線を向けないよう意識しながらバスルームへ籠もった。
「あー、びっくりした」
思わぬ邂逅だった。
しかし、予想していたよりも案外普通に済ますことが出来た事に驚いた。
自分の感覚とは裏腹に、俺はこの世界に慣れてきたという事なのかもしれない。
to be continued