angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

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Chapter.2_1

 みーんみんみんみーん。

 

 と言わんばかりにあっぱれと晴れた天気にも関わらず、そんな夏の風物詩どころかどの季節かも明確に判断つかない。

 相変わらず今は一体いつなのか、まったく謎な空をこの世界は今日もみせる。

 たぶん、桜は咲いてないけど陽炎もないし紅葉もしてないし雪も降ってないから春なんだろう。たぶん。

 

 蝉の鳴き声は聞こえないけれど、俺の耳にはもっと騒々しい音が響いていた。

 大人気ガールズバンド、ガルデモことGirlsDeadMonsterの練習風景だ。

 あの強烈だったライヴと変わらない熱をもった演奏。

 ギターのリフやドラムのロールやベースのタッピング……

 ってタッピング?

 

「せきねぇええええええ!」

「いやああああああああ」

 

 演奏していた曲中にあるはずのない音に驚き飛び起きると、教室の中では演奏が中断し関根がひさ子のアイアンクローを受けていた。

 

「……あいつ、ベースでやろうとしてたのかよ」

 

 また勝手なアドリヴを始めた関根が折檻を受けるというよくある風景に呆れながら、俺は再び元の位置へと寝転がった。

 

 

 オペレーション・トルネード以降、彼女たち陽動部隊に出番がやってくることは無かった。

 ゆりたちは何やら色々やっているみたいだが、とくにライブが必要となる作戦もないらしい。

 おかげで彼女達は練習三昧。

 俺は不本意ながらもパシリ業務が板についてきてしまっている。

 

「い、いだい、びざごぜんばい」

「てめえ何回目だあああ!?」

 

 何より悲しいのが、彼女たちが練習している間はまったく仕事がないことである。

 休憩の為に飲み物やらを買いに行くことはあるが、それも一日に多くて3回程度。

 その他の飯を除く時間、彼女たちは練習しっぱなしだから俺は基本的に待機のみ。

 小学生でも出来るおつかいだけが、今のところの主な業務内容なのだ。

 

 じゃあ何か別に仕事を見つけてこいよと思われるかもしれないが、それはもっともである。

 だがしかし、残念なことに一応本業は連絡要員であるためすぐに行動ができるように持ち場を離れてはならない、と戦線本部指令たるゆりにきつく厳命されているのだ。

 しかし、オペレーション以降インカムに通信が入った試しはない。

 それ以前に、俺を飛び越えて直接連絡したりしてるんだから意味がない。

 もはや名ばかりで無用の肩書きとなのだが、多分全部わかってて彼女は命令しているんだろうな。ひどいな。

 

「いい加減にしろよおお!」

「やばい、まじで、いぎが」

「ひ、ひさこ先輩、なんか言ってますよ!?」

 

 あるときあまりにも暇だったので机を並べてその上で寝るという画期的暇つぶしシステムを思いついた。

 喜々として実行したものの、人っていうのは寝ることにすら飽きるのだなとその日のうちに悟った。

 何よりガチで寝ようとするとポニーテールの般若様が殺意をもった眼で睨みつけてくる気がして、おちおち昼寝すらしていられなかった。

 よってこうして寝っ転がるだけが精一杯なのである。

 

 このままでは只でさえ肉体は死んでいる生者なのに精神までもが生きる屍になってしまう。

 自分で言っていることがよくわからんがそんなみっともない状態に陥ってしまう。

 

 俺はさらに練習終わりから放課後の間の空き時間を利用して、何か暇つぶしになるものはないかと校内を探し回った。

 ノートPCでも手に入れば良かったのだが、生憎この学園のPCルームにおかれているのは全てデスクトップPCだった。

 教員でもっている人はちらほらといたが、彼らから強奪したとしても後々騒がれては困るなと思い奪いはしなかった。

 盗んだところでパスワードかかっててもめんどいなという理由もあったが。

 

 そんなこんなでフラフラとしていた俺が辿りついたのは図書館だった。

 生前はそれなりに読書は楽しんでいたので、文字に拒否反応などはない。

 ここの図書館はけっこう大きめの規模なので読むものがないということもなく暇つぶしにはもってこいだった。

 

 ただ、この暇つぶしにも欠点はあった。

 本を借りるために正規の手順で行ってしまえば、それが消失へのファクターとなってしまうかもしれない。

 そのため借りていくには無断でこっそり懐に忍ばせなければならなかった。

 怪しまれないために借りられるのはポケットに隠せる文庫本のみ。

 せいぜい2冊が限度だ。

 たったそれだけでは彼女たちの練習時間を潰すことなど不可能だ。

 補充したくても放課後でなければ自由に動けない。

 いい暇つぶしではあるが、せいぜいウルトラマンが60回くらい変身できる程度しか暇は潰せなかった。

 おかげで大半はこうして寝転がって空を眺めるばかりである。

 

「いぎ、が、い、ぎが」

「ああ!?何言ってるか聴こえねえよ!?」

「アイアンクローって息できなくなるものなのか?」

 

 さらに残念なことに、練習後に美少女たちとキャキャキャウフフなハーレムイベントもない。

 イベントどころかフラグ建設も全然ない。

 

 ひさ子はよく麻雀をやりに本部へと向かう。

 一度誘われて参加したが、半荘終わる前に身ぐるみはがされそうなほど振り込みまくったので逃げ出した。翌日はがされた。

 アホみたいに強運なうえに俺ばっかりを狙い撃ちしてくるのでもう彼女とはやりたくない。

 

 入江と関根は大概寮へとすぐに帰る。

 

 リーダーの岩沢はインスピレーションをわかせるためとかなんとか言ってフラフラとどこかへ行ってしまうから、所在すらつかめない。

 放課後にはよく会話をするが、ほとんど音楽の話ばかりだ。楽しくはあるけれど、色気はない。

 

 灰色どころか何にもない真っ白。

 そんな青春を俺は謳歌しかけていた。

 

 今日もパクってきた小説を読み終えてぼーっと空を眺める。

 雲がゆったりとすすんでいるのをこれまたゆったりと楽しむ。

 ……ぼーっとするって人を駄目にしていく気がするな。

 

「リンゴ先輩」

 

 駄目人間への道を着々と歩んでいたところに入江が声をかけてきた。

 はげしくドラムを叩いていたのか、その顔は赤くほてっている。なんかエロいな。

 

「しおりんとひさ子先輩なだめておくので、その間に飲み物とか買ってきてもらえませんか?休憩にしますから

「へいへーい。よっこらせっと」

 

 寝転がっていた机から飛び降りる。

 机は予想以上に硬いもので、肩や腰をゴキゴキといわせながら凝りをほぐした。

 今度ダンボールでももってこようかな。いや、さすがにそこまでやるとホームレスみたいになるか。

 

「今日は何を読んでいたんですか?」

 

 入江が机に置かれている文庫本に目を向けた。

 それをとって入江に渡す。

 

「虐殺器官」

「も、物々しいタイトルですね」

 

 入江がその表紙に少しひきながら返してくる。

 真っ黒なバックにでかでかとタイトルと著者名を書いただけというシンプルなその表紙は、そのネーミングと相まって強烈な印象を与える。

 ちなみに文庫化される前の表紙はイラストだったが、死屍累々の戦場の中でたった一人兵士が立っているというこれまた物々しい絵である。

 

「どんな話なんですか、ミステリー?ホラー?」

「いや、SF。まあミステリーテイストではあるけれど」

「へえ」

「読んでみる?おもしろいよ」

「い、いいです。重そうな文章は苦手ですし」

「ハハ、そんなに重くないけどね」

 

 無理にすすめるつもりも無いので文庫本をポケットにしまう。

 そして入江に向き直った。

 

「じゃあ買ってくるけど、いつものでいいよね?」

「はい、大丈夫です」

 

 ズボンのポケットの中にある小銭を手探りで確認しつつ、俺はパシリへと歩み始めた。

 

 階段を下る手前で関根のような声の断末魔が聞こえたが、気には止めなかった。

 なむなむ。

 

 ●

 

 ガコン

 

 ボタンを押し商品が落ちる。

 いそいそと落ちてきたボルビックを取り出す。

 あいつ水好きだよな。でも汗かいたら塩だかなんだかも一緒に摂取した方がいいんじゃなかったけ。

 あー、でもそれあんま関係ないとかどっかの大学教授がテレビで言ってたっけ。世の中わけわからんな。

 

 買うべきものは買ったので、ポケットから新たな硬貨を取り出し自分用のコーヒーを買うために自販機に投入する。

 アイスのブラックかミルクかどっちにしようか迷っていると、ふと奇妙なデジャヴを感じる。

 

 いやこれは、確実に遭った事がある。

 そう、たしかこうやって自販機でコーヒーを買っているときに―――――

 

「何やっているの……」

 

 ガコン

 

 缶が落ちる音だけが響いた。

 俺の指はブラックでもミルクでもコーヒーですら無く、一段下の「あったかいおしるこ」のボタンを押していた。

 

「……くそが」

 

 悪態を吐きながら、アッツアツの缶を取り出すためにしゃがみ込む。

 誰だよ、自動販売機のラインナップにおしるこ入れたやつ。

 こんなの喜ぶ人間がいるのかよ。いても冬だけだろ。

 

「今は授業中よ」

 

 反応を示してやらなかったのが悪かったのか、声の主はさらに俺へと近づいてくる。

 せっかくこちらは無視しようと決めたのに、察してくれないものだろうか。

 俺はホカホカのおしるこをポケットにねじ込み、新たな硬貨を投入しながら敵意をもった目つきで睨んでやった。

 

「なんか用ですか、天使ちゃん」

 

 不自然すぎるほどクリアな少女こと生徒会長様であられる天使がそこに立っていた。

 その腕は彼女の身長以上はあるであろう長いつつを抱えていた。

 なんだ?新しい武器か?如意棒か?

 

「授業中の自動販売機の利用は禁止されているわ。直ちに教室に戻りなさい」

 

 淡々と、何度も言ってきたことがあるかのように、天使は注意をしてきた。

 その瞳の輝きは相変わらず無機質だ。

 

「知るかよ。そっちも授業中だろうが」

「先生に頼まれて教材の地図を取って来ていたの」

 

 なるほど、そのでかい棒は社会科用の地図か何かか。

 なら今は地理の授業とかなんだろう。どうでもいいが。

 

「そうかい、だったらさっさとそのわんぱく坊主のオネショよりも精密な世界地図を持って帰れ」

「だから、あなたも一緒に」

 

 ハッ、と呆れて溜息が出る。

 ついこの間死闘をした仲である。俺が一方的に惨殺されたともいうが。

 その殺す殺されるの関係にあった相手によくもまあこう平然と声を掛けられるな。

 やっぱこいつが普通じゃないのか。それとも世界なのか。

 

 あのとき、死ぬ直前に見た天使の顔を思い出す。

 無機質にクリアだった表情に、わずかに色づいたあの瞬間。

 それが何だったか少なからず想像はできるが、まだ憶測の域をでない。

 まったく謎だな。

 

「いやだ、俺はサボります。これやるから一人で帰れ、ほらよっ」

「っと……何、これ……」

「おしるこ。労いだ、セイトカイチョーご苦労さまー」

 

 そう言いながら天使の横を通り抜ける。

 通る際に袖を掴まれそうになったが、すぐに振り払った。

 一瞬振り向くと、なにか言いたそうな表情をしておしるこを握りしめたまま立ち尽くしていた。

 少し気になったが、構わず自分の持ち場へと戻った。

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