angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

2 / 36
Chapter.1_2

「いやあ、なんだよ死後の世界って」

 

 少女が口にした答えはびっくりするようなものだった。

 

 「死んだ、あとの、世界」

 「いや言葉の意味じゃねえよ」

 

 問題はそこじゃないだろ

 

 「……自覚、ないの?」

 「あるわけねーだろ!あったら死んでんじゃん!でも俺生きてんじゃん!」

 

 だって体は動いている

 声も出せる

 光も視える

 音も聴こえる

 

 これのどこが死んでるんだ。

 だいたい、死んだら天国やら地獄やらに連れていかれるものじゃないのか。

 もしくは、黄泉の国とか高天原とか嘆きの川とか煉獄とかヴァルハラとか。

 こんな普通の学校のような建物が、審判の議場であるわけがない。

 

 「タチの悪いギャグかよ」

 

 その言葉に、少女は眉間にしわを寄せて目線を下げた。

 今度こそ本当に怒らせてしまっただろうか。

 しかし、すぐに少女は顔を上げて言った。

 

 「じゃあ、心当たりはないの?」

 

 その言葉にゾクッと悪寒がした

 

 「こ、心当たり?」

 「死ぬような」

 

 急速に喉が干上がる

 嫌な汗が出てきた

 どういうことだ

 

 そうだ、心当たりは

 なくはない

 

 なぜなら俺は

 

 殺された 記憶 が

 

 あるから

 

 …… 

 

 「いや、でも」

 

 得体の知れない光景を思い出したせいだろうか、

 動悸がはやくなり、めまいがしてきた。

 

 俺はたぶんあの時死んだ。

 鈍く光る鋭利な何かで、頸動脈をスパッと切られた。

 血がドクドク出て、視界がだんだんと真っ暗になっていって、ブラックアウトした。

 そして、目覚めたらここにいた。

 

 その記憶がたしかなら、死んだのかもしれない。

 だって、普通に考えても致命傷だ。

 どうにかしてあそこから治療を受け助かったとして、

 ここが病院には見えない。

 

 じゃあここは彼女が言うように死後の世界なのか?

 俺はあそこで死んだのか?

 

 「……いやいや、やっぱりおかしいだろ」

 

 死んだ後の世界だって?

 そんなふざけた話をおいそれと認めるわけにはいかない。

 だって今の状況が全く説明つかない。

 

 「俺生きてんじゃん」

 

 死んだと思えるような記憶があっても、体は動いている。

 首筋を触ってみるが当然切られた跡はない。

 確かに、今生きている。

 

 「死んでるよ」

 「信じらんねーよ」

 

 どう考えても記憶自体がおかしいとしか思えない

 

 「だって心当たりはあるんだろ?死んだ時の」

 「あるにはあるけどそれも信じられない。そもそも今こうして意識がある。体は動いている」

 「でも死んでいるのは事実だよ」

 「じゃあ、証明してみろよ」

 

 少女に俺は難しい問題を投げかけた。

 死んでいることの証明なんて、生きていることの証明以上に無理だ。

 まず生物学的にみて俺は今生きている。

 今体を動かすことができる以上生きている証明となってしまうがゆえに、死んでいる証明にはならない

 だからまず普通に証明は不可能。

 

 もし答えるとするのならば、回答は哲学めいたなにかだろか。

 屁理屈やはったりともいうかもしれない。

 相当意地の悪いことを突きつけた。

 

 だけど、同時に場違いながらも期待してしまう自分がいた。

 あんな音色を奏でる少女が、この問になんと答えるか。

 

 「ふん……こまったね」

 

 少女がどう捉えたのかわからないが、本当に困った様子で手を組んだ。

 なにやら小声でつぶやきながら考え始めたようだ。

 

 「ここには刃物も銃もないしな。鈍器はあるけど使いたくないし……そういえば日向のときはたしかゆりが……」

 

 ……何やら物騒なことを考えているようで少し怖くなる。

 ブツブツと少女は考え続ける。回答まちで手持ち無沙汰になった俺はそこからから離れる。

 

 少女に背を向け、屋上の柵の前まで歩いた。

 夕日はちょうど沈む直前のようで、残り僅かな光が付近の雲を照らし、幻想的な色合いになっている

 屋上から見渡すと下には校庭があったが、人影はない。

 建物といえば校舎のような建物や、よくわからないが分館のようにいくつかある。

 

 ここは本当に学校なのだろうか。

 先ほど少女は彼女以外に他の誰かがいるようなことを言っていたが、今ここでは俺と彼女しか居ない。

 本当に他に人なんかがいるのだろうか。

 

 ……まあ綺麗な女性と二人っきりというのは大変喜ばしい状況ではある。

 だが残念ながら、頭が逝っている可能性があるためたぶん親密にはなれないけれど。

 

 「ふう」

 

 一息ついてみる。そして徐々に疑問が湧き上がる。

 死んだってなんだよ、死後の世界にしてはなんで学校なんだ?わけがわからない。

 テレビ局の新手のドッキリ?こんな一般人にドッキリかましてどうするんだよ。

 どこかにカメラでも仕掛けているのかと。校内でこちらが見渡せそうなところを探しているとき、ふと敷地の外へ目を向けてみた

 しかし、よく見えない。

 まるで靄がかかっているかのように、門の外の風景はしっかりと把握できなかった。

 門は見えるのだが、そこに至るまでの距離が目測できない。

 見えているのにそこまでの距離に対して全く自信が持てない、まるで門自体が蜃気楼であるかのように。

 

 「……奇妙なところだな」

 

 変で収まらない気もするが。

 

 「うん。そうだな、やっぱりゆりから聞いた日向の方法で行こう」  

 

 どうやら少女の方も結論が出たようだ。

 俺は少女の方へと振り返った。

 

 「さて聞こうかな。一体どうやったら君は俺が死んでいることを証明でき―――

 

 ドンッ

 

 ―――え?」

 

 振り向いた瞬間、少女は俺を柵の外へ突き飛ばしていた。

 いや、ちょっと、向こう側って、

 

 「まあわかるよ、もう一回死ねば」

 

 少女の表情は相変わらずクールなままだった。

 

 

 

 

 落ちる!

 

 やばい!

 

 死ぬ!

 

 頭が混乱してきた

 

 走馬灯が見える

 

 ご丁寧にBGMまでつけて

 

 曲は今まで散々混ぜるのに使ってきたteddy loidのfly awayだった

 

 「いやこれ、

  fly awayってより、

  どっちかというと、

  pass awayだろぉぉぉおおおおおおおおおおおあああああああ

 

 

 ゴキャっと固い何かと何かが押しつぶされる生々しい音とともに、意識が飛んだ。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。