angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

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Chapter.1_3

 ――――――どっこいせ

 

 ――――――ゆりっぺ、ここでいいか?

 

 ――――――ええ。ありがとう

 

 ――――――ほんとにこいつNPCじゃないのか?

 

 ――――――岩沢さんが言うにはね

 

 ――――――どうにも胡散臭いぜ

 

 ――――――でも岩沢さんが言うくらいなんだから信じてあげようよ

 

 ――――――じゃあ、あなたたちはここまででいいわ。戻っていいわよ

 

 ――――――ゆりっペは戻らないのか?

 

 ――――――起きたら説明しないといけないしね

 

 ――――――おいおいふたりっきりで大丈夫なのかよ

 

 ――――――やはり俺も残ったほうが

 

 ――――――あんたたちいるとややこしくなりかねないでしょ。はい、散った散った

 

 ――――――なんかあったら呼べよー

 

 ガラガラ……

 

「さて、そろそろ起きる頃かしら」

 

 

 

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

 

「ぁあああああああああああのアマぁ!!!殺す気かああああアアア!!!!」

 

 ふざけんな!!可愛けりゃなんでも許されると思うなよ!

 今すぐぶっ飛ばしてやる!!

 同じように屋上から突き落としてやる!!

 全裸でな!!

 

「どこだ!どこにいやがる!てかここはどこだ!?」

 

 とび起きると、また別の場所にいた。

 今度はベッドの上だが、ベッドと言っても就寝用というより治療用みたいだ。

 おいおい今度こそ病院かなにかか?

 しかし、服装は屋上いにいた時と同じ学ランのままだった。

 そして、ベッドの周りは白いカーテンで囲われていた。

 

 突然、シャっと目の前のカーテンが引かれた。

 

「おはよう。眼が覚めたみたいね」

 

 カーテンが開かれると一人の少女が立っていた。

 さっき屋上で俺を突き落としたのとはまた別人だ。

 

「ようこそ、死後の世界へ」

「流行ってんのそれ」

 

 何回聞けばいいんだ死後の世界。

 死んだような体験をしたら別の場所に移動していてそれぞれ違う少女と出会う。

 質の悪いシュミレーションゲームかループもののSFか何かに入り込んだみたいね。

 

「本当に信じてないのね。岩沢さんの言った通りだわ」

 

 少女は呆れた声を出した。

 

「じゃああんたも、俺が死んでることを証明してみしてくれよ」

 

 先程の少女と同じように問いかけてみる。

 今回もまた美少女だが先程よりも警戒心が強まっているのか、遊びというより八つ当たり気味に聞いた。

 

「それは岩沢さんが証明したじゃない」

「岩沢?」

「あなたを突き落とした子よ」

 

 あのアマ岩沢っていうのか

 名前は覚えた。今度あったらただじゃおかねーぞ。

 

「なんか恨んでるみたいだけどやめときなさい。彼女はあなたに言われたことをしてみせた、それだけなんだから」

「言われたこと?」

「死んでいる証明」

「ハッ!死んでいる証明ってあれのど……こが……」

 

 おい、ちょっとまて。

 自分の頭部を触って確かめる。

 

「やっと気づいたみたいね」

「なんで俺生きてんの?」

「そんなもの、死んでるからに決まってるじゃない」

 

 少女は至極当たり前のように正反対のことを告げた。

 

 

 ●

 

 

「わかった。死んでいることは認めよう。わるかった」

 

 俺はゆりと名乗った少女の前で頭を下げた。

 さすがにこうなってしまっては認めなければならない。

 屋上から落ちた記憶は事実のようで、ドッキリでマットかなんか敷いていて助かった、

 ともは考えられない、地面に落ちた感覚は妙にリアルに残っている。

 何より、あの体勢で落ちたら頭からぶつかるはずだ、仮にマットがあってもあの高さから落ちれば頭部も首もタダじゃ済まないだろう。

 しかし、その傷や痛みは全くない。

 彼女らが言うには、死んでいるから再び死ぬことはないというやつらしいが。

 死ぬことによって不死を得るとは、皮肉な話だな。

 

 やはり俺は死んでいるのか。

 

「私に謝られても困るわ」

「わかってる。岩沢って人にもあとでちゃんと謝罪をする」

「そう、ならいいわ」

 

 ゆりはさして気にせず近くにあった椅子を引き寄せて座った。

 

「とりあえず、改めて名乗らしてもらうわ。私はゆり。SSS、死んだ世界戦線のリーダーよ」

「死んだ世界戦線?」

 

 なんだその微妙なネーミング

 

「あとで詳しく話すけど、私たちのグループのことよ。君にも入隊してもらうからね」

 

 決定事項かよ。ずいぶん強引な少女だ

 

「なんで俺が」

「入らないと、あなた消えるわよ」

「消える!?」

 

 唐突すぎる忠告。

 死んだとか消えるとか、どうなっているんだ世界は。

 

「簡単にいえば、なにもしなければ消されるってこと」

「消されるってだれにだよ。坊さんか?」

 

 念仏唱えられまして無事成仏的な。

 

「あながち間違ってないわね。でも違うわ。神様よ」

「神ってまた。そんなんいるのかよこの世界に」

「さあね。いるんじゃない」

「さあねって……」

 

 何を根拠に言っているんだこの子は。

 

「でもあたしはいると信じているわ。そして神を殺す必ず」

 

 ……なんかやばい女の子達に引っかかってないか俺。

 死んでることを証明するためとはいえ躊躇なく突き落とすわ、神コロス発言するわ。

 出会う女運なさすぎだろ……遺伝かねこれ。

 

「信じようが信じまいがあなたの勝手よ。だけど知っておきなさい、この世界で何もせずただ普通に学校生活を送るものなら、あなたは消えるわよ」

 

 実際何人かみてきたし、と彼女はつぶやきうつむいてしまった。

 その姿に、何も悪くはないがなんとも言えない罪悪感につつまれた。

 

 でも、まあ、消えるか……

 

「嫌だな……消えるのは」

「そう、じゃあ入隊してくれる?」

 

 ゆりはケロッと打って変わって機嫌を良くした。

 さっきの態度はどうやら演技だったようで、俺はため息をつき、諦め加減に答えた。

 

「入ってやるよ。ただし、この世界のことやその他もろもろを詳しく教えろ」 

 

 

 ● 

 

  

 俺はゆりにこの世界について様々なことを教わった

 死後のこと

 学校のこと

 戦線のこと

 

 そして

 

「天使?」

「そう、彼女はこの学校の秩序を守る生徒会長にして、断罪を行う神の使者よ」

 

 断罪とか神の使者とか、そこはかとなく中学二年生が好みそうな。

 しかし彼女ということは天使は女性で、しかもこの学校の生徒なんだな

 

「なんで天使なんだよ。翼でも生えてるからなのか」

 

 そうだったらもはやギャグだな。天使ちゃん(笑)だよ

 

「翼はないわ。服装もNPCと同じよ。理由は、私たちの邪魔をしてくるからよ」

「邪魔?」

 

 ゆりは姿勢をただし、手振りを加えながらいい?と説明を始めた

 

「私たち戦線の目的はこの世界の神を殺す。すなわちこの世界を手に入れることよ」

「おう」

「でも肝心の神は未だに姿を確認できないわ」

「やっかいだな」

「そこで私たちは作戦(オペレーション)をすることで神をおびき出そうとするの」

「operation?」

「そう。たとえば、私たちはこの世界で普通に学校生活を送ると消滅するわ。そしてそれになんら不都合がないようにこの世界はつくられている」

「ほう」

「あなたはこの世界に来てすぐ岩沢さんに会ったからわからないでしょうけど、名簿だったり寮の部屋だったり、違和感なく過ごせるようにすでに根回しされているのよ」

 

 寮制なのかこの学校。どうでもいいが。

 

「ということは、死後だとか違和感に気づかなかったら、普通に学校生活送って消滅するってことか」

「そう。あたかもそれが正しい流れのようにね」

 

 俺も彼女に会ってなければ、死後ということに気づかず消滅してたのか。 

 彼女に出会えたことは幸運だったということだろうか。

 

「だから私たちはその流れに逆らうようにしてこの世界に居続けているのよ」

「たとえば?」

「授業は普通にボイコットしたり、校長室占拠したり」

「地味だなおい」

 

 やってること田舎のヤンキーと変わらないぞ。

 

「だからオペレーションをするのよ」

 

 ゆりは足を組み替えながら、人差し指をくるくるしはじめた。

 

「今言ったのは、日々消えないための事。オペレーションは神をおびき出すための行為よ」

「なにが違うんだよ」

「まず規模が違うわ」

「規模?」

「さっきのは個人的な問題で済ませられるけど、オペレーションに関しては全校生徒を相手にしたりすることが多いわ」

「具体的には?」

「それは入ってからのお楽しみよ」

 

 ゆりは小悪魔をおもわせる笑顔でウインクをしてきた。

 どんな恐ろしいことが待ってるんだよ。

 げんなりしている俺をよそにゆりは説明を続けた。

 

「簡単に言えば、正しい流れを無視したより大きいイレギュラーを発生させることによって、慌てた神をおびき出したり見つけ出そうということなの」

「不良やヤンキーとやっぱ変わんない気がするけど、一応納得」

 

 方向性は違うが天岩戸然り、神をおびき出すのはいつでもどんちゃん騒ぎってことか。

 

「そしてそのオペレーションを妨害してくるのが天使ってわけ」

「あー、神の意志に背く行為をしている輩に断罪を行うから、神の使者で天使ってこと?」

「そういうことね」

 

 ふーん。ソドムとゴモラ焼いたウリエルみたいなもんかな

 

「実際どんな妨害をしてくるんだ?」

 

 オペレーションがどんなものかわからないから予想はしづらい。

 でも、全校を相手にする大規模な不良的活動に対する妨害だから、そんな生やさしいものでは無いだろう。

 

「まずは口頭注意ね」

「軽!」

「あくまで彼女の言い分は、『学校の規則を破っている』よ。だからはじめは普通なのね」

「ああ、生徒会長なんだっけ」

 

 今まで神やら天使って会話だったのに、急にスケールの大きさが変わったぞ

 

「それで聞かなかったら実力行使ね」

「まあ順当に考えてそうだろうな」

「殺しにかかってくるわ」

「ヒェ」

 

 重い……

 なんで口頭注意から殺害なんだよ、振れ幅ありすぎだろ

 

「この世界では俺ら死なないんだろ?だったら殺しても意味はない気がするんだが」

「あくまで彼女にとっては規則違反行為の妨害よ。死ねばそこでその時の活動は停止するから、一応妨害にはなるからじゃないかしら」

 

 oh……まじか

 発想がぶっとんでんな天使ちゃん。

 さっさと容姿を確認してエンカウントしないように努めたい。

 俺がなんともいえない顔をしていたのか、察したゆりは苦笑混じりにフォローをした。

 

「普段の学校生活では大丈夫よ。普通に注意される程度だし、それを無視しなければなんともならないわ」

「それはよかった」

 

 できればオペレーションでもそうであってほしい。

 

「でもね、天使の言いなりになってたら消滅してしまうわ。オペレーションはそんなもの無視して実行し続けなければんならないわよ。覚悟しときなさい」

 

 覚悟ねえ。

 いくら死なない世界でも、痛みは感じるのだから質が悪い。

 痛いのはあまりすきじゃないんだが。

 

「それに、天使を消すことでこの世界を手に入れられるとも考えているわ」

「消すことで?」

「ええ。もしこの世界に神なんてものが仮に居ないとしても、消滅してしまう行為を強要してくる天使という存在はいるわ。だったら彼女を排除すれば消滅を強要されることもなくなるしね」

「ふーん。でもこの世界じゃ死なないんだろ?」

「そうよ。だから厄介なの」

「どっかに閉じ込めたら」

「そうも行かないわ。天使の力は強大なのよ。私たちが何人で攻撃しても殺害できないことが多いわ」

 

 数人相手に殺傷されそうでも死なないなんて、どういう規格だよ天使ちゃん。

 しかもそれより強大なんだろ。普通の女の子じゃないよな。

 それに殺害ってどんな方法でやってんだよ。

 みんなで一気に包丁投げるとかそんな生易しそうではないよな。

 ……なんか色々と早まったかな俺。

 

「まあ、あなたにはあまり関係ないのかもね」 

「え、なんで?」

「それはまた後で話すわ。他に質問は?」

 

 はぐらかされてしまった

 

「そうだな。……そういえばちょくちょく出てくるNPCってなんだ?」

 

 さっきの天使の下りや岩沢との会話で出てきて疑問に思っていた

 

「ああそれね。ノンプレイヤーキャラクターよ」

「RPGの村人みたいな?」

「そうそう。私たち戦線メンバーと違い、この世界、この学校のために用意された人材よ。教師もNPCね」

「ようこそ、しか言えないわけじゃないよな」

「そこまでゲームチックじゃないわよ。あくまでこの世界に違和感を感じず、普通に生活しても消えない存在よ。普通に会話だってできるわ。ただ、そこまで干渉的ではないわね天使以外は」

 

 だから岩沢は俺に対して変と言ったのか。

 

「戦線にとっては有害ではないんだな」

「何をもって害なのかは判断ができないけれど、そうね一応」

 

 屋上から見たこの学校の規模から言って、かなりの数の生徒がいるのだろう。

 ゆりの口ぶりから、戦線の人数はそう多くないだろう。ということは、NPCの数はかなり存在するはずだ。

 

「付き合い方によっては利用しやすいわけだな。逆に間違った扇動の仕方をするとこっちが被害を受けるか」

 

 俺が言うと、ゆりは目を開き少し驚いた顔をした。

 

「……確かに岩沢さんのいう通りね。あなた少し変よ」

「なにが」

 

 なんかおかしなことを言ってしまったか?

 

「この世界に来て、こんな短時間でNPCを駒のように考えられるなんて。普通じゃちょっとありえないわ」

「単純にNPCを見てないからだろ。わからないからゲームのように考えることしかできないんだ」

 

 俺がこの世界に来て会ったのは二人だけだぞ。

 そして二人しか会ってないのに普通じゃない言い分を信じる俺もどうかしてるけど。

 確かにそういう意味では変だな。

 

「ともあれ、俺らは学校っつー箱庭に閉じ込められて、その箱庭の創造主たる神の殺害を目論むわけですね」

 

 ほんとゲームか何かしらの実験みたいな話だな。

 

「納得できた?じゃあ行くわよ」

「行くってどこに?」

「戦線の本部に。ここにいつまでもいるわけにはいかないし」

 

 それに、とゆりは俺の胸元を指しながら言った。

 

「いつまでもその気持ち悪い服を着てるわけにも行かないでしょう?」

 

 言われて俺は学ランを見なおした。首から胸元にはびっしりと赤いものが付着している。

 落ちた時の血かこれ、グロいな。

 

「たしかに、気持ち悪い」

 


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