angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

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Chapter.1_6

 教室に入るとポニテの少女はついにベースの少女を捉えたようで、アイアンクローで顔面を掴んでいた。

 

「いい加減にしろよぉおおおおおお」

「うぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

 

 ベースの少女もなんとか反抗しているようだが、般若の力は強大なようで逃げ出すことができない。

 てか、浮いてる。どんな握力だよ怪物か

 

 とりあえず俺は購買の袋からあんぱんを取り出した。

 それを二人にめがけて振りかぶる。

 

「ほれ、あんぱん」

「あ!?」

 

 あんぱんをポニテの少女に投げつけた。

 声に反応して少女は振り返り、掴んでいた手をはなしギリギリであんぱんをキャッチする。

 その隙にベースの少女は素早くまたドラマーの少女の背中へと隠れた。

 逃げ足の速いやつだな。

 

「えーと、水はだれ?ボルビック」

「それあたしだ」

 

 ギターの少女が顔を上げ返事をした。

 俺は彼女に水を手渡す。

 

 ポニテの少女は般若ではなくなり、その表情からは戸惑いが見受けられる。

 同じようにドラムやベースの方からも視線を感じた。

 

「おまえ、いったい」

「ああ、遅刻してすまない」

 

 彼女らに向き合い、挨拶をする。

 

「俺の名前は星川。この度陽動部隊と本部との連絡役として任務を命じられた。以後よろしく」

 

 

 ●

 

 

「お前がゆりの言ってた新入りか」

 

 自己紹介をするとポニテの少女は俺の前に立ち、その鋭い双眸で舐めるように俺を見回した。

 見定めているのだろう。しかしながら恥ずかしくて仕方がない。

 そしてなにか目覚めちゃいけなさそうな感情が生まれそう。

 

「ふーん。普通じゃん」

「初対面の相手に不躾だなこのやろう」

「顔合わせ初日から遅刻してくるバカに言われたか無いよ」

 

 ぐぅ

 まともなことを言われて簡単に論破されてしまった。くやしい。

 

「やっとゆり選んで送ってきたパシリだから、面白いやつかなーと思ったんだけどな。つまらん」

「そいつは悪かったな」

 

 パシリは確定事項なのかよ。

 いや、もう色々諦めるけどね。アウェイだし。

 

「ほんと、ゆりっぺさんが吟味してきた割には普通ですよねー」

「おいこらてめぇらいい加減殴んぞ」

「おー、怖い怖い」

 

 ベースの少女は素早い動きでドラムの少女の背中へと引っ込んだ。

 色々となめてるなこいつ。

 

「で、でもこの人昨日入ったばかりらしいですよ?」

 

 ドラムの少女がおじおじしながら言ってきた。

 この子叩いてる時と印象全然違うな。

 演奏スタイルからみて、もっとハツラツとした子かと思った。

 

「えー?じゃあなんで?」

 

 ベースの少女が俺の方を見ながら言ってくる。

 

「俺が知りたいよ。てかそっちが選んだんじゃないの?要望があったって聞いたけど」

「は?しらんぞ」

「えっ」

「え?」

 

 お互いに首をかしげる。

 確か昨日ゆりっぺさんが言ってたには、先方からの要望だったはずだぞ。

 

「お前らが呼んだんじゃねーの?」

「だれがお前みたいなド新人を好んで呼ぶかよ」

 

 いや、確かにそうだけどね。直球で言われると傷つく。

 だが、どういうことだ?もしかして俺ダマされたか。

 

「でも新人だからこれはこれで良かったんじゃないですか?」

「しおりんどういうこと?」

 

 ドラムの少女がベースの少女に問う。

 しおりんって名前なのか。中国人みたいだな。

 いや普通に考えたあだ名か。

 

 ふっふっふー、と不敵に笑いながらベースの少女は胸を張った。

 

「彼は新人だからここのことをよく知らないじゃん?だから無茶な命令にも「いや、これがここの常識だから」で押し通せるってわけよ!」

「ふざけんな」

 

 なんて恐ろしいことを考えるんだこいつは。

 それに本人の前で言っている時点で意味がないだろ。

 

「おぉ〜例えば?」

 

 ドラムの少女は前のめりで再び問う。

 それにしてもこの子打って変わってノリノリである。隠れSか。

 

「例えば、全裸で廊下待機とか」

「やらねえよ!?」

 

 それは只の変態です!

 

「全裸で自販機までダッシュのほうが面白いだろ」

「だからやらねえよ!?」

 

 ポニテの少女がのってきた。こいつは明らかにSだろ。

 ドラマーの子がさらに追い討ちをかける。

 

「全裸で日向先輩と絡んでほしいです!日×星で!いや、でも星×日も意外といいかも!」

「おまえは何言ってんだ!?」

 

 なんなんだよこいつら手に負えねええええええええ

 

 初日から不安要素しかない

 

「岩沢はどれがいいと思う?」

 

 ポニテの少女はこちらの騒ぎに全く動じず、先ほどからずっと座り込んで紙に何かを書き込み続けていた少女に話を振った。

 やはり、屋上で会った彼女が岩沢とやらか。

 

「何が」

 

 岩沢は顔を上げ尋ねる。

 本当に話聞いてなかったんだな。無関心にも程があるだろ。

 ポニテの少女は特に気にすることもなく続けた。

 

「こいつに全裸でやってもらう罰ゲーム」

「というかなんで全裸なんだよ!お前らそんなに裸が好きかよ!てか罰ゲームかよ!」

 

 遅刻の件ならならおごりで買ってくるで済んだんじゃないのか。

 岩沢は目線を上にあげ、んーっと少し思考してから無表情に答えた。

 

「全裸で北の国から弾き語りしてもらうとか」

「地味にエグいなお前!?」

 

 こいつが一番キツイだろ。

 全裸で弾き語りとか何だよ、なんかそういう芸術を求めてるみたいになるじゃねえか。

 恥ずかしくて死にたいわ。

 もう死んでるけど。

 

「北の国からが嫌なら関白宣言でもいいよ」

「曲じゃねえよ!でもなんでさだまさし縛り!?」

「じゃあ友情のハムライス」

「よく知ってんな!でもあれ10分あるからきついわ!てか歌わねえから!」

 

 岩沢はしょんぼりした顔をした。

 おお、初めてわかりやすい感情をみたぞ。

 でもなんで残念そうなんだよ、脱がねえからまじで。

 

「罰ゲームはともかく、俺は別にお前らに所望されたわけじゃないんだな?」

「ああ」

 

 ポニテの少女が同意した。

 

「じゃあどうするよ。こちらとしても一応リーダーの命令だけど、お呼ばれでないのならやめてもいい。ゆりっペさんにはこちらから伝えておく」

 

 といかやめたい。全裸パシリはキツい。

 

「そうだな。あんたが悪いってわけじゃないけど、こちらとしても来たばかりの新人を容易に信用することはできない。なんせか弱き女所帯だもんでな」

 

 片手で人を浮かせることができる怪物をか弱いとは思えないけれど。

 だがしかし、俺がここをアウェイだと思うように、彼女たちにとっても自分達のホームに現れた男という不穏分子なのだ。

 不安になるのは仕方がないことだ。

 

「戻ってゆりっペさんに別の人に代えててもらうように頼むよ。すぐに見つかるかはわからないから、パシリが居ないのはもう少し耐えてくれよ」

「わかったよ。すまなかったなあんたも」

「いいさ、別に。なんせ新人だからな。一番下っ端は苦労するのが仕事みたいなもんだろ」

 

 ポニテの少女は笑い俺もつられて笑った。

 怪力は恐ろしいけれど、案外いい子なのかも知れないな。

 

 俺は早速帰ろうと思い、トランシーバーを手にとった。

 ゆりにつなげてみたが、先ほどと違って途切れたり雑音が入ったりして上手くつながらなかった。

 もしかして別と通信中なのだろうか。それとも周波数間違えたかな。

 

「しっかし、ゆりにしてはめずらしいな間違えるなんて。勘違いしたとも思えないし」

「そうですよね。ちょっと意外です」

 

 ポニテとドラムの少女がゆりについて意外そうに話す。

 ゆりについてまだあまり知らないが、昨夜や今朝の様子からみて確証は得ているような自信があった態度だった。

 彼女たちが意外そうに話すということは、あまり勘違い等はしないはずなのだろう。

 どこかで情報がこじれたか?

 

「何が?」

 

 岩沢がボルビックの蓋を開けながら尋ねた。

 あの騒ぎは本当に全く耳に入っていなかったか。大物だな。

 

「ゆり曰く、そいつをあたしらが希望したって。珍しい勘違いだって話」

「そうだよ。あたしが頼んだ」

「へー、なんだ岩沢が頼んだのかぁああああああああああああ!?」

 

 ポニテの少女が絶叫した。

 ついでに俺もびっくりしてトランシーバー落とした。ガシャっといやな音がした。

 

「どういうことだよ岩沢!」

「いや、ゆりが適任者いなくて結構悩んでるみたいだったか、だったら彼でいいよって」

「いつ!」

「昨日」

「報告は!」

「今」

「相談は!」

「忘れてた」

 

 無表情のまま岩沢はのらりくらりと語った。

 それを聞いたポニテの少女は地面に突っ伏した。ドラムの少女も呆けている。

 あきれて物が言えないようだ。さすがに俺もびっくりした。

 どうやらこの岩沢という少女は音楽以外に関して相当マイペースなようだ。

 

「なんでこいつでいいいって決めた?」

 

 呆れ声のままポニテの少女が岩沢に質問をした。

 

「なんとなく」

「なんとなくかよ!」

 

 思わず俺がツっこんでしまった。

 何となくで俺はこの任務に呼ばれたのか。

 

「屋上で音楽の話をして、面白そうな奴だなと思ったから。だからなんとなく」

 

 そう岩沢が言うと場の空気が少し変わった。

 俺はそんな程度のことで決められたのかとあきれ顔で居たが、周りの空気は少し違い、重苦しくはなくとも何だか固いものがあった。

 当の岩沢の表情は相変わらず読み取りにくいままだったが眼は違った。

 その眼だけは強い意志を煌々と示す光が宿っていた。

 

「ああー、星川って言ったか」

 

 突っ伏したままポニテに子が俺に話しかけてきた。

 

「なんでしょう」

 

 答えると、起き上がり服の汚れを落としこちらを向いた。

 

「さっきの話は無しだ。うちらのリーダーが決めたことだ、仕方がない。一応歓迎してやるよ」

「一応かよ」

「あたしはまだ信用してないからな」

 

 さいで。

 

「まあ、これから色々と頼むぜ」

 

 ポニテの少女は手を出し握手を求めてきた。

 俺も手を出し握る。

 いきなり笑顔を浮かべるとものすごい力で握りかえしてきた。

 

「あだだだだだっだだだっだだだ」

「これからよろしくな、パシリ君」

「パシリってあだだだてか、どん、だけ強、いんだよっいだだだだ」

 

 手を離され解放される。

 どう考えても一介の女子高生が持っている握力じゃないと思う。

 ギターリストでも要らないと思う。

 これからこいつの下でパシリの日々が始まるのか。

 ……なんか泣けてきた。

 

「よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

 

 岩沢とドラムの少女に挨拶をされる。

 

「こちらこそ、よろしく」

 

 未だ手が痛いのをこらえながら返事をする。

 岩沢は少々アレだが、この二人は基本無害のように思われるので安心する。

 ・・・・・・果たしてそれが本当かは確証をもてないが。

 

 先程からずっと黙ってたベースの少女が何か思いついたようで言ってきた。

 

「ところでいっそ記録に残すためにPV撮るとかどうですか?某英国バンドみたいに全裸で自転車こぐみたいな?」

「いい加減てめえは黙れ!」

 


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