angel beats : music of the girls, by the dead, for the monster   作:カリー屋すぱいしー

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Chapter.1_8

 校長室にゆりはいなかった。

 連絡をとろうにもトランシーバーは壊れてしまっている。

 仕方なく、俺はゆりを探しにでかけた。

 

 ●

 

 いない。

 どこにもいない。

 どこを探せどゆりの居場所をつかむことは全くできなかった。

 手始めに学習棟をうろついてみたがどの階にも姿はなかった。

 そもそも戦線の人間は授業なんて受けないだろうし、教室を利用しないならウロチョロしてうっかり教師に見つかるなんてあほらしい行動もとらないだろう。

 なら別の場所かと適当にあたりをつけて地図をたよにリ探しまわってみたが、生憎昨日来たばっかりの自分にあたりなどというものが正確につけられるえわけもなく、皆目見当もつかず早々に挫折した。

 しかし、幸いなことに他の戦線メンバーがちらほらといたので、その人たちに心当たりを聞いてはその場所へと向かった。

 そこにいなければまた近くのメンバーに聞いては探し、その繰り返しをつづけた。

 山以外の場所にはほとんど巡ったといって良いだろう。

 男子禁制の女子寮にもその場にいた女子の協力を得て呼び出してもらおうとしたがやはり不在だった。

 

 どこにもいない。

 あまりにもこの学園が大きすぎて、すでに足は悲鳴をあげていた。

 結局機材の無事も確かめておきたかったので休憩がてら再び学習棟へと戻ることにした。

 

 コーヒー(微糖)を購入し、自販機にもたれかかりながら座り込む。

 

「フゥ」

 

 深い溜息が出た。

 疲れた。歩きすぎてもう足はパンパンだ。

 ここにきてまだ2日目なのだが、学園を踏破したと言っても過言ではないだろう。

 ポケットから地図を取り出す。何度も広げては畳んでいたせいでクシャクシャだった。

 それを丸めてイラつきながらゴミ箱へ投げ入れる。

 勿体無い気もするが、一度訪れた場所の位置を覚えるのは得意だから問題ないだろう。

 正直見つからないし疲れたしイライラしていたから何かに当たりたかったというのもあるけれど。

 落ち着かせるように俺はコーヒーをあおった。

 

 学園中を歩きまわったおかげで昼休みはとうに過ぎ、もう少しで本日最後の授業が始まろうとする時刻にまでなっていた。

 相当な時間歩き続けたのか。そりゃ足も棒になるわ。

 座ったまま足を投げ出しボーッとする。

 廊下の半分以上を遮るかたちになっているが、どうせもう自販機を利用に降りてくるやつもいないだろうから別に構わない。

 

 フゥーッと今度は長めに溜息をつく。

 今日はなんだかあんまり座ってないな。歩いてばっかりだ。

 パシリに片付け、それに人探し。

 ……一体俺は死んでまで何やってんだろ。

 イラつきと疲労のせいか少しネガティブな考えが巡った。

 

 確かに消えたくはない。

 でも別にゆりたちに従う理由も無かった。

 消えないためには、ここの規則に反する行動を取ればいいだけのこと。

 だったら戦線と共に行動しなくても、一人でも消えないための努力はできるじゃないか。

 こんなアホみたいに歩きまわらなくてもいいじゃん。

 死んでまで真面目に働く意味もないじゃん。

 そもそも戦線に入ったのって、単に情報が欲しかったのが一番の理由だし。

 

「あああ、しんど」

 

 座っていた体勢はどんどんと崩れ、いつしか完全に寝転んで天井を仰いでいた。

 天井の上、遥か高いところをみるように焦点がぼやける。

 任務初日にして早くも5月病に似た気分になっていた。

 

 そもそも何故ゆりたちはここまでできるのだろうか。

 消えないために神を殺すと言うが、ここまでする必要はあるのだろうか。

 せいぜい天使とやらを撃退するだけでもいいんじゃないか?

 なんで神を殺す?

 

 いや違う。

 彼女たちをそう衝き動かす理由がどこか別にあるように感じた。

 

 結局そういうことだ。

 メリットデメリット以外の、損得ではない部分、感情の面で俺はまだ彼ら戦線の人たちに共感できていないのだ。

 

「まあ、ここで考えこんでも答えのでないことだけどな」

 

 こればっかりは聞いてみるしかない。

 

 キーン コーン カーン コーン

 授業開始の鐘が鳴る。

 それを区切りに寝っ転がる体を起き上がらせそのまま立ち上がった。

 残ったコーヒーをすべて飲み込む。

 でも頭をリフレッシュしたかったのでもう一度コーヒーを買う。今度はブラックだ。

 ガコンッと音をたてて缶が落ち、取り出すために屈み込む。

 変な角度で落ちたせいか、引っかかって取り出すのに苦労した。

 

 だからというわけではない。

 しかし、気づきはしなかった。

 直前になってもそいつが近づいているのに俺は気づくことが出来なかった。

 

「何をしているの……」

 

 驚き即座に振り向く。

 そこには銀髪の小柄な少女が立っていた。

 

「何をしているの……もう授業は始まっているわよ」

「ああ……そうだな……」

 

 動揺しながらも、なんとか声を絞り出す。

 見知らぬ少女にいきなり声をかけられたから驚いているのではない。

 ゆりを捜索中も知らない生徒や教師に声はかけられていたから今更それに驚きはしない。

 

 色がない。

 

 驚いているのは、その少女の声にあまりにも色がなかったからだ。

 変な表現ではあると思う。

 でも、俺は人それぞれにの声にはその人の色があると思っている。

 何色とかそう明確なのものではなく感覚的なもの。

 その人の特徴、つまり個性があるのだと。

 だけれど、その少女からはそのカラーが全く感じられなかった。

 機械的とはまた違う無機質。

 

「戻らないの……」

 

 clear

 

 あまりにも透明度が高いその声に俺は動揺を隠せなかった。

 

 いままで聞いたこともない。

 こんな声が存在しているのか。

 いや存在していいのか。

 

「ず、頭痛がしてな。保健室に行こうと思ってて」

 

 やっと俺はまともな言葉を紡いだ。

 喉は恐ろしいまでに干上がっている。

 たかだか声を聞いただけなのに。

 

「でも、コーヒーを買っていたように見えるけど……」

「ん?ああこれ、俺カフェイン中毒ぎみなんだ。頭痛がその原因である可能性もあるから、一応ね」

 

 俺は手に持っていたコーヒーを掲げて示す。

 

「そう。難儀な体ね」

「自分でもそう思うよ」

 

 わかった。

 声じゃない。

 こいつ、存在自体が全体的に不気味なんだ。

 

 すべてが無機質すぎる。

 声だけじゃなく、その言葉や挙動、雰囲気までもが恐ろしいまでに色がない。

 なによりその表情が。

 

「どうしたの……」

 

 目の前にいきなり顔を近づけられる。

 

「顔が青いわ。大丈夫かしら……ついてくわ」

「つ、ついてく?」

「保健室まで」

 

 動揺が体調不良と察したのか(そう嘘はついていたが)気をつかわれた。

 だけれど。

 

「ありがたいけど、大丈夫だよ。君も、もう授業に戻ったほうがいい」

「でも」

「大丈夫、大丈夫。倒れたりはしないから」

 

 必死に少女に言い聞かせる。

 納得はできないようだったが、すでに授業も始まっていたので一応は退いてくれるようだ。

 

「わかったわ。気をつけてね」

「おう、じゃあ」

 

 別れを告げると足早にその場を去る。

 とにかく離れたかった。遠くへ行きたかった。

 

 

 ●

 

  

 急ぎ足でその場から逃げ出した俺は学習棟を出てすぐに立ち止まり息を整えようとした。

 深く短い呼吸を何度も繰り返す。

 一回あたりのの時間がはじめの倍になってきたころようやく落ち着きを取り戻した。

 

 何だったのだろうかあれは。

 突然自分をあそこまで動揺させた得体の知れない少女。

 あそこまでの恐怖をもたらす少女。

 少女と向き合っているだけで冷静にはいられそうになかった。

 

 あの表情。

 金色の瞳を携えた彼女の表情があまりにも怖かった。

 岩沢とまったくもって全然違う。

 クールな岩沢であっても、おそらく興味のないことに対しての感情の振れ幅が小さいだけで、起伏自体はしっかりとある。

 彼女には色があったから。

 でもあれは違う。

 冷たいとかじゃない。

 無い。能面ようだ。

 俺に心配の言葉をかけているにも関わらず、その表情からは皆無と言っていいほど感情は伝わってこなかった。

 振れ幅が小さいんじゃない。

 幅を示す針がないんだ。

 振れるということがありえない。

 人間としてあるべき色や熱が全く持って感じられない。

 おそらく少女はそのことに無自覚で、その存在は恐ろしいまでに無機質。

 

 その少女のことを考えてみればみるほど、この世に存在してもよいのだろうかという疑問に至る。

 あんな化物がいるだけでどうにかしている。

 パニックからまだあまり抜け出せない俺はそれがすでに聞いていたはずの結論までに至らなかった。

 

 怖い。

 人とは思えない。

 

 それが、彼女に対して抱いた、第一印象だった。

 

 

 ●

 

 

 残念なことに、いやいやであろうと気分がすぐれなかろうと仕事はこなさなければならない。

 どうにか落ち着いた俺はゆりの行方の手がかりをつかもうと、再度戦線の人間を探していた。

 教員棟への道を曲がったとき、ちょうど目の前に戦線の制服を着た少女が歩いていた。

 

「すまない、ちょっといいか」

 

 声をかけると金髪で髪を2つに編んでいるその少女は振り向いて俺を直視した。

 

「はい、なんでしょうか」

 

 事務的なその口調は、耳につけたインカムと相まって問い合わせセンターカーなにかのアポインターを彷彿させる。

 

「ゆりっぺさん探しているんだけど、どこにいるか知らない?」

「ゆりっぺさんですか?たしかギルドに行かれたかと思いますけど」

「guild?」

 

 聞いたことのない場所だ。

 捨ててしまった地図にもたしかそんな横文字な名前の場所は存在しなかったはず。

 ということは、戦線独自の通称か?

 だとるれば、新人の俺にわかるはずがない。

 

「どういったご用件でしょうか?私から連絡を取ることも可能ですけれど」

「まじか!ナイス!」

 

 もう歩かなくてすむ!

 俺は少女の手を取りブンブンと上限振って興奮を表した。

 少女はされるがままで離そうとはしないが心底迷惑そうな顔で。

 

「再度聞きますが、どういったご用件でしょうか?」

「ああ、すまんすまん」

 

 俺はいい加減手を離す。

 

「えーと、ガルデモが練習で使用した機材を回収してほしいんだ」

「ガルデモ?」

 

 あぁ、あなたが。と少女はどこか納得した様子でうなずき、後ろを向いて耳に手を当てた。

 

「……ゆりっぺさんですか……いえ、ちがいます。ガルデモの件でして……ええ、そうです。彼からの……」

 

 耳にかけたインカムでゆりと連絡をとってくれているようだ。

 

「……はい……はい、わかしました」

 

 終わったのか耳から手をはなし、こちらに向き直り直視した。

 

「こちらで人員を手配します。あなたは教室へ向かい、機材が無事回収されるのを確認して下さい」

「それだけ?」

「どうせまだどこに運ぶかも知らないでしょうから、邪魔ですのでそれだけで結構です」

「……ごもっともです。了解しました」

 

 よろしいです、そう少女は無表情に言った。

 ……なんか無表情キャラ多くね。

 死んでるからなのかしら。

 

「じゃあとりあえず俺は行って待機してればいいんだな」

「そうですね」

「わかった。色々ありがとな、えーっと」

「遊佐です」

「ありがとう遊佐さん。俺は星川、以後お見知りおきを」

「こちらこそ」

 

 遊佐が手を差し出してきたので握り返す。

 ほっそりと小さい女の子らしい手だった。

 

 ●

 

「はい、はい、大丈夫です……たぶん……ありがとうございました」

 

 最後の機材が運ばれるのを確認し一安心。

 ようやくこの日の仕事を終えた。

 

 やっと自由だ。

 

「あー、もうなんか色々めんどいから、帰って寝よう」

「その前に報告ぐらいちゃんとやりなさい」

 

 声のする方向に顔をを向けるとゆりが扉にもたれかかりながら立っていた。

 その後ろで遊佐が会釈をする。

 

「いたのかよ、びっくりしたな」

「あなたがこの程度で動揺するとは思っていないわ」

 

 確かに驚いてはいないけど。

 

「俺は普通の矮小な人間ですよ。過大評価してもらっちゃ困るよ」

「別に過大評価なんかしてないわ」

 

 ゆりが肩をすくめて言う。

 

「あなたアホだからこの程度のことも鈍感で気づかないんじゃないかって」

「おいこら」

 

 ツカツカと歩み寄りながらゆりはまっすぐ見据えた。

 

「連絡、報告、相談、これらを自分でしっかりやりなさい。できないからアホなのよ」

「……スイマセン」

「まったく、一応あなたは正式にはガルデモのパシリじゃなくてこっちとの連絡係なんだからね、しっかりしなさい。それよりトランシーバーはどうしたの?」

 

 遊佐に連絡してもらったせいでやはり気づかれてはいたか。

 どうせ言わなきゃならないとは思ってたけど、このタイミングは微妙だな。下手すりゃ怒られそう。

 まあ誤魔化しは効かないか。

 

 覚悟を決めてスパッと言う。

 

「壊れました。申し訳ございません」

 

 腰からトランシーバーを抜き出してゆりに手渡す。

 

「あっそ、仕方ないわ」

 

 どなられたりでもするかと思ったが、ゆりの反応は予想を外れてあっさりとしたものだった。

 

「これ新型だったのよ。テストも兼ねて渡したんだけど、やっぱり壊れたわね」

「……そう……なのか」

「周波数を固定登録と変換可能機能を両方搭載するのはそれなりに便利そうなんだけどね。やっぱ負荷かかりすぎたかしらね」

 

 ゆりはトランシーバーをあれこれ弄る。

 そうか、そういうもんだったのか。

 俺が落としたわけじゃによね。たぶん。

 いい感じに責任が曖昧になりそうだから、落としたことは黙っておこうそうしよう。

 

「代わりのは明日また届けるわ。遊佐さん、これお願い」

 

 トランシーバーを受け取った遊佐はお辞儀をして去っていった。

 その足音が聞こえなくなってから再びゆりは口を開いた。

 

「どうだったかしら、はじめてのおしごとは」

「どうもこうもねーよ。つかれたよまったく」

 

 俺の返事に苦笑しながらゆりは近くの椅子を引き寄せて座った。

 それにならって俺もすぐ横の机によっかかった。

 

「女の子ばっかりで気苦労がたえなかったかしら?ガルデモのメンバーはみんな美少女だものね」

「美少女なのは同意するが、まあそのへんはどうにか打ち解けたよ」

「あっさりと同意するのね……ファーストコンタクトが成功したなら、その他に苦労があったのかしら?」

 

 少し、間が開く。

 苦労したのは歩き過ぎたからなのだが、その疲労のおかげで浮かんだあの考えを思い出した。

 話すべきかどうか迷ったが、この先悩んでも仕方がないし、聞かなければ答えは出ないと自分で結論づけたはずだ。

 

「なんで、どうしてゆりは、戦線はたたかっているんだ?」

「は?そんなの神を殺すためじゃない。話したでしょ」

 

 もう忘れたのか、やはりバカだなと憐れみに満ちた目で蔑まされた。

 

「そうじゃない、なんで神を殺すんだ」

 

 意図が伝わりやすいように多少声を強くして俺は続けた。

 

「消えないためなのは理解できる。神さえ殺せれば安泰だろうよ。でもその方法は糸口すらつかめてないんだろ?それに神を殺さなくても、こうやって不良じみた学校の規則に反する活動を行っていれば消えないはずだ。わざわざ神を殺すなんてことしなくてもいいじゃないか」

 

 一息いれて、わざと間をつくる。

 ゆりは黙って聞いている。

 

「でも、そんへんの建前はどうでもいい。いつ神の気まぐれで消されるかわからないからとかな。俺が聞きたいのは、なんでそこまでして消えたくないのか、なんで神を殺そうとまで憎むのか、そこが知りたい」

 

 ゆりは黙したまま、ふと足を軽く持ち上げてブラブラさせた。

 俺もだまってそれを見続けた。

 

 やがて口を開く。

 

「だって、許せないじゃない」

「許せない?」

「あなたは許せるの?あんな理不尽な人生を与えた神という存在に、あんな末路を背負わせた神に!!」

「どういう……」

「言ってなかったわねそういえば、気づいてるもんだとおもったから。この世界に来るための条件はただ死ぬことじゃないの」

 

 ただ?

 どういうことだ?

 

「この世界の来れるのは、到底受け入れがたいほど悲惨な人生を送ってきた哀れな人間が、死んでその生に悔いを残すことでやって来れるのよ。それこそ、未練があって成仏できない怨霊みたいにね」 

 

 ゆりの言葉に、上手く思考が回らなかった。

 ただ、死ぬことだけじゃないのか?

 悲惨?哀れ?悔い?未練?

 じゃあ、ゆりたちは。

 

「わかる思うけど、ここに来た人間はみな、まともじゃない人生を送ってきたのよ。そうね、話してあげましょうか。あたしの人生を―――

 

 

 

 ▼

 

 

 家

 

 姉

 

 妹

 

 弟

 

 妹

 

 守る

 

 守る

 

 守る

 

 守りたい

 

 守らなきゃ

 

 守るのよ

 

 まも―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――守れなかった

 

 

 ▲

 

 

 

 ―――というね、これが、あたしの送ってきた人生よ。なんにも悪いことしてなかったのにね」

 

 唖然とした。

 わけがわからなかった。

 

 そんな人生あっていいのか。

 そんな不幸がありえていいのか。

 こんな人生を。

 

「こんな理不尽な人生を与えた神様がもし、もし殺せるという可能性があるのだとしたら、あなたはその神を許しておくことができるかしら」

 

 そういうとゆりは立ち上がり出口に向かって歩き始めた。

 扉の前で立ち止まり、顔だけをこちらに向けて言う。

 

「みんな、同じなのよ。あなたもそう。心当たりあるでしょ?じゃなきゃこんなとこに来ないわ」

「……そうだな」

「私は認めない、あんな人生。我慢して受け入れて新しい人生を始めようだなんて絶対に思わない。だから、反逆するの。この世界で、その元凶たる神を殺して。……これがあなたが知りたかった戦線の活動理由、いえ原動力よ」

 

 原動力

 彼らが戦う理由

 死して尚生を哀れんで執着する呪い

 神を殺そうとまで突き動かされる所以

 

 それはまるで、

 

「まるで復讐じゃないか」

 

 その言葉に、ゆりは一瞬虚を衝かれたような顔をする。

 しかし、すぐに破顔し笑いだした。

 

「あはははははは!おもしろいわ!そうね、まさに復讐ね!いいセンスしてるわ」

 

 一頻りにゆりは笑い、落ち着いた所でニヤリと笑をつくってこちらに微笑みかけてきた。

 

「これは神への敵討ちよ、それも自分の。星川くんは、復讐はお嫌いかしら?」

「……いいや」

 

 やっとわかった。

 やっと共感できた。

 単純じゃないか。

 なんで悩んでいたんだばかばかしい。

 

 そうだ、許せるかあんな人生。

 許せるかそんな神がいたとしたら、

 

 だから

 だから俺は

 

「いいと思うぜ、復讐。自分の仇に神を殺そうなんて、イカれててRock'n'Roll過ぎんだろ。最高」

 

 俺は不敵に笑った。


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