知将MUR   作:ピュゼロ

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・伊26もAquilaもE3甲90周以上して出ないので初投降です。
(書いていると出ました。提督諸氏にもドロップして欲しいので投稿です)


第114514話 その①

 もちろん雲龍型三番艦葛城は航空母艦である。二度の実戦を経て鎮守府でも指折りの存在として自信を深めつつある。

 

 ※

 その日は午前中以外に訓練がなく、午後がまるまる一杯フリーだったので、葛城は食堂でカレーライスを食べるつもりだった。

 空母というものはそう簡単に動かされる艦ではなく、また、一度出撃してしまえばどうしても摩耗する。だから、ある意味では、練度を保つための日々の鍛錬こそが最も大事なのですよと、鳳翔さんにも厳しく言われている。

 そりゃあ、厳しくしごかれているのだ。

 あの鎮守府みんなのお母さんみたいな優しい人に。

(厳しくない……というわけじゃ、全然ないんだけど……)

 何度か駆逐艦の訓練の様子を見かけた事があったが、あまり食事前に思い出したくはないものだった。少なくとも葛城は、鳳翔さんにあそこまで腹筋ぼこぼこにされた事はなかった。

 思わず、改装を重ねた腹部の装甲の下をさすった。もちろん、何も零れたりしていなかった。

 とにかく昼食だ。楽しい事を考えようと思った。

 だから彼女に、イタリア艦であるザラに出くわしたのも、ちょっとした幸運であったかもしれなかった。彼女はちょうど、腰まで届かんという豊かな金髪を無造作に振りながら、この世で最も重大な命題であるかのように、昼食のメニューを考えていた。

 彼女たちは笑顔の天才で、いつもにこにこと笑っているし、話している友達にもそのちょっとした陽気をおすそ分けする事に長けていた。

 Comunque、好きな事をお話してる時の貴方ってまるで太陽みたいだわ、だとか、今日は一日中雨だったけど最後に貴方と話せてよかったわ、Buona notte(おやすみなさい)、だとか。葛城もそうやって話している内にいくつかのイタリア語を覚えた。Stella(ステッラ、お星さま)や、Bello(ベッロ、きれい)というような、可愛らしい言葉を使われると、それが単なるあいさつの決まり文句でも、すごく嬉しくなるのだ。

 実のところ、葛城はこっそり内心で、イタリア人というのは四六時中ワインばっかり飲んでいるようなイメージをもっていた。パスタが食べたければ何としてでもパスタを茹でるし、眠たければ眠ると思っていた。

 その点ザラは真面目でしっかり者で、明るくて愛嬌があった。腕も確かで頼れる僚艦である。彼女のおかげで葛城は、イタリア艦というのは友人となるのに実に適しているのだと学んだのだ。

 そのザラの後ろから、葛城は声をかけた。

 

「オッハァアアアアア!!(大音量)」

「うっ!? あ――ああもううるさーい!!」

 後ろから突然、やたらにでかくて絶望的に汚い声で叫ばれた。

 それはこの鎮守府ではすっかりお馴染みの、彼女たちの提督の声だった。

「あら、提督? Buon giorno! 今日もお元気ですね」

「うん、こんにちはだゾ、ザラ」

「葛城もCiao! 会えてうれしいです」

「ええ、こんにちはザラ。私もよ」

 彼女の提督は、はっきりいってかなり奇妙な男だった。彼は真っ白で、誰も使わなかったスケッチブックの一枚のページのようだった。艦隊を率いる男の自信や、ともすれば傲慢にも映る誇りのようなものがどこにも見えない男だった。

 頭こそ短く刈り上げているが、服装にもまるで無頓着だ。滑舌もよくない。その事をよく彼自身の秘書艦に叱られている。

 彼はまったく子供のようだった。

 

 一度そうやって挨拶をしておいてから、改めて彼は両手を腰に当ててふんぞり返ってみせた。

 いたずらを仕掛ける少年のようににやけながら。

「頭が高いゾ!」

「え? ……ご、ごめんなさい?」

「いいゾ~これ」

「……って、こらこら。提督さんったら」

 葛城はそんな彼をたしなめるようにポンと、まん丸のいがぐり頭に手刀を落とした。

 彼は小さく呻いた。

「ポッチャマ……」

「あなた、そんなエラソーな感じじゃないでしょ。おおかた、本か何か読んで、マネしてるんじゃない?」

「そうだよ(便乗)」

「あ、そうだったの? なあんだ、ザラびっくりしちゃった」

 ザラはほっと胸をなでおろした。

 提督である彼の直属の秘書艦もまた彼女と同じく重巡洋艦であるため、余計にしっかりしていなくては、と思っていたようだった。その点葛城は空母であり、気難しい水雷屋である提督への気安さもあった。

「それで、それってどんな本だったの?」

「本じゃなくて映画だゾ。昨日みんなと一緒に見て、面白かったゾ~」

「あ、リベがいってたやつかな、それ」

「みんなって、駆逐艦なのね(一緒になってはしゃいでそう……)。提督がそんなのでいいのかな」

「なんていう映画でしたっけ」

「お? えーっと……お、お? 忘れちゃったゾ」

「……いいのかなあ」

 葛城は首をかしげた。

 提督も、二人と同じく昼食を取りに来たようだ。いつも傍にいる秘書艦はどうしたのかというと、今日は調子がいいから一人で食べに来たらしい。あまり大きな声ではいえないが、葛城はあの常に完璧な微笑を湛える秘書艦の事が、怖いというか冷たいというのか……ありていに言ってしまえば苦手だったので、密かに気が楽になった。

「あ、それなら提督。ニッポンのパスタ、どれにしようかザラ迷っちゃってて。何かオススメはない?」

「パスタ……」

「ああ、ええっと、麺よ麺。お蕎麦とかおうどんとか。あなたは何が好き?」

「お、お?」

 それを聞いた彼は、その朴訥とした顔いっぱいに笑みを浮かべた。

 しかしその表情は……彼の背負う責任、立場、そういったものからすると。

 それはあまりにも純粋すぎるようだった。

「ならそんなの決まってるゾ! ラーメンだゾラーメン!」

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