一、
「こちら、初月さんの分です。よかったらぜひ、持って行ってくださいね」
「ありがとう……鳳翔! すごい。とても美味しそうだな」
「Ah~……Balle de riz? オ、ム、ス、ビ……? Interessant……」
「うん? ……ああ、そうだな」
初月の差し出した両手に、それよりももっと小さな鳳翔の手が、竹皮でくるまれた包みをそっと手渡した。初月は神妙な面持ちでそのおにぎりを胸に抱えた。まだ少しだけ暖かい気がする。青竹の独特な香りがふわりと辺りに漂った。
先日ぶりに初月とリシュリューは食堂で顔を見合わせた。せっかくだから一緒に朝食をとり、その日の天気や日程やご飯の具合を話し込んで、連れ立って食堂を出た二人を襲撃したのは、ハチマキをきりりとしめた鳳翔と葛城の空母ペアだった。かたわらには台車と踏み台とおひつとしゃもじと、そばの壁に立てかけられている大漁旗があった。
鳳翔たちはこないだの秋刀魚漁でやや余らせてしまった魚を、急遽おにぎりにして皆におすそ分けしているらしい。急いでいたのでメニューはこれしかありませんけど、よかったらお昼にぜひどうぞ、と言われた。初月の包みに鼻を近づけて不思議そうな顔をしているリシュリューにも、同じく鳳翔から手渡された。こちらは見るからに戦艦サイズだった。
「混ぜ込みご飯にしてみたんですけど、少し臭みが出てしまったので、梅干しを一緒にしてみたんです。とても風味があって、美味しくなったんです」
「うん、Merci。ホウショウは料理上手ね」
「さっぱりしたのは好きだ。でも姉さんは、確か苦手と言っていたかな、梅干し。……お前は大丈夫なのかい?」
「わたし? ウメボシを? イイエ、食べた事ないわ」
「あら……でしたら、やっぱり酸っぱいものですから。食べ慣れてない人たちもいますし、梅干しが苦手な方にもと紫蘇や紫を多めにしたものもありますので、よかったら……」
「そうね。せっかくだし、いただく事にするわ。Merci, je suis content,ホウショウ」
包みには玉子焼きなどのおかずも一緒に入っているようで、鳳翔は二人に揃いの猫のフォークも渡してくれた。初月はそれをそっと抱えて、鳳翔の気持ちがこもっている気がして、胸の奥のところが暖かくなるような感じがした。リシュリューも嬉しそうだった。ちなみに、彼女は秋刀魚漁で陣頭指揮をとった卯月に連れられて以来、いつも上から下まで青色の漁師のようなつなぎの格好だった。和食に果敢にチャレンジするのもそのせいかもしれない。
「それにしても、タクサンあるのね。あるタケ作ったの?」
「はい。筑摩さんから急に相談を受けまして、その時鎮守府に待機していたのが、私と葛城ちゃんだけだったので……」
「それは気がつかなかったなあ。また何かあったなら、僕も手伝いたいな」
「わたしもホウショウの料理はスキよ。おみそ汁はちょっとニガテだけど」
「二人とも、ありがとうございます。とても嬉しいです。空母艦娘なら私の一存だけでなんとかなりますから……葛城さんには、少し無理をさせてしまいました」
鳳翔は困ったように苦笑して、頬に手を添えた。
一方の葛城はというと、目の下に大きな隈をこさえたまま、大きなお盆におにぎりの包みをたくさん乗せて、別の艦たちにもふらふらと配り歩いている。ほとんど徹夜作業だったらしい。鳳翔の方にほとんど疲れが見えないのは、さすがに経験の違いというところだろうか。
「僕たちはこの後出撃だから……二人とも、頑張ってくれ」
「はい。よかったらぜひ感想を聞かせてくださいね。リシュリューさんも」
「ええ、エンリョなくね。この外側のは捨てて構わないのかしら?」
「ああいえ、お手数ですができれば持って帰ってください。竹皮は丈夫なので、洗って何度も使えるんですよ」
「そうなんだな。わかった、言う通りにしよう」
二、
「おっ……」
提督が急に何かを思い出したように思案顔をした。
顎に手を当てて一人で考えこむ。
「どうされました、提督?」
「あっTKMか……」
提督はそこで初めて秘書艦に気づいたように言った。
筑摩はそれに慣れっこだったので、静かに言葉の続きを待った。
「俺は恐るべきことに気づいてしまったゾ……」
「恐るべき……ことですか?」
「すっかり忘れていたゾ……すぐに、しかるべき対処を試みなければならないゾ……」
「一刻を争うのですね」
「今からじゃ間に合うかは怪しいゾ……どうしてすぐに気づけなかったのか……俺がバカだった……」
「そうですね」
提督は筑摩から視線を外して、下の机を見るのを二回繰り返した。言い出したら怒られるかもしれないという気持ちがあったようだった。
「実は……秋刀魚漁の事をすっかり忘れてしまってたゾ……規定数には全然満たなかったけど、早く秋刀魚を処理しなければ、大変な事になるゾ……」
「そうですね。残念ながら、ネジに変えさせるのは間に合いませんでしたね」
筑摩はにっこりと微笑んだ。子供に分かりやすく言い聞かせるように言った。
「ですが、秋刀魚漁の後始末は既に終わっていますよ?」
「……」
「獲れた秋刀魚の方は、鳳翔さんに頼んでおきましたから。おにぎりにしたらしいです。後ほど届けてくれるとか」
「……」
「楽しみですね」
「おっそうだな」
提督は思案顔に戻った。
その沈黙を破るように、隣の給水所から戦艦リットリオがやってきて、面々にエスプレッソを配った。
「お待たせしました~。ハイ、テイトク、ちょっと濃い目で熱々ですね。お砂糖はナシ~。ラテ(牛乳)も、チョコレートもケッコウ」
「おっ……そうだな」
「ローマも、同じので~……」
「ありがとう姉さん。砂糖は自分でいれるわ」
「チクマはぬるめでミルクたっぷり、クリームをオオメに~ですね」
「ありがとうございます、リットリオさん」
「はい~。お早目に、召しあがれ~」
促されるがままに提督はカップを口に運んだ。おっ……と小さく呟いて、またしかめ面になった。
舌を火傷したようだった。
あ~今日もまほつく(魔法学校)楽しかったな~
早くwiki見て次のイベントの始まる日確認しなきゃ(無邪気)