懐かしい海の匂いのするその場所は、誰もがせかせかとしていて、とても忙しそうだった。
カサブランカ級航空母艦、ガンビア・ベイは初めての場所にどうしたらよいのかもわからず、途方に暮れて立ち尽くしていた。
長い髪の毛は後ろで束ねてまとめている。荷物を詰め込んだ大きなリュックサックと、片手にスーツケースをころころと転がしていた。
遠くではひっきりなしに知らない言葉が大声で叫ばれていて、空気は鉄と火薬でつんとする感じがした。工廠の機械の低い駆動音。鉄板に鋲を打ちつけるカーン、カーンという高い音。誰かの笑い声。ずしんとお腹に響く音。どこも変わらないんだな、という気持ちはある。だけどそれが、彼女を勇気づける理由になるわけではなかった。
とぼとぼと入り口の辺りを右往左往していると、忙しなく通りすがる人たちの視線がまるで「お前はどうしてここにいるんだ?」ときつく問いかけているような気がしてきて、自分が世界中から見捨てられたような気持ちになった。明らかに自分は異邦人で、周囲から浮いていて、なんの役目もなく突っ立っているのはとても気持ちが悪かった。
「……ひゃっ!?」
ぶぉぉぉといきなり後ろからクラクションを鳴らされて、思わず飛び上がってしまった。
「あっ……。Sorry,so…ご、めん、な……」
資材を積んだ車は彼女に目もくれずに走っていった。慌てて伝えようとした言葉は、古くなった巻き尺みたいに最後まで行かないまま中途半端にぐるぐるになって、ぽとんと落っこちた。
ガンビア・ベイが声をかけられたのは、丁度そんな時だった。
「お前さっき、俺が入ってきたの、チラチラ見てただろ」
「え、えっ? Who?」
そういって声をかけてきたのは、頭を丸坊主にしたガタイのいい男だった。にこにこと人懐こい笑顔を浮かべている。こんな場所なのに、白シャツにズボンのかなりラフな格好で、手には買い物袋を提げていた。
(Sailorってワケじゃなさそう……裏方の人なのかな)
「何か困ってるのか? 言ってくれたら手伝えるかもしれないゾ」
話し方はぶっきらぼうだったけど、悪いやつじゃなさそうだった。金髪碧眼の彼女が話しかけると、みんなどこか身構えたような部分があって、けれど彼にはそれがなかったから、落ち着いて聞けたし、その言葉もすっと入ってきた。
ガンビア・ベイはおずおずと話し始めた。
「ア……えと、その、Greeting……。A guideman will come……」
「お……?」
「ア~……アイ、サツ……って、その……」
「お……。あっそうだ(知将)たぶんTKMに聞けばわかるゾ。今から行くところだから、一緒に行くゾ~」
「う、うー……?」
(この人についていけばいいのかな……?)
ともかく、前を歩く背中を追いかけているのは、何となく安心できた。彼女は護衛空母だから、自分一人で何かを決めて行動したりするのは苦手だった。逆に、彼の方はそういうのに慣れている感じがした。
途中で彼は「あっそうだ」と唐突に、持っていたコンビニの袋の中から、からあげサマ、レッド・ホット・チリ・ペッパー味をくれた。ラッキーな事に、出来立てみたいだ。パッケージにはカラフルなパウダーをまぶした鳥のキャラクターがギザギザと描かれている。
(そういえば、移動してる時は何も食べてなかったから、お、お腹空いたかも……)
意識するとますます空腹が募ってきて、結局、彼女はつまようじを手に取ってしまった。
「Thank you so much……」
「新発売らしいゾ。みんなで食べた方がおいしいからな。他にもあるから、あ、店員さんがスッゲー辛いから気をつけろって言ってたゾ」
「ん……? ん、んひっ!」
ガンビア・ベイはじわっと涙目になった。
可愛らしいチキンナゲットだったのに、とてもアツアツで、しかも味は強烈に辛かった。香りはとてもスパイシーだったのに……。
「わ、わたし、チリソースとかは苦手なんですよぉ……」
「ご、ごめんだゾ」
「う、う~……」
ガンビーちゃん食べるのとか遅そう。遅い(確信)