知将MUR   作:ピュゼロ

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いろいろと調べた結果、何も分からないという事がわかったので、書籍「空母ガムビア・ベイ」ぽちりました。
タイコンデロガと高千穂の実装あくしろよ。


第114514話 頑張れガンビーちゃん! 下

 

 カサブランカ級航空母艦、その19番艦、ガンビア・ベイは、全体としてやや小柄な印象の、頭上に一枚板を乗せた空母らしい、どこか弱々しげな輪郭をしていた。ひとたび海が荒れ始めたなら、抵抗もできずにべしょべしょと全身を濡らして波間に揺れるだろうという事は容易に想像がついた。

 海上護衛を主目的として建造されていて、足はそんなに速くない。全長は512フィート、飛行甲板は80×480フィート、幅108フィート。彼女たちいわゆる「ジープ・キャリア」はとにかくその完成を急がれた姉妹であり、あまり優美とは言えないかもしれないが、ガンビア・ベイはその中でも起工から完成まで171日という記録的な日数で建造された「ボーナス・ベイビー」だ。

 もっとも、今の彼女はかつてよりもさらに小さい。

 

 ガンビア・ベイは彼のあとをちょこちょこと、半歩ぐらい遅れて歩いていた。はじめは歩幅の違いもあり、彼女もちょっとどんくさかったため、追いかけるのにやや遅れがちだったが、彼はすぐにペースを落として色々と話しかけてきた。そこを右に階段を上るとか、食堂ではよくラーメンを食べるだとか、そこの天井から雨漏りがするとか(実際にバケツが置きっぱなしになっていた)。

 ガンビア・ベイはそれに付き従いながら、「うん……うん……」と頷いている。どこか心ここに在らずというか、機械的に相槌を打っていた。耳を傾けてはいるのだけれど、「Yes/No」以上の事を言うわけではない。はっきりいえば彼女は、楽しくなるような話し相手では、全然なかった。彼は気にした様子もなく話し続けていたが。

 その日、風はまだ少し冷たいが穏やかな陽気だった。鎮守府の廊下を一緒に歩きながら、陽の光は彼の暢気さを、彼女の方はその小心さを際立たせているようでもあった。

 彼の好きなものの事や、お友達の話とかだ。それらに、あんまり考え込まずにさらりと。ステキですね。なんて、当たり障りなく、そんなふうに言えればいいんだろうけど。口下手な彼女は、人よりも言葉を噛みしめるのが遅くて、返事をしても相手が傷つかないだろうかとか、そんな事ばっかり気にしてしまって、あんまり会話が続かないのだ。

(私って、ダメダメだなぁ……)

 でも、彼は楽しそうだったから、ガンビアもほっとして、あんまり落ち込まないでいられた。

 

 角を曲がった先のちょっとした談話室のようなところで初めて「艦娘」に出くわしたのは、そんな事を考えている時だった。

 先任に会ったら先に挨拶するようガンビアは決めていた。それがたぶん角の立たないやり方だろうと思っていたのだが、彼女がトロかったため、気づくのが遅れた。「あっ……GYとIKか。遊んでるのか?」「ウワッ!」立ち止まっていたのに、あやうく彼の背中にぶつかるところだったのだ。

 慌てて顔を上げると、険しい表情の潜水艦二隻と、視線がぶつかり合った。

「ううん。べつに、二人で暇してただけなの」

「半舷上陸ってところでち」

(艦娘みたいだわ……。たぶん、Submarines……)

 ガンビアの碧眼と、潜水艦の二つの瞳が、かつんとぶつかり合った。片方が先にへにょりと折れた。

 ピンクの髪をした方は、甘ったるい舌足らずな喋り方で、水着の上にセーラー服を重ね着した独特の格好をしていた。置かれた椅子に深く沈んで、気だるげにガンビアへ視線をよこしている。雰囲気はどこかとげとげとしていた。

 もう一方は、こちらは逆に、ガンビアにも負けないぐらいの船体に水着をバーンと着て笑っていた。同じく設置された椅子に腰を下ろして、行儀悪く広げた漫画とおせんべを、思うがままに賞味していたようだった。彼女と目が合うと、にっこり笑ってウインクを投げてきた。

「そっちの、新入りでちか? ああ……そういえば、聞いてたでち」

「みたい……なのね~」

 にやにやと居心地の悪い、よくわからないけれど、にやけた下卑た雰囲気が突き刺さってきた。

 もちろん、本当はよく分かっている。けれど、ガンビア・ベイはそれについてあまり考えないようにしていた。

「あ、あの」

「アンタって。確か……あれでちよね」

「コンゴーの? しこたまずこずこされたコなのね~?」

「そう、それでち。前に聞いたあのアレ」

「それじゃあ、空母なのね。だったら警戒機とかって、飛ばすの? 飛ばさないの~?」

「そりゃあ、飛ばすに決まってるでち。ブラックバット(敵機)とか言ったでち。道具には使い道ってのがあるでち。でなけりゃ、沈まない潜水艦……」

「浮かない水上艦、ってところなのね?」

 青い髪をした方がくすくすと笑った。

 反対に、ピンクの方は初めからにこりともせず、至極つまらなそうな顔をしたままだった。

 奇妙な事に、両者のどちらの態度も、ガンビアを酷く居心地悪くさせた。自分の手がふるふると震えているのに気づいて、制服の裾をぎゅっと掴んでそれを誤魔化そうとした。

 輸送機から降り立った空母ガンビア・ベイを初めて出迎えた鎮守府の雰囲気というのは、実にこういう具合から始まった。

(だから、チリソースはキライなのよ……!)

 ガンビア・ベイは奥歯を強く噛みしめた。

 ぐぅっとお腹の中から酸っぱい味がこみ上げてきて、頭のてっぺんから冷たいものが首筋をざざぁっと駆け下りてきて、彼女は下を向いてそれをぎゅっと堪えた。

 彼女はよそ者だった。そして、そんな事は関係なしに、既にここへ配備されているのだ。

 腕に下品な刺青を掘り、訛りの強い発音で命令をがなり立てる叩き上げの下士官と、士官学校を卒業しその第一歩から国を代表するエリートとして教育された、育ちも良く発音も優雅で滑らかな貴族将校がいるとする。平時はお互いに大嫌いで、口汚く罵り合う犬猿の仲であるかもしれないが、ある経験を経て、その認識は一変するのだ。

 それが、共通の敵と、肩を並べて戦うという事である。人間的なそりが合わなくても、ある種の分厚い信頼が生まれるのだ。ちくしょう、あいつがあんなに魅力的だったとは思ってもいなかったぜ。そういって、抱き合ってキスさえするかもしれない。

 彼女たちはまさしくそれを経験した者同士であり、ガンビア・ベイの方はあいにく、そうではないのだ。

 ダメよ…ここで挫けてたら、ダメ。みんな、最前線は「ありとあらゆるもの」が荒っぽいって、心配してくれてたんだから……。リスカム・ベイ姉さんも、セント・ロー姉さんも、あんたは武勲艦よ、私達の誇りなのよって……。クェゼリンやレキシントンさんも、心配して、色々声をかけてくれて。それなのに、それが、たった一日でなんて……!

 理不尽と、いじわると、敵愾心と、そうしたもやもやしたものが徒党を組んで彼女の前にある。それらは全部が流動的で、一つの場所に止まる事なく、動いている。それは海の水面みたいだった。

 波に手を入れて、掬い上げても、手の中ではただの水になってしまって、もう動かない。彼女も同じだった。手を伸ばしても、流れはただの水になって、すり抜けてしまう――

 その時、ガンビアの前にずいっと彼が出てきた。話の途中でもお構いなしという感じだった。彼女からは彼の背中しか見えなくなった。

「あう……」

「TKMを知らないか? あちこち探してるんだが」

「知んないでち」

「ここで遊んでただけだからわかんないの。ふつーに執務室じゃない?」

「あっそっか……」

「いっそ聞いてみればいいでち」

 潜水艦の一人が、すっと指さした。その先には、廊下を思い切り走って来る駆逐艦がいた。後にガンビアも知るところだが、MUR艦隊では旗艦筑摩にさえ見つからなければ、大抵の素行の悪さは黙認されていた。

 夕雲型11番艦、藤波は皆の前で立ち止まると息を荒げながら、開口一番「司令! 探したんだからね!」と大声で叫んだ。

「どこ行ってたのさ!? 今日はすんごい人が来るってちゃんと話してたじゃん! しかもなーんか、時間が違ってたとかで、今鳳翔さんが慌てて迎えに行ってんの! ちょっと……」

 そこまで言ってから、どうやら一人じゃないらしいぞと気が付いたようだ。慌てて、膝に手をついていた姿勢を戻した。

「いや、どーも……。ゴーヤさん、イクさん」

「これにて一件落着でちね」

「お、そうだな」

「そっちは……えーと? あー……うっそ? え、マジ? もち?」

「……シレイ?」

 ガンビアはよくわからない話の中から、少しだけ気になる部分を拾い上げた。今の今まで、気づかなかった辺りが彼女の個性というか、どんくさいところなのかもしれなかった。

「うん? そう、司令。英語だと、なんだろ。コマンダーとか、ジェネラル?」

「アドミラルで大体通じると思うのね」

「……Admiral……?(震え声)この人が……?」

「そーだよ? もち」

「当たり前だよなあ?」

「えっ……そんな、だって。気づかなかった……。言ってくださいよぉ……」

「あ、提督がチロルチョコ買ってるのね。イッコ食べるの?」

「ア……Thank you。……ちっちゃい……」

「げげ。物でも船でもアメリカンサイズってホントなの? じゃあ、こっちの、板チョコあげるの」

「あっおい、待てい(中佐)」

 

 しばらくそうやってしたしげな会話が続いていた。

 特に盛り上がったのは、毎週のように姉妹の誕生日があるという話の時だった。

「ステキなのね。毎週誰かのお誕生日ってことは、毎週陸に上がれるってことなのね」

「えっ……ウン……そう、かも……」

「まー、空母がここに来るんだから、ちょっと同情はするでち」

「提督は水雷屋さんなのに、訓練は地獄の鳳翔なのねー。戦艦だってあの金剛ぐらいしかいないし……」

 本来の迎えだったらしい「ホウショウさん」はすぐにやってきた。しきりに手違いをわびてきたのが、ガンビアは逆に困ってしまった。駆逐艦はきびきびと挨拶をして「そんじゃ、待たね、ガンビアさん!」と笑っていった。花の咲いたような笑顔で、ちょっとだけ元気づけられた。

 案内は鳳翔が引き継いでくれた。改めてきちんとした説明を受ける中で、ガンビアは気になる事があってそれを訊ねた。

 利根はいらっしゃいますか? 最後のお別れをしてくれたんです。だから、また、ご挨拶がしたくて。

 そう言ってから、ガンビアはまた、自分がまたとろくて、うかつな事を言ってしまったばっかりに、相手を困らせてしまったのだと思った。

 鳳翔はふっつりと黙り込んで、それから、困ったような顔をして笑った。




頑張れガンビーちゃん!夏休み特別編「絶体絶命ガンビーちゃん!命がけのサマー・ホリデー」

「……え、えぇ……?? ヘリで輸送中に撃墜されて、行方が確認できるFleet carrierが、ご……ここにいる五人だけなんですかぁ~!?」
「やべえよやべえよ……(動揺)GNBA早く何とかしろ~?(他力本願大先輩)」
「二人とも……落ち着いてくれ。こんな事になってしまったけれど……僕が最後まで、みんなを守るから」
「いいえ……これはむしろ、めらめらと燃えてきたわ! 全てはチャンスよ! この周囲を敵がうようよしている大西洋の孤島で、曲がりなりにも提督と共に行動ができている私たちが、今! 全力で戦わなくてどうするの!」
「それはさすがに不可能じゃない? イヨ、悲観的になって全滅するのはイヤだな~って、具申しまーす」
「うーん。それもそうね。じゃあやっぱり擾乱作戦というところかしら。なんとかして生き残りを図って、遅延行動を続ける……現状では、せいぜいそんな程度ね。なんとも素敵じゃない?」
「おっそうだな(便乗)GNBAお前も嬉しいだルルォ?(一転攻勢)」
「え、えぇ……?」
「ここに、僅かだが油とボーキの資源があってよかった。提督、お前がいれば、なんとか最低限は拠点として扱えるだろう」
「当たり前だよなあ?」
「とゆーか、艦隊もなにも、まずそもそもガンビアさんしかいないジャン。……空母!」
「……ふええぇぇ……???」
「うん。そうだな。こんな状況になってしまっているけれど、それはとても心強く思っている」
「つまり暫定的なトップね! すごいわ、鳳翔さんにだって悪態をつけるのよ! 私も妙高姉さんを差し置いて、筑摩より偉くなるとは思ってもみなかったわ! よかったわねガンビア! これはフネの誉れよ!!」
「K……Kurita Fleet is so crasy……!! む、あ、マブシクないですって……! あ、明るくないわ……ミンナ……!?」
「うん? 栗田艦隊は、私じゃなくて妙高姉さんの方ね」
「も……もう、ヤダ……。I……I want to go home……。Please……help me……!」
「アハハハ、やばーい! やばい……やばくない?」
「お、そうだな」

 頑張れガンビーちゃん! カサブランカ級はたくさんの姉妹がいるから、出番を食い合って練度は一桁しかなかったけれど、心配はご無用、敵は売るほどいるぞ! 戦いは待っててくれない!
 他の五人も頼れる仲間たちだ! 歴戦のMUR提督とその艦隊は、悪意ゼロでとんでもない成果を要求してくれるけれど、君もすぐに追いつけるぞ! 艦隊旗艦の筑摩は提督にこれまで、君たち航空戦力を慎重に取り扱わせてきたけれど、今ここにその掣肘はない! 噂の「ホウショウさん」もきっと君を気に入って、帰ったら特別な稽古(意味深)をつけてくれるに違いない! だけどまずは、ここを生き延びることだ!
 頑張れガンビーちゃん! 実はMUR艦隊を乗せたヘリ墜落の元凶である防空棲姫が、逃げのびた君たちを狙っている! 負けるなガンビーちゃん! 1隻だけ最大船速19ノットという日米の設計思想の違いを反映したステータスは、最後の最後海域を脱出するまさにその瞬間に牙を剥く(……僚艦みんなが悠々走る中、機関が焼け付くほどの全速力でも追いつけないぐらいの差)だが、勇気があれば関係ない! 頑張れガンビーちゃん! 筑摩たちMUR艦隊の残存戦力は、レ級を始めとした別動隊に行く手を阻まれている! 友軍はほぼ絶対に来ないぞ! 負けるなガンビーちゃん!

「え……? 無理ですぅ……ゼッタイ、そんな量のSquadron、わたし、積めない……。イヤ、無理です……」
「ま、待って~! みんな足、速すぎぃ……! Stop、Wait!」
「痛いに決まってるじゃない……こ、この人たち、頭がおかしいんだわ……!」
「嘘……無理だって……こんなの、逃げないと……! ウミよりテキの方が、多いんだけど……!」
「アイ……アイ・サー……! CVE-73(護衛空母)、Gambier Bay、と、突撃します!」
「ウワァァァン! お尻、お尻、噛まれた~!! もうやぁぁだあああ!!」
「な、なんでなんで?? なんでこんなトコロに、『防空棲姫』がいるのぉ……???」
「あああああもうやだあああああ!! やだあああもおおおお……!!」
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