知将MUR   作:ピュゼロ

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(浮き輪くんに)やられてしまいました。まさかこんなに(浮き輪くんの魅力を)感じるとは思わなかったのでね。

・浮き輪くん…お腹の口でゼータスイカバーをむさぼり食らう
・ガンビーちゃん…上の口はハンバーガー半個分ぐらい食べる


第114514話 そいつの名は…ガンビーちゃん……!?

 一、

 ガンビアについて、思い出そうとしている。

 葛城が新たな僚艦に初めて出会ったのは、鳳翔さんに連れられた彼女が「ハジメマシテ……」と挨拶した時で、どこかおどおどした表情にへの字の口と、デカいリュックサックと、その後ろでなぜか困ったような顔をした鳳翔さんばかりが印象に残っている。

 振り返ってみると、普段は厳しいけれど、優しくて面倒見の良い鳳翔さんが、新人の前であんな表情をするなんて、という驚きばかりが先行していて、ガンビア本人の事は、あんまりよく覚えていなかった。

「……えと、それって、あんましよくなかったってコト? 第一印象」

「うーん、そういうわけでもないんだけ、ど……」

 腕の震えが止まった。

 ぱしん。手の中から重い抵抗が消える。水の中に、上からずるりと何かが落っこちてきたような、紙切れを二つに割くみたいな一瞬がよぎる。そのまま葛城は流れるように、的に突き立ち震える矢羽を見つめるのと、次の矢を素早くつがえるのと、藤波に返事をする三つの事を同時に行った。

「あんまし、よく覚えてないのよね、正直なところ」

「ふうん……そうなんだ」

 藤波の、あんまり面白くなさそうな返事だ。

 後ろで彼女がどんな表情でいるのか深く考えることもなく(葛城は、艦娘同士の付き合いだとか歴史にあんまり詳しくない)、葛城は次射を放った。一呼吸……二呼吸。弾着、目標、左右よし。少し遠かった。なんだか巡洋艦になった感じだ。

 目を凝らして的を凝視する。

「……うん、今のは良かったと思う。もちね。次は上にふたっつ増やそ」

「ホントに? やった!(二つってなんだろ?)」

 葛城はぐっとガッツポーズをとってはしゃいだ。

 彼女が、鎮守府に二人しかいなかった空母の先達、我らが鳳翔さんに指導されず一人稽古に励んでいるのは、ひとえに彼我の忙しさの違いということになる。経験も戦歴もない彼女と違い、鳳翔さんは鎮守府でも指折りの古豪であり、着任してからが長ければ黙っていても色々と役割もある。古き良き悪癖であるが、鳳翔自身の気質でもあった。

 目下葛城が言いつけられているのは、とにかく空母としての練度を上げること。空母は累計千時間を飛ばしてから。吝嗇の秘書艦は、平時に空母を動かして闇雲に資材を消費するのにいい顔をしないため、空いた時間は折を見て弓に触れておくこと――ということで、葛城はそうしている。空母の仕事はまず空を獲得すること、そのために艦載機を飛ばすこと。そういうわけだ。だから葛城は、弓の方の扱いだとか残心の姿勢だとか、そういう部分はまるでよくわかっていない。彼女がそういった贅沢を覚えるのはまだまだ遠く、赤貧という二文字は船であった頃からついてまわる因縁であるかもしれなかった。

「ならよかった。なんか、話してて邪魔じゃないかなって、うすうす」

「ううん全然そんなことないわよ、鳳翔さんがいる時にも色々話してるしね」

「そっか、うん。霞ちゃんの訓練も、大体そんな感じだ。形式とか、礼儀とかは、あんまりかんけーないってカンジ」

「……そっか」

 葛城は急にどてっ腹に大穴が開いた気分になって、上着越しにおへそのあたりを擦った。もちろん穴なんて空いてないけれど、ほんの少しだけ、鳳翔さんでよかったと思った。

 丁度そんな時だった。

 

 ……戦歴のない空母だと?

 艦娘ドモの劣等感が聞こえてくるようだな……

 そんなモノが航空戦で通用するわけが……なっ?!

 うっ……

 うぉああああ!!!!

 

 奇しくも葛城がおへそをさすりさすりしているのと同じぐらいのタイミングで、練兵場に声なき声が轟いた。

 その声は、言葉になるずっと手前の叫びで、生まれたばかりの赤ん坊が勝ち取った生をただ全力で叫ぶように、暗い海の底の底から響くような、意味成す意味を持たない命がけの雄叫びだった。

 が、生憎葛城も藤波もどちらかといえばカンは鈍い方だったため、叫びの内容にはピンとこなかった。

 遠目からは、的として立てかけていた赤い浮き輪が「パタン」と前のめりに倒れたように見えた。

 その腹のど真ん中には、深々と矢が突き立っていた。

 どう見ても、致命傷であり……

 

「あ、やば……?」

「え、え? なにあれ……なに?」

「わかんない……今朝、鳳翔さんと二人で、防波堤に流れ着いてたのを見つけて。的に丁度良さそうって、拾ってきたの」

「ああそれわかるかも。藤波も、この前鳳翔さんにお菓子の空き箱もらったんだ。小物とか入れてるよ」

 後に語られる、空母と浮き輪の奇妙で不思議なコンビは、実にこの日から始まった……のかもしれなかった。

 

 

 二、

・一方そのころのガンビーちゃんは寡黙な潜水艦と遊んでました

 

「えっとぉ……その。イーヨー……です、よね……?」

『…………』

「お、お腹でもイタイのですか……?」

『…………』

 

 ぴったりした黒い指ぬきグローブの右手がガンビアの頬にそっと触れた。

 ガンビアは彼女の上気し熱いもののこもった視線に間近で見つめられて、胸がどきどきして酷く落ち着かなくなった。

 これじゃ、まるで……。

 

「きょ、今日はずいぶん、黙ってるんですね……」

「あ、あの、近い……ちょっと、近いと思います……」

「イーヨー……?」

『…………』

 

 深い琥珀色をした切れ長の瞳がうるうると潤んでいる。それが見える。彼女に、覗き込まれている。

 真っ赤になった頬っぺたがどんどん近づいてくる。

 荒い息遣い。

 風邪でも引いたようにぼぉっとした笑みで、その小さな唇がかすかに動いて、なにか……情念の込められた言葉を囁いてくる。それはぼそぼそと掠れていて、とても聞きにくかったが、ガンビアの聞き得る限りおおよそ、次のようなものだった。

 

 梅雨が明けたら……一気に暑くなってきましたね……ガンビアさんは、もう慣れたかしら……。わたしはまだまだでイヨちゃんはいい子だからあっという間に馴染んでしまったけれど歩いたりお食事したりお話したりね一番はやっぱり欲しいと思う事で……イヨちゃんの安心だとか……ほかの人の関心だとか……でも、この姿だと……ただ待ってるだけじゃ、誰も……補充してなんかくれないものね……。ガンビアさんは知ってるかしら海の底には頭の上に大きな蓋がしてあって季節の事とか好きなものの事とかなんにもわからなくなっちゃうの時々はっとするぐらいイヨちゃんが心配になってでも声を聞いてもまるで自分で独り言言ってるみたいに思えちゃってまるで海が全部石みたくなってその中で溺れちゃう気がするの伸ばした手足が壁にぶつかってばかりでサイズ違いのベッドに寝てるみたい。だから……たまに上陸すると……ふふ、色々……辛抱が難しくなっちゃう。ふふふ……ありませんか……? 久々に思い切りショッピングができたりして……イヨちゃんもいて……いざ、素敵なお洋服屋さんにきて……もう我慢なんて、できませんよね……? 空母は……潜水艦の…もの…ですもの……。ごめんなさいもう少し近くで見せてもらえるかしら透き通って綺麗な瞳の色ね思わず独り占めしたくなっちゃうイクさんもゴーヤさんも不満負担は適度にガス抜きするよう言ってらしたけど潜水艦同士で迷惑はかけられないものねでも安心してこれでも結構上手なつもりだからね。

 ホントは……ダメなんですよ? 道に迷ったからって……そんなカンタンに……ついてきちゃったら……。

 今から……ちゃんと、教えてあげますからね。……。

 彼女の息は、ミントの良い香りがした。

 

『…………』

「な、なんで服を脱いでるんですか……?(震え声)」




雑誌買ったおまけでガンビーちゃんついてくるなら確かに欲しい。
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