知将MUR   作:ピュゼロ

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オリョールを懐かしく思わない提督には人の情がなく、
けれどもオリョールを取り戻したい提督には心がない
伊58 皇紀一一四五一四年


第114514話 その⑧

 ――今年の夏はホントにやばい! マジでやばいって! イヨたち、このままじゃ壊れちゃ~う! 暑いっていうか、もう物理的に熱い!

 だからせめて、暑いときはジュース飲みたい!

 ねえねえ、お願いだよテイトク~。可愛いイヨたちのためだと思ってさ~。

 ねね、姉貴もそう思うでしょ? 何がいい? アクエリ? ポカリ?

 ……。

 え~、姉貴ってば意外とダイタ~ン――

 

 連日の猛暑日により日中の気温が華氏114514度を軽々超えるようになり、日頃より過酷な任務を強いられる潜水艦たちの一部からは強い声が上がってきた。

 我慢強い(本人談)イヨは、しぶといというよりは単に我慢が好き(意味深)な姉のヒトミと連れ立って、両手を合わせてそんなふうに提督に懇願した。

 要は、かび臭い根性論なんて脱却して、暑い時には水分補給を認めて欲しいというのである。やらなきゃ意味ないよ。相手ぶっ倒すくらいのつもりでikea。

 

「どうせなら、やっぱりビールだよね~! ビールビール!」

「おっ……」

「テイトクもビール呑みたい……呑みたくない?」

「そうだよ(便乗)おう、冷えてるか~?」

「テイトクいいよいいよ~! FOO!」

「ダメです」

 

 秘書艦の筑摩はサハラ砂漠も凍り付くような笑顔だった。イヨはひんやりした。

 不発に終わった日本海の海戦(今回の場合、海はビールに当たる。戦場は執務室と推測され、あわや各国ののん兵衛らが集う一大決戦の勃発を、まったくの政治的な手だてで消化せしめた筑摩の剛腕は見事という他ない)に消沈するうすのろ二人の様子に、鬼の目にも涙というのか、さすがの秘書艦殿もそこはかとない憐みを覚えたとみえ、

「お酒自体は認められませんが」

 とやや語句を和らげた。あるいはただ馬鹿二人をおだてて体よく使ってやろうという魂胆だったのかもしれない。

「でも、筑摩も懸念に思っていたところです。せっかくですから、提督、イヨちゃん、皆さんに聞いてきてくれますか?」

「よし、じゃあIY、ひとっ走り行くぞ~!」

「やったね。……やったぜ」

「当たり前だよなあ?」

「イヨ、別にお水と塩でもよかったんだけどね~。塩舐めて呑むの好きだし」

「甥のIY、加速します(意味不明)」

 艦娘からも痛風に苦しむやつが出るとするなら、イヨとポーラと他の誰が最初かというのは、鎮守府でのよい話のタネだった。

 

 ※

 霞は訓練中であり、全員にその場での腕立て伏せを命じて話してくれた(海の上だった)。言われた駆逐艦たちからはものすごい目で睨まれた。

「ハア? 私がやるのは通り一遍の訓練までだし、別にぶっ壊れるまでしごいてるわけじゃないわ。……ただでさえあちこちでバタバタくたばってくってのに、何でそんなしょうもないことで余計な手間増やさなきゃならないの。第一訓練を視てる私がイヤよ面倒くさい」

「水分補給? とっくにしてるけど。全体でOKってのにするの? ふーんいいんじゃない、ダメでも私は補給させるけどね」

 イヨと提督のことをじろりと目つきで威嚇しながらの言葉だった。MUR艦隊において水雷戦隊の訓練の全てを見ている者のプライドがありありとあった。霞は彼女たちの母であり姉であり、神であり悪魔でもあった。彼女たちの生き死には霞の手にかかっているからだ。

 特に駆逐艦においては訓練なんて大袈裟なものはない。彼女たちが「手足に慣れていない」ので、それをひたすら叩き続けるのだ。理不尽に殴り続けられて、怒って手足を振り回すのが大事なのだ。怒りという一番ポピュラーな感情を知り、それを発散する最も手っ取り早い方法(目の前の訓練艦を殴る、つまりこと実践での敵を打ち倒す事)を知り、そしてとりわけ、集団の中ではどうやっても思うようにならない理不尽な事があると体で理解する。

 一番は殴るのを楽しむやつである事であり、次善はそういうのに作り変える事である。

 それはもちろん無理がある。

 だから彼女たちはこうして全てひっくり返されて価値観を根底から変えられるのだ。

「んじゃ、オッケー、ってコトで。次だれ行く? 鳳翔さん?」

「おっそうだな」

「ふらふら遊んでるのも結構だけどね。筑摩に……旗艦の迷惑にならないうちに戻んなさいよ」

 

 鳳翔は丁度包丁を使ってる時で、話しながら、二人に冷えたカルピスを出してくれた。

「まあ、そうなんですか。喜ばしいことだと思います。やっぱりこの暑さですから、具合を悪くされる方がいるんじゃないかと、気になっていましたから……」

「お水はいつでも飲むように言っています」

「ええ、はい。葛城ちゃんに。この頃はとても暑いので、特に気をつけて」

「え。ナニそれずるくない……?(小声)」

「お、そうだな(小声)」

「……ああ、いや、鳳翔さんにあれってワケじゃないんだけど。なんだかな~」

「腹減ったなあ」

「ね~テイトク。なんか飲みたいよね」

「あらあら。ごめんなさい、今持ってきますから少しだけ待っていてね」

「わ~い、やったー!」

「いいぞ~これ」

 露骨な催促にも笑っている鳳翔さんは優しかった。それはまるで実の母のようだった。

 それに比べにやにやと笑ううすのろ二人は卑しかった。まるで飢えた獣のようだった。

 

 足柄はキャベツを山盛り切っていた。そのままご飯をご馳走になった。

「あら珍しいわね、提督にイヨ。ねえお腹空いてる? お腹が空いてるなら、何か作るわよ」

「腹減ったなあ」

「テイトク(お腹減るの)早いじゃん。ちゃんとお昼薬飲んだ?」

「大丈夫だゾ」

「頭あっぱらぱーの言う大丈夫ってマジ信用できないよね」

「アンタがそれ言うワケ? とにかくちょっと待ってなさい」

 

「なにが水分補給でちか! んなもん、たるんでる証拠でち!」

「あっこら! まだ話は終わってないでち!」

 

 そういった涙ぐましいやりとりの結果、補給問題はあっけなく解決した。むしろ潜水艦以外ではどこもとっくにやっていた。現場の判断に事実上の追認が下りるのは、全てが火のついた車輪のように転がる最前線特有の事情があるのかもしれない。

 イヨはこれに断固として遺憾の意を示したが、そもそも、一週間のうち六日は出ずっぱりの潜水艦(つまり約144時間前後)が組織立ったスケジュールを計画するなんて土台無理な話ではあった。なにせ訓練をつける側も受ける側も陸の上にいる時間がまるでないのだ。根性を鍛える古き良き伝統というのが近いが、そもそもイヨはアルコールで一晩脳ミソを漬け込んでおけば全ての苦痛が上書きされる具合であるし、ヒトミはヒトミで「太いのが気持ちいい……!」というような調子で、どちらかというと苦しみに悶え喜んでいたから、問題はあまり取り沙汰されず放置された。

 

「……てゆーか! そもそも! 夜にやればいいんじゃん訓練! 潜水艦なんだし!」

「すすめ~」

「そうすれば、イヨのセクシーなお尻が焦げなくてすんだし! だったらせめてお酒ぐらい、ってハナシ!」

「……う~」

 イヨがぷりぷり怒って酒をあおると、それを見ていたポーラは眉をひそめて――眉目秀麗なポーラがそれをやると、まるで敬虔な聖職者が神について語るような表情になる――反論した。

「ねえねえ、イヨさん。ポーラ、お酒はやっぱり夜にこそ楽しめるものだと思うんですよぉ」

 そんなことを言った。そういわれて、同じぐらいののん兵衛同士、言葉に通じ合うものがあったのかどうか。

 それを聞いたイヨは再び神妙な面持ちに戻った。

「……お酒はいつ飲んでも嬉しい……嬉しくない?」

「……それもそうですねぇ」

 ポーラは一字一句をゆっくりと飲みこむように頷いた。

 そして、目を輝かせてイヨを拝み始めた。

「すっごく、ステキ~。ポーラ、カンゲキです~」

「でしょでしょ~!」

 

 日々をノリと勢いで乗り切り、常に片手に酒瓶を隠し持っていると思われているイヨではあるが。

 イヨ本人にしてみれば、これでも頑張っているというつもりはある。

 優しいイクちゃん先輩たちからは日夜「イヨちゃんイヨちゃん。これ、提督から判子、もらってきて欲しいのね~」「おい新入り、ついでにカレーパン買ってくるでち」「休暇申請だから、通してくれるまで帰ってきちゃ駄目なの~」「多めに渡しとくから好きなもの買っていいでちよ」などと可愛がり(意味深)を受けている。

「イヨ、もう新入りじゃないのでイヤです~」

 当然ぶん殴られて行かされた。

 諸説あるが、新入りは新しい新入りが入ってこない限りはいつまで経っても新入りなのである。いいだろ上等だろでち。成人の日でちよお前(意味不明)

 ぶん殴られて行かされて、行った先に彼がいた。

 イヨだって、これでもいろんなことを我慢しているのである。

 だから、せめてお水を飲むことぐらいは、見逃してほしいと思っていた。

「ねーテイトク。テイトクと飲むとおいしい……えへへ。テイトクはおいしい?」

「おっ、そうだな」

「えへへ。……イヨもおいしい」




6-5が水揚げ高ずば抜けてるらしいのでしぶしぶ出撃しようとしたら1-1以降解放されてませんでした。
イヨちゃんの秋刀魚グラと秋刀魚ボイス本当に可愛いですね……
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