東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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発進!!

 転校初日の夜、シャルロット・デュノアは咲夜とレミリアの部屋へと足を進めていた。

咲夜との問答の後、シャルロットはずっと考え続けた。

正直、先の見えない未来への不安は大きく、いっその事学園に留まって三年間じっくり考えようかとも思った。

しかしそれも結局は問題の先延ばしに過ぎず、たった三年で事態が好転するとは限らない……。

それならば、河城重工の申し出に賭けてみるのも悪くないのではないか?

 

(本当、ボクも馬鹿だよね。出会ったばかりの人に頼ろうなんてさ……)

 

 ある意味、それはヤケクソであり、勇気でもある。

赤の他人からの甘い話などそうそうある物ではない。……だが、シャルロットは心のどこかで自身に掛けられた咲夜の言葉を信じている。

口では言い表せないが、自身の前に現れた咲夜、一夏、レミリアの三人には、その言葉を信じさせる何かがあった。

ある意味本能とでも言うべきだろうか……。

 

「……十六夜さん、スカーレットさん、居る?」

 

「入りなさい、開いてるわよ」

 

 ドアの前に着き、シャルロットは扉をノックし、扉の奥から返事が聞こえるのを確認して中に入った。

室内には咲夜とレミリアだけでなく、昼間の問答の際に同席していた一夏、そして2組に所属する紅美鈴と射命丸文の姿もあった。

 

「随分早かったわね。……それで、返答の方は?」

 

 玉座に腰掛けるようにベッドに座り、威風堂々とした様子でレミリアは口を開く。

シャルロットは若干雰囲気に気圧されつつも、気を引き締め、軽く拳を握る。

 

「ボクは……」

 

 震えそうになる声を必死に抑える。

『覚悟を決めろ、今勇気を見せずにいつ見せる!?』と、心の中で自分を叱咤する。

 

「申し出、受けさせてください。……僕に出来ることなら何でもします。だから……ボクを、保護してください!」

 

 言った。遂に言った……。

目の前の者達に助けを求めたシャルロットは、自分の中で何かが軽くなったような気分を感じた。

思えば今まで自分はずっと一人で抱え込んできた。

人に頼る事が出来ず、鬱積を溜め込み続け、自分にも他人にも追い詰められていた。

だが、それが無くなった今、残っていた嫌なものが水に流されていくような爽快感がシャルロットの心を満たしていった。

 

「……覚悟、ちゃんと決められたじゃない」

 

 そんなシャルロットに咲夜は前回とは打って変わり、穏やかな笑みを浮かべながらシャルロットの肩に手を置いた。

 

「十六夜さん……」

 

「これでまだウジウジやってるなら、一発殴ってたわ」

 

 どこか感極まったシャルロットに、普段のクールな姿とは違い、姉のような暖かさを感じる態度で咲夜は冗談っぽく返す。

 

「よし、そうと決まれば、早速やる事を済ませようぜ!にとり、出てきて良いぞ」

 

 シャルロットの覚悟と決意を見届け、一夏は誰もいないはずの壁に向かって声を掛ける。

シャルロットは一瞬怪訝な表情を浮かべるが、すぐにその表情は驚愕に変わる事となる。

 

「OK。いやぁ〜、やっと喋れるよ。それにココって人間ばっかりだから結構緊張しちゃうし」

 

「ちょっ!?…ど、どこから!?それに、にとりって……まさか、あの河城にとり!?」

 

 驚愕に声が裏返りながらもシャルロットは声を上げる。

にとりは男性用IS操縦スーツを開発した人物として公に公表されており、紫と並ぶ河城重工の有名人である。

ただし、にとりの場合、紫と違って顔出しはしていないので、にとりの存在はIS業界の大きな謎の一つとして知られている。

 

「うん、そうだよ。顔出ししてないから、よく疑われるけどね」

 

「え……あ、その……」

 

 (外見的に)自分と大差ない筈の少女が超有名人で、しかも自分にフレンドリーに話しかけているという事実と光景にシャルロットは混乱し、口を金魚のようにパクパクと動かす事しか出来ない。

そんな彼女を尻目に、一夏はにとりの背負うリュックに目を向ける。

 

「それで、にとり。例の物は?」

 

「うん、バッチリ持ってきたよ!」

 

 にとりはリュックから一着の黒地の服を取り出す。

にとりが常時装備している光学迷彩を応用して製作された光学迷彩(ステルス)スーツだ。

 

「よし、シャルロット、詳しい事は後で話すからコレを着てくれ」

 

「え?」

 

 予想外すぎる話の展開に着いて行けず、シャルロットは唖然としてスーツと一夏を交互に見やる。

 

「今は時間が惜しいんだ。俺は向こう向いてるから早く!」

 

「言う通りにしなさい。余り時間をかけてると誰かに見られる可能性もあるわ」

 

 自体を飲み込めないシャルロットを急かす様に一夏はスーツを手渡し、レミリアはそれを煽る。

 

「わ、分かった」

 

 呆然としながらも、シャルロットは二人の言葉に従い、急いで服を着替え始める。

 

「もしもし椛、そっちはどう?」

 

『今の所、そっちの部屋に向かってる人影はありません。監視カメラの類もアリスさん達が上手く処理してくれてます』

 

 一方で文は監視役の椛と連絡を取り、周辺の状況を確認する。

 

「き、着替えたよ」

 

 まだ醒めぬ混乱から吃りながらシャルロットは着替えを済ませる。

 

「よし、それじゃ…起動!」

 

 着用を確認し、にとりはシャルロットの着用するスーツの袖元のボタンを押し、シャルロットの身体は透明人間のように姿を消してしまった。

 

「!?……す、凄い」

 

 鏡にも映らぬ自分の姿に驚くシャルロット。

そんな彼女を尻目に一夏達は自分達の荷物を纏める。

 

「よし、今から河城重工に行く。俺達の方は千冬姉が学園の方に根回しして外出許可を取ってるが、デュノアは見られると拙い。外で待ってる車に乗るまでは極力声は出さないように俺達に着いて来てくれ」

 

「わ、分かった……」

 

 自体をまだ完全に飲み込めてはいないものの、シャルロットは再び覚悟を決めて一夏達と共に歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

「本当に知らんのか?」

 

「だから知らねぇって言ってんだろ?しつこいぞ、お前……」

 

 一夏と弾の部屋(本日付で美鈴と交代した)の前にて、箒は弾に一夏の居場所を問い詰めていた。

 

「クソ!何処に行ったんだ、アイツは!?」

 

 苛立ちを隠さずに箒は地団駄を踏む。

そんな箒を弾は冷めた目で見ていた。

 

「なぁ、お前さ、鈴から聞いたんだが、一夏の幼馴染だからって、ちょっとアイツに踏み込み過ぎなんじゃないのか?」

 

 鈴から今までに聞いてきた箒の行為と目の前での態度を見かね、弾は苦言を呈す。

 

「貴様には関係無い!私と一夏の問題に首を突っ込むな」

 

「直接関係無いからこそ見える事だってあるんだよ。お前がアイツの事をどう思ってるかなんて、お前の顔色見れば大体分かるけどさ。お前、一夏の事ちゃんと見てないだろ?」

 

「何だと、ふざけるな!私はずっと昔から一夏の事を知っている!アイツが変わった事を気にも留めない癖に友人面してるだけの貴様とは違うんだ!!」

 

 弾の指摘に激昂し、箒は今にも噛み付きそうな勢いで弾の胸倉を掴んで吼える。

 

「其処(そこ)だよ、其処!何でアイツが変わったって思うんだ?どっちかって言うと成長したって感じだろ?」

 

「アイツは、一夏は昔からとても優しかった!なのに、あの訳の分からん連中に変に影響されて……。対抗戦の時だってそうだ、私の行為が危険だからって私がどんな想いでアイツに活を入れたのかも知らないで……」

 

「……お前馬鹿か?ガキの喧嘩じゃねぇんだぞ。命懸った局面で他人巻き込んでそんな真似すれば一夏だってキレて当然だろ!?……っていうか、例の事件の犯人ってお前だったんだな」

 

 箒の言い分に弾は呆れと軽蔑の眼差しを見せながら、胸倉を掴んでいる箒の腕を振り解く。

対抗戦での事件は弾も噂程度には聞いていたが(当事者が誰かまでは聞いていなかった)、話半分だけでも非は箒の方にあるのは明らかだという事は弾も十分に理解していた。

 

「もういい!貴様などと喋るだけ時間の無駄だ、帰らせてもらう!!」

 

「チッ……そっちから勝手に来ておいてよく言うぜ!」

 

 取り付く島も無い箒に弾は愛想を尽かすように吐き捨て、乱暴にドアを閉める。

箒は箒で不快感に表情を歪めてその場を早足で立ち去った。

 

(ったく、ストーカー女が……あんな風にだけはなりたくないな)

 自身も現在進行形で片想い中という点は箒と同じである事から、弾は箒を片想いの悪い見本として見定めたのだった。

 

 

 

 

 

「何、コレ……」

 

 河城重工に向かう車の中で、シャルロットは手渡された資料を見て声と手を震わせていた。

 

「コレ……本当なの?」

 

「間違いなく事実よ。そこにいるパパラッチ烏が調べ上げたから。……それにこんなことで嘘をつく理由なんて無いわ」

 

 震える声で確認するシャルロットに咲夜は文を見ながら答える。

『烏』という言葉の意図は解りかねるも、シャルロットは再び資料に目を向ける。

 

 

 シャルロットの父、セドリック・デュノア……彼は重工系企業、デュノア社の三代目に当たる。

 

 シャルロットの母、エリザとは学生時代に知り合い、十代の頃から恋愛関係にあった。

エリザが大学卒業直前、シャルロットを妊娠した為、二人の結婚は周囲から確実だと思われていた。

しかし、この頃当時デュノア社のスポンサーだった資産家の意向により、当時の資産家令嬢、クローデットとの縁談が持ち上がった。

エリザの妊娠から数ヵ月後にクローデットは女児を妊娠(この件に関してセドリックは身に覚えが無く、寝ている隙に何らかの逆レイプの類が行われたのではないかと当時のセドリックは推測している。実際は少し違うがその概要は後述)、この事実を武器にクローデットの実家はセドリックにクローデットの婚約を迫り、政略結婚が決められ、エリザとは無理矢理破局させられてしまう。

おまけにクローデットという女は、当時から異常なまでに気位が高く、財力で勝る自身の家柄を鼻に掛け、セドリックだけでなく彼の両親すらも見下し、隙あらばデュノア社を乗っ取らんばかりに増長を強くしていった。

 

 しかし、そんな中でもセドリックはエリザへの想いを捨てる事無く彼女を想い続け、エリザと彼女との間に出来た娘、シャルロットに不自由をさせぬよう、結婚後も密かに資金援助を惜しまなかった。

父として名乗り出る事も出来ない辛さを抱えつつも、セドリックはシャルロットを娘として愛し続けた。

いつの日か彼女達と一緒に暮らせる日を夢見て、デュノア社を大きくし、クローデットの離婚を誰からも反対されぬよう、自身の地位を高め続けた。

 

 学生時代から経営学の分野で高い資質を見せていたセドリックは、大学卒業から数年後、父親から社長の座を受け継ぎ、それを遺憾なく発揮して見せ、デュノア社をフランス有数の大企業に成長させる事に成功した。

ところが、クローデットとの離婚が時間の問題になりつつあった時、不運にもそれがISの登場と重なってしまい、社会風潮が女尊男卑になったのを良い事にクローデットのデュノア家での権力が回復してしまったのだ。

 

 更に、蛙の子は蛙と言うべきだろうか、クローデットの娘、ノエル・デュノアは母と同様に徹底した女尊男卑主義者であり、父である筈のセドリックを見下すという、ISによる女性優遇の社会においても非常に性質の悪い部類に入る人種だった。

しかも、ノエルは確かにクローデットの娘であるが、セドリックの娘ではなかった。

彼女の実の父親は既に故人……クローデットが精子バンクから優秀な精子を買い取って人工授精によって生み出された子供、それがノエル・デュノアだ。

 

 しかし、そんな四面楚歌な状況においてもセドリックは、社長の地位、自分に着いて来た社員達、そして愛するエリザとシャルロットを守るために戦い続けた。

しかし、クローデットの魔の手は遂にエリザ達母娘にも向けられた。

 

 エリザが巻き込まれた轢き逃げ事故……これは事故などではない、クローデット母娘とその一派によって仕組まれたれっきとした殺人(未遂)事件だ。

 

 心の底から愛した女性を失い、そのショックで生まれたセドリックの隙、そこにクローデットは付け込み、デュノア社の実権を掌握したのだ。

セドリックが気付いたときには既に解き遅く、子飼いだった社員達は全て解雇され、デュノア社の主だった幹部と社員は全てクローデットのイエスマンのみに挿げ替えられ、エリザとの娘であるシャルロットの身柄も既に押さえられていた。

 

 この時、セドリックは覚悟を決めていた。

子飼いだった社員達には自身の個人資産(ポケットマネー)から可能な限り退職金を支払った上で再就職を斡旋し、社員達が路頭に迷うのを防ぎ、愛娘であるシャルロットをIS学園に送り出し、クローデットの手が届かぬようにした。

そしてその直後、シャルロットを学園に送り出した事に気付いたクローデットによってセドリックは拘束、自室に監禁されたのだった。

 

 

「…許、さない……絶対、許さない!……アイツ等、殺してやる!!」

 

 整った顔を憤怒と憎悪に歪め、シャルロットは搾り出すように声を上げる。

右拳は血が出るほど硬く握り締め、専用機の待機状態であるペンダントに左手を伸ばすが、咲夜にその腕を掴まれる。

 

「落ち着きなさい。アナタが屑(クローデット)に殺意を抱くのは構わないけど、今のアナタは私たちの保護下よ。冷静になりなさい」

 

「けど……!……………………分かった」

 

 

 咲夜の言葉にシャルロットは僅かだが冷静さを取り戻し、矛を収める。

 

「今はこれから起きる事に備えなさい。これから、アナタは自分の常識を覆す体験を何度もしなければならないのだから……。それに、向こう(重工)にはアナタに会いたがってる人も居るしね」

 

 レミリアの言葉にシャルロットは一瞬怪訝な表情を浮かべるものの、レミリアは意味深な笑みを浮かべるだけでそれ以上は何も語らなかった。

 

「そろそろ着くよ。あ〜、やっと酒が飲めるよ」

 

 運転席の勇儀が愚痴るように一夏達に声を掛ける。

それから一分も経たぬ内に、車は駐車場に止まり、一夏達は車から降りる。

 

「ねぇ一夏、"アレ"はもう外して大丈夫よね?」

 

「ああ、そうだな。デュノアも少し慣れておいた方が良いし」

 

「慣れるって……何に?」

 

 内容の解らぬ一夏達の会話にシャルロットは思わず一夏達に訊ねる。

 

「こういう事さ」

 

 返答して見せたのは勇儀だ。

返答と同時に勇儀は徐(おもむろ)に左腕に手を伸ばし、二の腕に取り付けられた認識疎外用の腕輪を外した。

直後に勇儀の額に突如として一本の角が生えるように現れ、それを見たシャルロットは驚愕に目を見開く。

 

「!!?…つ、角ぉ!?ど、どうなってんの!?この人、角が生えて……」

 

「ハッハッハ!そりゃ当然さ。私はれっきとした『鬼』だからね!」

 

 驚きの余り声が裏返るシャルロットに、勇儀は豪快に笑ってみせる。

 

「お、おお、鬼?そ、それって日本の童話とかに出てくる……」

 

「そう、妖怪よ。でも安心なさい、別にアナタを取って食おうって訳じゃないんだから」

 

「!……す、スカーレットさん、射命丸さん。そ、その背中に生えてるのって?」

 

 再びシャルロットは驚愕し、今度はそのショックで硬直してしまう。

レミリアと文の背中には、それぞれ形こそ違うものの、共通したある物が生えていたのだ。

 

「羽ですよ。私は烏天狗でレミリアさんは吸血鬼ですから」

 

「吸血、鬼……」

 

 ホラーやオカルトにおいて、非常に馴染みの深い単語に、今度は一瞬で理解してしまう。

この時シャルロットの頭の中は真っ白になる寸前だった。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 混乱の真っ只中にいるシャルロットに一夏は肩に手を置きながら声を掛ける。

 

「まぁ、驚くのは理解できるけど、安心しろよ。さっきレミリアも言ったけど、俺達はお前を害するつもりは全く無い」

 

「そういう事。取り敢えず……ようこそ、シャルロット・デュノア。幻想に生きる者達の楽園、幻想郷の入り口へ……」

 

 混乱から抜けきれないシャルロットにレミリアは静かに笑みを浮かべながら歓迎の言葉を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 デュノア社の社長室内、此処には二人の女がいる。

現社長婦人、クローデット・デュノアとその娘、ノエル・デュノア……二人の母娘が何かを会話している。

その表情は悪意に満ちており、見る人が見れば如何にも悪巧みといった印象を受ける表情だ。

 

「ママ!何でアイツをさっさと殺さないの?あの女の時みたいに車で轢き殺して事故死にでも見せかければそれで良いじゃない?」

 

「私だってさっさとあんな男始末したいわよ。だけど、あの男は泥棒猫程度とは違って一応社長なのよ?下手に始末したら警察が何を調べに来るか……」

 

それぞれが苛立ちを見せながら言葉を発する。

彼女達にとってセドリックの殺害は既に決定事項。いや、それ以前に二人の中で自分達の意にそぐわない者や気に入らない相手を殺すことに何の躊躇も罪悪感も無いのだから余計に性質が悪い。

 

「……明日」

 

「え?」

 

「明日の朝、水道管に薬を流すわ。後はあの男がフラフラ外に出た所を轢き殺せば良い。……司法解剖の危険があるし、改竄するのにも金が掛かるから嫌だったけど、仕方ないわ」

 

 クローデットの言葉にノエルは歪んだ笑みを浮かべる。

愉悦、嘲り、侮蔑の入り混じった邪悪な笑みを……。

 

(最初からそうすりゃ良いのよ。無能の臆病者が……アンタなんか私がデュノア社を引き継ぐまでのお飾りでしかないのんだから余計な事するなっての。この前だってあんな見え見えの横領なんてしやがって、アレで私がどんだけ苦労して隠蔽した事か……)

 

 ノエル・デュノア……ある意味において、彼女は実の母であるクローデット以上の邪悪さと外道の資質を秘めた女である……。

 

 

 

 

 

 河城重工社内の休憩室、シャルロットは自身の会うべき人物の到着を待つ中、一夏達から幻想郷の大まかな説明を受けていた。

 

「よ、妖怪や魔法使いなんて……いきなりそんな事言われても……」

 

最も話を聞いただけでは実感が無いのでシャルロットは如何にも『信じられない』といった表情でその話を聞いていたが。

 

「これを見ても?」

 

「幻想郷じゃコレくらい序の口だぞ。修行さえ積めば人間だって、ホラ」

 

 そう言ってレミリアは羽をパタパタと動かしてみせ、一夏は宙に浮いてみせる。

 

「はわわ……!?」

 

(面白いわね、この娘……)

 

 弄り甲斐のある相手を見つけたレミリアは心底愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「こ、コレ本当に現実なの?」

 

「頬でも抓って確認すれば?」

 

「……痛い。夢じゃ、ないんだね」

 

 本当に抓って確認したシャルロットは諦めた様に漸く現実を受け入れたのだった……。

 

「一夏さん、命蓮寺の方達、着きましたよ!」

 

 やがて駆け込むように文が休憩室に入ってくる。

 

「おう、今行くよ。デュノア、来いよ。お前の関係者が来てるぜ」

 

「?」

 

 関係者と言われても今一つピンとこないシャルロットは怪訝な顔を浮かべながら、一夏の後に着いて行く。

 

 

 

「ココだ」

 

 一夏に連れられ、着いた場所は客室の前、近付くたびにシャルロットの緊張は強まる。

一体誰が自分に会いたいというのだろうか?一夏達は自分の関係者だと言っていたが自分と河城重工、引いては幻想郷を結びつけるものなど自分は知らない。

 

「失礼します、シャルロット・デュノアを連れてきました」

 

 目上の人間に接するように一夏は控えめにドアをノックする。

 

「入ってきて」

 

「え?」

 

 中から聞こえてきたのは女性の声。

その声にシャルロットは聞き覚えがあった。

だが、ありえない。この声はもう二度と聞く事が出来ない筈だとシャルロットは頭を振る。

しかし、頭の中で急速に先程の説明が思い出される。

 

外界から幻想郷に流れ着く者は大きく分けて3種類いる。

一つ目は外界で殆ど忘れ去られ、幻想郷に流れる『幻想入り』。

二つ目は守矢神社の面々の様に、自らの意思とその足で幻想郷へと渡る『外来者』。

そして三つ目、何らかの突発的転移で幻想郷へ流れ着く『神隠し』。

 

 もしもあの時、“あの人”の遺体が見つからなかったのは神隠しが原因だったとしたら……。

 

 雲を掴むような話、余りにも現実離れした想像……そんな仮説が一瞬のうちに構築されていく。

気付いた時、シャルロットは一夏がドアを開けるよりも早く、ドアノブを奪い取るように掴んでその扉を開いた。

 

「……あ……あ…………お母、さん?」

 

 そして視界に現れた人物に驚愕し、歓喜する。

 

「……シャルロット」

 

 目じりに涙を浮かばせながら目の前の女性……エリザは娘であるシャルロットに微笑む。

それを見た途端、シャルロットの中で何かが爆ぜる様に溢れ出し、シャルロットの足は母に向かって駆け出していた。

 

「お母さぁぁん!!」

 

「シャルロット……!!」

 

 お互いに駆け寄り、母と娘は一年近く会えなかった時間を埋めるかのように名を呼び合い、抱きしめ合う。

 

「シャルロット……ごめんなさい、ずっとアナタに、辛い思いを……!」

 

「お母さん、お母さんっ……うああぁぁぁぁ!!」

 

 もうそこからは二人とも嗚咽しか出ず、ただただ歓喜の涙を止め処なく流すのみだった。

だが二人にはそれで十分だった。

今はただ、再会出来た喜びだけを感じて……。

 

 

 

「俺達も無粋だよなぁ。親子水入らずの場面を盗み見とかさぁ……」

 

 ドアの隙間から母娘の再会をこっそり眺めながら、一夏は苦笑いしながら呟いた。

だが、苦笑いではあるものの、その表情には安堵感のある優しい笑みだった。

 

「エリザ……良かったわね」

 

「…………」

 

 エリザの主人である一輪は涙ぐみながら優しく微笑む。

彼女の相棒の雲山(現在身体のサイズを小さくしている)も無言のまま男泣きしている。

 

「シ゛ャルロット゛さ゛ぁん……良かった、良かったよ゛ぉ……」

 

「美鈴、アンタは泣き過ぎよ」

 

「すいません、私こういうの弱いんです……」

 

 鼻水垂らして号泣する美鈴に突っ込みながらも咲夜も満更ではないといった表情だ。

 

「でもまぁ、良い結果で何よりですね」

 

「あら、写真は取らないの?パパラッチ烏のアナタが……」

 

「流石にコレを新聞のネタにしようとは思いませんよ」

 

 ドアとは少し離れた位置で文とレミリアは軽口を叩き合う。

 

「さてと、お邪魔虫は退散。コレからが今夜の本番よ」

 

 妖しく笑みを浮かべ、レミリアは外を……正確には上空に浮かぶあるものに目を向けた。

 

 

 

 

 

 改造エンジンと光学迷彩を装備された船が河城重工上空で鎮座している。

それは、カスタマイズされた聖蓮船……IS並の速度で飛行し、フランスへも一晩の内に往復でき、重力制御もバッチリだ。

コレに搭乗して一夏達はフランス、デュノア社へ突入、セドリックを救出するという算段だ。

 

「にとり、白蓮さん。どうだ?準備の方は?」

 

 聖蓮船に乗り込み、一夏は最終整備を行うにとり、それに付き添う白蓮に声を掛ける。

 

「うん、整備はもうすぐ終わるよ。ただ、通信担当が居ないのはちょっと残念だけどね」

 

 にとりは工具を持ったまま受け答える。

聖蓮船は船長と砲撃は村紗で賄えるが、通信に関しては専門の知識を持つ者が必要になってくるため、幻想郷のものでは

にとりが同行できればそれに越したことはないが、にとりは航行中は砲撃と出力調節を離れる事が出来ないため、残念ながら通信にまで手が回りそうになかった。

ちなみに、他の河童は機体の開発や整備があるため重工を離れる事が出来ないので同行は不可能である。

 

「こっちも準備万端です。」

 

 白蓮は窓の方に目を向け、底から光の球が船内に入ってくる。

 

「お待たせ……ったく、数が多いから凄く面倒だったよ」

 

 光の球が言葉を発すると同時に左右違う型の異形の羽を生やした黒髪ショートボブの髪型をした少女が姿を現す。

彼女の名は封獣ぬえ、地底に封印されていた頃からの村紗の知り合いで、聖蓮船の異変の際に飛蔵の破片をUFOの姿に変えた張本人である。

彼女は異変後、霊夢に退治され、その後は白蓮たちに受け入れられて命蓮寺で暮らすようになった妖怪だ。

 

「ほらよ。人間に協力するのは癪だけど、世話になってる奴(白蓮)からの頼みだからね」

 

 ぶっきらぼうな態度を見せつつ、ぬえは一夏にある物が入った袋を手渡す。

小さな蛇を象った様な彫刻らしきものだ。

 

「これが……」

 

「ああ、私の能力(ちから)で作った種の改良版。それを身に着けておけば見る者には全員真っ黒な影にしか見えないよ」

 

 ぬえの能力は『正体を判らなくする程度の能力』。

ちなみに、その能力で作られた『正体不明の種』を使用すれば一夏達の招待は隠す事が出来る。

隠蔽工作にはこれほど適した能力は無いだろう。

 

「ありがとう。ありがたく使わせてもらうよ」

 

「お、お礼なんて言わなくて良い!別にお前みたいな人間のために作ったわけじゃないんだからな!」

 

 素直に礼を言われ、ぬえは少々動揺しながらそっぽを向いた。

 

「あらあら、素直じゃないわね」

 

「そんなんじゃないってば!」

 

 素直になれない子供を見るように微笑みながら自分を見る白蓮にぬえは顔を真っ赤にして否定するのだった。

 

 

 

 

 

 それから数十分後、シャルロットを連れてきたメンバーである一夏、レミリア、咲夜、美鈴、文の五人とエリザを除く命蓮寺のメンバーが聖蓮船の甲板に集まった。

 

「さて、エリザが戻り次第、私達はフランスのデュノア社に向かって幽閉されたデュノア社長を救出する。ここまでは良いわね?」

 

 場を仕切るようにレミリアが全員を前に目的を確認し、その場に居る者達は無言のまま頷いた。

 

「全員、ぬえから受け取った種は身に着けてるな?コレが無いと正体がばれるから、ISに乗ってる奴は絶対落とさないようにな」

 

「……ご主人。良かったね、IS乗りじゃなくて」

 

(……言い返せない)

 

 ナズーリンの指摘に星は内心かなり凹んだ。

 

「あ、エリザさん来ましたよ!」

 

 外を見張っていた美鈴から声が上がる。

船体の下から甲板に向かって一人の人影が近付いてくる。

シャルロットに幻想郷に来た流れ着いた際の経緯を説明し終えたエリザだ。

 

「お待たせしてしまって、すいません。準備が終わりました」

 

「構わないわ。こっちも丁度準備が終わったところよ」

 

 遅れてしまった事に申し訳なさそうに謝罪するエリザ。

そんな彼女の謝罪を受け流し、レミリアはエリザに甲板に来るよう促す。

 

「よし、それじゃあ……」

 

「待って!!」

 

 いよいよ出発しようとする聖蓮船。

しかし下方からスピーカーを使った大声が飛んでくる。

声の主は訓練用の打鉄を纏ったシャルロット。彼女は重工から借りたこの機体で聖蓮船に乗り込んだ。

 

「シャルロット!?アナタどうして?」

 

 驚く様子を見せるエリザを余所にシャルロットは一歩前に踏み出す。

 

「お願いします!僕も連れて行ってください!!」

 

 シャルロットは床に手を付いて頭を下げた。所謂土下座である。

 

「シャルロット、この件は私達に……」

 

「危険なのは解ってる。だけど……ボク、ずっと自分の事ばっかりだった。お父さんがどんな想いでボクをIS学園に送り出してくれたのかも気付かないで、だから……ボクもお父さんを助けたい!助けて、ちゃんと話をして、お母さんとお父さん、一緒に暮らしたい!だから、お願いします!!」

 

「シャルロット……」

 

 額を床にこすり付けて頼み込むシャルロットにエリザは言葉を失ってしまう。

そんな二人の間に割って入るようにレミリアが近寄る。

 

「通信士の席が空いているんでしょう?私達は彼女がそこに入る事に文句をいうつもりは無いわ」

 

「レミリアさん!?」

 

 驚いて振り向くエリザ。

しかしレミリアは余裕を崩さずエリザと向き合う。

 

「決めるのはシャルロットと……そしてアナタよ、エリザ」

 

 そして静かに言い放つ。

その言葉にエリザとシャルロットとの間に沈黙が流れる。

 

「……私、母親失格かもしれないわね。娘をわざわざ危険な任務に連れて行くなんて」

 

 困ったような、諦めたような表情を一瞬浮かべ、直後にエリザは真剣な表情でシャルロットと向き直る。

 

「じゃあ……」

 

「シャルロット、一緒にあの人を助けましょう。だけど約束して、アナタも私も、そしてあの人も、皆で生きて、此処に戻ってくるって」

 

「お母さん……うん!!ありがとう!!」

 

 母に感謝の意を示しシャルロットは強く頷いてみせる。

それを眺め、快活な笑みを浮かべて一夏はにとりと村紗に向き直る。

 

「よし、話は決まりだな!にとり、村紗!頼むぞ!!」

 

「OK、光学迷彩起動!いつでも行けるよ!!」

 

 一夏の言葉に、にとりは威勢良く返事をして光学迷彩を起動させ、船は無色透明になったかのようにその姿を消した。

 

「聖蓮船、発進!!」

 

 そして村紗の声が飛び、船は凄まじい速さで飛び立つのだった。




機体紹介

打鉄(河城重工仕様)

河城重工が倉持技研に使用料を支払って作った訓練用の機体。
改良が加えられており、飛行が可能。
武装はアサルトライフル、近接戦闘用ブレード、投擲用カッター。


次回予告

 フランス、デュノア社に突入する聖蓮船。
漆黒の影を身に纏い、一夏達は敵を討つ!

次回『空中決戦!!』

一夏「外界に出た時から、覚悟は出来てる!」

エリザ「落とし前は付けさせて貰うわ!」
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