東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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今を超えろ!!(後編)

「オラァッ!!」

 

「っ……(速い!?)」

 

 試合開始と同時に一夏は真っ先に動き、簪目掛けてDアーマーを装備した右拳でボディブローを繰り出す。

簪はその拳の速さに内心驚くが間一髪で夢現を盾にする事でこれを防ぎ、更に身体を宙に浮かせて拳の衝撃を受け流し、後方へ吹っ飛ばされる代わりにダメージを和らげる。

 

(解ってるつもりだったけど、何てパワーなの!?……まともに受け止めていたら夢現は確実に折られてた。

これがお姉ちゃんをノックアウトした力……やっぱり凄い。でも、負けてられない!!)

 

 スタープラチナに殴られた悪役の気持ちになりそうになりながらも夢現を握る手に力を込める。

 

「ッ、ダァアアアーーーーッ!!!!」

 

 気合の掛け声と共に簪は夢現で一夏目掛けて突撃する。

格闘戦を得意とする一夏を相手に接近しての戦いを挑むのという自殺にも等しい行動だが、簪の表情に迷いは全く無かった。

 

「ハァァッ!!」

 

「遅いぜ!」

 

 接近するや否や、簪は夢現の刃先を一夏目掛けて振り下ろすが、一夏のDアーマーに覆われた手がそれを阻み、鷲掴む。だが……

 

「そこぉっ!」

 

「あぐっ!?」

 

 直後に苦悶の声を上げたのは一夏だった。

夢現を受け止められたその刹那、簪は一夏の太腿にローキックを繰り出したのだ。

 

「〜〜っ!!」

 

 装甲で守られていない部分を蹴られ、一夏の表情は苦悶に歪む。

それもISを纏った足でである。いくらシールドエネルギーで防御されているとはいえ痛みは半端なものではないだろう。

 

(人間誰しも、自分の自信がある事には、正攻法で対応したがる。

だからこそ動きもある程度予測できるし、搦め手や奇襲が有効になりやすい!!)

 

「ウグァッ!!」

 

「まだまだ……っ!」

 

 続けざまに簪は一夏の顔面に頭突きを見舞い、一夏を怯ませて掴み取られた夢現を格納して消し去り、再び距離を取る。

そこから今度は春雷を展開し、距離を取りつつそれを連射する。

 

「チッ!…………嘗めんなぁっ!!」

 

 だが、一夏とて黙ってやられる訳ではない。

地上にある壁目掛けて両手で貫手を打ち込み、Dアーマーの持つ凄まじいパワーでコンクリートの壁を一部刳り抜き、それをバリアの様に用いて荷電粒子の弾丸を防ぎ切った。

 

「そりゃあぁぁっ!!」

 

「ちょっ、嘘、ブッ!?」

 

 更に瓦礫の一部を持ち上げ、それを簪目掛けて投げ付ける。

自分に負けず劣らずな、突拍子も無く豪快な攻撃に面食らい、簪は岩石攻撃を諸に喰らってしまった。

 

「あぅぅ……は、発想のスケールまで大きすぎる」

 

 顔を抑えつつ簪は体勢を立て直し、身構えながら愚痴を溢すが、まだ闘志は衰えた様子は無い。

 

「お前こそ、さっきの戦法は大胆だったな。自分が慢心してたのが思い知らされたぜ。

思わずちょっとだけ本気出した」

 

(嘘に聞こえない上に、あれで”ちょっと”ってのが恐ろしすぎるけどね……)

 

 苦笑いを浮かべ多少なりとも本気を出させた事に手応えを感じ、自分と同じく体勢を整える一夏を見据える。

 

「仕切り直しだ。今のと同じ手が通じると思うなよ!」

 

「言われなくても、そのつもり!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、嘘……でしょ?」

 

 簪の試合を観戦する楯無は動揺を隠せなかった。

油断していたとは言え、自分がまともに一撃を入れる事も出来なかった織斑一夏を相手に簪が先制攻撃を決めたのだ。

自分とて最初から全力で飛ばして意表を突く事が出来れば同じ事を出来る自信はある。

だが、1年前……つまり1年生当時の自分が同じ事を出来るかと問われれば正直言って余り自信が無い。

 

「そんなに狼狽するほどの事か?言ったろ、簪は強くなってるって」

 

(くっ……!コイツら、一体簪ちゃんに何をしたっていうの?

あんな戦い方、以前の簪ちゃんでは絶対に出来なかったわ!)

 

 呆れた口調の魔理沙を睨み、楯無は奥歯を噛み締めて激情を抑える。

以前の簪ならば、先程のように敢えて相手の土俵に立つという真似はせず、出来る限り相手に優位な状況を避けていただろう。

故に、簪には決め手に欠けやすいという弱点があった。

つまり簪の戦い方は、『負けない』事に重点が置かれている……良く言えば慎重、悪く言えば臆病な戦法だった。

しかし、今は違う。

この戦いにしても、先の対鈴音戦にしても、簪は攻めるべき時は迷わず攻め、守りを固める時は守りに徹する。

利口(クレバー)かつ大胆……それが今の簪の戦いぶりを表す言葉だろう。

 

(変わっているっていうの?コイツに影響されて、簪ちゃんが……。

何でよ……何でこんな女に…………。

簪ちゃんを守るのは、強くしてあげるのは、私の役目なのに……。

私の、誇りなのに…………)

 

 簪は強くなっている……それはもう否定できない。

しかし、それが目の前にいる女、霧雨魔理沙の影響だという事実が、楯無には堪らなく悔しかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くよ!」

 

「ああ、かかって来な!」

 

 一気呵成とばかりに再び春雷を乱射しながら一夏目掛けて突撃する簪。

対する一夏はその場から動かず、襲い掛かる弾丸をDアーマーで防御、あるいは身を捻ってかわし、捌いていく。

さらにその中で自らもDガンナーを広範囲に連射して牽制する。

 

(まだ、もっと近付かないと……)

 

(もっとだ、もっと近付いて来い……)

 

 両者牽制しながらお互いに仕掛けるタイミングを見計らう。

やがて二人の距離が一定に達したとき、試合は大きく動き出した。

 

「っ!!」

 

 先に動いたのは簪だ。

春雷を格納して一気にスピードを上げ、一夏に再び肉薄しようとしたその刹那、

突如として簪は、先程一夏が砕いた瓦礫を拾い上げ、そのまま一夏に投げつけた。

 

(!?……俺と同じ真似を!

だが、これだけの筈が無い!!)

 

 投げ付けられた瓦礫を軽く払いのけ、一夏はより一層警戒心を強めて簪の出方を窺う。

 

「!?」

 

 直後に来る攻撃に一夏は僅かに目を見開いて驚く。

簪の持つ夢現には、本来有る筈の刃が無かったのだ。

 

「ハァァッ!!」

 

 直後に先端部からビームの刃が形成され、そのまま刺突を繰り出し一夏を襲う。

 

「チィッ!」

 

 紙一重でコレをDアーマーで防ぎ、一夏は難を逃れる。

 

「薙刀を改造、してたのか?」

 

「まぁ、ねっ!!」

 

 口元に笑みを浮かべて簪は一夏の腹目掛けて蹴りを放つ。

これは一夏に簡単に防がれ、弾かれてしまうが、それは問題ない。

元々攻撃する為ではなく、距離を取るために放ったものであり、後方に弾き飛ばされた時点でそれは達成されたと言える。

 

「行っけぇーーっ!!」

 

 弾き飛ばされながら簪は夢現を握る手に力を込め、直後にそれを一夏目掛けて投げ付けた!

 

「遅い!」

 

 だが、一夏に直撃を許すほどの速度には至らず、Dアーマーを装備した左手で柄の部分を掴まれ防がれてしまった。

だが…………

 

「取った!」

 

「!?」

 

 ココで一夏は簪の狙いに気付く。

夢現は刃を取り外してビームを新しい刃にしている。

では元々あった筈の刃は何処へ行ったのか?

答えは簡単だ――――――『簪が隠し持っている』のだ。

 

「せぁぁぁっ!!」

 

 叫びと共に繰り出される夢現の刃。

短剣と化したそれはその軽さを活かしたスピードで一夏に襲いかかる。

 

「クッ!まだまだ……っ!」

 

 しかし一夏も負けてはいない。空いている右腕のDアーマーでコレを弾き受け止め、反撃に聳狐角による斬撃を繰り出す。

 

「グゥッ!!」

 

 やはり攻撃力で大きく差を開けられている分、簪の腕は簡単に弾き返される。

 

「オラッ!」

 

「ガ……ッ!!」

 

 その際に生じた隙に乗じて一夏は簪の身体に拳を叩き込み、大きなダメージを与える。

直撃を受けた簪は苦悶の声を漏らすが……。

 

「肉を切らせて…………」

 

(!?……しまった!)

 

 聞き覚えのある台詞に一夏は”やられた”とばかりに表情に焦りの色を浮かばせる。

それと同時に簪の手が動いた!

 

「骨を断つ!!」

 

 先の試合で弾が見せた戦法と同様、直撃を与えた際の隙を突いて繰り出される一撃。

武器を持たない徒手空拳のアッパーカットが、一夏の顎下を強襲し、渾身の一撃を見舞う!!

 

「ぐぁぁっ!!」

 

 自らのお株を奪う拳撃を急所に喰らい、一夏の身体は大きく仰け反る。

それこそが簪にとって最大の好機だった。

 

「ハァァアアアアアアアーーーーーーーーッ!!!!」

 

 一際大きな叫びと共に簪はビーム薙刀と短剣の二刀流を振るい、連続して一夏に斬撃の雨を喰らわせる!

 

「ガァァッ!!!」

 

「これで、ラストォ!!」

 

 仕上げの一撃に簪は薙刀のビームを最高出力にして一気に振り下ろす!

コレで一気に一夏のSEを減らし、戦況は自分に大きく傾く……それが簪の算段”だった”。

 

「…………っ」

 

「!?」

 

 一瞬の内に全てが変わった。

一夏の目つきと雰囲気、簪に傾いた戦況……それら全てが一瞬の内に変わった。

 

「カッ……!?」

 

 一瞬、簪は何が起きたのかわからなかった。

瞬く間に一夏が身を屈め、その勢いに乗せて足で夢現を蹴り上げ、そのまま簪の肩口に踵落としを決めたのだ。

 

「っ、おおおぉぉぉぉーーーーーーっ!!!!」

 

 咆哮と形容するに相応しい雄叫びがアリーナに木霊する。

それと同時に簪は全身に衝撃を受ける。

 

「ガ、ハッ……?」

 

 殆ど何も見えず、簪は自分の身に何が起きたのかが一瞬解らなかった。

だがその疑問もすぐに解けた。直後に受けた更なる一撃において…………。

 

「あぐぁぁっ!!」

 

 視界が一瞬だけある物で覆われた。それは一夏のDアーマーの拳だ。

この時簪は、漸く自分が一夏の拳を叩き込まれたという事に気が付いた。

 

「うぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 気が付くとほぼ同時に簪の身体は吹っ飛ばされ、地に激突して小規模ではあるがクレーターが出来上がる。

正にそれは、先の戦いにおいて、弾が美鈴の本気の実力で叩きのめされた時の再現だった。

 

「あ、ぐ……ぅ……」

 

 打ちのめされながらも、簪は辛うじて意識を保っていた。

不意を突かれたに等しい弾とは違い、美鈴の本気を見ていた事で、ある程度一夏の本気に対して予想と覚悟が出来ていた事がココに来てプラスに働いたのだ。

 

(残りのSEは、29%……。

たった数発受けただけで7割近くも……。

これが、一夏の本気……やっぱり、強い。でも……)

 

 まだ終わりではない。SEが尽きるか気を失うまでは敗北ではないのだ。

それを理解している簪は己を奮い立たせる。

そして考える……逆転の一手を…………。

 

(逆転するには、もう『アレ』を使うしかない。問題はどうやって当てるかだけど……!)

 

 思考する中、簪はすぐ近くにある瓦礫に目を向ける。

たった今自分が地面に激突した際に散らばったそれは、思いの外大きく、身体半分を隠す事が出来る程の大きさを保っていた。

 

「これなら……イケる!!」

 

「とどめだ!」

 

 簪が策を見つけるとほぼ同時に、一夏はとどめを刺すべく、Dガンナーを連射しながら簪目掛けて一気に急降下する。

簪が動いたのはその直後だった。

 

「っ、アアァァァァァァァーーーーーーーー!!!!」

 

 瓦礫を盾の様に構え、自らも突撃する簪。

迫り来る射撃を瓦礫で防ぎ、ダメージを最小限に抑える。

そして射程距離間近になった所で、手に持った瓦礫を一夏目掛けて投げつけた!!

 

「そんなもんが!」

 

「効くなんて思ってない。だけど……!」

 

 難無く瓦礫を払い除ける一夏。

だが、簪は尚も真っ直ぐに突っ込み、そして……

 

「視界を遮って、近付いて山嵐(これ)を展開する時間は、稼げる!!」

 

「何!?ま、まさか……!?」

 

 思わぬ簪の行動に一夏は愕然とする。

目の前には山嵐を展開し、笑みを浮かべる簪。

ココに来て一夏は簪の狙いに気が付いたが、それでも信じられなかった。

なぜなら簪は、山嵐を”至近距離から”発射しようとしているのだ。

 

「簪、お前!?」

 

「爆風ってね、主に上と横に広がるんだよ!」

 

「!?」

 

「喰らえぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!」

 

 零距離から放たれた48発のミサイルその全てが一夏を遅い、爆発で飲み込んだ!!

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「グゥゥッ!!」

 

 爆発を諸に喰らった一夏は吹き飛ばされ、アリーナの壁に激突し、そこからバウンドして地面に倒れ伏す。

そして、その煽りを受けた簪もまた、その身を再び地面に打ち付ける。

最も、簪は下方(風下)から撃ったため、受けたダメージは一夏と比べて遥かに軽く、SEも僅か3パーセントながらも残っている。

 

(クッ!一夏は……)

 

 簪はすぐに一夏を見やり、その状況を確認する。

一夏は大ダメージを受けてこそいたが、自分と同じく戦闘不能には至っていない。

だが同時に、自分よりも大きく体勢を崩している。

正にそれは簪にとって勝負を決める最後にして最大のチャンスだった。

 

(あと一撃、後一撃決めれば……!)

 

 意を決し、夢現を展開し、残りの簪は身構える。

もうビームを出すだけのエネルギーは無いが、刃自体は無事だ。

再び刃を装着し直し、夢現は改造前の振動薙刀と同じ物となった。

 

「私は、勝つ!!」

 

 そして四度目の突撃。

己の残りの力を振り絞り、簪は勝利を掴みに行く!

 

「っ……うぉおおぉぉぉーーーーーっ!!!!」

 

(!?……このタイミングでパンチを!?)

 

 迫り来る夢現の一撃に、一夏は崩れた体勢を無理矢理立て直して拳を突き出した。

しかしそのパンチは夢現と比べてリーチ差は歴然。さらに射程外だ。

仮にLAAを試用したロケットパンチを繰り出しても間違いなく夢現の方が先にヒットするだろう。

だが、しかし……

 

「俺の、狙いは……」

 

(しまった!!……………………その手が!?)

 

「夢現(ココ)だぁ!!」

 

 一夏の狙いは簪ではなく夢現!

Dアーマーはビームすらも防ぐ特殊装甲。

夢現を真正面から拳で打つ事で夢現を破壊し、その勢いのまま簪の身体を打つ!!

 

「ガハァァァッ!!(……………………やっぱり、強いや)」

 

 凄まじい一撃に倒れながら簪は素直にその力に敬意を覚える。

一夏の行った正面からの武器破壊からのカウンター……これを成すには絶妙なタイミング、針の穴を通すが如く緻密かつ正確な拳筋が要求される。

並の実力ではとても出来ない事を一夏はやってのけたのだ。

 

『試合終了―――――勝者・織斑一夏!』

 

 勝者を告げるアナウンスが流れる中、それをかき消すかの如くこの日一番の喝采が吹き荒れる。

それは勝者となった一夏、そして凄まじい執念で大健闘を見せた簪への祝福にも似た大喝采だった。

 

 

なお、余談ではあるが一夏の残りSEは22%だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こんなのって……」

 

 楯無は目の前の出来事を前に、ふらふらとその場にへたり込む。

簪が、今までずっと自分より弱いはずの存在だった簪が自分の予想を大きく超え、一夏を苦戦させたのだ。それは簪が一夏との戦いを想定して訓練、研究を重ねに重ねた結果だった。

簪の善戦は入念な下調べと準備による賜物といって良いだろう。

故に、仮に今楯無と戦えば、まだ勝敗は分からない。

楯無が勝つ確立も十分にある。

だが、楯無にはそれが、今の簪の強さがどうしても受け入れられない……。

 

「何なのよ……アンタ達は一体、何者なの!?」

 

 簪の姿を満足気に見詰める魔理沙に向かって、楯無は激情にも近い感情をぶつけるが、魔理沙は静かに楯無を見据え、やがて一言呟いた。

 

「何者でもないさ。

普通の、魔法使いだぜ」

 

「…………はぁ?」

 

 呆然とする楯無を一瞥し、魔理沙はその場を後にしたのだった。

 




次回予告

 トーナメントも無事に終わり、一夏達は祭の後の打ち上げを大いに楽しむ。
一方その頃、幻想郷に移住したシャルロット達は……。

次回『シャルロットの一日』

シャルロット「発破工事にでも使うの?」

にとり「うん、大体そんな所」




新武装紹介

夢現(改)
倉持技研初のビーム兵器。
刃部分が付け外し可能になり、ビームの刃を生成する事が出来る。
さらに切り離した刃部分は短剣として使用出来るため、変則的だが二刀流も可能になった。

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