東方蒼天葬〜その歪みを正すために〜   作:神無鴇人

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決意~強くなるために~

「あ、はは……すごい、凄いよいっくん。凄すぎて、腕……吹っ飛んじゃったよ」

 

 一夏のスペルによる光が収束し、煙が晴れた先……篠ノ之束の姿はそこにあった。

息は荒く、額には脂汗を滲ませ、右肩から先を失い、そこから夥しい血を流しながらも、彼女は生きていた。

 

「流石に、ココまでやってくれるとは思ってなかったよ。

これだけ無茶するなんて……そんなにちーちゃんが大事なんだ」

 

「……」

 

 溢れ出す血を魔力で無理矢理止血しながら、束は一夏を観察するように見据えるが、一夏は無言のまま仁王立ちし続けている。

やがて、束はどこか納得した表情を浮かべ、視線を千冬へと向ける。

 

「さてと、ちーちゃん達(こっち)の方はどうしよっかなぁ?

別に片腕でも今のボロ雑巾状態の相手なら3人ぐらい問題ないけど……」

 

 そこまで言って束は一度言葉を切り、千冬達とは別方向……海へと目を向ける。

正確には水平線の先からこちらへと近付く大きな影にだ。

 

「あれは……聖蓮船!?魔理沙達か!!」

 

 千冬が声を上げるのとほぼ同時に、聖蓮船から3人分の人影が現れ、こちらへと飛来する。

一夏と共に福音迎撃に出た魔理沙と早苗、そして増援として駆けつけた魅魔の3人だ。

 

「一夏、皆!無事……じゃなさそうだけど、生きてるな。やっと合流できたぜ」

 

「魔女っ娘に爬虫類巫女、それに……」

 

 駆けつけた三人を見回し、不意に束は魅魔を睨むように見詰める。

 

「まさか外界(こっち)に来てるなんてね。……魔法使いの大先生」

 

「誰が先生だ。私ゃ今生きてる弟子は魔理沙以外にいないよ。

第一、アンタとは初対面だろうが」

 

 束の思わぬ言葉に訝しげな表情(かお)を浮かべる。

 

「酷いなぁ。私もある意味、アンタの弟子だよ。……頭に孫が付くけどね。お祖母ちゃん♪」

 

「孫弟子、だと……?」

 

 思わぬ台詞に今度は魅魔だけでなく、千冬や魔理沙達も驚く。

先程まで死闘を繰り広げた相手の化け物染みた強さのルーツが自分達の身近な所にあったなど、思いも寄らないものなのは当然だろう。

 

「あ、でも、私の師匠は破門された奴だから。あんまり弟子とかどうとか考える必要ないかも」

 

「そう言う事か……。あの大馬鹿が貴様の……」

 

「そうそう。あ、ついでに教えちゃうけどアンタの馬鹿弟子(師匠)は私が責任持って始末しておいてあげたから♪」

 

「っ!?」

 

「あ、もしかしてショックだった?破門はしてもやっぱり弟子だから『勘違いするなよ小娘』……ん?」

 

 魅魔は思わず表情を歪め、歯を軋ませる魅魔。

その様子に笑みをより深めて束は捲くし立てるが、唐突に魅魔はそれを遮った。

 

「奴が何を思い貴様を弟子にして、どんな思いで貴様に殺されたかなど私の知った事じゃない。

無論、元とは言え師弟関係となった者に対して思う所が無いわけではないがな。

だが、既に奴と私は決別している。奴が貴様を弟子にして、失敗したのは全ては奴の選択した事の結果だ。そこに私の入る隙間などない。

だが、私の魔法が形を変えたとはいえ、貴様のような輩に使われる事は我慢ならん!」

 

 言い終わると同時に魅魔は束に魔力弾を放つ。

同時に魔理沙と早苗も束を取り囲むように回りこみ、それぞれバズーカとライフルで束を狙い撃つ。

それらの攻撃を束は軽々と回避し、笑みを挑発的なものに変える。

 

「流石大魔導師、魔力弾一発でも凄い威力。

他の増援も来ちゃいそうだし、束さんでも片腕だけで戦うのはきついなぁ。

まぁでも、良いか。時間稼ぎは十分済んだし」

 

 口の端をより一層吊り上げて笑い、束は自身の背後に目を向ける。

 

「ハァ、ハァ……た、束様」

 

 束の背後より現れたクロエ。

両腕を失い、息を荒くしながらも、彼女はそれを気にする事無く束の下へ近寄る。

 

「ご苦労様、くーちゃん。

腕の方は大丈夫?後でちゃんと治してあげるからね」

 

「はい。……申し訳ありません。

私は結局誰一人、仕留められず……」

 

「大丈夫、大丈夫。くーちゃんはちゃんと自分の役目を果たしてるんだから」

 

 謝罪するクロエに対し、束の表情はとても穏やかだった。

クロエの肩に手を置きながら優しく慰めるようなその様子は、まるでこれまでの狂気や憎悪が嘘であるかのような印象さえ覚えるほどに……。

 

「それじゃ、今日はもう帰るから。

でも、そう遠くない内に決着つけに行くから。そっちの胸糞悪い幻想郷(世界)も纏めてぶっ壊しちゃうかも?

そこん所、忘れないでよね……裏切り者(ちーちゃん)

 

 そして、束はクロエと共に消え失せた。

 

 

 

 

 

 

「今のままじゃダメだ。今のままじゃ、勝てない……」

 

 己が無力さに打ちひしがれる千冬達を、そして……。

 

 

 

 

 

 

「撤退、したの?」

 

「恐らくは、な……。どっち道、これ以上戦わずに済むならありがたいがな」

 

「それより……一夏、お前大丈夫か?まったく、無茶な真似しやがって……一夏?」

 

 束に深手を負わせた直後、ずっと無言のままな一夏に、魔理沙は怪訝な表情を浮かべて一夏に近寄るが……。

 

「…………」

 

「い、一夏?……こ、コイツ、意識が!?」

 

 立ったまま意識を失った一夏を残して……。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

 銀の福音から始まった篠ノ之束とその一派との戦いは終わった。

結果だけ見れば死者無しという上々と言えるものだが、束によって刻まれた傷は決して浅くは無いものだった。

 

「急いで船室に運べ!止血と脈拍チェックは忘れるなよ!」

 

 この戦いで最も重傷を負った一夏と妖夢。

そして、一夏達に保護された篠ノ之箒の3名はアキラの指示の下、聖蓮船に担ぎこまれる。

3人はこのまま河城重工へと直行し、永遠亭へと運ばれる予定だ。

一夏達と同じく束と戦った千冬と咲夜も永遠亭行きを勧められたが、二人は一夏と妖夢と比べればまだ怪我は軽く、千冬に関しては教師としての職務があるという理由でそれを断った。

 

 

 

 そして、今回の一件にて最も後処理が複雑な人物達は……。

 

「以上が幻想郷と、我々炎魔に関して説明できる事の全てです」

 

 旅館内のとある一室を借り、武術部員達に鈴音と真耶の6人は、

千冬とレミリアが立会う中、炎魔の隊員であるジンヤから幻想郷に関しての説明を受けていた。

 

「魔法に妖怪、更には超能力……そんなものが、本当に?」

 

「まるで漫画かアニメの様な話だ。

正直言って、未だに信じられない、が……あんなのを見たら、信じるしかないか……」

 

 最初に口を開いたセシリアとラウラはただ呆然と呟き、虚空を見上げながら目を泳がせる。

 

「それで、私達はどうなるの?

成り行きではあるけど、その手の事を知ったんだから、何も無い訳には行かないと思うけど……」

 

「基本的に守秘義務さえ守っていただければ、何もしませんよ。

第一、これらの事実は世間一般からすれば、非現実的ですから。そうそう信じられる話ではありません。

ただ、形式上は暫く監視が付くと思いますが、その点に関してはご理解ください」

 

 簪からの問いに、ジンヤは努めて穏やかな口調で説明する。

その内容に簪達は一先ず安堵の表情を浮かべる。

 

「つまり、秘密さえ守れば後は俺達の好きにして良いって事か……」

 

 そんな中、弾は一人何かを考え込むように目を伏せ、やがて何かを決断したように立ち上がり、千冬へと向き直った。

 

「なぁ、織斑先生」

 

「な、何だ?」

 

 突然真剣な表情で自分を見詰める弾に、千冬はやや緊張しながら返す。

 

「一夏とアンタの関係の事とか、聞きたい事や言いたい事は山程あるけどよ、それは後回しで良い。

それより、その幻想郷って所で修行すれば、俺も奴らに対抗できる戦力になれるか?」

 

「……は?」

 

 弾の口から出た思わぬ言葉に千冬は思わず間抜けな声を漏らす。

 

「ご、五反田……何を言ってるんだ?」

 

「決まってるだろ。アンタ達の側に着いてあの篠ノ之束(ふざけた野郎)と戦う!

それに、俺は元々河城重工所属だ。あの女が重工の敵だってんなら、俺にとっても敵って事だろ?」

 

 千冬のみならずその場にいる者達全員が弾の発言に唖然とする。

幻想郷の存在を受け入れるのみならず、篠ノ之束(規格外の存在)と敵対する道を選ぶと、弾は言っているのだ。

 

「お、お前!自分が何を言っているか解っているのか!?

お前も束の力は見ただろう。あれと敵対すると言う事がどれほど……」

 

「命知らずな選択なんてのは解ってる!!正直このまま逃げたいってのはある。

だけど、仲間(ダチ)や好きな()を見捨ててテメェ一人だけ引っ込んでるなんて、俺は死んでも嫌だ!!」

 

 困惑する千冬を畳み掛けるかのごとく、弾は声を荒げて己が決意を表す。

そして……

 

「フン、代表候補でもない男にだけ良い格好されては、軍人の立つ瀬が無いな。

私も、姉御にはまだ恩を返しきったつもりは無い!」

 

 弾のその言葉を皮切りにラウラが立ち上がり、彼に追従する。

 

「わ、私も……魔理沙達を見捨てるなんて出来ない!」

 

「まだ美鈴さんに心山拳の技、全部教えてもらってないんだから。

途中で終わるなんてまっぴら御免よ!!」

 

「これは、私なりのけじめですわ。

あのような非道な女の造ったものに乗って、驕り昂っていた挙句に誇りにさえ思っていた自分に対するけじめをつけさせてくださいまし!」

 

「正直、マミゾウさんや皆さんが妖怪だったなんて、まだ信じられません。

けど、妖怪であろうと何だろうとマミゾウさんは私の大切な友人で、皆さんは生徒です!

生徒にだけ危険な事をさせるなんて、教師としてこれほど恥ずべき事はありません!」

 

 簪、鈴音、セシリア、そして真耶も立ち上がる。

その光景に暫く呆然としながら、やがてレミリアは降参と言わんばかりに首を振った。

 

「参ったわね。ここまで言ってくれるなんて、正直思ってなかったわ。

良いわ。そこまで言うなら、私の方で八雲紫に口利きしてあげる」

 

「お、おい、レミリア!」

 

 独断で弾達の修行を了承したレミリアを咎めようとする千冬だが、レミリアはそれを手で制す。

 

「今は戦力が少しでも欲しいのは事実よ」

 

「そ、それは……」

 

 レミリアの鋭い眼光と共に放たれた正論に、千冬は言葉を失う。

 

「無論、この子達が戦力になれるかまではまだ決まったわけではないわ。

丁度近々夏休みだし、それを利用して修行して、それで十分に戦力に加えられるか判断するわ。

それで良いかしら?」

 

 レミリアの言葉に6人は全員揃って頷く。

その様子にレミリアは満足げに笑みを浮かべたのだった。

 

(好きな娘、か。

美鈴、アナタが落とした男、なかなか優良物件じゃない?)

 

 部屋の扉のすぐ近くに待機させてある美鈴の恥らう様子を想像し、ニヤニヤしたい気持ちを抑えながら……。

 

 

 

 

 

・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 

 

(あ、あぅぅ……す、好きな子だなんて。そ、それに……)

 

『妖怪だとしても、人間じゃなくても、そんなの関係ないし、どうでもいい。

例え美鈴さんが妖怪だとしても、俺が美鈴さんに惚れてるって事に変わりはないんだ!!』

 

(あ、あんな格好良い告白……ど、どどど、どうしよう!

わ、私、弾さんの事……本気で好きになっちゃったよぉ~~~~~!!)

 

 レミリアの想像通り、美鈴は弾の告白を思い出しながら、全身を茹蛸の如く真っ赤にしていたのだった。

 

 

 

 

 




次回予告

夏休みの幻想郷合宿が決定し、弾達6人はその準備に入る。
しかし、妹を得体の知れない者達には預けられないと、楯無が立ち塞がる。

そんな彼女に、ある人物が動き出す……。



次回、幻想郷大合宿編

『仇敵と親友』

アキラ「四の五の言わずに会いたきゃ会って来い!!」

魔理沙「お前見てるとクソ親父を思い出すんだよ!!」

楯無「あいつの話はしないでって言ってるでしょ!!」








今夜活動報告であるアンケートをとります。
よろしければご覧になって下さい。



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