俺こと沢田綱吉は不良である。
パチンコ、酒、煙草も当たり前のように嗜み、学校も一か月に一度行くかどうかだ。
物心ついた時から喧嘩に明け暮れていた俺は運動も出来たし授業をまともに聞かずともかなりの高得点を取ることが出来た。昔から勘がいいのか選択問題にいたっては間違えた記憶が無い。
そんな訳で学校に行く必要性を感じずサボっては遊びに行く毎日を繰り返していた。
もちろん義務教育も終えていない中学生の俺は学校をサボってうろついたり、ましてはパチンコ屋に入ることなど普通は出来ないのだが、警察などに止められることは滅多にない。ここ並盛はその平凡な字面とは裏腹に暴力がモノを言う町であるからだ。
警察が止めなくても両親は、と思うかもしれないが俺に親はいない。
正確にはいるのだが父親の家光なるおっさんは数年に一度しか顔を見せず、母親は俺が六つの時に蒸発した。生活費こそ毎月振り込まれる大量の金により何とかなっているがなんとも無責任な親たちである。
よって喧嘩の強い俺に文句を言ってくる大人はおらず悠々自適に生活していた。
そんなある日、近くのコンビニで夕食用のビニ弁と数個の菓子を買い、家に戻っている時だった。
どうにも視線を感じる気がする。視線自体は数週間前あたりから感じていたのだが今日は特段に多い。どこかで恨みでも買ったかと記憶を探っても心当たりが多すぎて特定できなかった。
近くにある車のサイドミラーで髪型を確認するフリをしながら背後を見ればば七三分けのいかにもリーマンといった容姿の男が一人。
「あっ、……飲み物買ってくるの忘れた」
徐々に歩くスピードを緩めタイミングを見計らう。ぽつりと言葉を溢すし勢いよく振り返るとリーマンとぶつかった。その拍子に持っていたレジ袋をわざと落とした。
「おおっと、悪いな」
そう謝罪をしながら落とた袋を屈んで拾いリーマンの顔を見る。途端にリーマンは会議の時間に遅れるといい焦ったように走り去った。
現在の時刻は午後五時、この時間に使うにはお粗末な言い訳だ。
そう思いながらポケットから二つの黒い物体を取り出す。
一つは財布、中を見ると個人を特定できる物は無かったがおっさんの顔が描かれた日本円の札の他に玩具のようにカラフルなユーロ札が入っていた。
もう一つは見るまでもない。L字状の金属で出来た物体、つまりは拳銃。
当然自分の物ではなく、ぶつかった時にスった物だ。
日本国内においてユーロ札と拳銃、この二つを持っていておかしくない者は限られてくる。つまりは不法入国したユーロ圏のマフィアだ。
ユーロ札を持ったヤクザもいるだろうがこの並盛は風紀委員会がその役目を果たしている為にその線は薄い。
マフィアねぇ、さっきのスられたのにも気付かない小物ならともかくもっと大物が来るとヤバいかもしれんな。
なんでこの町にマフィアが来てるのかは分からんが下手にスリを働いたのは早計だったかもな。
宣言通り飲み物を買ってきて家に戻るとインターホンの前に俺と同じくらいの年齢の少女がいた。横顔を見れば可愛らしい容姿をしているのが判るが頭に被っているやたらデカい白の帽子が印象の全てを掻っ攫っている。
「俺の家に何か用でも?」
あまりの怪しさに声をかけるべきが数瞬悩んだがこの少女がいる限り家に入れない為、声をかけることにした。
「初めてまして沢田綱吉さん。私はジッリョネロファミリーのボス、アリアが一人娘ユニと申します。あなたを立派なボンゴレファミリーのボスにするべく
こちらに振り返りユニと名乗った少女は一息に言い切った。
普段なら頭が逝かれた奴の戯言と一笑に付すが今日だけは事情が違う。先ほどマフィアが並盛に来ているのを見たばかりだ。話を聞くためにユニを家に上げる。
「で、それは町に見慣れない奴が沢山居たのと関係あるのかな?」
「はい、それはおそらくジッリョネロの者でしょう。並盛の地理を調べていたのだと思います。よく気づきましたね」
「そうか。……まぁ、コレが落ちていたんでね」
見せたのは拳銃。道端に落ちてたんだ。スったなんて事実は決してない。
「じゃあ本題に入ろう。何で俺をボンゴレファミリーとやらのボスに?」
拳銃について詳しく聞かれるのはマズいので先を促す。
「本来なら他の候補者がいたのですが抗争でみんな殺されてしまったので、ボンゴレ一世の血を継いでいる沢田綱吉さんに矢面が立ったのです」
あどけない少女の口から放たれた言葉に顔が引きつる。
殺し。リビングルームでお茶をすすりながら言うには重い言葉だ。
「綱吉でいい。……それは誰に頼まれたの?」
「大元は現在のボス、ボンゴレ九世ですね」
「大元って事は間に誰かいるの?」
「ええ、最初は凄腕ヒットマンのリボーンおじ様に頼まれたようですが、おじ様が私にと」
「じゃあもしもの話だけど……、俺がマフィアになるのを断るとどうなる?」
「それは……」
ユニは顔を伏せ悲壮な表情で口籠る。答えは俺の予想通りだったようだ。海に沈むか誘拐されて飼い殺しのどっちかだろう。
欲しい情報はだいたい揃ったかな。口振りから察するにボンゴレファミリーは相当大きいマフィア、つまり俺は大手企業の社長候補になったようなもんだ。この話を蹴るわけが無い。
「ふぅん。ま、その話受けるよ。家庭教師だっけ?何を勉強させられるのか知らないけどよろしく」
「……はい!でも私
メンタルのケアって……。家庭教師のやる事じゃねーじゃん。
それを伝えれば。
「ふふっ、そうですね。マフィアとしての下地は出来てるので後はマフィアとして経験を重ねる際のストレスを緩和させてあげればよろしいそうです」
マフィアとしての下地って何だよ。チンピラ生活の事か?マフィア本当にそれでいいのかよ。
「ふーん、でもマフィアって拳銃とか使えなくていいの?」
「それはリボーンおじ様が今取り掛かってる仕事を終えれば追々教えに来るそうなので」
「あー、そうなのね。とりあえず今日は帰りな。そろそろいい時間だ」
窓から外を見れば日も沈みかけている。ユニがどこに住むのかは知らないがこの辺りに空き家は無かったのでこの家かなり距離があるだろう。
「ぃぇ……その……」
急に歯切れの悪くなったユニの顔を見れば朱色に染まっている。角度的に夕日ではない。
「まだ何か?」
「……あの、家がまだ決まってなくてですね。そのぉ、と、泊まり込みにという形に……」
「は?え、つまりは同棲って事?」
「……ほ、ほら家庭教師ですし?!」
知らんがな。家庭教師だからとか言われても理由にならんだろ。
「……でもウチにはベッドも一つしかないし」
「わ、私はもう全然床でいいので!」
良くねーよ。俺が良くねーよ。自分の家に知らない人がいるとか落ち着かねーじゃんかよ。他にも男のソロ活動とかどうすんだよ。そっちもうら若き乙女が男と一つ屋根の下はどうのこうのとかさ、もっとこう……あるだろう?!
「でも流石に二人っきりはマズいだろ」
「私はもう!全然!大丈夫なので!そちらも自分で言うのも何ですが可愛い女の子と一緒に生活できて役得くらいに思って貰えれば!それとも私可愛らしすぎて襲われちゃうんですかね?それなら仕方ないですが……」
「はっ、誰がお前みたいなちんちくりん襲うかよ。襲われたければ十年経ってから出直してこい」
売り言葉に買い言葉。
想像以上にユニがウザかったのでつい言ってしまった。
つか最初とテンション変わってない?
だいぶラリってるじゃん。マフィアの娘実はクスリやってますとかやめてな?
「じゃあじゃあ、おーけーという事で、いいんですよね?襲いませんもんね?」
「……。家事とか、やらせるからな」
最低限の抵抗だった。
「もちろんですよ。料理洗濯お部屋の掃除何でもお任せあれです」
それ家庭教師じゃなくて家政婦じゃねーか……。