もし沢田綱吉が不良だったなら。   作:青クマ

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VS雲雀恭弥

 体が重い。

 了平を守護者にした日から数日が経過し、ついにこの日が来てしまった。メンバーは少なく、俺と獄ちゃんの二人だけで風紀委員会に殴り込みに行くのだ。

 委員長の雲雀恭弥と戦う事を想像すれば更に足が重くなった気がする。それ程までに恭弥は強いのだ。強いなんてものじゃない、俺の知っている中では間違いなく最強。

 

 初めて恭弥と喧嘩したのは小学校低学年の時だった。それまでは年上と喧嘩しようが無敗を誇っており、自分に勝てる人間は存在しないと慢心盛りな時に恭弥と出会い引き分けたのだ。

 当時の俺にとっては天地がひっくり返る程の驚愕。いくら引き分けでも初めて勝てなかったという事実が俺の心にしこりを残す。

 俺の短い人生に於いて恭弥ほどよく知っている人間はいないし、恭弥ほど親しくしている人間はいない。そしてまた、恭弥ほど苦手意識を持っている人間もいないだろう。

 

 恭弥にとっても俺は特別な人間になった。

 おそらく彼もあの日、あの時の引き分けが初めての勝利に終わらない戦いだったのだ。

 そして恭弥は俺を唯一の自分に勝てる人間だと思ったのだろう。俺と同様、自分を最強と信じて疑っていなかった恭弥の心中は察して余りある。

 もともと戦闘狂(ジャンキー)だった恭弥は引き分けたその日から俺を追い回すようになった。

 

 俺は怖かった。

 敗北という未知を叩きつけられるのが怖くてしかたなかった。負けて地に伏せた情けない自分を晒すのが怖かった。自分は完全なる勝利者でないと知るのが怖かった。

 でも逃げるのはもっと情けないと思い立ち向かった。そして何戦かの後に人生初の敗北を迎えた。

 

 そこからはしばらくの間、鬼ごっこをしていた。

 情けないと思っていたが更に敗北を積み重ねるのが嫌で恭弥から逃げ回っていた。単純なスピード勝負、少しつまらなそうな顔をしていたが恭弥はそれすらも楽しんでいた。

 

 小学校高学年になった時に俺は吹っ切れ、恭弥と再び戦い始めるようになる。恭弥はこの時から風紀委員に所属をしており、俺と喧嘩をする頻度が減ったのも理由の一つだったかもしれない。

 並中に入ってからはお互いに会いに行く事は無くなった。それでも顔を合わせれば喧嘩をしたが多くて半月に一度、もっと少ない時もあっただろうし内容自体も軽い小競り合いで終わることも少なくなかった。

 

 そして今日、何年振りかのガチ喧嘩に行く。

 ここまで情けない所を晒したがあくまで勝率自体は五分。二回に一回は勝てる計算だ。前回は俺が勝った、今までのパターンなら今回は俺が負ける。

 

 だが、何がパターンだ、何が勝率だ。

 そんなもんはクソくらえ。前回勝って今回も勝つ、そして次もその次もまたその次も。

 俺は弱い。ふと思ってしまうくらいには弱い。

 この前の了平との試合は辛勝だった。相手の土俵だったが本来なら圧勝する事も出来た。思えば初めての敗北から思うように勝てなくなった。もちろん恭弥以外には負けた事はないが以前より勝つまでに時間がかかるようになったし、手古摺るようになった。

 恭弥なら前の方が強かったと言うだろうし、自分でもそう思う。

 

 七歳の時、初めての負けた日、地面に伏しながら見る大空に隠した勝ち方をもう一度この手に。

 

 

 歩いていたら並中に到着する。

 覚悟は出来た。準備もしてきた。

 教室の入り口まで行くと獄ちゃんを呼び出す。

 

「おはようございます、十代目!」

 

 獄ちゃんのいつも通りの挨拶に少し緊張が解れる。

 

「ああ、おはよう。……準備は万端か?」

 

「はいっ!ありったけのダイナマイトを持ってきました!」

 

「ならいい、下す指示は一つだ。……屋上から俺たちに向かって無差別に爆撃しろ」

 

「了解です!」

 

 十代目である俺にも爆弾を投下する事に抵抗を覚えるかもしれないと危惧したが杞憂だったようだ。獄ちゃんの目に浮かぶ色は信頼、必ず俺が勝つと信じている色。

 

「俺は恭弥を誘い出すから先に屋上に行っておけ」

 

「はいっ!ご武運を祈っています!」

 

 獄ちゃんは俺に背を向けて走り出した。

 さて、俺も恭弥の所に行きますかね。

 

 

 来たのは応接室、恭弥はこの時間大抵ここに一人でいる。静かに軽く深呼吸をしてから扉を蹴り開けた。

 

「誰だい、ここは僕のいる場所と知っての狼藉かな?」

 

 恭弥は分厚い書類に目を向けながら言う。

 

「俺だよ。久しぶりだな、恭弥」

 

 ここで恭弥が俺をしっかりと視界に捉えた。

 

「……!へぇ、久しぶりだね綱吉クン。君がここに来るなんて珍しいじゃないか。それに最近は会ってなかったけどどういう心の変化だい?」

 

 恭弥は書類を脇に放り立ち上がった。

 

「……最近は居候が出来たからちょっと忙しくてな」

 

「で、そんな事を報告しに来たんじゃないんだろう?」

 

「おう、ちょっとグラウンドまで来いよ。今日はお前と本気の喧嘩に来た」

 

「ワオ!普段ならこの場で嚙み殺すんだけどね特別に行こうか。……何年も本気の君と戦れる日を待っていたよ」

 

 肩を並べて歩き出す。他の生徒はみんな教室に引き篭もり遠目に俺たちの様子を伺っていた。

 

「わりぃな、でもやっと覚悟が出来た。それとオレが勝ったらある取り引きをしようぜ」

 

「取り引きが何なのかは知らないけど僕は負けないよ、嚙み殺されるのは君だ」

 

 グラウンドで向き合った。

 まずは超直感で恭弥の初手を探る。探れば間合いを詰めてからトンファーでのアッパー。

 

「……やってみろよ」

 

 恭弥が俺に向かい駆け出した。それを導火線を最大限に短くしたダイナマイトを放り爆発させ牽制する。ダイナマイトは瞬時に行われたバックステップで避けられたようだが煙が上がる。今度は煙を隠れ蓑に懐から出した拳銃で二、三発ほど撃ち追撃した。

 

 見えてはいないがギイィィィン!と甲高い金属音が響き渡りトンファーで銃弾が撃ち落とされた事を察した。煙幕の中から出てきた銃撃を落とすとは凄まじい反射神経だ。

 

「ふぅん、前には無かった武器が増えてるね」

 

 煙の中から恭弥の声がした。

 当たり前だ。今日は勝つために用意出来た武器を最大限、それこそ仕込み過ぎて体が重いと感じるまで持って来たのだから。

 ダイナマイトに拳銃、ナイフや人を殺せるまでに違法改造したスタンガンを体中に詰めて来た。

 

 超直感が大きく反応した。頭上には獄ちゃんが屋上から投げた数百のダイナマイトが降り注ごうとしている。

 

「…………!」

 

 恭弥はダイナマイトをトンファーで捌く。だがそれでも多少の火傷は負うだろう。

 俺は超直感が示した安全地帯に避難し恭弥に拳銃を撃って妨害する。さらに俺は制服の下に着込んだ耐熱チョッキにより火傷も負わないというオマケ付きだ。

 

ダイナマイト(そんなん)じゃあ僕は倒せないよ」

 

 煙で視界は閉ざされているが超直感で恭弥がトンファーでダイナマイトの導火線を切りながら接近するのを感じる。

 これほどまでに不撓不屈と言う言葉が似合う男もいない。

 

 あった。

 超直感が地面の水脈を見つけた。

 並中の地下に水脈があるのは戦闘場所を厳選するときに調べていたので後は戦いながらそれを見つけるだけだったんだ。

 手持ちのダイナマイトを足元にばら撒き少し下がった後にタイミングを見計らって拳銃で撃てば激しい爆発音と共にグラウンドが割れ、地下水が噴き出す。

 噴き出した地下水はそれを脅威と見做さなかった恭弥に降りかかった。

 

「今度は水?そろそろ逃げてばかりじゃなくてこっちおいでよ」

 

「水が大切なのさ、恭弥のよく言う草食動物の浅知恵ってヤツだよ」

 

 ニヤリと口角が上がった。

 スタンガンのスイッチを入れて地面に放る。

 

「…………ッ!」

 

 地面に出来た水溜りから全身濡れている恭弥に流れたのは致死量の電撃。それも象が死ぬレベルのものだ、分散される電撃でもこの量なら十分に致命傷にまで持ってける。

 

「随分と余裕の無さそうな表情してるじゃねーか。ははっ、お望み通り今度はこっちから行くよ」

 

 ナイフを懐から出し恭弥に向かって走る。俺の靴は絶縁素材を使っているので感電の心配も無かった。

 恭弥にナイフを振り下ろせばトンファーで止められたが腹を蹴り飛ばした。いくら恭弥でも象が死ぬレベルの電流には耐えられなかったようで動きのキレが無い。よって容易に蹴り飛ばせた。

 

「そこ、あぶねーよ?」

 

 先ほどまでは噴き出した地下水でダイナマイトの火が消えていたが恭弥が飛ばされた場所は水がかかっていない。

 容赦なくダイナマイトが降り注いだ。

 やり過ぎたかも、……死んだかな?

 急いで携帯を使い獄ちゃんにストップを入れた。

 

「…………はぁ、もう立てないよ」

 

 爆心地から恭弥の微かな声が聞こえた。生命力強すぎ。

 

「あっれ〜、ダイナマイトじゃ倒せないのって誰でしたっけ〜?」

 

「そこも相変わらずだ。それにしても綱吉クン、強くなったね」

 

「それはちげーよ、恭弥は強さに拘った。俺は勝利に拘った。それだけだ」

 

「それでも……、いたたっ、強くなったよ。取り引きにも応じよう。どうせそこまで僕に悪い内容じゃないんだろう?」

 

 恭弥はフラフラと立ち上がってきた。

 

「俺が指示した奴を嚙み殺して貰えればいい、礼に俺が定期的に戦ってやる」

 

「そうかい、願ってもない事だ。……次こそ僕が嚙み殺すから」

 

 恭弥は言い終えたら俺に背を向け去っていく。

 

「はっ、次も俺が勝つよ。……またな」

 

 背後から声をかけた。だいぶフラフラしていたので聞こえてるのかは知らない。

 怪我こそ負っていないが今日は真っ直ぐ帰宅する。恭弥を実質守護者にしたのだ。ユニもこの後の学校をサボっても怒らないだろう。差し引きプラスでむしろ褒められるかもしれない。

 

 懐から拳銃を取り出した。結局使わなかった死ぬ気弾が装填されているものだ。今まではこれで撃たれても後悔せずにそのまま死んだかもしれないが、じきに使えるようになる気がした。

 銃は日に照らされ鈍く輝いていた。





念のため補足しておくと今話に登場した水脈は学歴詐称教師の回のアレです。

それと学校が始まったので更新頻度が下がる事をご容赦ください。
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